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苦しめられて欲しくない[星の視点]

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麻美さんが、見せた写真を見て僕の胸は締めつけられていた。

「前に進むのって、簡単にはいかないですね。」

「そうだね」

安西さんの作ったしょうが焼きを食べて涙が流れた。

「失くしたものが、大きい程にそれを埋める事が出来ないもんだよ。」

安西さんは、そう言いながらワインを飲んだ。

「麻美さんは、栞さんの為なら自分の気持ちなんて関係ないと思えるんですね。」

「それは、星(ひかる)さんも同じですよね?じゃなきゃ、月(るい)さんの別の人格と結婚式なんか出来ませんよ」

「あれは、僕がしたかっただけだから…。不純な気持ちですよ」

「それでも、あの人格と結婚式をあげようなんて思わないし…。自分の事を忘れられても向き合っていましたよね。私も栞にだったらそうできます。栞が私を愛していなくても、私が愛してる。それだけで、いいんですよ」

麻美さんは、ニコニコと笑う。

僕にも、その気持ちはわかる。

「子供や結婚。僕は、月(るい)と出来ない。だから、月(るい)がそこに囚われているなら取り除いてあげたい。でも、きっと、それも僕には出来ないんだと思う。」

「私も同じですよ。星(ひかる)さん」

麻美さんは、僕に笑いかける。

「野性的な本能を失って生きていってるのに、なぜ、子孫を残したい本能は失われないのだろうか…。」

安西さんは、そう言いながらしょうが焼きを食べる。

「しょうが焼き、美味しいですよ」

「ありがとう、霧人が喜ぶよ。」

「安西さんは、子孫を残したい本能は残っているのですか?」

僕の言葉に、安西さんは首を横にふった。

「でもね、霧人はあったよ。」

立ち上がって、安西さんは写真を持ってきた。

「霧人さんですか?」

「うん」

柔らかな笑顔で笑う、優しい人が写ってる。

「霧人は、同性同士でも子供を持てないか調べていたよ。僕は、いらないと言ったんだけど…。どちらかが、先立った時。残されたものの為に、子供が必要だと思うと聞かなかった。代理出産なんかも候補にあげていたよ。」

安西さんは、そう言いながら笑ってる。

「どうなったんですか?」

「さあね。亡くなってしまったから…。どうしたかったかは、わからないよ。でも、僕は最後まで二人でいいと思っていたよ。霧人が、傷つかないように伝えていたつもりだったんだけどね。それは、譲れないようだった。」

安西さんは、そう言って泣いていた。

「一旦囚われると、毎日その事だけを考える。もしかしたら、あの日逃げたのも犯罪履歴が残る事を恐れたからだったのではなかったのだろうか?僕と二人で生きてくなら、考えなくてよかった事だったのでは、なかったのだろうか?なんて、わからない事をあれこれ考えてしまうんだ。」

安西さんの言葉に麻美さんは、頷いた。

「囚われる気持ち、栞を見てるとわかります。ずっと、囚われてるから…。栞は、気づいてないけれど。時々、寝言でまだ言ってます。「大貴(たいき)、結婚して、子供欲しかったよ」って…。いつまでも、前を向けてないのがわかってる。いっそ、彼に会って肌を重ねてしまえば…。もしかしたら、消えるのではないか?何度も思いました。もう、苦しんで欲しくない。眉間に皺をよせて、うなされてる栞を見たくないんです。」

そう言って、麻美さんは泣いていた。

「好きな人には、苦しんで欲しくないですよね。僕も月(るい)が、抱える後悔や苦しみを取り除いてあげたい。手に入らないと思えば思う程、それに囚われていく。自分で、止める方法が見つけられずに進んでいくんだと思う。」

「それを考え苦しんで泣いて、橘も藤堂も…きっと霧人も…。心が、擦りきれて消耗していってるんだと思う。その痛みや苦しみから解放されるならば、どんな事でもしてあげたいんだね?麻美さんも星(ひかる)さんも。」


その言葉に、僕と麻美さんは頷いていた。

「また、月(るい)が月(るい)じゃなくなるなら…。一つでも痛みを取り除いてあげたい。」

「私も、栞の悲しい寝言がなくなるなら、その事から解放してあげたい。」

「僕は、出来なかったけれど…。橘と藤堂は、生きてる。だから、二人の願いは叶えられるよ」

そう言って、安西さんは笑った。

その痛みを取り除く相手が自分じゃなくても

それでも、構わないから

だから、解放してあげて欲しいと

僕も麻美さんも同じことを願っていた。



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