9 / 18
9
しおりを挟む
「エリー、疲れているのか?」
夏は暑くて僕の苦手な季節だ。
「少し暑気あたりしてしまったようです」
リュシオンは、それならと言って、魔法で氷の塊を作ってくれた。
「冷たくて気持ちいいですね」
山のように大きな氷の塊の一部にひっつくと、リュシオンが駄目だと言った。
「身体が冷えては余計に具合がわるくなる」
僕よりも僕のことを知っているリュシオンは、そう言って僕を抱きしめた。
「あ、暑いです」
「夏などなくなればいいのに」
暑いから離れて欲しいと言うと、リュシオンは膨れてしまった。
「ごめんなさい、氷を削ってもらって食べましょう」
いつも引っ付いている僕らを見ていると余計に熱いとジゼル達が文句を言うから、皆の分の氷を削って、野いちごをシロップでつけたものをかけて食べた。
シロップよりも甘いと文句を言われながら、気にしないリュシオンに口付けられた。リュシオンは見られていても恥ずかしいと思う事はないようだ。リュシオンに求められれば、僕が恥ずかしいからと拒否するわけにいかない。すぐに気で消耗してしまって僕はあまり楽しめなかった。リュシオンは、僕の唇が果実で紅く染まるのが好きなんだそうだ。
次の年は黄色の桃のシロップに変えてくれたのはマーガレットなりの気遣いだったけれど、あまり効果はなかった。
秋はリュシオンの背に乗せてもらった。二つの季節を越えた僕は、少し耐性が出来てきたようで、竜体のリュシオンに触れても平気になったからだ。
「高いです! 麦畑が綺麗……」
ため息がでるほど美しい風景を空から眺めて見惚れた。現竜王様とリュシオンのお陰でこの国はとても富んでいる。竜がいるだけで、実りがちがうのだと物知りなジゼルが教えてくれた。
彼女はとてもお金持ちのお嬢様だという。話をしていても僕にはない知性というものを感じる。何故ここにいて仕えることになったのか聞いてみた。
「私の髪の色、赤っぽいでしょ? 我が家の人間は皆綺麗な金髪で、私だけが違うの。お母様は不貞を疑われていたのかもしれない。早くに亡くなって、屋敷にいるのも辛いからここに来たのよ。ここじゃ誰も髪のことは言わないもの」
「ジゼルの髪はとても綺麗だよ」
「エリーみたいな髪の色だったらよかったのに……」
自信満々に見えていた彼女の心の陰りが見えた。
「その髪は、そなたらしくていいと思うが」
リュシオンがそう言うと、ジゼルの目が驚きに瞬いた。
「リュシオン様がエリーの事以外で褒めるなんて!」
結構失礼なことを言っている。それからジゼルは髪を下ろすようになった。彼女の心がリュシオンの言葉一つで救われたのだ。
冬は山の上に行った。雪が降る中で温泉に入るのがリュシオンの楽しみだそうだ。
「エリー、ここの湯は白いぞ。竜は温泉が好きなのだ。今度とっておきの場所に連れて行ってやろう」
ご機嫌なリュシオンだけど、僕は温泉が苦手だった。何度か湯気にあてられて目を回したのだ。竜の気で具合が悪くなるのとは違って何日も寝込んでしまいリュシオンを心配させた。
僕の身体は、リュシオンに拓かれていく。リュシオンの指は僕の官能を刺激し、このまま快楽に沈んで戻って来られなくなるのではないかと何度も思った。けれど、リュシオンは風呂に入るとき以外は服を脱がない。どれほど僕が蕩けても、指と舌以外を僕の中に入れようとはしなかった。それが番様ができるまでの間、中継ぎである僕に与えられる全てなのだろう。これほどまでに意識も身体も変えられて、はたして僕は一人で生きていけるのだろうかと不安に思うことは多々あった。けれど許されていないものを欲しいという資格が僕にはない。女であったなら、僕でも番にしてもらうことは出来たのだろうか。そんな頑是無い疑問が胸の奥にずっと燻っている。
自分の男の身体を認められないせいか、僕の声は未だに少年のように高く、身体も華奢なままだ。髭もなければ喉仏もない未発達な身体のままだった。リュシオンから離れれば、きっとそのうち男らしくなるだろうと思っているのであまり悩んではいないが、後宮のお姉さん達がいつまでたっても弟、いや妹をみるような目をしているのが少しだけ悲しい。
夏は暑くて僕の苦手な季節だ。
「少し暑気あたりしてしまったようです」
リュシオンは、それならと言って、魔法で氷の塊を作ってくれた。
「冷たくて気持ちいいですね」
山のように大きな氷の塊の一部にひっつくと、リュシオンが駄目だと言った。
「身体が冷えては余計に具合がわるくなる」
僕よりも僕のことを知っているリュシオンは、そう言って僕を抱きしめた。
「あ、暑いです」
「夏などなくなればいいのに」
暑いから離れて欲しいと言うと、リュシオンは膨れてしまった。
「ごめんなさい、氷を削ってもらって食べましょう」
いつも引っ付いている僕らを見ていると余計に熱いとジゼル達が文句を言うから、皆の分の氷を削って、野いちごをシロップでつけたものをかけて食べた。
シロップよりも甘いと文句を言われながら、気にしないリュシオンに口付けられた。リュシオンは見られていても恥ずかしいと思う事はないようだ。リュシオンに求められれば、僕が恥ずかしいからと拒否するわけにいかない。すぐに気で消耗してしまって僕はあまり楽しめなかった。リュシオンは、僕の唇が果実で紅く染まるのが好きなんだそうだ。
次の年は黄色の桃のシロップに変えてくれたのはマーガレットなりの気遣いだったけれど、あまり効果はなかった。
秋はリュシオンの背に乗せてもらった。二つの季節を越えた僕は、少し耐性が出来てきたようで、竜体のリュシオンに触れても平気になったからだ。
「高いです! 麦畑が綺麗……」
ため息がでるほど美しい風景を空から眺めて見惚れた。現竜王様とリュシオンのお陰でこの国はとても富んでいる。竜がいるだけで、実りがちがうのだと物知りなジゼルが教えてくれた。
彼女はとてもお金持ちのお嬢様だという。話をしていても僕にはない知性というものを感じる。何故ここにいて仕えることになったのか聞いてみた。
「私の髪の色、赤っぽいでしょ? 我が家の人間は皆綺麗な金髪で、私だけが違うの。お母様は不貞を疑われていたのかもしれない。早くに亡くなって、屋敷にいるのも辛いからここに来たのよ。ここじゃ誰も髪のことは言わないもの」
「ジゼルの髪はとても綺麗だよ」
「エリーみたいな髪の色だったらよかったのに……」
自信満々に見えていた彼女の心の陰りが見えた。
「その髪は、そなたらしくていいと思うが」
リュシオンがそう言うと、ジゼルの目が驚きに瞬いた。
「リュシオン様がエリーの事以外で褒めるなんて!」
結構失礼なことを言っている。それからジゼルは髪を下ろすようになった。彼女の心がリュシオンの言葉一つで救われたのだ。
冬は山の上に行った。雪が降る中で温泉に入るのがリュシオンの楽しみだそうだ。
「エリー、ここの湯は白いぞ。竜は温泉が好きなのだ。今度とっておきの場所に連れて行ってやろう」
ご機嫌なリュシオンだけど、僕は温泉が苦手だった。何度か湯気にあてられて目を回したのだ。竜の気で具合が悪くなるのとは違って何日も寝込んでしまいリュシオンを心配させた。
僕の身体は、リュシオンに拓かれていく。リュシオンの指は僕の官能を刺激し、このまま快楽に沈んで戻って来られなくなるのではないかと何度も思った。けれど、リュシオンは風呂に入るとき以外は服を脱がない。どれほど僕が蕩けても、指と舌以外を僕の中に入れようとはしなかった。それが番様ができるまでの間、中継ぎである僕に与えられる全てなのだろう。これほどまでに意識も身体も変えられて、はたして僕は一人で生きていけるのだろうかと不安に思うことは多々あった。けれど許されていないものを欲しいという資格が僕にはない。女であったなら、僕でも番にしてもらうことは出来たのだろうか。そんな頑是無い疑問が胸の奥にずっと燻っている。
自分の男の身体を認められないせいか、僕の声は未だに少年のように高く、身体も華奢なままだ。髭もなければ喉仏もない未発達な身体のままだった。リュシオンから離れれば、きっとそのうち男らしくなるだろうと思っているのであまり悩んではいないが、後宮のお姉さん達がいつまでたっても弟、いや妹をみるような目をしているのが少しだけ悲しい。
16
あなたにおすすめの小説
【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
お疲れポメラニアンの俺を癒したのは眼鏡イケメンの同期だった
こたま
BL
前田累(かさね)は、商社営業部に勤める社員だ。接待では無理してノリを合わせており、見た目からコミュ強チャラ男と思われているが本来は大人しい。疲れはてて独身寮に帰ろうとした際に気付けばオレンジ毛のポメラニアンになっていた。累を保護したのは普段眼光鋭く厳しい指摘をする経理の同期野坂燿司(ようじ)で。ポメラニアンに対しては甘く優しい燿司の姿にびっくりしつつ、癒されると…
りんご成金のご令息
けい
BL
ノアには前世の記憶はあったがあまり役には立っていなかった。そもそもあまりにもあいまい過ぎた。魔力も身体能力も平凡で何か才能があるわけでもない。幸いにも裕福な商家の末っ子に生まれた彼は、真面目に学んで身を立てようとコツコツと勉強する。おかげで王都の学園で教育を受けられるようになったが、在学中に両親と兄が死に、店も乗っ取られ、残された姉と彼女の息子を育てるために学園を出て冒険者として生きていくことになる。
それから二年がたち、冒険者としていろいろあった後、ノアは学園の寮で同室だった同級生、ロイと再会する。彼が手を貸してくれたおかげで、生活に余裕が出て、目標に向けて頑張る時間もとれて、このまま姉と甥っ子と静かに暮らしていければいいと思っていたところ、姉が再婚して家を出て、ノアは一人になってしまう。新しい住処を探そうとするノアに、ロイは同居を持ち掛ける。ロイ×ノア。ふんわりした異世界転生もの。
他サイトにも投稿しています。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
紳士オークの保護的な溺愛
こむぎこ7g
BL
■ 世界と舞台の概要
ここはオークの国「トールキン」。
魔法、冒険者、ギルド、ダンジョン、獣人やドラゴンが存在する、いわゆる“典型的な異世界”だが、この国の特徴はオークが長命で、理知的な文明社会を築いていることにある。
トールキンのオークたちは、
灰色がかった緑や青の肌
鋭く澄んだ眼差し
鍛え上げられた筋骨隆々の体躯
を持ち、外見こそ威圧的だが、礼節と合理性を重んじる国民性をしている。
異世界から来る存在は非常に珍しい。
しかしオークは千年を生きる種族ゆえ、**長い歴史の中で「時折起こる出来事」**として、記録にも記憶にも残されてきた。
⸻
■ ガスパールというオーク
ガスパールは、この国でも名の知れた貴族家系の三男として生まれた。
薄く灰を帯びた緑の肌、
赤い虹彩に金色の瞳孔という、どこか神話的な目。
分厚い肩と胸板、鍛え抜かれた腹筋は鎧に覆われずとも堅牢で、
銀色に輝く胸当てと腰当てには、代々受け継がれてきた宝石が嵌め込まれている。
ざらついた低音の声だが、語調は穏やかで、
貴族らしい品と、年齢を重ねた余裕がにじむ話し方をする。
● 彼の性格
• 極めて面倒見がよく、観察力が高い
• 感情を声高に表に出さないが、内側は情に厚い
• 責任を引き受けることを当然のように思っている
• 自分が誰かに寄りかかることだけは、少し苦手
どこか「自分は脇役でいい」と思っている節があり、それが彼の誠実さと同時に、不器用さでもあった。
⸻
■ 過去と喪失 ――愛したオーク
ガスパールはかつて、平民出身のオーク男性と結ばれていた。
家柄も立場も違う相手だったが、
彼はその伴侶の、
不器用な優しさ
朝食を焦がしてしまうところ
眠る前に必ず手を探してくる癖
を、何よりも大切にしていた。
しかし、その伴侶はすでにこの世を去っている。
現在ガスパールが暮らしているのは、
貴族街から少し離れた、二階建ての小さな屋敷。
華美ではないが、掃除が行き届き、静かな温もりのある家だ。
彼は今も毎日のように墓参りを欠かさない。
それは悲嘆というより、対話に近い行為だった。
⸻
■ 現在の生活
ガスパールは現在、
街の流通を取り仕切る代表的な役職に就いている。
多忙な職務の合間にも、
洗濯、掃除、料理
帳簿の整理
屋敷の修繕
をすべて自分でこなす。
仕事、家事、墓参り。
規則正しく、静かな日々。
――あなたが現れるまでは。
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
竜神様の番
田舎
BL
いつかX内で呟いた、
『えーん、えーん…💦
竜人の攻めが長いこと探してた番の人間くんを探して(半強制的)に結婚したのに、ツンデレどころかクーデレが過ぎてたせいで、ある日人間くんが「離縁します」と置き手紙残して失踪…!
後悔とブチギレしてる話がなきゃ掃除と洗濯できない😭😭』
という自分の愚痴から始まったツイノベもどきを、再構成と校正しました。
「番」とは何かも知らされず、
選択肢すら与えられなかった人間リオと、
大切にしている“つもり”だった竜人のナガレ。
ちゃんとハッピーエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる