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さよなら、空。(ゐ空)

助けて

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体調が悪くて、いつも朝は起きられない。

「ママァー。」

「しんちゃん。」

「ママ、今日も頑張ってね」

まただ!

いつも、朝はこれで起こされる。

お願い、もう朝からやめてよ。

迷惑なのよ。

「体調大丈夫ですか?」

「はい、誰?」

「ハハハ、ゐ空には内緒だぞ。こんなに、苦しくて痛いのに気づくのが遅くなってすまないな」

小さな声で、言われる。

「ゐ空の知り合いですか?」

「わしは、師匠だ!ゐ空の師匠だぞ!これ、どうぞ」

「何、これ?」

小さな妖精を手に握らされた。

「これが、あんたの痛みを少しだけ取ってくれる。辛かったら、握りしめろ!わかったな?」

「はい」

「大丈夫だ!わしが、ゐ空がくるまで居てやるからな」

「何故?私の気持ちがわかったのですか?」

「私の知り合いがね。あなたの声を聞いたんだよ。」

「そうなんですね」

ゐ空の師匠さんは、私の頭を優しく撫でてくれる。

「お外で空気吸いに行こうか?車椅子押してくれるか?」

「はい」

ママァーって言ってる声を聞かないようにしながら通りすぎる。

「辛いなー。自分には、手に入らない幸せだもんな」

「まさか、師匠さんもですか?」

「あぁ、そうだよ。わしも、手に入らんかったな。辛いよなー。いくつになっても、辛い。悲しい。寂しい。でも、もっと辛いのは愛する人が辛い事だよ。」

「ゐ空に、辛い思いをさせてしまいますか?私は…。」

「そんな事はないよ。ゐ空は、空さんに会えて幸せだよ!凄く幸せだ。だから、これからも宜しくな。わしが、ゐ空がいない間は相手するから!いや、老いぼれの相手をしてくれるか?そこが、右」

「ここですか?」

「わしの病室だ!二人部屋だよ!隣は、わしと同じ独身のじいさんだからよ!朝、辛かったらおいで。あんな、声聞いたら死にたくなるだろ」

私は、涙が止まらなかった。

「ハグしようか?」

師匠さんは、私を抱き締めてくれる。

「幸せの象徴みたいなものを見せつけられて苦しくて痛くて悲しいだろ?わしも、わかる。でも、空さんの本当の痛みをわかる人はいない。それが、わかるのは自分だけじゃよ。でも、こうやってわしに話なさい。全部受け止めてあげるから!それと、その子と一緒に寝るんじゃよ。」

「はい」

「ゐ空としたいと思うか?」

「わかりません。」

「もし、したくなったら人形に、魂をうつしてもらいなさい。ゐ空が造る人形なら、器になるから大丈夫だ。」

私は、よくわからなかった。

でも、師匠さんのお陰で辛くなかった。

それから、お昼前までいて、お昼ご飯に病室に戻った。

「はぁ、はぁ。間に合った!」

「ゐ空」

「今日から、お昼は一緒に食べようと思ってね」

ゐ空は、息を切らしてお弁当を持って買ってきていた。

「無理しないでいいのよ」

「無理したいんだ!」

そう言って、笑った。

朝、お隣の声で目が覚めるのが苦痛なの。

消えたいよ、ゐ空。

何も言えなかった。

だって、ゐ空は私の為に必死で来てくれたんだもん。

「人形造ってるの?」

「あぁ、それなりだよ。まだ、半人前だから…。」

ゐ空、私辛いの。

「お弁当、作ってあげたい!いつか…。」

「料理得意?」

「得意ってわけじゃないけど、作れるのよ。」

ゐ空、私……ここにいたくない

「楽しみだな。」

「ゐ空は、何が好き?」

「卵焼きが、好きだよ」

ゐ空……私を連れて帰って

「甘いの?」

「ちょっと、醤油がいいかな?」

「いつか、焼いてあげる」

「うん、いつか作って」

ゐ空……私。

やっぱり、子供が欲しい。

【やっぱり、空に頼むと楽だわ!】

【本当、保育士やってるだけあるよね】

「どうしたの?泣いちゃった。」

「ううん。」

病気の治療が終わり、一年が経ち従姉妹と会った時に言われた言葉だった。

私は、手に入らないのよ。欲しくても…。

ゐ空は、私の手を握りしめた。

「おかず食べる?」

「調子悪い?」

「うん、調子悪い。」

私は、ゐ空におかずを渡した。

体なんかより、心が辛いの。

苦しくて、悲しいの

ゐ空、助けて…………。

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