彩られる作品【仮】

三愛 紫月 (さんあい しづき)

文字の大きさ
10 / 136
【蛹は、蝶の夢を見る。】

TV 蛹は、蝶の夢を見る。③

しおりを挟む
二人がいなくなった後のbar

「お前、名前は?」

「朝倉小太郎(あさくらこたろう)」

「へー。小太郎ちゃんか。俺は、南条衛(なんじょうまもる)。よろしく」

カランカランとグラスを回してる。

「で、さっきの話」

「さっきのって何ですか?」

「愛する人の子供が欲しいってやつ」

「はい」

「俺の兄もそうだった」

「そうなんですか」

「兄は、無精子症だった。それでも、一縷の望みをかけたかった。だからね、毎日奥さんを抱いた。そしたら、どっからか聞いた奥さんが、モラハラだ!パワハラだ!って兄に言い始めた。兄は、そう言われて壊れ始めた。食わしてるからいいだろ?やらせてくれるのは、妻としての義務だ!兄は、優しく出来なくなった。最後は、無理やりまでした。わかるか?お前にこの気持ちが…」

「わかるよ」

僕は、ボロボロ泣いていた。

「兄は、理解されなくて死んだ。自殺したんだよ。愛してる人間に追い詰められてく人間の気持ちなんてわからないんだよ」

淡々とロボットみたいに話してる人だと思ったのに…。

お兄さんの話をした瞬間に、彼は優しい話し方になった。

「わかるよ。僕だって。僕だって、出来ないのわかってても彼の子供が欲しくて。そうしてもらったよ。毎日抱いてもらったんだよ。馬鹿げてるかもしれないけど、願っちゃうんだよ。朝起きたら、妊娠してるんじゃないかって期待しちゃうんだよ」

「フッ…」

彼は、そう言って笑った。

「おかしいのかよ」

「嫌、兄みたいだと思った。お前と同じ事を言っていたよ。不妊は、心がすさむんだよ。みんな、自分がなっていないから気づかないんだよ。俺には、わかる。だから、お前の気持ち。よくわかるよ」

そう言って、南条さんは僕の頭を撫でてくれる。

「何でかな?そうやって、みんな酷い事を言うんだよ。片方だけが、悪いわけじゃない。だから、南条さんのお兄さんだけが悪いわけじゃない」

「ありがとう。そう言ってくれるのは、お前だけだ。みんな、兄が悪いと言った。モラハラ野郎。パワハラ野郎。なのに、勝手に死にやがったってな。だけどな、最初に兄に吹っ掛けたのはあっちなんだよ。兄に、妊娠させれないくせになんでお前に抱かれなきゃならねーんだよって言ったんだよ。悪いのは、兄か?」

「南条さん、悪くないよ。お兄さんは、そうしたくなかったんだよ。だけど、自分を守る為にそうしたんだ。きっと…」

そんな愛情は、狂ってると言う人間がいる。

僕には、わかる。

愛情なんて、最初から狂ってるんだよ。

真っ直ぐな愛情を与えられる人間は、どれだけいる?

僕の父親は、DVって騒がれた人だった。

本当は、母からの愛を貰えずに泣いている人だったって、誰も知らない。

僕以外知らない。

みんな側面だけを見て、悪い人間だと決めつける。

でも、僕は思うんだ。

色んな角度から見たら、人間なんて同じだろ?

悪も善も持っている。

些細な言葉で傷つき、些細な態度に傷つき、皆どちらにだってなるんだ。

「お前と話してると何か癒される」

南条さんは、僕の手を握りしめる。

この行為だって、僕が嫌だと思えばセクハラだ。

「自分が傷ついたら、相手をその倍傷つけたくなるんです。皆、それに気づいていない。だから、自分は悪くないのに相手からしたと言う。でもね、最初からモンスターな人間なんて、100人いて1人か2人でしょ?作り出すんです。誰かがモンスターを…。わかります?僕だって、今、彼が女を抱いてるのを見たら、刃物を突き立てますよ。わかりますか?南条さん」

僕の目から、涙がポロポロこぼれ落ちる。

「マスター、お会計。俺が、刃物を突き立てないでいいようにしてやる」

そう言って、南条さんに頭を優しく撫でられる。

モンスターを作るのは、人なんだよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...