17 / 32
17
しおりを挟む
「フィオ、私の勝ちだ」
瞼に口付けて、嬉しそうにローレルが宣言した。レフィの意気込みなど呆気なく散った。ローレル(月桂樹)の葉の匂いのことも頭から消えてしまっていたから、完敗だ。
「……あんたの口づけはしつこい……」
確かにレフィのペニスは勃ち上がっていた。こんなに簡単にローレルの思い通りになる自分の身体にレフィは愕然としていた。
どうしよう、あんな凶悪なものを咥えるなんて出来ない……。
レフィの血の気が引いた時、ポスッと音がして、ローレルがレフィの横に転がった。
「さっそくやれって? おい、どこがあんたの馬鹿デカい凶器か俺にはわからないんだ」
どうしてもローレルが相手だと素直になれなくて、レフィは内心の泣き言を微塵も感じさせないように必死で言葉を吐き出した。
「ローレル、手伝えよ。どこかわからないって……」
言ってるだろうと怒りながらレフィはローレルの身体をまさぐった。
その瞬間、スゥスゥという規則正しい吐息が耳をついた。まさか……と思いながら、トントンとローレルの身体を叩いてみた。
「んんぅん」
やけに官能的な寝息をたて、ローレルはレフィを抱きしめた。
「ちょっ、待って――。こんなところで寝たら、風邪を引くぞ」
春とはいえ疲れて酒を飲んでいるのに。
レフィは必死に力をいれてローレルを引き剥がそうとした。筋肉質で無防備な身体がこれほど重いとは思わなかった。
「駄目だ……」
自力でどうにかするのは諦めて、レフィは手を伸ばした。指先に触れた鈴を鳴らすと、キリカが鈴の音を鳴らしながら入ってきた。
「……フィオ様、これは」
これ、というのが眠ってしまったローレルのことなのか潰されているレフィのことかわからないまま頷いた。
「眠った――。こいつ、どけてくれ」
「またガッチリと抱き込んでますね。フフッ、本当にローレル様はフィオ様のことが好きなんですね」
レフィと同じくオメガだから運ぶのは無理だろうと思っていたのに、キリカはローレルを簡単に引き剥がし、担いで寝台に運んでくれた。
「キリカ、細いのになんでこんな重いのを担げるんだ」
触れあうことも多いキリカの体型は、レフィと同じくらいだと思っていた。
「こういうものは慣れです。仕事で重い物を担いだりしてたので、バランスさえ崩さなければ大丈夫なんですよ。フィオ様ももうお休みになりますか?」
何でもないことのようにキリカは言った。
「いや、凄いと思う。尊敬する」
「ありがとうございます。コツを掴んだらフィオ様でもできますよ」
寝台まで手を引いてくれるキリカの指が、ローレルと同じような硬さだということに初めて気がついた。
「キリカ、剣をつかうの?」
「フィオ様? ええ、オメガだとわかるまで私は剣を生業にしていました」
キリカの声がわずかに硬くなった。多分、踏み込まれたくないことなのだろう。
「頼もしいね」
レフィは当たり障りのない言葉を選んだ。フッとキリカが力を抜いたのを指先で感じる。
「フィオ様をお護りしますよ」
「ありがとう。頼りにしている」
それがキリカの仕事だということはわかっているけれど、目の見えないレフィをいつも気遣ってくれているキリカにお礼を言いたかった。
「では、お休みなさいませ。寝台の横に鈴を置いておりますから、また潰されてしまったら鳴らして下さい」
潰されて何もできなかったレフィはありがたく頷いて、傍らに眠るローレルの頭をパンと叩いた。
「ううん……」
相変わらず眠ったままのローレルに呆れもするが、少しだけいたわってやりたい気もする。
ローレル(月桂樹)の香りがしたのは他のオメガを抱いていたからと思っていたけれど、落ち着いて考えたらローレルの葉の効用に思い至った。レフィのダフネの香りと違って薬草としてもよく使われているからだ。神殿の施療院で手伝っていたレフィはローレル(月桂樹)が痛み止めや炎症を抑える効果があることを知っていた。
寝る間も惜しんで働いてるというのが本当なら、アルファであるローレルがこれだけ疲れているのも頷ける。顔を触ると、眉間に皺も寄っていた。お酒を飲み過ぎたのは、多分美味しいからではなく大変なことがあったからなのだろう。
母も二人で旅をしているとき『やってらんない』といって飲み過ぎてしまうことがあった。今まですっかり忘れていたことを思い出しながらレフィは皺を伸ばしながら寝ているローレルに話しかけた。
「あんた、優しいくせに強情そうだもんな。泣き言も言わなさそう」
「レフィ……」
寝言だとわかるのに心臓が跳ねた。呼ぶなと言って偽名を使ったのはレフィなのに、呼ばれて嬉しいと感じてしまった。
「本能はどうしようもないよね、お母様――。レフィって呼んでいいのは兄様だけだ、あんたには呼ばせないよ、ローレル」
口付けで口を塞いで、レフィはわざと冷たく言い放った。
「……寝る子の頬に口付けて、星空に挨拶をして……今日はおやすみ。……おやすみなさい。眠れない子に歌を歌ってあげましょう。明日微笑むために、今日はおやすみ。おやすみ、ローレル」
小さな声でレフィは子守歌を歌った。リュートはもう弾きたくなかったけれど、歌うことは嫌じゃない。子守歌が終わって、眉間の皺が消えたことをレフィは指先で感じた。
「人の身体を煽るだけ煽っておいて、あんた本当に最低だな」
ローレルの鼻をつまんで、レフィは文句を言った。もちろん返事が返ってくることはなかった。
瞼に口付けて、嬉しそうにローレルが宣言した。レフィの意気込みなど呆気なく散った。ローレル(月桂樹)の葉の匂いのことも頭から消えてしまっていたから、完敗だ。
「……あんたの口づけはしつこい……」
確かにレフィのペニスは勃ち上がっていた。こんなに簡単にローレルの思い通りになる自分の身体にレフィは愕然としていた。
どうしよう、あんな凶悪なものを咥えるなんて出来ない……。
レフィの血の気が引いた時、ポスッと音がして、ローレルがレフィの横に転がった。
「さっそくやれって? おい、どこがあんたの馬鹿デカい凶器か俺にはわからないんだ」
どうしてもローレルが相手だと素直になれなくて、レフィは内心の泣き言を微塵も感じさせないように必死で言葉を吐き出した。
「ローレル、手伝えよ。どこかわからないって……」
言ってるだろうと怒りながらレフィはローレルの身体をまさぐった。
その瞬間、スゥスゥという規則正しい吐息が耳をついた。まさか……と思いながら、トントンとローレルの身体を叩いてみた。
「んんぅん」
やけに官能的な寝息をたて、ローレルはレフィを抱きしめた。
「ちょっ、待って――。こんなところで寝たら、風邪を引くぞ」
春とはいえ疲れて酒を飲んでいるのに。
レフィは必死に力をいれてローレルを引き剥がそうとした。筋肉質で無防備な身体がこれほど重いとは思わなかった。
「駄目だ……」
自力でどうにかするのは諦めて、レフィは手を伸ばした。指先に触れた鈴を鳴らすと、キリカが鈴の音を鳴らしながら入ってきた。
「……フィオ様、これは」
これ、というのが眠ってしまったローレルのことなのか潰されているレフィのことかわからないまま頷いた。
「眠った――。こいつ、どけてくれ」
「またガッチリと抱き込んでますね。フフッ、本当にローレル様はフィオ様のことが好きなんですね」
レフィと同じくオメガだから運ぶのは無理だろうと思っていたのに、キリカはローレルを簡単に引き剥がし、担いで寝台に運んでくれた。
「キリカ、細いのになんでこんな重いのを担げるんだ」
触れあうことも多いキリカの体型は、レフィと同じくらいだと思っていた。
「こういうものは慣れです。仕事で重い物を担いだりしてたので、バランスさえ崩さなければ大丈夫なんですよ。フィオ様ももうお休みになりますか?」
何でもないことのようにキリカは言った。
「いや、凄いと思う。尊敬する」
「ありがとうございます。コツを掴んだらフィオ様でもできますよ」
寝台まで手を引いてくれるキリカの指が、ローレルと同じような硬さだということに初めて気がついた。
「キリカ、剣をつかうの?」
「フィオ様? ええ、オメガだとわかるまで私は剣を生業にしていました」
キリカの声がわずかに硬くなった。多分、踏み込まれたくないことなのだろう。
「頼もしいね」
レフィは当たり障りのない言葉を選んだ。フッとキリカが力を抜いたのを指先で感じる。
「フィオ様をお護りしますよ」
「ありがとう。頼りにしている」
それがキリカの仕事だということはわかっているけれど、目の見えないレフィをいつも気遣ってくれているキリカにお礼を言いたかった。
「では、お休みなさいませ。寝台の横に鈴を置いておりますから、また潰されてしまったら鳴らして下さい」
潰されて何もできなかったレフィはありがたく頷いて、傍らに眠るローレルの頭をパンと叩いた。
「ううん……」
相変わらず眠ったままのローレルに呆れもするが、少しだけいたわってやりたい気もする。
ローレル(月桂樹)の香りがしたのは他のオメガを抱いていたからと思っていたけれど、落ち着いて考えたらローレルの葉の効用に思い至った。レフィのダフネの香りと違って薬草としてもよく使われているからだ。神殿の施療院で手伝っていたレフィはローレル(月桂樹)が痛み止めや炎症を抑える効果があることを知っていた。
寝る間も惜しんで働いてるというのが本当なら、アルファであるローレルがこれだけ疲れているのも頷ける。顔を触ると、眉間に皺も寄っていた。お酒を飲み過ぎたのは、多分美味しいからではなく大変なことがあったからなのだろう。
母も二人で旅をしているとき『やってらんない』といって飲み過ぎてしまうことがあった。今まですっかり忘れていたことを思い出しながらレフィは皺を伸ばしながら寝ているローレルに話しかけた。
「あんた、優しいくせに強情そうだもんな。泣き言も言わなさそう」
「レフィ……」
寝言だとわかるのに心臓が跳ねた。呼ぶなと言って偽名を使ったのはレフィなのに、呼ばれて嬉しいと感じてしまった。
「本能はどうしようもないよね、お母様――。レフィって呼んでいいのは兄様だけだ、あんたには呼ばせないよ、ローレル」
口付けで口を塞いで、レフィはわざと冷たく言い放った。
「……寝る子の頬に口付けて、星空に挨拶をして……今日はおやすみ。……おやすみなさい。眠れない子に歌を歌ってあげましょう。明日微笑むために、今日はおやすみ。おやすみ、ローレル」
小さな声でレフィは子守歌を歌った。リュートはもう弾きたくなかったけれど、歌うことは嫌じゃない。子守歌が終わって、眉間の皺が消えたことをレフィは指先で感じた。
「人の身体を煽るだけ煽っておいて、あんた本当に最低だな」
ローレルの鼻をつまんで、レフィは文句を言った。もちろん返事が返ってくることはなかった。
10
あなたにおすすめの小説
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された
あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると…
「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」
気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
初めましてです。お手柔らかにお願いします。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる