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さよなら、空。(ゐ空)

救われる

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それから、ゐ空の師匠さんの所に朝に行き、ゐ空がお昼ご飯と晩に現れた。

夜は、小さな妖精を抱き締めて、眠った。

辛くて、悲しいけれど、前に進むしかなかった。

私は、両親に頼んで誰にもお見舞いにこないで欲しいと言った。

辛くて、悲しいから、嫌だと言った。

これ以上、惨めな思いをしたくなかった。

「ゐ空」

「なに?」

「私、ゐ空としてみたい。でも、人形じゃないと駄目。だから、造ってくれない?私とする為に」

ゐ空は、少し驚いていた。

「そんな人形を造った事がない。」

「大丈夫、ゐ空なら出来るわ。お願い」

ゐ空は、私のお願いを聞いて1ヶ月で人形を造り上げた。

「どうするの?」

「空の血をもらいたい。人形に飲ませるから」

「わかった。」

私は、わざと手首を切った。

ゐ空が、持ってきた容器に血を落とした。

ナースコールを押した。

「駄目よ。切ったの!」

お医者さんも看護士さんも大慌てで私の手首を治療した。

「魂が抜けた私は、どうなるの?」

「大丈夫、空が眠ってる時間にするから…。」

「わかった。じゃあ、今日の夜やって」

「でも、私は…。」

「出来ないのは、知ってるわ。でも、ゐ空にもっと触(ふ)れたいの。」

「わかった。」

ゐ空は、そう言って笑ってくれた。

「今の隣は?」

「小学生の子供がいるママよ。」

「またか……。」

ゐ空は、小さな声で呟いた。

「嫌がらせみたいよ。ここの病院の…。」

私は、悪戯っ子のようにゐ空に笑いかけた。

「空、無理しなくていいんだよ。私が、もっとしっかりしていたら空を包み込んであげれるのに…」

「充分よ。ゐ空…」

ゐ空、本当に充分よ。ゐ空がいるだけで…。

その夜、ゐ空は帰って行って私は九時には眠るように言われた。

ゆっくり、目を閉じる。

あの、妖精さんを抱いて…。

不思議な感覚に包まれて、目を開けた。

「いらっしゃい。空」

『ゐ空なの?』

「あぁ、そうだよ。」

『凄いわ。羽根がはえたみたいに軽いわ』

「よかった。」

『ゐ空も、人形にはいるんでしょ?』

「うん、そのつもり。」

『入らなくても、出来るの?』

「それは、私は…。」

『怖いのね。ゐ空』

「ごめん」

『キスぐらいは、出来る?』

「うん」

ゐ空は、私にキスをしてくれた。

思ったよりも、軽くて驚いた。

それでいて、ちゃんと私だった。

ゐ空は、暫くして人形に入ってやってきた。

『こっちに、おいで。』

ゐ空は、私の手をひく。

ゐ空の部屋に連れてきてもらった。

素敵な場所。

退院して、ゐ空と住みたい。

ゐ空の傍に、ずっといたい。

『空、緊張してる?』

『少しだけ』

『無理しなくていいよ』

私は、首を横に振った。

『無理させて。こんなチャンス二度とない』

ポロポロと涙が流れ落ちる。

ゐ空は、優しくしてくれた。

『機能したのは、人形だから?』

『違う。私が、空を愛してるからだよ』

不思議な感覚と快感だった。

私は、この一度の行為をゐ空と何度も楽しんだ。

「ゐ空……。」

「体温計りましょうね。」

「はい」

目覚めると朝だった。

体が重ダルくて、死にたくなった。

辛い

「はい」

「平熱ですね」

「はい」

ゐ空とずっと生きていきたい。

でも、この体は嫌。

何で、私は、こんな人生を選んできたの?

ゐ空と結婚して、ゐ空の子供を産んで、ゐ空が人形を造ってるのを隣で見届けて生きていたい。

寝転がって、天井を見上げる。

掴まえられるものが、何もなかった。

空しく手を握りしめた。

ゐ空、私、この人生を捨てたい。

お願いどうかわかって

ゐ空といる時間は、幸せで素敵なの。

でも、それよりも圧倒的に多い苦痛や悲しみや痛み。

幸せより多すぎて、私は生きていけない。

いつか、生まれ変われる時があるなら、ゐ空、私を見つけてね。

ずっと、ずっと、愛してる。

ゐ空。

幸せをありがとう

だから、ゐ空。

いつか、私がいなくなっても幸せを見つけてね。

ゐ空は、素敵な人だから…

ドクン……………。


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