上 下
550 / 646
エピローグ【凛と拓夢の話】

行くべきだよ【凛】

しおりを挟む
龍ちゃんは、私の手を優しく握りしめてから話し出す。

「どこまでやったらいいのかなーとか、どこまでしたらいいのかなーとか、何か色々わかんなくなる時あるんだよ。俺は、結構そういうのあるんだよ。どうやって元気になったのかな?とか、どうやって考えないように生きてたのかな?とか…。そういうのを全部取り除いてくれる人が、凛にとって星村さんなら行くべきだと思う、会いに…」

私は、龍ちゃんの言葉に首を横に振った。

「どうして?行かないの?」

龍ちゃんは、ポロポロ流れる私の涙を左手で拭ってくれる。

「いいんだよ!行っていいんだ」

私は、また首を横に振った。

「俺に悪いと思ってるの?」

私は、龍ちゃんの言葉に口を開く。

「今、たく…。星村さんに会いに行ったら、龍ちゃんを裏切っちゃうってわかるから行かない」

私の目からボトボトと涙が流れていく。

「会うとそうなっちゃう?」

私は、龍ちゃんの目を見て頷いた。

「ポンコツだって、忘れさせて欲しくなる?」

龍ちゃんは、そう言って私の唇を指でなぞった。

「それは、俺には出来ないもんな」

私は、首を横に振った。

「いいよ、嘘つかなくて…。わかってるんだ。俺には、出来ないって…」

「どうして?」

龍ちゃんは、私のお腹を触ってくる。

「赤ちゃんが欲しくなるんだろ?」

その言葉に私は、泣いていた。

「龍ちゃん、気づいてたの?」

「気づいてなんかいないよ。俺がそうだからだよ」

龍ちゃんは、そう言って笑ってくれる。

「私達、元に戻れてたでしょ?星村さんに出会う前に戻ってたでしょ?」

私の言葉に龍ちゃんは、首を横に振った。

「戻れてなかったの?」

うまくいってるって信じてた。私と龍ちゃんは、元通りになったって…。

「壊れたものを元通りには戻せないのと同じだよ。俺達も、元には戻ってないよ。ただ、大人だから…。見ないふりをして、聞かないふりをしていただけだよ」

「そんな…」

私だけ元に戻れると信じてて馬鹿みたいだと思った。

「元には戻れなくてもいいんだよ」

龍ちゃんは、そう言って私の手を握りしめる。

「俺はね、元通りじゃなくていいと思ってるんだ。凛の痛みや苦しみが少しでも軽くなる方がいい。元に戻ったら、凛は絶望しかなかっただろ?」

「そんな事ないよ」

龍ちゃんは、私を引き寄せて抱き締めてくれた。

「凛はいつも絶望だけが友達みたいな顔をしてたよ」

「そんな事ない」

「ううん。あるよ!星村さんに出会うまで、凛はそうだったよ。俺じゃ拭えないのは悲しかった。でも、仕方ない事だと思ったんだ。もしも、俺が星村さんの立場だったら凛を救えてたのがわかるから」

私は、龍ちゃんの言葉に龍ちゃんの背中に手を回して抱き締める。

「今日みたいなのは、本当に嫌だよ。凛」

龍ちゃんは、私を抱き締める手に力を少しだけ込めた。

「龍ちゃん」

「誰といてもいいから、生きていてよ。生きる事を選んでよ、凛」

そう言った龍ちゃんが泣いてるのがわかる。
私は、いつもこんな優しい龍ちゃんを傷つけて泣かせてばかりだ。

しおりを挟む

処理中です...