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凛の話10

見覚えのある人…

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「凛さんは、駄目だよ」

「わかってる」

暖簾で見えないけれど…。

「うどん屋さんもあるんだ!」

「食べたいですか?」

「いや、これが一番行きたい」

聞いた事のある声が通りすぎる。

「財布しまって」

「ごめん、また持ってた」

「外にいていいよ」

「わかった」

凛君に怒られて、私は外に出る。見覚えのある後ろ姿が目についた。

拓夢がいる…。誰かと…。何で?

【拓夢君】そう呼んだ女の人といるんだ。あの可愛らしい声の人と…。ご飯を食べに来たのだろうか?それとも、旅行?その人を抱くの?あんな風に…。私なんか上書きして消去するぐらいに…。

「お待たせ」

ギュッとうどん屋さんの前で、抱き締められた。

「迷惑だから」

「泣いてるから、悪い」

「離して」

凛君は、私から離れて手を引っ張る。

「凛さん、泣かないで」

その指先で、涙を拭ってくれる。

「ごめんね」

「ううん」

「お酒飲みたくなっちゃったなー」

「じゃあ、コンビニで買ってからもどろうか?」

「うん」

凛君は、手を繋いで握りしめてくれる。

「うどん屋さんのドア、固定されて開いてるって気づかなくて閉めようとしちゃった」

「ハハハ、恥ずかしかった?」

「凄く」

凛君は、そう言って笑ってる。

「この洋食屋さん!いつか、これたらいいなー」

洋食屋さんを通りすぎる時に、拓夢が見えた。向かいに座ってる人は、見えなかったけど…。胸がズキズキと痛む。

「いつか、ついてきて!凛さん」

「あっ、えっ、うん」

「聞いてた?」

「うん、聞いてた」

「嘘つかないでよ」

凛君は、そう言って私の手をさらに強く握りしめる。

「お酒飲んで忘れなよ!嫌な事!全部聞くよ」

そう言ってくれる。凛君は、母親の話をたくさんたくさん聞いてきたのがわかる。コンビニに寄って、飲み物やお菓子をカゴやおつまみをカゴがいっぱいになるほど私達はいれた。

「ケーキ食べよう」

「いいよ」

そう言って、凛君はチーズケーキをいれてくる。

「苦手なんでしょ?」

「いいから、いいから」

チョコレートケーキと取り替えようとした私の手を凛君は握りしめて笑った。

「そうなの?」

「うん、買って帰ろう」

そう言って、レジにカゴを持っていく。私が、財布を取り出すといらないとしまわされた。

「ありがとうございました」

男の店員さんに、頭を下げられる。

「お金、おろしてくる」

凛君は、そう言って袋を持ってATMに向かっていた。私は、コンビニの外に出て待っていた。

「ごめんね」

「おろさなくてもよかったのに…」

「貯金あるんだよ!それなりに!だから、大丈夫」

凛君は、そう言って私の手を握りしめてくれる。凛君の優しさが、手を通して伝わってくる。
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