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三日月家の掟
決められた運命
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私、三日月宝亀(みかづきほうずき)は12歳を迎えていた。
「宝亀、結婚相手を連れてきた」
そう言って、叔父の兆珠(ちょうじゅ)は気味の悪い女を連れてきた。
「師匠、私はこの方と…。」
「結婚するのだ。宝亀。わしの役に立て」
そう言われたら、頷くしか出来ぬ事をこの人はわかって言うズルイ人間だ。
私は、二歳の時に、母、樒(しきみ)に捨てられた。
私には、この師匠以外すがり付く人間などいないのだ。
「よしよし、偉いぞ。宝亀。では、明日の夜。」
そう言って、師匠はその人と消えた。
「あぁぁぁ。」
「宝亀、どうした?」
「一条、私は私は、あんな気味の悪いものと結婚するのですか」
「宝亀、それが三日月の掟なのだ。私も、宝亀と同じ年頃の時にそうなったのだ。」
「一条、私は、私は…。」
「大丈夫。宝亀を軽蔑などしない。」
私は、一条にしがみついて泣いた。
「宝亀、一条。私は、二週間後に、婚礼になりました。」
伊村(いむら)が、帰宅してすぐに言った。
「どなたとですか?」
「はい。能力者との結婚です。私のような普通の能力者に与えられた事は、子孫繁栄の権利のみが与えられているのです。」
伊村の婚約者は、黄の能力者の最後の娘だった。
「黄の能力者は、伊村と結婚し幕を閉じると言うことですか?」
一条の言葉に、伊村は頷いた。
「世継ぎが産まれなかった。だから、三日月家(みかづきけ)が吸収する。ただ、それだけの事」
伊村は、泣いていた。
「伊村は、焦がれてる人がいたのですよ。」
伊村の恋は、この時代では、叶わなかった。
いつの世か、伊村の恋が叶う日がくればいいと思っていた。
「一条もいるのですか?」
「私は、そのような方はおりませぬよ。宝亀」
「嘘をついているのでは、ないのですか?」
「私は、宝亀に嘘をついた事など一度もありませぬ。」
その目に、引き寄せられそうになった。
それは、恋とは違うことを私は理解できずにいた。
「ありがとう、一条」
私は、そう言って笑った。
次の日、私は気持ちの悪い幽体と結婚した。
『宝亀、よろしいですか?』
「はい」
真っ赤な唇に、目の左右はずれている、笑うと真っ黒な歯が覗く。
私は、それと肌を重ねた。
「オェー」
「宝亀、大丈夫ですか?」
「一条、とれぬ、とれぬのだ。」
あの気色の悪い幽体のヌメヌメとした感触と、鼻がひん曲がりそうな匂いがとれなかった。
「オェー、オェー」
「宝亀、辛抱です。」
私は、中身が出なくなっても吐き続けた。
身体中から、掻き出してしまいたかった。
あれの身体で、果てた瞬間に包まれたものは、私を包み込んだのだ。
よくも、あれに欲情できたと思う。
気持ち悪くて、堪らなくて、その匂いも感触もずっと消えやしなかった。
一条は、丸一日私の背を撫でてくれていた。
人ではないものを抱き、愛しいとも思えぬものを抱き、それの中で果てた自分が気色の悪い存在で…。
それを、拭いきれなくて…。
助けて欲しかった。
誰かに助けて欲しかった。
「宝亀、大丈夫ですよ。大丈夫。大丈夫」
母親に、崖から突き落とされそうになった一条。
父親は、一条が15歳の時に、自決した。
狂ったのだという。
人ならざるものとの繋がりが濃くなった一条は、毎夜毎夜話していた。
それが、父親を狂わせたのだ。
一条は、自分を責め続けた。
これが、自分の能力ならば甘んじて受け入れなければならぬ事。
そして、また母親と父親の人生を狂わせたのも私なのだ。
宝亀を守ってやろう。
自分が、例えどうなろうとも宝亀を守ってやる事が、私の運命(さだめ)なのだ。
「一条、私と…」
宝亀の望みが何かを一条は、理解していた。
「それは…」
「掟などと言って、拒絶するのか?」
「しかし」
「唇を重ねるだけは、出来るであろう?」
宝亀の美しさに、一条は胸をときめかせた。
それが、恋でないのはわかっていた。
宝亀は、躊躇いもなく一条の唇に唇を押し当てた。
そして、舌先で固く閉じた唇を開けようとする。
一条は、受け入れるのはいけないと必死で抵抗した。
「宝亀、結婚相手を連れてきた」
そう言って、叔父の兆珠(ちょうじゅ)は気味の悪い女を連れてきた。
「師匠、私はこの方と…。」
「結婚するのだ。宝亀。わしの役に立て」
そう言われたら、頷くしか出来ぬ事をこの人はわかって言うズルイ人間だ。
私は、二歳の時に、母、樒(しきみ)に捨てられた。
私には、この師匠以外すがり付く人間などいないのだ。
「よしよし、偉いぞ。宝亀。では、明日の夜。」
そう言って、師匠はその人と消えた。
「あぁぁぁ。」
「宝亀、どうした?」
「一条、私は私は、あんな気味の悪いものと結婚するのですか」
「宝亀、それが三日月の掟なのだ。私も、宝亀と同じ年頃の時にそうなったのだ。」
「一条、私は、私は…。」
「大丈夫。宝亀を軽蔑などしない。」
私は、一条にしがみついて泣いた。
「宝亀、一条。私は、二週間後に、婚礼になりました。」
伊村(いむら)が、帰宅してすぐに言った。
「どなたとですか?」
「はい。能力者との結婚です。私のような普通の能力者に与えられた事は、子孫繁栄の権利のみが与えられているのです。」
伊村の婚約者は、黄の能力者の最後の娘だった。
「黄の能力者は、伊村と結婚し幕を閉じると言うことですか?」
一条の言葉に、伊村は頷いた。
「世継ぎが産まれなかった。だから、三日月家(みかづきけ)が吸収する。ただ、それだけの事」
伊村は、泣いていた。
「伊村は、焦がれてる人がいたのですよ。」
伊村の恋は、この時代では、叶わなかった。
いつの世か、伊村の恋が叶う日がくればいいと思っていた。
「一条もいるのですか?」
「私は、そのような方はおりませぬよ。宝亀」
「嘘をついているのでは、ないのですか?」
「私は、宝亀に嘘をついた事など一度もありませぬ。」
その目に、引き寄せられそうになった。
それは、恋とは違うことを私は理解できずにいた。
「ありがとう、一条」
私は、そう言って笑った。
次の日、私は気持ちの悪い幽体と結婚した。
『宝亀、よろしいですか?』
「はい」
真っ赤な唇に、目の左右はずれている、笑うと真っ黒な歯が覗く。
私は、それと肌を重ねた。
「オェー」
「宝亀、大丈夫ですか?」
「一条、とれぬ、とれぬのだ。」
あの気色の悪い幽体のヌメヌメとした感触と、鼻がひん曲がりそうな匂いがとれなかった。
「オェー、オェー」
「宝亀、辛抱です。」
私は、中身が出なくなっても吐き続けた。
身体中から、掻き出してしまいたかった。
あれの身体で、果てた瞬間に包まれたものは、私を包み込んだのだ。
よくも、あれに欲情できたと思う。
気持ち悪くて、堪らなくて、その匂いも感触もずっと消えやしなかった。
一条は、丸一日私の背を撫でてくれていた。
人ではないものを抱き、愛しいとも思えぬものを抱き、それの中で果てた自分が気色の悪い存在で…。
それを、拭いきれなくて…。
助けて欲しかった。
誰かに助けて欲しかった。
「宝亀、大丈夫ですよ。大丈夫。大丈夫」
母親に、崖から突き落とされそうになった一条。
父親は、一条が15歳の時に、自決した。
狂ったのだという。
人ならざるものとの繋がりが濃くなった一条は、毎夜毎夜話していた。
それが、父親を狂わせたのだ。
一条は、自分を責め続けた。
これが、自分の能力ならば甘んじて受け入れなければならぬ事。
そして、また母親と父親の人生を狂わせたのも私なのだ。
宝亀を守ってやろう。
自分が、例えどうなろうとも宝亀を守ってやる事が、私の運命(さだめ)なのだ。
「一条、私と…」
宝亀の望みが何かを一条は、理解していた。
「それは…」
「掟などと言って、拒絶するのか?」
「しかし」
「唇を重ねるだけは、出来るであろう?」
宝亀の美しさに、一条は胸をときめかせた。
それが、恋でないのはわかっていた。
宝亀は、躊躇いもなく一条の唇に唇を押し当てた。
そして、舌先で固く閉じた唇を開けようとする。
一条は、受け入れるのはいけないと必死で抵抗した。
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