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宮部希海の視点

好きなのですね

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喜与恵君は、パフェを食べながらニコニコと私を見つめる。

「希海ちゃんは、光珠さんが好きなのですね」

「わかりますか?」

「はい、わかりますよ。ただ、お互いにもう少し信頼する必要がある。その為に、希海ちゃんは彼との事を終わらせたいのですね」

「はい、光珠さんと前に進みたいです。」

「素敵な事だと思いますよ。」

喜与恵君は、ニコニコ笑ってくれる。

「三日月さんとの三年間を何故やめたの?あのまま、一緒に人間として生きていったらどんな事でも出来たよね?」

「そうなんですよ。人間って、つくづく欲張りですよね。私は、宝珠といるのが楽しかった。だけど、だんだん辛くなってきたんです。自分だけが、過去を知っていて宝珠は何も知らない。私は、恋人だと嘘までついて宝珠を繋ぎ止めようとしたんです。」

喜与恵君は、ポロポロと泣き出した。

「真理亜さんの名を呼んで、我に返れば謝られた。だんだんと良心が痛み始めました。前世からの濃い縁を断ち切る事は、容易ではないのがハッキリとわかりました。それに、希海ちゃんが辛そうな顔をしてるのも糸埜さんが悲しい顔をしてるのも気づいていました。三日月宝珠の記憶を戻そう。私は、そう決心しました。皆が、幸せになれるなら私の幸せなど手放してしまおう。そう思ったのです。」

「喜与恵君、ごめんね。私達のせいで、辛い決断をさせて。」

喜与恵君は、首を横に振った。

「よかったんですよ。現に、宝珠は凄く楽しそうです。私との日々よりも今の方が楽しそうです。」

喜与恵君は、楽しそうに笑った。

「そんな事ないですよ。私は、あの日々の三日月さんが、三日月さんだと思っています。今でも、喜与恵君の前だけは三日月さんは別人です。」

「そんな事ないですよ。」

「そんな事あるよ!」

私は、喜与恵君に笑いかけた。

喜与恵君が、いたから三日月宝珠は生きている。

喜与恵君が、いたから三日月さんは道を間違えなかった。

糸埜さんが、言っていた。

あんなに忘れていたら、普通は生きていけないと…。

なのに、三日月さんは生きていた。

会う度に、屈託のない笑顔を浮かべていた。

「ありがとう。三日月さんを支えてくれて」

「いや、全然ですよ。」

本当に、能力者一族は若い。

喜与恵君が、50を回ってるなんて思わない。

「30代で、通るよね?下手したら20代でもいけそうだよね?羨ましい!私は、今年で42歳だよ!光珠さん何か10歳も若く見えるし」

「希海ちゃんも、めちゃくちゃ若いですよ。30代です!私なんかより、珠理さんに会ったら一番驚きますよ。」

「珠理さん、私と同い年って聞きました。」

「はい!でも、見た目は20代です。彼女は、本当に…。後、希海ちゃんがもっともっと生きやすくなる相手ですよ。珠理さんは…。それぐらい、魂の形が似ています。」

ブー、ブー

「ちょっと待ってね」

私は、スマホを見つめた。

「どうしました?」

「珠理さんが、明日がいいらしくて!取材」

「いいじゃないですか!早い方がいいですよ。」

「今、関西に住んでるから中々こっちに来れないらしいんですよ。三日月さんに、明日の取材はなしにしてもらいます。」

私は、糸埜さんにメッセージを送った。

「希海ちゃんの運命が動き出したんですね。」

喜与恵君は、アイスミルクティーを頼む。

「私もお願いします。」

珠理さんに会えば、もっと生きやすくなる。


喜与恵君の言葉が、頭の中をまわっている。

「私、ワガママなんですかね?」

「何故ですか?」

「だって、健康な体をもってるし、収入だってある。なのに、結婚も子供もいらない。ワガママだって、彼をとった従姉妹に言われたんです。三日月さんが、目覚める前に会ったんです。偶然!光珠さんといる所見られて」

「それは、ワガママなのでしょうか?希海ちゃんは、欲しくないわけですよね。それを、ワガママっていうのはおかしいと思いますよ。」

喜与恵君は、私の手を握りしめてくれる。

こんなにも、真っ直ぐな目で言われるだけで心が救われていく。

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