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幼年期
一、次期家長(予定)
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私は本庄家の長女として生まれた。
実家は関東の外れにあるやたらと大きな武家屋敷を少し改良したような建物で、家族の他にも親戚やらなんやら大人数で住んでいた。しかし物心ついた頃には父は既に他界していて、母は外国の市場へ参入するためだとかなんとか…要するに仕事で日本にはほとんど帰って来なかった。よって私は祖父、祖母に育てられた。俗に言う“おじいちゃんっ子、おばあちゃんっ子”というやつだ。私は祖父を心の底から尊敬していて、敬愛を込めて《じーさま》と呼び、もしかしたら祖父の側を離れることのほうが少なかったかもと思うほどにいつもついて回っていた。実家は建物が古めかしいだけでなく物事の考え方も古く、親戚の連中の中では“家長制度”なるものが色濃く残っていた。じーさまは私の父に家長を譲り隠居生活を送っていたのたが、父が他界してしまったため半ば強制的に家長に逆戻りしていた。親戚達が家長を家長と認める一番の要因は“血筋”だった。よってじーさまの次の家長は有無を言わさず私ということになっていた。そのせいか親戚は幼い私に気をつかい、ペコペコ頭を下げ、忠誠心の現れだと言わんばかりにそんな態度“だけ”を見せた。現家長のじーさまもそれは感じていたようで
「澪、お前が家長になった時にはこの家長制度をやめさせるんだ。時はいつも流れ進化している。狭い家の中で滞っていればお前もこの家もいずれ時代に取り残される」
“時は流れ常に進化している”これがじーさまの口癖だった。じーさまは自分の考えを私に教え託すだけでなく、それを成し遂げる為に必要なことを沢山教えてくれた。人の上に立つための器、技量、視野の広さ、感謝し相手を思いやる心、もうこれは家長としてというより人間として必要なことを教わったと私は思っている。
そんなある日のことだった。
私はじーさまに呼ばれて中庭に来ていた。
「澪、明日はじめて従兄弟が家に来るぞ」
「いとこ…?」
「そうだよ、仲良くするんだよ」
「はーい」
一応返事はしたが、私は中庭の池にいる鯉が気になってそちらに気をとられていたため、あまりこの時のことを覚えていなかった。鯉を見ながら考え事をしていたということもあったから余計に覚えてなかったのかもしれないが。
「ねぇ、じーさま」
「ん?どうした?澪」
「澪はどうして東京の小学校に行くの?」
そう、昨日寝る前に何の前触れも無くじーさまに言われたのだ。
「澪は行きたくないかい?」
行きたいか行きたくないかと聞かれると、よくわからない。そもそも“東京”が何なのかもよくわかっていないのだ。それよりも“この家から離れる、じーさまと別々に暮らす”ことが不安だったのだ。中々返事をしない私を見てじーさまは何かを察したのか、言った。
「大丈夫、ここと東京は“電車”に乗ればいつでも行き来出来るよ。寂しくなったらいつでも会いに来られる」
「じゃぁどうしておじさんたちはあんなに揉めてるの?」
「良くも悪くも、みんな澪のことが心配なんだよ」
「ふーん…」
それは本当に真心から来るものなのだろうか、それとも私が“次期家長”だからなのか。そんなことを幼い頃に考えている私は、今思うと相当癖のある生意気な子供だったのではないかと、今になって思う。
翌日私は従兄弟の“斎藤 仁”と会ったはずなのだか、会ったこと以外に何をしたとか、どんなことを話したというような詳細は全く覚えていなかった。この何年も後に仁本人から当時の話を聞くまでは。
実家は関東の外れにあるやたらと大きな武家屋敷を少し改良したような建物で、家族の他にも親戚やらなんやら大人数で住んでいた。しかし物心ついた頃には父は既に他界していて、母は外国の市場へ参入するためだとかなんとか…要するに仕事で日本にはほとんど帰って来なかった。よって私は祖父、祖母に育てられた。俗に言う“おじいちゃんっ子、おばあちゃんっ子”というやつだ。私は祖父を心の底から尊敬していて、敬愛を込めて《じーさま》と呼び、もしかしたら祖父の側を離れることのほうが少なかったかもと思うほどにいつもついて回っていた。実家は建物が古めかしいだけでなく物事の考え方も古く、親戚の連中の中では“家長制度”なるものが色濃く残っていた。じーさまは私の父に家長を譲り隠居生活を送っていたのたが、父が他界してしまったため半ば強制的に家長に逆戻りしていた。親戚達が家長を家長と認める一番の要因は“血筋”だった。よってじーさまの次の家長は有無を言わさず私ということになっていた。そのせいか親戚は幼い私に気をつかい、ペコペコ頭を下げ、忠誠心の現れだと言わんばかりにそんな態度“だけ”を見せた。現家長のじーさまもそれは感じていたようで
「澪、お前が家長になった時にはこの家長制度をやめさせるんだ。時はいつも流れ進化している。狭い家の中で滞っていればお前もこの家もいずれ時代に取り残される」
“時は流れ常に進化している”これがじーさまの口癖だった。じーさまは自分の考えを私に教え託すだけでなく、それを成し遂げる為に必要なことを沢山教えてくれた。人の上に立つための器、技量、視野の広さ、感謝し相手を思いやる心、もうこれは家長としてというより人間として必要なことを教わったと私は思っている。
そんなある日のことだった。
私はじーさまに呼ばれて中庭に来ていた。
「澪、明日はじめて従兄弟が家に来るぞ」
「いとこ…?」
「そうだよ、仲良くするんだよ」
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一応返事はしたが、私は中庭の池にいる鯉が気になってそちらに気をとられていたため、あまりこの時のことを覚えていなかった。鯉を見ながら考え事をしていたということもあったから余計に覚えてなかったのかもしれないが。
「ねぇ、じーさま」
「ん?どうした?澪」
「澪はどうして東京の小学校に行くの?」
そう、昨日寝る前に何の前触れも無くじーさまに言われたのだ。
「澪は行きたくないかい?」
行きたいか行きたくないかと聞かれると、よくわからない。そもそも“東京”が何なのかもよくわかっていないのだ。それよりも“この家から離れる、じーさまと別々に暮らす”ことが不安だったのだ。中々返事をしない私を見てじーさまは何かを察したのか、言った。
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「ふーん…」
それは本当に真心から来るものなのだろうか、それとも私が“次期家長”だからなのか。そんなことを幼い頃に考えている私は、今思うと相当癖のある生意気な子供だったのではないかと、今になって思う。
翌日私は従兄弟の“斎藤 仁”と会ったはずなのだか、会ったこと以外に何をしたとか、どんなことを話したというような詳細は全く覚えていなかった。この何年も後に仁本人から当時の話を聞くまでは。
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