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凛の話10

帰りたい?

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私は、凛君に言われてうどん屋さんに入る。

「この先にある洋食屋さんに、まだいけそうにないんです」

店内に入り、席についたと同時に凛君が話し出した。

「どうして?」

「家族の想い出だから」

そう言って、凛君は目を伏せた。

「ごめんね、辛い事思い出させて」

「いいんですよ」

凛君は、そう言ってニコニコ笑ってる。

「ご注文は、お決まりでしょうか?」

店員さんが、お冷を二つ持ってきた。

「凛さん、何にしますか?」

「えっと…」

「何でもいいですよ」

「きつねうどんで」

「はい」

「じゃあ、それ二つ」

「きつねうどん二つでよろしいですか?」

「はい」

「かしこまりました」

凛君と変わらないぐらいに見える店員さんは、いなくなった。

「もっと、食べたかったんじゃない?」

「ううん。凛さんといるだけで、お腹いっぱいだから」

凛君のストレートな言葉に胸が締め付けられる。

「やめてよ!何か、恥ずかしいから」

「好きになってくれなくていいから、今日だけは僕の事だけ考えていて」

そう言って、手を握りしめられる。剥き出しになった弱い心をつつかれてる。そのせいで、心がグラグラと揺れるのを感じている。

「今日だけね」

そう言って、私は笑った。店員さんが、やってくるのが見えて、私は手を引っ込めた。本当は、今も拓夢か龍ちゃんといたい何て口が裂けても言えない。だって、凛君は私の僅かな痛みを敏感に感じ取ってこの場所に連れてきてくれたのだから…。

「お待たせしました。きつねうどんになります」

店員さんが、きつねうどんを持ってきてくれる。置いた後、凛君を見つめてる。

「ご注文は、以上でよろしかったでしょうか?」

「はい」

「ごゆっくりどうぞ」

凛君が、店員さんを見てそう言うと彼女はお盆を持ってモジモジしていた。わかる。凛君は、本当にアイドルグループにいそうだから…。店員さんは、さささッといなくなってしまった。

『いただきます』

私と凛君は、そう言った。

「七味いる?」

「うん」

「はい」

「ありがとう」

手渡された七味をかける。ズルズルとうどんを二人で食べる。もう、何も考えるのはやめよう。凛君みたいな子供がいたらとか…。拓夢や龍ちゃんの事も…。今は、私の傷を癒そうとしてくれる凛君に集中しよう。

『ごちそうさまでした』

私と凛君は、うどんを同時に食べ終わった。

「美味しかったね」

「うん」

「コンビニあるから、飲み物とかお菓子とか買ってく?」

「うん」

「凛さん、帰りたい?」

「えっ?ううん。楽しいよ」

「なら、よかった」

そう言って、立ち上がってお会計をしに行く。

「僕が、払うから!」

「いいの?」

「いいから」

店員さんは、忙しくてなかなか来れないようだった。

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