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喜与恵と宝珠の視点

無理でも…

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「あの日の皆が、百合の事後悔しとったんは知ってる。せやけど、暴走しとるなんて気づかんかった。まだ、百合を子供やっておもっとったから。大丈夫やっておもっとったから…。百合は、もう皆の中からその記憶なくして欲しいゆうてた。可哀想って思われたくないし、あの日自分の意思でいなくなったからって。せやけど、子供見て吐くし。妊婦さんみたら、倒れるし。全然傷は癒えてないねん。それでも、前向いて生きてんねんで。こっちにも、来たいとはゆうとった。今日かて、珠理と一緒に行くって知ってたから!自分も宝珠や糸埜やきよちゃんに会いたいし。二条にも会いたいゆうてた。」

「百合ちゃんは、強いですね。あの日も、強かった。珠理さんが、そっちに行ったのには百合ちゃんの事が関係してますか?」

私の言葉に、みなちゃんは頷いていた。

「ちょうど、10年前に珠理がきたんよ!百合の事考えて。百合が、ほら倒れたりするから…。せやけど、能力あるから、その仕事はしたいゆうてな。あの事件と子供の事も主がある程度は消したんやけど…。全部消されんくて。その反動が、吐いたり倒れたり。両親が歳とってきたから、珠理がきて助かってんねん。珠理は、結婚も子供も望んでへんし。ほら、珠理も、色々あったやん!それが、百合にはわかってもらえてええみたいやわ!」

「珠理さんは、サバサバしてるし。百合ちゃんにとってよかったのだろうね。」

宝珠は、そう言って笑う。

「実際、珠理がきてから百合は、めちゃめちゃ前向きなったしな!だから、彼女も出来たし。倒れたり吐く頻度もへっとったんやで!それを、俺のあれがな。」

みなちゃんは、眉を潜めて泣いていた。

珠理さんが来て変わり始めたのに、知らないとはいえ踏み込まれたくない場所に足を踏み入れられたわけだ。

「また、入院させてもうた。せっかく、珠理が来て落ち着いてきとったのに…。俺が、自分の遺伝子に拘らんかったら百合に迷惑かからんかったのにな。」

「みなちゃんのせいじゃないよ。彼が、子供をどうしても望まなければおきなかった出来事だよ。」

「きよちゃん、俺と百合が逆やったらよかったんやで。そしたら、そんな事ならんかったんやで」

泣いているみなちゃんを宝珠も泣きながら見ている。

「どうして、男に産まれたのかな?」

「きよちゃんも、辛いんやな!」

私は、みなちゃんに頭を撫でられる。

「みなちゃんも、辛かったんでしょ?彼に、色々言われて…。」

「せやな!辛かったんやな。残りの日々は、お前としたって無駄やってゆわれてるみたいやった。それでも、愛や情のせいで彼から離れられへんくて。今かて、百合を傷つけられたのに…。連絡きたら、嬉しなってる。アホな自分がおるんよ。」

「それで、宝珠の紹介話にのったの?」

「せやで!チャンスやと思ってん。何か、変わるんやないかって!その人も、万珠さんに騙されとった人なん聞いたから!おうてみたいな思って。宝珠が、探すぐらいの人なら悪いやつおらんから!俺は、見る目ないけどな」

みなちゃんは、そう言いながら涙を拭ってる。

苦手意識だけで、嫌っていたのを感じる。宝珠との事をバレたせいで、関わりたくない存在にしていた。

昨日、宝珠が言った通りみなちゃんは私と同じ悩みを抱えていた。

「みなちゃん、見る目ない事ないよ。」

私が、首を横に振るとみなちゃんは私を見つめる。

「きよちゃん。目覚めた朝の絶望感は、半端やないよ。今日も、男やったって泣いてまうねん。」

「わかるよ」

「せやろ!満月の歪みはいつまでもとれへんしな。俺は、ゲイなんが悲しいんやないねん。命を宿されへん事が悲しいねん。」

「わかるよ」

みなちゃんは、私の頬に手を当てる。

「きよちゃん、おんなじやな!」

「うん」

目が覚めると絶望から始まって、絶望で終わる。

「いつか、そんなん考えんでようなる日が来るまで待つしかないな。珠理が、ゆってたやろ。拷問やって!俺もそう思うねん。この事に振り回されて生きるんは、生爪剥がされて生きるんとかわらんなって。せやけど、しゃーないよな。望んでまうんやから」

みなちゃんは、そう言って私の頭を撫でてくれた。

「いつか、そんな事思わなくなったら笑い話にしよう。ねっ!!みなちゃん。」

「せやな!99歳ぐらいなったら笑えるかもな」

「そんなに……?」

「それぐらい。しんどいん。きよちゃんもわかるやろ?」

「わかるよ」

子供をもてる事が、何で羨ましいんだろう…

最初から、無理な願いだと何で諦められないんだろう…

子孫繁栄を組み込まれてるからなら…

どうか、思考を取り除いて欲しい。

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