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リハビリ
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「私は対人恐怖症というか、潔癖症というか……その思春期のアレで人に触れることが苦手なんです」
「そうなんですか?」
「だからこうやって……見えますか?」
意識して見ると、僅かに魔力が見えた。可視しやすいようにしてくれたから見えるが、普段もそうやって手袋のように纏っているのだろうか。薄い手袋をはめているように見える。
「そんな使い方もあるんですね」
「防御魔法のアレンジです。こうやっていればどんなに触りたくない人とでも握手できるので。魔法に長けた人ならばれますけどね」
自嘲気味な笑みだ。ウィス様がしたくてしているわけではないことがわかった。
「俺に頼みたいことって……」
「ラズが嫌なら断ってくれていいんです。知り合ったばかりのあなたに頼むこと自体失礼なことなので」
ラズに逃げる道を用意してくれたのだとわかる。コクリと喉がなった。
「言ってください」
「手を……握らせてくれませんか」
「手、ですか?」
貴族の言葉で手を握るに別の含みなんてあるのだろうかと疑いたくなるほど慎重なお願いにラズは詰めていた息を吐いた。
「手くらいいいですよ」
「いいんですか?」
目が真剣でラズは思わず笑ってしまった。
「キスより接触は少ないと思いますよ」
魔力を与えるという理由で突然キスされたことを思い出した。
「あれは魔力を……。そうですね。団長がラズに魔力を与えているのをみてどうしても口づけたくなったんです」
「団長とウィス様は仲がいいですね。ごはんもいつも一緒に食べているでしょう」
ラズにキスしたかったのではなく、リド様に対抗心があったのだろうか。それともリド様と間接キスしたかったのかな。そこまで考えて、心の中で首を振った。ロマンチックを好む母に感化されてしまったのかもしれない。
「それは……ラズが大変でしょう? 別々に給仕するとなると時間も倍かかりますし」
「気を遣ってくれていたんですか」
ありがたいけれど、時間を調節するのは大変じゃないだろうか。
「いえ、そういうわけでは……。団長とは従兄弟なんで、気心もしれているし、私が全力をだしても壊れない人なので安心なんですよ」
「手は壊さないように握ってくださいね」
テーブルの上でいいだろうかとラズは、手を差し出した。ウィス様も手を伸ばせば掴めるはずだ。
「優しく扱いますよ」
ウィス様はそう言ってラズのソファの横に膝を着いた。
「ウィス様?」
恭しいくらいにテーブルに置いたラズの手に触れ、ゆっくり親指で甲をなぞった。
「綺麗な手ですね」
「そんなことありませんよ、洗い物とかするし、節だってあるし」
ウィスの手こそ綺麗だ。剣を扱っているのにずっと魔力で防御しているからだろう。
「仕事に手を抜いていない手です」
「それはもちろんですけど」
「ギュってしていいですか?」
手を握りたいんだなと思って頷いたら、引っ張られて体勢を崩した。
「え?」
跪いているウィスに抱きついてしまった。
「ラズはやっぱり良い匂いですね」
片手はウィス様に握られたまま、背中に手を回されてギュッと抱きしめられた。耳元で囁かれて、心臓が飛び出そうになった。
「ギュって……手のことじゃ……」
「……手もギュッとしてますよ」
貴族って……とラズは心の中で呆れたように呟く。
「ウィス様が同じようにされたら怒るんじゃないですか」
「……そうですね。すみません、本能に忠実になってしまいました」
「潔癖症が治っていて良かったです。離してください」
本能と言う言葉にラズはピクリと反応した。貴実である母の子供のラズもその可能性がある。男でありながら子供を孕むことのできる性はラズにとって疎ましいものでしかない。成長期が終わる頃、貴実の男であれば子供を育てる器官が尻の奥にできるらしい。ホルモンバランスが崩れて、胸が張るとかも噂で聞くが母しか貴実をしらないラズには自分の身体で知ることしかできない。
貴実として父に愛されたはずの母は、父の求めるものを与えられないと捨てられた。その出来事がラズにとっては消えない傷となった。男同士で結婚して子供が欲しい夫婦なら、喉から手がでるほど欲しいだろうものもラズにとっては無用の長物でしかない。
ウィスの抱擁から逃れるように手を離した。
「ありがとうございます。すみません。アーサーのこと思い出しましたか?」
身体を強張らせたことに気付かれたくなくて、ラズは平気なふりをして笑顔を浮かべた。
「いえ、そろそろ仕事に戻りますね」
アーサーのことなんて微塵も思い出していない。けれどそう誤解されていたほうがいい。ウィス様もリド様もラズの何が気に入ったのか距離感が近すぎる。
貴実になったとしてもラズはそれを誤魔化しながら生きていくつもりだ。
「ケーキを食べていかないんですか?」
「俺は試食で食べてますから」
引き留めようとするウィスにそう言ってラズは部屋を出た。
「お茶の準備をするだけなのに長かったな。副長は侯爵家の跡継ぎで名誉ある白鷲騎士団の副長だ。お前のような身分のものが側に寄ることすらおこがましい。顔だけの小バエがブンブン飛んでいたら、潰されるぞ」
表情もない、ラズを見てもいない騎士の声にラズはゾッと背中を震わせた。
「そうなんですか?」
「だからこうやって……見えますか?」
意識して見ると、僅かに魔力が見えた。可視しやすいようにしてくれたから見えるが、普段もそうやって手袋のように纏っているのだろうか。薄い手袋をはめているように見える。
「そんな使い方もあるんですね」
「防御魔法のアレンジです。こうやっていればどんなに触りたくない人とでも握手できるので。魔法に長けた人ならばれますけどね」
自嘲気味な笑みだ。ウィス様がしたくてしているわけではないことがわかった。
「俺に頼みたいことって……」
「ラズが嫌なら断ってくれていいんです。知り合ったばかりのあなたに頼むこと自体失礼なことなので」
ラズに逃げる道を用意してくれたのだとわかる。コクリと喉がなった。
「言ってください」
「手を……握らせてくれませんか」
「手、ですか?」
貴族の言葉で手を握るに別の含みなんてあるのだろうかと疑いたくなるほど慎重なお願いにラズは詰めていた息を吐いた。
「手くらいいいですよ」
「いいんですか?」
目が真剣でラズは思わず笑ってしまった。
「キスより接触は少ないと思いますよ」
魔力を与えるという理由で突然キスされたことを思い出した。
「あれは魔力を……。そうですね。団長がラズに魔力を与えているのをみてどうしても口づけたくなったんです」
「団長とウィス様は仲がいいですね。ごはんもいつも一緒に食べているでしょう」
ラズにキスしたかったのではなく、リド様に対抗心があったのだろうか。それともリド様と間接キスしたかったのかな。そこまで考えて、心の中で首を振った。ロマンチックを好む母に感化されてしまったのかもしれない。
「それは……ラズが大変でしょう? 別々に給仕するとなると時間も倍かかりますし」
「気を遣ってくれていたんですか」
ありがたいけれど、時間を調節するのは大変じゃないだろうか。
「いえ、そういうわけでは……。団長とは従兄弟なんで、気心もしれているし、私が全力をだしても壊れない人なので安心なんですよ」
「手は壊さないように握ってくださいね」
テーブルの上でいいだろうかとラズは、手を差し出した。ウィス様も手を伸ばせば掴めるはずだ。
「優しく扱いますよ」
ウィス様はそう言ってラズのソファの横に膝を着いた。
「ウィス様?」
恭しいくらいにテーブルに置いたラズの手に触れ、ゆっくり親指で甲をなぞった。
「綺麗な手ですね」
「そんなことありませんよ、洗い物とかするし、節だってあるし」
ウィスの手こそ綺麗だ。剣を扱っているのにずっと魔力で防御しているからだろう。
「仕事に手を抜いていない手です」
「それはもちろんですけど」
「ギュってしていいですか?」
手を握りたいんだなと思って頷いたら、引っ張られて体勢を崩した。
「え?」
跪いているウィスに抱きついてしまった。
「ラズはやっぱり良い匂いですね」
片手はウィス様に握られたまま、背中に手を回されてギュッと抱きしめられた。耳元で囁かれて、心臓が飛び出そうになった。
「ギュって……手のことじゃ……」
「……手もギュッとしてますよ」
貴族って……とラズは心の中で呆れたように呟く。
「ウィス様が同じようにされたら怒るんじゃないですか」
「……そうですね。すみません、本能に忠実になってしまいました」
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「ありがとうございます。すみません。アーサーのこと思い出しましたか?」
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「いえ、そろそろ仕事に戻りますね」
アーサーのことなんて微塵も思い出していない。けれどそう誤解されていたほうがいい。ウィス様もリド様もラズの何が気に入ったのか距離感が近すぎる。
貴実になったとしてもラズはそれを誤魔化しながら生きていくつもりだ。
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「俺は試食で食べてますから」
引き留めようとするウィスにそう言ってラズは部屋を出た。
「お茶の準備をするだけなのに長かったな。副長は侯爵家の跡継ぎで名誉ある白鷲騎士団の副長だ。お前のような身分のものが側に寄ることすらおこがましい。顔だけの小バエがブンブン飛んでいたら、潰されるぞ」
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