彩られる作品【仮】

三愛 紫月 (さんあい しづき)

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【身体だけが繋がらない】

【身体だけが繋がらない】⑩

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ピピ…ピピ…ピピ

「慎太郎、目覚まし」

「うん」

いつものように、目覚ましを止める慎太郎。

隣に、恵美子がいるのにホッとする。

起き上がって、顔を洗う。

恵美子もアクビを繰り返しながらやってくる。顔を洗っている。

慎太郎は、歯を磨く

恵美子も、並んで歯を磨く 

鏡越しに、目が合う。

今までなら、抱き締めたりしていられた。

手に重りがついたように動かない。

恵美子は、先にうがいをした。

「朝御飯いる?」

慎太郎は、頷いた。

「軽めにしとく?」

慎太郎は、また頷いた。

「わかった」

恵美子は、キッチンに歩いていく。

慎太郎もうがいをしてリビングに向かう。

慎太郎に抱きつく事に、恵美子は恐怖を覚えた自分の感情を感じていた。

食パンをトースターで焼く。

医者に告げられた言葉のせいで、もう慎太郎とそうなれないのをハッキリと気づいてしまった。

暖めた鉄製のフライパンで、目玉焼きを焼く。

それを見つめながら泣いている自分に気づいた。

ずっと、愛がないか寂しいから、不倫をするのだと思っていた。

その基本ベースは、皆、変わらないのだと思っていた。

でも、浜田さんを受け入れようとしている自分は違うと思った。

愛があるし、寂しくもない。

なのに、触(ふ)れられないのだ。

愛があっても、不倫するのを初めて知った。

フライパンに少量の水をいれて、目玉焼きをピンクに染めた。

お皿に盛り付ける。

ウィンナーを冷蔵庫から取り出して焼いた。

「コーヒー飲む?」

「うん」

慎太郎が、後ろにやってきた。

もし、今触(ふ)れられたらやめてと叫びそうな自分に恵美子は気づいた。

慎太郎は、電気ポットで湯を沸かす。

恵美子に触(ふ)れられない自分を初めて知ってしまった。

子供を望んだ営みを重ねすぎたせいで、どうやって恵美子を抱き寄せればいいかわからなかった。

カチッとお湯が沸いて、お揃いのマグカップにドリップコーヒーをひっかけてお湯を注ぐ。

とにかく、恵美子に触(さわ)る事が怖くて堪らなかった。

不倫をする人間は、いけないと思っていた。

しかし、初めて不倫をする事を肯定してしまう自分がいた。

恵美子を心底愛してるのに、肌からえられる温もりを忘れらる事の出来ない人間の愚かさを感じていた。

コーヒーを注いだマグカップを持っていく。

恵美子は、角砂糖を3ついれる。

慎太郎は、ブラックだった。

砂糖のいれものをとってから、ダイニングに座る。

恵美子も朝御飯を持ってきた。

慎太郎が好きな瓶に入ったバターをおいてくれる。

恵美子は、少量のバターをぬったパンに、イチゴジャムをぬっている。

「「いただきます」」

同じタイミングで、手を合わせた。

目玉焼きにつける醤油のガラス瓶を同じタイミングでとろうとした。

「慎太郎が、先に使って」

「ありがとう」

恵美子は、先に慎太郎に渡した。

「今日、晩御飯は?」

「また、後でメッセージする」

「わかった」

今日で、二人の関係性が愛すべき同居人にかわるのがわかる。

その先は、どうするべきかはわからないけれど…。

お互いに、逃げたい事だけはわかる。

いつの間にか、子供を欲しいと言わなくなった二人

いつの間にか、タイミングとろうと言わなくなった恵美子

いつの間にか、二人で生きていこうと言わなくなった

このまま、一生続いていくと思っていた。

何も言わなくても、二人で…。

細い糸を辿りながら、進んでいく気がしていた。

だけど…。

違った。

生理があるのとないのは、恵美子にとって大きな問題だった。

妊娠出来るか出来ないかは、慎太郎にとって大きな問題だった。

何の為にするのかが、お互いに解らなくなった。

期待して、期待して、期待して

泣いて、泣いて、泣いて

惨めで、惨めで、惨めで

悔しくて、悔しくて、悔しくて

そんな日々を乗り越えて

手にしたものは、お互いを抱き締められない身体になっただけだ。

心はしっかりと繋がり合っているのに…。


「「ごちそうさまでした」」

朝御飯を食べ終わり、恵美子は慎太郎がいれたコーヒーに砂糖を3つ溶かした。

「温いけど、溶けた?」

「大丈夫」

愛があるのに、どうにもならない事がある。

愛してるのに、どうにもならない事がある。

「美味しい、慎太郎のコーヒー」

「よかった!恵美子?」

「なに?」

「同居人でもいいから」

「うん」

「ゆっくり考えて」

「うん」

慎太郎と恵美子は、目を合わせながら笑った。

コーヒーを飲み干して、お皿を下げて洗う。

「用意したら行くね」

「うん」

8時過ぎに起きたのに、朝御飯を食べ終わったら10時をまわっていた。



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