三日月宝珠と愛しき幽体

三愛 紫月 (さんあい しづき)

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光珠の視点

君とちゃんと…

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麗奈は、まだ泣いていた。

『ああーー、あっ』

「ごめんなさい」

私は、麗奈を後ろから抱き締めた。

殴る男の典型的なやり方だった。

『光珠?』

「麗奈、君とちゃんとお別れがしたい。二条さんに頼むから、お別れをしてくれないか?一日で、この20年を忘れるにはこれしかなかった。」

『光珠……』

宝珠が、昔、言っていた幽体の気持ちを初めてわかった。

殴る男の話だった。私も、彼と同じだ。

彼の殴る理由に、どんな言い訳をしても許されないとあの時、宝珠に言ったけれど…。

自分が、この立場にたってよくわかった。

そうしなければ、ならない程。

彼女を愛していたんだ。

そして、こうしなければならない程。

別れるのは、容易ではなかったのだ。

「私は、最低だ。だから、麗奈が許さないと言うのなら…。それで、構わない。」

『それなら、赤ちゃんも抱けるのね』

「どういう意味だろう?」

麗奈は、私に向き合った。

『私は、もう向こうでは妊婦さんじゃないのよ。光珠の赤ちゃんは、もう22歳よ。』

「えっ?」

『だから、会ってあげてほしいの。大人のあの子に…。』

「待ってくれ、成長してると聞いた事はあるけれど…。まさか、私が君を失った歳なのか」

『そのまさかよ。赤ちゃんの時からのあの子を光珠に見せてあげられる。幽体の方が出来る事は多いから…。宝珠さんに会いたい。いるんでしょ?』

「ああ。外に」

『連れてきて欲しい』

「わかった」


私は、麗奈に言われて宝珠を迎えに行く。

「宝珠、聞こえていただろう?」

「あぁ、行こう」

宝珠は、麗奈の元に行った。

「久しぶりだね。」

『10年ぐらいは、経ちますね』

麗奈は、宝珠を抱き締めた。

「やっと、さよならをする決心がついたのだね」

その言葉に、私は驚いた。

『そうなの、息子にね。怒られたの!光に…。』

「ひかりと言うのですか?」

『そうよ。』

「前世の縁は、濃いものですね」

宝珠は、そう言って笑っている。

「麗奈ちゃんが、やっと決心が出来たならよかった。ずっと、お別れしたくなかったのを知っているから…。すぐに、突き放す言い方をお互いにしてしまうのは悪い癖ですよ。傷つけ合ってお別れしてどうするのですか?光珠に、嫌われて言ってもらいたかったのですよね。さよならって」

私は、泣きながら宝珠を見つめる。

『宝珠さんには、敵いませんね』

麗奈は、ニコッと笑った。私は、麗奈の本心を見抜けなかった。

「それだけ、二人は似すぎているのです。だから、縁が切れてしまったんですね。結婚してから、ゆっくり薄くなっていった。よく喧嘩した。お互いの考えが、わからなかった。幸せなのかも、わからなくて…。信じられなくなった。子を宿して、少しだけ濃くなったけれど、不安は溢(あふ)れて止まらなかった。ただ、繋ぎ止めたいだけなのか、本当にこの子を望んだのかわからなくなった。ちゃんと愛せるのかわからなくなった。迷って、悩んで、苦しんで、でもそれを誰にも気づかれないようにした。光珠の前では、笑顔で幸せでいよう。そう思う程に、一人になった時の抱えきれない孤独の扱い方がわからなくなってしまっていた。一人じゃないと思って強くなる母もいる。でも、麗奈ちゃんのように一人じゃない事を感じて弱くなる母もいるのです。守るべきものが、二つになったから、弱さは三倍になった。苦しかったでしょう?」

宝珠の言葉に、麗奈は泣いている。

『もっと早く、MOON先生に会いに行けばよかった』

「あの頃の私も駄目な人間でしたよ。」

『でも、私の抱えてるビジョンを宝珠さんは読めたから…。弱虫だったから、私』

「弱虫だったのでは、ありませんよ。守りたいものを両手に抱えて、自分の孤独や寂しさもあった。だから、弱かっただけです。本当なら、縁が強くてそんな気持ちにならない事が多いのですが…。薄くて、不安定な縁には起こりやすかっただけです。何も自分を責める必要はないのです。麗奈ちゃんは、よく頑張ったのですよ」

私は、麗奈を見つめながら泣いていた。

三日月の教え、薄い縁程、不安や恐怖が付きまとう。宮部さんの時に、喜与恵君から聞いた。



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