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さよなら、空。(ゐ空)
終わりました。
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「終わりました。」
宝珠君は、私から離れた。
「ありがとう。空は、私といて幸せだったんだね。」
「はい、そうです。」
「空は、子供を本当に望んでいたんだ。いけない事だったのかな?」
「いえ、そんな事はないです。」
私は、宝珠君に笑いかける。
「人生って思い通りにいかないね。それが、いいんだって言う人もいるけど…。辛いよね、悲しいよね。自分の人生に、当たり前のように、健康も伴侶も子供もいないなんてさ…」
宝珠君は、私の手を握りしめる。
「光珠は、手に入れたのに全てを失くしました。ゐ空さんも、見たでしょう?そんな人もいるのですよ。」
「わかってるよ。今の幸せが、永遠に続くわけじゃない事ぐらい。私にだってわかるよ。それでも、信じたかった。私の未来には、空がずっといるって…。空の望みを叶えてあげたかった。」
「どうして、苦しめられなければならないのでしょうか?人間は、言葉を巧みに話せるかわりに野性的な本能は失ったと思っていました。なのに、まだ子孫繁栄は刻み込まれているのですか?そんなものも失くなればいいのに…。」
「宝珠君は、私の喉の奥に詰まったものを取り出してくれますね。本当だね。子孫繁栄が、本能に組み込まれているから苦しめられる。子を授かる事が出来ない存在は、苦しめられる。それだけを本能に任せなくていいじゃないか…。」
私は、そう言って涙を拭った。
「昔ね、私。不妊の野生の鳥にあったことがあるんだ!」
宝珠君は、驚いて私を見つめる。
「夫婦でね、巣を作ったんだけど壊れてしまった。それから、何週間もその巣を二羽で見つめていた。どうやら、子供が出来ないようだった。3ヶ月後、一羽だけが巣を見つめていたよ。別れたのか?亡くなったのかは、最後までわからなかった。でも、明らかにあの二羽は不妊だった。私には、わかる。だって、卵を産まずにずっと潰れた巣を見ていたから」
「自然界にも、そんな事があるのですね」
「どっかで、そうなったんじゃないのか?人間の近くに住んでいるから…。あの、二羽の切ない顔が今も忘れられないよ。悩んでるのは、人間だけじゃないんだと思った。なのに、苦しむのは人間だけなんだよ」
「言葉とお金をもっているからでしょうかね?人間は、何故かそれに縛り付けられるのですよね。」
「まあ、親がいる人は特にだな。私は、周りに恵まれていた。モカは、私の造った人形に16歳から恋をしているし、雅は人形だ!だから、私はそこまで本能に振り回されなかった。親族に会わない限り大丈夫だ!宝珠君は、どうだった?」
宝珠君は、悲しそうに目を伏せた。
「私は、三日月の家にいた時は苦しかったです。真琴の事も、ゐ空さんに言い当てられた彼女の事も…。その後から、子供は嫌いな存在に一時期変わりました。今は、どちらでもないです。私の人生にはなくていいピースですね。」
「私も同じだよ。欠けているのは、子供でも結婚でもない。私の欠けたピースは永遠に欠けたままだ。」
「空さんですね」
「あぁ、そうだよ。宝珠君」
「はい」
「私は、この人形と少しだけ暮らしてみようと思う。どうだろうか?」
「いいと思いますよ」
宝珠君は、私に笑いかけた。
「最初は、解体するつもりだった。だけど、さっきのビジョンを見て思ったんだ。それを持っていたのが、この人形ならば、きちんとお別れをできるまで置いておこうと…。宝珠君、空を解体する日に、またここに来てくれないだろうか?」
「はい、もちろんです。」
「よかった。私は、空と向き合ってみるよ。あの日、最後を看取れなかったから…。この人形の最後は、看取るよ。」
「また、呼んで下さいね。私も見届けますから」
「宜しく頼むよ!あっ、そうだ。宮部さんは彼に会うと?」
「はい、そうしたいと言っていました。」
「だったら、雅の作る晩御飯を食べてあげてよ。ビックリするぐらい美味しいんだよ。」
私は、そう言って笑った。
宝珠君のお陰で、私は少しだけ前を向いた。
もう、過去を振り向くのはやめよう。
そこに、幸せなどない。
今日、それをハッキリとわかった。
どれだけ、思い出した所で、嘆き悲しんだ所で、通りすぎた過去を戻せる力は、能力者をもってしても不可能なのだ。
空は、生き返らない、師匠も生き返らない。
私に、残された道はこの人形とモカと雅と歩いていくしか方法がないとハッキリと気づいてしまった。
「宮部さんに連絡してきます」
「あぁ、庭で待っていてくれ。片付けたら行くから」
「わかりました。」
宝珠君は、頭を下げて出ていった。
「今までの空。さよなら。明日から、君をここからだしてあげるからね。一緒に生きてみよう!」
私は、ガラスケースの空に笑いかけた。
宝珠君は、私から離れた。
「ありがとう。空は、私といて幸せだったんだね。」
「はい、そうです。」
「空は、子供を本当に望んでいたんだ。いけない事だったのかな?」
「いえ、そんな事はないです。」
私は、宝珠君に笑いかける。
「人生って思い通りにいかないね。それが、いいんだって言う人もいるけど…。辛いよね、悲しいよね。自分の人生に、当たり前のように、健康も伴侶も子供もいないなんてさ…」
宝珠君は、私の手を握りしめる。
「光珠は、手に入れたのに全てを失くしました。ゐ空さんも、見たでしょう?そんな人もいるのですよ。」
「わかってるよ。今の幸せが、永遠に続くわけじゃない事ぐらい。私にだってわかるよ。それでも、信じたかった。私の未来には、空がずっといるって…。空の望みを叶えてあげたかった。」
「どうして、苦しめられなければならないのでしょうか?人間は、言葉を巧みに話せるかわりに野性的な本能は失ったと思っていました。なのに、まだ子孫繁栄は刻み込まれているのですか?そんなものも失くなればいいのに…。」
「宝珠君は、私の喉の奥に詰まったものを取り出してくれますね。本当だね。子孫繁栄が、本能に組み込まれているから苦しめられる。子を授かる事が出来ない存在は、苦しめられる。それだけを本能に任せなくていいじゃないか…。」
私は、そう言って涙を拭った。
「昔ね、私。不妊の野生の鳥にあったことがあるんだ!」
宝珠君は、驚いて私を見つめる。
「夫婦でね、巣を作ったんだけど壊れてしまった。それから、何週間もその巣を二羽で見つめていた。どうやら、子供が出来ないようだった。3ヶ月後、一羽だけが巣を見つめていたよ。別れたのか?亡くなったのかは、最後までわからなかった。でも、明らかにあの二羽は不妊だった。私には、わかる。だって、卵を産まずにずっと潰れた巣を見ていたから」
「自然界にも、そんな事があるのですね」
「どっかで、そうなったんじゃないのか?人間の近くに住んでいるから…。あの、二羽の切ない顔が今も忘れられないよ。悩んでるのは、人間だけじゃないんだと思った。なのに、苦しむのは人間だけなんだよ」
「言葉とお金をもっているからでしょうかね?人間は、何故かそれに縛り付けられるのですよね。」
「まあ、親がいる人は特にだな。私は、周りに恵まれていた。モカは、私の造った人形に16歳から恋をしているし、雅は人形だ!だから、私はそこまで本能に振り回されなかった。親族に会わない限り大丈夫だ!宝珠君は、どうだった?」
宝珠君は、悲しそうに目を伏せた。
「私は、三日月の家にいた時は苦しかったです。真琴の事も、ゐ空さんに言い当てられた彼女の事も…。その後から、子供は嫌いな存在に一時期変わりました。今は、どちらでもないです。私の人生にはなくていいピースですね。」
「私も同じだよ。欠けているのは、子供でも結婚でもない。私の欠けたピースは永遠に欠けたままだ。」
「空さんですね」
「あぁ、そうだよ。宝珠君」
「はい」
「私は、この人形と少しだけ暮らしてみようと思う。どうだろうか?」
「いいと思いますよ」
宝珠君は、私に笑いかけた。
「最初は、解体するつもりだった。だけど、さっきのビジョンを見て思ったんだ。それを持っていたのが、この人形ならば、きちんとお別れをできるまで置いておこうと…。宝珠君、空を解体する日に、またここに来てくれないだろうか?」
「はい、もちろんです。」
「よかった。私は、空と向き合ってみるよ。あの日、最後を看取れなかったから…。この人形の最後は、看取るよ。」
「また、呼んで下さいね。私も見届けますから」
「宜しく頼むよ!あっ、そうだ。宮部さんは彼に会うと?」
「はい、そうしたいと言っていました。」
「だったら、雅の作る晩御飯を食べてあげてよ。ビックリするぐらい美味しいんだよ。」
私は、そう言って笑った。
宝珠君のお陰で、私は少しだけ前を向いた。
もう、過去を振り向くのはやめよう。
そこに、幸せなどない。
今日、それをハッキリとわかった。
どれだけ、思い出した所で、嘆き悲しんだ所で、通りすぎた過去を戻せる力は、能力者をもってしても不可能なのだ。
空は、生き返らない、師匠も生き返らない。
私に、残された道はこの人形とモカと雅と歩いていくしか方法がないとハッキリと気づいてしまった。
「宮部さんに連絡してきます」
「あぁ、庭で待っていてくれ。片付けたら行くから」
「わかりました。」
宝珠君は、頭を下げて出ていった。
「今までの空。さよなら。明日から、君をここからだしてあげるからね。一緒に生きてみよう!」
私は、ガラスケースの空に笑いかけた。
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