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思春期
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「思春期ですか?」
「ええ、子供から大人になる時によくあるアレです」
ラズはなったことがないのでよくわからなかった。親の事が疎ましくなるとか、そんなやつだったはずだ。
「……何をしたんですか?」
聞いてはいけないと思いつつ訊ねてしまった。
「興味があるんですか」
嬉しそうなウィス様の笑顔だが、ラズは失敗したと思った。
「いえ……。興味というより怖い物みたさのようなものです」
聞いてどうしようと言うのか。返せる言葉が見つかるのだろうかと不安になった。
「私は魔法学校に入っていたのですよ。首席で卒業しました。家に帰ったら嫁候補が山のように集められていて、隙をついて襲ってくるんです。 寝室も風呂も食事時も。ブチ切れまして、侯爵家の玄関を吹っ飛ばしてしまいました」
ハハハと笑うけれど、笑えない。笑みの形を作ったまま、ラズは固まってしまった。
「人死にはなかったんですよね?」
「父の頭を危うく失うところでしたが、無事でした。あれでも侯爵家の当主だけあったということですね。魔法省に入省する予定でしたが取りやめになり、従兄弟である団長の監視付きで騎士団に入団することになったんです。魔法省はあまり面白くなさそうだったので、ちょうど良かったです」
こうやって聞くと、思春期の話には聞こえない。思春期とは心配する母に「クソばばあ」とか言ってイキるくらいの問題ではなかっただろうか。平民と貴族の違いは天と地の差だなとラズは思った。
「元々騎士団に入団したかったのでは?」
「……わかりましたか?」
「思春期とは言ってもウィス様は我を失って魔法を暴発させる人ではないと思うので」
一瞬真顔に戻ったウィス様が「やっぱりラズがいいです」と訳のわからないことを言った。
「ウィス様?」
「その時の後遺症なのか、私は誰にも心がときめいたことがないんです。触られた身体を思い出すと今でも……」
ウィス様の身体から僅かに冷気のようなものを感じた。
「大丈夫ですか? だからアーサー様のこと、許せなかったんですね」
「……そうなのでしょうか」
ウィス様は少し考えるような顔をして「そうかもしれません」とため息をついた。
「俺がアーサー様のことを許せるのは、その手のことはよくあって……」
「よくあるんですか!」
「下町に近いんですよ。孤児院は」
孤児院だけで過ごすわけじゃない。一人でお使いに行った時が一番危ないのだ。
「もちろん衛兵に――」
「孤児が襲われたって訴えたとして、何をしてくれるんですか?」
ウィス様が絶句した。
「衛兵も仕事をしていないというこですか……」
「孤児を護ることが仕事だとは思っていないんでしょう。別におかしいことじゃないです。もちろん、俺たちもただやられるだけじゃないので」
やられたらやり返す、当然のことだ。
「何をやったんですか?」
ウィス様のマネをして「興味があるんですか?」と聞いてみた。
「あります」
やっとウィス様は紅茶にも手を伸ばした。ゆっくり話を聞くつもりだったのだろう。
「別に大したことじゃないですよ、ウィス様に比べたら。髪の毛をチリチリに燃やしてやったりするくらいです。下半身をモロ出しにしてるやつは下の毛もチリチリになってましたけど」
ブハッ! とウィス様は紅茶を噴き出した。
「ごめんなさい、下品でしたね」
ラズは謝った。ウィス様はハンカチで噴き出したものを丁寧に拭いているが、小刻みに手が揺れている。
「ラズは格好いいですね。可愛くて、小さいから誤解してました」
小さいは余計なお世話だ。でもウィス様に格好いいと言われたのは嬉しい。
「思春期は色々ありますよね」
「ラズはお付き合いしている人はいるのですか?」
「いませんよ。今は仕事を覚えるので精一杯です」
孤児であるラズはとりあえず生活の基盤を整えなければ家族を持つという選択肢を選べない。
「それなら……お願いがあるんです」
恩人であるウィスのお願いなら聞いてあげたい。そう思って頷くと、少し恥ずかしそうにウィス様はとんでもないことを言い出した。
「ええ、子供から大人になる時によくあるアレです」
ラズはなったことがないのでよくわからなかった。親の事が疎ましくなるとか、そんなやつだったはずだ。
「……何をしたんですか?」
聞いてはいけないと思いつつ訊ねてしまった。
「興味があるんですか」
嬉しそうなウィス様の笑顔だが、ラズは失敗したと思った。
「いえ……。興味というより怖い物みたさのようなものです」
聞いてどうしようと言うのか。返せる言葉が見つかるのだろうかと不安になった。
「私は魔法学校に入っていたのですよ。首席で卒業しました。家に帰ったら嫁候補が山のように集められていて、隙をついて襲ってくるんです。 寝室も風呂も食事時も。ブチ切れまして、侯爵家の玄関を吹っ飛ばしてしまいました」
ハハハと笑うけれど、笑えない。笑みの形を作ったまま、ラズは固まってしまった。
「人死にはなかったんですよね?」
「父の頭を危うく失うところでしたが、無事でした。あれでも侯爵家の当主だけあったということですね。魔法省に入省する予定でしたが取りやめになり、従兄弟である団長の監視付きで騎士団に入団することになったんです。魔法省はあまり面白くなさそうだったので、ちょうど良かったです」
こうやって聞くと、思春期の話には聞こえない。思春期とは心配する母に「クソばばあ」とか言ってイキるくらいの問題ではなかっただろうか。平民と貴族の違いは天と地の差だなとラズは思った。
「元々騎士団に入団したかったのでは?」
「……わかりましたか?」
「思春期とは言ってもウィス様は我を失って魔法を暴発させる人ではないと思うので」
一瞬真顔に戻ったウィス様が「やっぱりラズがいいです」と訳のわからないことを言った。
「ウィス様?」
「その時の後遺症なのか、私は誰にも心がときめいたことがないんです。触られた身体を思い出すと今でも……」
ウィス様の身体から僅かに冷気のようなものを感じた。
「大丈夫ですか? だからアーサー様のこと、許せなかったんですね」
「……そうなのでしょうか」
ウィス様は少し考えるような顔をして「そうかもしれません」とため息をついた。
「俺がアーサー様のことを許せるのは、その手のことはよくあって……」
「よくあるんですか!」
「下町に近いんですよ。孤児院は」
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「もちろん衛兵に――」
「孤児が襲われたって訴えたとして、何をしてくれるんですか?」
ウィス様が絶句した。
「衛兵も仕事をしていないというこですか……」
「孤児を護ることが仕事だとは思っていないんでしょう。別におかしいことじゃないです。もちろん、俺たちもただやられるだけじゃないので」
やられたらやり返す、当然のことだ。
「何をやったんですか?」
ウィス様のマネをして「興味があるんですか?」と聞いてみた。
「あります」
やっとウィス様は紅茶にも手を伸ばした。ゆっくり話を聞くつもりだったのだろう。
「別に大したことじゃないですよ、ウィス様に比べたら。髪の毛をチリチリに燃やしてやったりするくらいです。下半身をモロ出しにしてるやつは下の毛もチリチリになってましたけど」
ブハッ! とウィス様は紅茶を噴き出した。
「ごめんなさい、下品でしたね」
ラズは謝った。ウィス様はハンカチで噴き出したものを丁寧に拭いているが、小刻みに手が揺れている。
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「ラズはお付き合いしている人はいるのですか?」
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