桜の季節に失くした恋と…【仮】

三愛 紫月 (さんあい しづき)

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桜の木の桜木さん

伊納円香、前野友作

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あれは、今から30年前の出来事だった。

当時、私は15歳だった。

中学校の校庭にある桜の木、そこには不思議なおまじないのお話が語り継がれていた。

「校庭に入ってすぐの桜の木のおまじないやりなよ」

クラスで、占い好きの林さんは、皆川さんに話していた。

「でも、彼には彼女がいるし」

「あの桜の木に、お願いしたら付き合えるんだって」

根も葉もない噂話だと、この時の私も思っていた。

それでも、話を聞いていたのは私
伊納円香いのうまどかにも好きな人がいたからだった。

「桜の木の下に行って、桜の木に付けた傷に、自分の血をつけるの。つけながら、願い事をすると叶うって話。実際、卒業した丸川先輩がおまじないをされて事故って車椅子になった話しは有名でしょ?桜の木の、桜木さん。男でも女でもない。桜木さんが来て、願いを叶えてくれる。」

「なにそれー。何か怖い」

と言いながらも、色んな人がやっていた。

その桜の木だけは、変な色をしていた。

「伊納、ちょっといいか?」

「はい」

私の好きな人は、この人だ。

担任の前野友作まえのゆうさく先生だった。

先生は、音楽の早乙女加奈枝さおとめかなえ先生と付き合っていた。

誰にも、気づかれてないと思っているけど、私は知っていた。

先生達に、流れている雰囲気が違うことを気づいていた。

大人は、何もわかってくれないとずっと思って生きていた。

「円香は、もっと出来るだろ?」

「円香なら、上を目指せるわ」

「伊納は、こんなんじゃないだろ?」

「伊納、もう少しだけいけたよ」

決めつけられていた。

限界だって、精一杯だって、誰もわかってくれなくて、私はずっともがいていた。

唯一、幼馴染みの上條だけは、そんな私の理解者だった。

そんな上條も、中1の夏の事件から、すっかり心を閉ざしてしまっていた。

会話は、するけれど…。

どこか、ぼんやりしていた。

上條もわかってくれなくて、私は一人悩んでいた。

そんな私に、二年生で担任になった前野先生がこう話した。

「伊納、何か悩んでるだろう?先生でよかったら聞くぞ」

大人になって気づいた、あの言葉は、「おはよう」って言葉と何も変わらないって事。

私だけに特別なわけじゃなかったって事。

それでも、あの小さな世界にいた私には、特別な言葉で、簡単に勘違いしちゃう言葉だったんだ。

三年も先生のクラスになれた、それだけで充分だったのに…。

「伊納、最近進路で悩んでるだろう?」

「えっ?」

「これ、白紙だったから」

「あっ、すみません」

「いや、気にしなくていい。何かあったらいつでも相談に乗るから」

「わかりました。失礼します」

前野先生への気持ちが、あふれそうだった私は、国語のプリントを白紙で出してしまった。

前野先生は、国語の先生だった。

もう、我慢出来なかった。

「伊納、帰ろう」

「うん」

上條と帰る。

「あのさ、上條」

「なに?」

「桜の木のおまじない知ってる?」

「女子が話してるやつだろ?嘘だよ、あんなの」

「私、やってみたいんだ。」

「なんで?」

「前野先生が、好きで。もう気持ちを抑えられないの」

「わかった。付き合ってやるよ」

私は、上條に付き合ってもらったんだ。

その夜、上條と一緒に学校に忍びこんだ。

【やり方は、簡単だよ。誰もいない学校に忍び込んで。桜の木の前に行くの。誰にも見つかっちゃ駄目だよ。】

上條は、門の近くで待ってくれていた。

【桜の木の前に行くでしょ。まずは、自分の利き手じゃない方の親指を切るの】

「イッ」

【そして、桜の木に傷をつけるの】

私は、ガリガリと、カッターナイフで傷をつけた。

【その傷に、さっきの親指の血をつけながら願い事を口に出して三回するの】

私は、親指をそこにつけながら、

「前野先生の彼女になりたい。
前野先生の彼女になりたい。
前野先生の彼女になりたい。」

【願いのあと、こう言うのよ。桜木さん、○○の世界と私の世界をかえて下さい。私に、○○を下さい。】

「桜木さん、早乙女加奈枝の世界と私の世界をかえて下さい。私に、前野友作を下さい。」

【最後は、桜の木を抱き締めて終わり】

私は、桜の木をギュッーと抱き締めた。

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