彩られる作品【仮】

三愛 紫月 (さんあい しづき)

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シークレット作品①

【欠けたピースは戻らない】⑫

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「トッシー」

昌也は、俊之に触(ふ)れる。

「昌也」

「トッシー、俺ね。トッシーと生きていきたい。だから…」

「捨てないよ」

俊之は、昌也を抱き締める。

昌也は、母親につけられた傷のせいで性への嫌悪感を拭いきれずにいた。

俊之も、同じだったからわかった。

でも、俊之は、昌也の為にそれを払拭した。

それでも、昌也は最後まで出来ない日の方が多いのだ。

「ごめん、怖い」

そう言う日が、多いのだ。

俊之は、その度に「いいよ」って笑った。

でも、昌也はそれが出来なくて俊之が消えるのが怖いのだ。

捨てられるのが、怖いのだ。

幼少期のトラウマなのがわかる。

俊之だって、同じだ。

昌也が、いなくなるんじゃないかと不安な日々を沢山抱えた。

でも、昌也がそれを口に出してくる。

だから、俊之はそれを口に出せなかった。

「トッシー」

「昌也、俺を捨てないで」

昌也は、俊之の言葉に嬉しくて強く抱き締めていた。

「ごめん、俺がいっちゃダメだよな!」

「違う。嬉しい。嬉しいんだよ。」

「そうなの?」

「だって、五年いて!初めて、トッシーが言ってくれた。それが、嬉しいんだ。」

昌也は、そう言って俊之の両頬に手を当てる。

俊之が、昌也を必要としてくれてるのを感じられた事が嬉しかった。

「昌也、大丈夫だからな」

俊之は、昌也の頭を撫でる。

「トッシー、俺ね。トッシーの大丈夫って言葉、大好きだよ。あの時も、そう言ってくれた。それだけじゃない。俺が、無理な時もいつも大丈夫って言ってくれた。俺は、それが、大好きだよ。」

「昌也」

「俺、人生に絶望しかなかったんだよ」

「何で?」

「あいつに汚(きたな)いって、汚(けが)らわしいって、そう言われて殴られてたから。それなのに、その行為をして俺は産まれたんだ。トッシー、俺自身が汚(きたな)い存在だったんだよ。そりゃあ、あいつは、俺を汚(きたな)いって言うよな。当たり前だよな。汚(きたな)い事をして産まれたんだもんな」

「昌也は、汚くなんかないよ」

俊之は、初めて昌也の口からそれを聞いた。

やっぱり、昌也は自分と同じだった。

俊之は、不倫の最中に出来た自分が堪らなく汚(きたな)い存在だと思っていた。

「トッシーも汚(きたな)くないよ」

昌也は、俊之を抱き締める。

もう、これ以上誰かに傷つけて欲しくなかった。

あの日、幼い二人を傷つけた両親。

性に嫌悪感を与えて、自分さえも否定させた昌也の母親

叔母からの話を聞いてから、自分の存在が気持ち悪かった俊之。

二人の心のピースを欠けさせた複数の大人達

どちらが、正義なのだろうか?

幼かった二人は、両親に別れて欲しくなかった。

それを、母親はモラハラだと訴えた。

我慢してくれていたら、もしかしたらもっと真っ直ぐに生きれたのではないかと…

昌也と俊之は、ずっと思っている。

欠けたピースは戻らない。

もう、繋ぎ合わせる事さえも出来ない。

そんな昔の事は、忘れて前を向くべきだ!

縛られていては、いけない。

許してあげるべきだ。

人は、好き勝手に言うんだ。

でもね、許せる程、二人は大人じゃなかった。

その欠片を補える術も教えられなかった。

自分を気持ち悪い存在だと、思いながら生き続ける人生を手放せたらどれだけよかっただろうか…。

でも、出来ないんだ。

どれだけ、肯定感を育もうとしても、母親の話を聞いたり、写真を見るだけで、すぐに戻ってきてしまうんだ。

それでも、俊之が大丈夫って言ってくれるだけで昌也は小さな糸を手繰り寄せながら生きていける。

俊之もまた昌也がしがみつくように抱き締めてくれるだけで、必要とされる事を感じれる。生きていていいのを感じれる。

二人は、お互いの頬に手を当てる。

「昌也、愛してる」

「トッシー、愛してる」

「昌也、生きていて、俺のために」

「トッシーもだよ。生きていて、俺だけの為に」

おでこを合わせて、笑い合う。

必要だと言って、綺麗だって言って、産まれてきてくれてよかったと言って、お願いだから、否定しないで。

大人に傷つけられて、大人になった二人。

欠けたピースは、二度と戻らない

それを、埋める術はない。

ただ、認めてくれるだけでいい。

ただ、傍にいるだけでいい。

二人は、互いの頬の涙を拭っていた。

           END


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