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大河内俊?!

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『おかえり』

私と優生は、俊君に同時に言った。

「ごめんなさい。」

「今日、来ないから心配してたんだぞ」

優生は、俊君の頭をワシャワシャと撫でた。

「毎日行ったら、迷惑だと思ったから」

「迷惑なんかしてないから、あがりな」

優生は、俊君を連れてリビングに行く。

私は、鍵を閉めた。

大河内俊、何故俊君は嘘をついたのだろうか?

でも、何かくすぐったくて、おじさんに怒られてるのに嬉しかったりしてしまった。

リビングに戻ると優生は、俊君にお水を渡していた。

「俊君、何で、俺達の家に連れてきてもらって、嘘までついたんだ?」

私は、二人の近くに行った。

「だって、家は昨日から誰もいないし。僕は、ここにいるのが幸せだから。この家に連れてきて欲しかったから。だから、大河内俊だって言ったんだ。家にいると熱中症になるから、倒れて死んだら家族に怒られるから。晩御飯は、ここで、食べるから。だから、僕は、だから、僕は、大河内俊なんだ。」

気づけば、優生と私は泣いていた。

熱中症?死ぬと怒られる?

もう、頭がグチャグチャだった。

「そうか。風呂はいるか?」

「えっ?何言ってるの?優生」

「別に、難しく考えんのやめよう。だって、俊君がここを選んだんだろ?おじさんが、嫌、お父さんが洗ってやるよ。じゃあ、風呂沸かしてくるわ」

優生は、お風呂を沸かしに行った。

「ごめんなさい。理名」

「もう、いいよ。怒ってないから。優生とお風呂入っておいでよ。ご飯作ってるから」

「理名。」

「何?」

「理名の子供になりたいよ、僕」

「そうか、そうか。嬉しいこと言ってくれるね。ありがとう」

無理な事は、わかってるけど…

私だって、君を我が家に迎えたいよ。

「さっ、これ持ってお風呂行く」

私は、紙袋からパジャマを渡した。

「理名、これ僕の為に買ったの?」

「そうだよ。あっ、ダサかったか、もっとカッコいいのがよかったよね。このパンツなんかあり得ないよね。ごめんね」

俊君は、ポロポロ泣き出してしまった。

「そんな、可愛いの嫌だろ?理名」

優生が、やってきてパンツを見つめて言った。

「だよね、ごめんね。子供いなくてわからなくて」

「違う」

俊君は、首を横に振った。

「えっ?」

「初めてで、嬉しかった。自分専用の服なんてもらった事なくて嬉しい。それを、理名が嬉しそうに選んでくれたのが嬉しいんだよーー。」

「そうか、そうか。よかった、よかった。」

「俊君は、素直だな」

私と優生は、顔を見合わせて笑った。

【お風呂が沸きました♪】

「さあー。風呂入ろうか」

「うん」

笑うとやっぱり子供だった。

私は、二人がお風呂に入ってる間に、ご飯を作る。

今日は、豚のしょうが焼きを作った。

「あがったよー」

「はーい」

私は、お水を渡した。

「ありがとう」

「うん」

優生と俊君は、水を飲んでダイニングに座った。

私は、ご飯を持っていった。

『いただきます』

三人で、食べる。

ちゃんと話を聞いてあげなきゃ駄目だよね。

「俊君、今日は泊まっていく?」

「うん」

「じゃあ、ここで川の字だな」

「そうだね」

ご飯を食べ終わって、シュークリームとジュースを渡す。

「優生が買ってきたんだよ。」

「苦手か?」

「ううん」

「遠慮せずに食べるんだよ」 

「うん」

キラキラした笑顔で笑ってる。

「夏休み、家は暑いの?」

「僕一人の時は、エアコン使用禁止だから」

「えっ?」

残酷な親だと思ってしまった。

優生は、立ち上がってどこかに行った。

「ご飯もないの?」

「夏休みは、給食ないから」

こんな小さな体で、よく耐えてる。

凄いよ、俊君。

「これ、家の鍵。夏休みは、家(うち)使いな!」

優生は戻ってきて家の鍵を渡した。

「いいの?」

「いいに決まってるよ」

そう言って、優生は笑った。

その日の俊君は、疲れていて、歯を磨いて眠ってしまった。

あんまり、話を聞けなかった。


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