4 / 4
四話 現想少女
しおりを挟む
「章ちゃん」
ノックの音の後に、哲夫の母である叔母が部屋に入ってきた。章は表情を取り繕って振り返った。
「何、おばちゃん」
「お菓子買ってきたから、一緒に食べない?」
八重歯を覗かせて、手にしている袋を掲げた。近所で有名なケーキ屋の名前がプリントされている。
「わあ、いいの? ありがとう! いただきます」
自分からすれば大袈裟なくらい、声を高くして喜んだ。章の声は低くて抑揚がないと、友人は皆言うからだ。
「いいえ。じゃあリビング行きましょ」
紅茶かな、コーヒーかしら、そう言う叔母に、ううんと迷うそぶりを見せながら立ち上がる。章のセーラー服のプリーツスカートが、ひらりと太股を刺激した。その感覚にぞっとしたこともあった。麻痺させるうちに、慣れてしまった。
そう、麻痺させて、誤魔化しているのはこちらの現実なのだ。章は思う。
「やっぱり女の子ね」
甘いもの一緒に食べられるし、そのことばを、奥歯の奥できしきし噛み締めながら章は笑った。
◇◇
あきら、僕、佐渡。章を示す呼称。それから好きなもの、嫌いなもの、誕生日。最悪、誕生日も知らなくていい。名前を呼ぶだけで、その名前さえ、自分の決めたもので、もしくは相手の好きな呼び方でいい――
それだけで全てを示しきれたらどんなにいいだろうか。全てを示すことができたら。そう章は思う。
もっとシンプルに生きてみたい。心を覆う外枠も越えて、ただの自分で、誰かと繋がることを許してほしい。
けれど、そんな夢を、カコを好きになるほど自分が嘘だと叫びそうになる。嘘なんだという気持ちが、痛みとなって現実に呼び醒ます。
電子の海にある真実をまだ、さらうことができない。
『あのね、わたし あきらと会ってみたい。あわなくても、顔を見て話してみたい』
嘘つき!と叫ぶ声。章は、自分のその声を胸の奥底に封じている。いつか、別の声にかわるのを恐れながら。
ノックの音の後に、哲夫の母である叔母が部屋に入ってきた。章は表情を取り繕って振り返った。
「何、おばちゃん」
「お菓子買ってきたから、一緒に食べない?」
八重歯を覗かせて、手にしている袋を掲げた。近所で有名なケーキ屋の名前がプリントされている。
「わあ、いいの? ありがとう! いただきます」
自分からすれば大袈裟なくらい、声を高くして喜んだ。章の声は低くて抑揚がないと、友人は皆言うからだ。
「いいえ。じゃあリビング行きましょ」
紅茶かな、コーヒーかしら、そう言う叔母に、ううんと迷うそぶりを見せながら立ち上がる。章のセーラー服のプリーツスカートが、ひらりと太股を刺激した。その感覚にぞっとしたこともあった。麻痺させるうちに、慣れてしまった。
そう、麻痺させて、誤魔化しているのはこちらの現実なのだ。章は思う。
「やっぱり女の子ね」
甘いもの一緒に食べられるし、そのことばを、奥歯の奥できしきし噛み締めながら章は笑った。
◇◇
あきら、僕、佐渡。章を示す呼称。それから好きなもの、嫌いなもの、誕生日。最悪、誕生日も知らなくていい。名前を呼ぶだけで、その名前さえ、自分の決めたもので、もしくは相手の好きな呼び方でいい――
それだけで全てを示しきれたらどんなにいいだろうか。全てを示すことができたら。そう章は思う。
もっとシンプルに生きてみたい。心を覆う外枠も越えて、ただの自分で、誰かと繋がることを許してほしい。
けれど、そんな夢を、カコを好きになるほど自分が嘘だと叫びそうになる。嘘なんだという気持ちが、痛みとなって現実に呼び醒ます。
電子の海にある真実をまだ、さらうことができない。
『あのね、わたし あきらと会ってみたい。あわなくても、顔を見て話してみたい』
嘘つき!と叫ぶ声。章は、自分のその声を胸の奥底に封じている。いつか、別の声にかわるのを恐れながら。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる