桜髪の乙女は元兄上様、魔女で絶対な悪役令嬢へと堕落す。弟を奪うために

書くこと大好きな水銀党員

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悪役令嬢になる前の兄上

兄上、弟に薬を盛られ女になる。

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 離れの別宅。領地統括する父上の屋敷とは違う別宅。愛人や知らない女性と夜を共にするための小さな家に僕は今……いや。俺はいま、監禁されていた。慣れない娼婦のドレスを着せられ……ただただ時間を持て余させる。

 弟に別邸に誘われた結果……全て失い。その奪った相手が窓の外に写った。

「帰ってきたか……」

 ボソッとそう、囁き。俺は鍵をかける。些細な抵抗で無意味な抵抗を行った。もちろん、鍵はあやつは持っている。

ガチャ

「ただいま兄さん」

「…………おかえり。ヒナト」

 変わった名前の1歳しか変わらない弟の名前を呼ぶ。満面の笑みで窓まで詰め寄るヒナトに俺は逃げるように壁を背にする。

「あれからも挨拶してくれるなんて……お兄さんは優しいですね」

「くっ!! 挨拶大事と教えたからな!! ヒナト!! 早く俺の体を戻せ!!」

「わかってる。まだ勝負は終わっていない……お兄さん」

 ヒナトは俺の顎を撫でようとしそれをはたき落とす。

「痛いですね」

「なにが痛いだ!! 兄をこんな姿に変えて、無理やり縛り全てを奪ったお前に心はないのか!! 心に痛みはそんなもんじゃないだろ!!」

「残念ですが。兄上……私は昔から壊れてしまっている。覚悟しているのです。それを気付かせてくれたのは兄上自身でした」

「俺自身!? そ、そんな……いったいいつの時だ……あれか? お前のおやつのプリン間違って食べた事か? お前の好きだった小説。あまりにも表現が過激で焼いた事か? あとは……足を踏んだり」

「兄上の悪事……本当に小さい事ばかりですね。はぁあああ!! 全く!!」

ドンッ

 壁にヒナトが押し付ける。力が強く抵抗さえ許してはくれない。それよりも俺は……今まで関わって来た事。ヒナトのためにと思ってやって来た事を公開していく。

「違うのか……ごめん……ヒナト。心当たりがない……そんなに思い詰めてたなんて思わなかった。許してくれ。ここまでの所業は相当だ」

「……許す。許さないの話じゃないのです。こればかりはこればかりは……私の問題です」

 スッと胸の辺りの部分をヒナトは引っ張りチョーカーに触れてすぐに手を離した。下を向くとほんのり膨らみがつきだした胸に自身の身に何が起きているかハッキリとする。

「ヒナト!! なんで!? 許してくれないのか!? そんな酷いことを……」

「ええ、今も結構酷いことですが。ただ兄上は悪くない。悪いのは全部、私です。だから……恨んでください」

「ヒナト!? やめろ!! この魔法具外せ!! さもないと!!」

「……女になった兄上は無力ですよ」

「嫌だ!! やめろ……やめてくれ。なんで……」

 魔法具で力を奪われたままヒナトは頭を下げた。

「……兄上。ごめん」

 俺は何も言えなくなり、顔を逸らす。







 いったい、いつ。歪んでしまったのだろうか? そんな事を最近はずっと悩んでいた。

 心当たりがなく。ヒナトは自身が悪いと言うが。俺自身は必ず原因は俺にあると思っている。

「……これでは鳥籠に匿われた箱入り娘じゃないか」

 ヒナトに運動も何もかもさせてはくれない。ヒナトを最近は怒鳴り続けるがそれでも収まることはなく。男に戻して貰えず……毎日。下半身から変わっていく体に不満が募っていく。

 気付けば胸も大きく。声も甲高い。自分自身を失っていき……何もかも昔とは違っていく。

 ただ、変わらないのは……何故か笑うヒナトの笑顔だけ。

「なんなんだ? 一体……なんなんだ」

 わかる事のない問い。いつか……ヒナトから切り出して貰うことを期待する。





 屋敷の中は退屈である。だが、ヒナトがいるときほど緊張はない。襲われる心配がないためだ。

「監禁されていると言うのに何も捜索の動きがない……母上父上もヒナトの味方か」

 俺は屋敷を探索し、使用人を撒こうとするが……やはり。訓練された女性の兵士らしく隙を見せなかった。そうこうしているうちにヒナトが帰って来てしまったらしく。廊下でばったりと会う。

「ありがとう。お疲れ様でした……下がっていいですよ。メルトさん」

「はい、ヒナト。めっちゃ毎日疲れるのだけど……学校休んでるし」

「……仕方ないです。女になったとしても兄上です」

 高く買ってくれているらしい。ちょっと頬が緩むが叩き気を引き締める。

「ヒナト!! ただいまは!!」

「……ただいま兄さん」

「おかえり!! それよりもだ!! 何故、監禁生活が成立出来ている!! 教えろ!!」

「父上母上は知っています。そして……兄上はもう戻る事は出来ない。なぜなら兄上は既に葬式は終わっており。今更帰る場所はないです」

「そ、葬式だと!?」

「そうです。すでに故人です」

 俺は背中からブワッと汗が出る。恐ろしい事をしてくれた。そう、抹殺。社会的に俺を殺したのだ。男に戻らさせないように。用意周到だとは思っていた。思っていた!!

「な、なぜ!? なぜそこまで兄を恨む!? 全てを奪おうとする!? 自害さえも許さない理由はなんだ!! 飼い殺す気もないだろう!!」

「……」

 ヒナトが口を押さえる。少し照れたあとに首を振り、そして真っ直ぐ歩き。俺の肩をつかんだ。

「私は歪んでしまってます。兄上……いえ、今の兄上も美しい」

「気持ち悪いことを言うな」

「気持ち悪いでしょう。知ってます。知ってますが……私は言います。兄上!!」

「……」

 ヒナトの真っ直ぐな迫力に気圧されながら耳を疑う言葉を聞いた。

「愛して慕っております。兄上」

 耳を剣で切り落としたいほどに、身の毛がよだつ。そう、いままで全て。ヒナトの歪んだ愛情が行わせていることを俺はこの時になって初めて絶望し、頭を押さえたのだった。

「ひどい……ひどすぎる」

「……綺麗です。姉上」

「喋るな!! 姉ではない!! 兄だ!!」

 俺は……どうしたらいいんだ? 神様よ。



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