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現在と過去

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「荷物、届いたかな?」

「届いただろう。理名は、よかったって思ってる?」

ホテルで、お酒を飲みながら優生が話してくる。

「よかったと思ってるよ」

「50歳の理名に、俊が言ったの覚えてる?俺とめちゃくちゃ喧嘩した日」

「覚えてるよ。」

「優生さんが、仲良くしないなら俺が理名さんもらうからってな」

「馬鹿だよね。高校卒業したばかりの子がさ。ババア掴まえて言う台詞かな?」

「でも、それだけ本気(まじ)だったんだよ。わかるだろ?理名だって」

「そうだよね。でも、私は俊とは歳が離れすぎよ。こんな小さい頃から知ってるし」

「可愛かったよな」

優生は、スマホの待受を見つめてる。

「あー。これ、誕生日のだよね」

「そうだよ、8月10日。」

「俊が、初めて長期間、家に泊まりにきたときだよね。」

「そうだったな」

私と優生は、あの日々を思い出す。

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8月9日

この日、私はコンビニバイトが休みだった。

めっちゃ、雨。

よかったぁー。

私は、ミカエルと窓の外を見ていた。

あれから、俊君は毎日晩御飯を食べにやってきて、お風呂も入って帰るようになった。

私と優生は、新鮮で楽しかった。

でも、俊君のご両親は嫌じゃないのかな?

で、昨日こんなものを買ってきてしまった。

じゃんじゃじゃーん。

(ニャー)

ミカエルに見せてしまった。

「勇気を振り絞って行ったんですよ。昨日の帰りにね。子供服売場に!!サイズは、お風呂に入ってる時に確認してたからね!ミカエル」

(ニャー)

「だって、あんなボロボロでクタクタな服ばっかりだからさあー。ちょっと買ってあげたくなるじゃんかぁー。」

三万円分も買ってしまった。

私は、馬鹿だな。

だって、あんな寂しそうな顔して「全部、お兄ちゃんのお下がりだから」って言われちゃったら買っちゃうよ。

バイトしてるし、買っちゃうよ。

はぁー。

駄目な私だ。

気持ち悪い私だ。

この日は、珍しく俊君はいつもの時間に来なかった。

「ただいまー」

「おかえりー」

「雨、凄かったわ。あれー?俊君は?」

「来てないよ」

「夏休みだから、どっか行ってるよな」

「うん」

私は、優生と玄関で話してた。

「今日、休みだった?」

「そうそう、緑ちゃんとシフト先週交換したから」

「それなに?」

「えっ!これ、俊君の服。昨日の帰りに買っちゃった。ハハハ」

「俺も、シュークリーム買ってきちゃった」

「馬鹿だね」

「だなー」

優生は、スーツを着替えに行く。

冷蔵庫にシュークリームを閉まった。

甘いものを全く食べない私達。

本当に、馬鹿だ。

「マジ、暑いな」

「うん、熱中症なるよ」

「だよなー。」

「明日休みだよね?」

「ああ、理名もだろ?」

「うん」

ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン

「誰?」

「さあー?」

優生が、インターホンをとった。

「はい」

「あの、息子さん。迎えに来られないので、連れてきました。」

「あっ、はい」

私と優生は、首を傾げる。

ガチャ…

「はい」

「あの、私、こういうものです。」

そう言って、少し離れた場所にある複合施設の店長と書かれた名刺を渡された。

その人は、怒りに任せて続けて話す。

「こう言っちゃなんですが、警察に連れて行こうと思っていたんですよ。わかりますか?」

「申し訳ありません」

「ママとパパがくるからって、言って聞かなくて。七月の終わりから、いつも六時過ぎまでいてね。今日に限っては、閉店になってもいるしね」

「申し訳ありません」

優生と私は、その人に何度も謝った。

「家の場所はわかるけど、番号は知らないって言うからね。困っていたんですよ。虐待も疑ってましてね。わかりますか?大河内さん」

「申し訳ありませんでした。」

「次からは、警察に通報させてもらいますから。」

「申し訳ありませんでした。」

「今後、このような事がないようにしていただきたいです。」

「わかりました。申し訳ありませんでした。」

そう言って、その人は私達に俊を引き渡した。

「大河内俊君、次からはお母さんかお父さんと来るんだよ。わかった?」

「はい、ごめんなさい」

「失礼します」

そう言って、その人は帰って行った。


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