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凛の話5

あの日のホテル…

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「楽しかった?」

「うん、凄く」

「赤ちゃんの事、忘れられた?」

「忘れてた!すっごい、アオハルだった」

「ハハハ、無理しなくていいよ」

「本当だよ!本当にアオハルだった」

「フッ、ハハハ。それなら、よかったよ」

そう言って、拓夢は笑ってくれる。

「拓夢」

「何?」

「震え止まってよかったね」

「そうだな!あいつ等といると自分に戻れた」

「それなら、よかった」

「なあ、凛」

「何?」

「後で、話す」

「そっか!」

「何か、買ってこうか!何、食べたい」

「うーん、牛丼が手軽?」

「確かに!飲み物は?」

「適当でいいよ」

私と拓夢は、牛丼を買ってコンビニで飲み物を買った。そして、ホテルに行く。

「まさか、ここに泊まるとはね」

「確かにね」

時刻は、18時を過ぎた所だった。

「このまま入って宿泊しよう」

「高くない?」

「別にいいよ!俺は、凛といたいから」

そう言って、何の迷いもなく拓夢は、ホテルに入っていく。凛君との出来事があったあの日…。拓夢は、この場所に私を連れてこようとしてくれた。でも、料金が気になったり、人に見られたくなかった私は拓夢の家がいいと断った。独身の拓夢が自由で羨ましかった。

部屋に入ると、テーブルの上に牛丼を置いた。

「飲み物冷やしとこうか」

「うん」

飲み物を冷やしながら、拓夢は、私に話しかける。

「あのさ、凛」

「何?」

「俺、こういう関係じゃなくても凛と一緒にいれる方法見つけるから」

「うん」

「だから、凛は何も気にしないでよ」

「わかった」

「お腹すいたな」

「うん」

「手洗ったら食べようか」

「うん」

私と拓夢は、洗面所に行って手を洗った。自分が、不倫をするなんて思わなかった。でも、こうやってると何もかも忘れられて楽だった。このまま、流れに流され…。私は、クラゲのように漂っていたい。

「泣かないで」

私は、拓夢に抱き締められる。

「ごめんね」

「どうしたの?」

「私の価値ってないんだなーって思っちゃっただけ」

「そんな事ない」

「そんな事あるよ」

拓夢は、私の両手を握りしめる。

「凛が思う、価値って何?」

「若さもない」

「うん」

「赤ちゃんも作れない」

「うん」

「だから、価値がないの」

「それだけで、価値がないって決めつけるわけ?」

私は、拓夢の言葉に泣きながら怒った。

「拓夢だって、セックスが出来なくなったら私なんていらないよ!見た目が、こうじゃなきゃ!私なんかいらなかったでしょ」

拓夢の手を振り払おうとしたら、抱き締められた。

「俺にとって凛は、見た目とか関係ないよ。セックスだって、なくなったっていい。だって、あの日凛が俺を救ってくれた事はどうやったって消えないんだ。確かに、凛は綺麗だよ!だけど、綺麗だけで俺は凛を選んだわけじゃない」

拓夢の言葉に涙が止められなかった。私は、何て幼稚なんだと思った。39歳にもなって、一回りしたの子に八つ当たりなんかして…。
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