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悪役令嬢になる前の兄上
クラスにいる素晴らしい令嬢
しおりを挟むエルヴィスは苦悩していた。学校というもの知っていた彼はいろんな問題にぶちあたる。男子トイレか女子トイレかと言う問題もある。
周りの目を気にし、心を無にして、多くの令嬢に心で謝りながた女子トイレから帰って来た時の事だった。
机で待つ、女子生徒に囲まれるのだ。苦悩のあとにエルヴィスを待っていたのは質問攻めである。1日目は様子見。2日目は……令嬢たちの興味を満たす道具、玩具である。学校中の噂になるには時間は要しなかった。
多くの推測が流れる中で真実を知りたがる令嬢が押し寄せたのだ。
「ヴェニス様と一緒に帰っておりましたが!! ヴェニス様とはそういった関係ですか?」
「今朝もご一緒でした!!」
「……もしや、噂の婚約者様ですか?」
不安がる令嬢に面白そうに目を輝かせる令嬢。多くの心の流れをエルヴィスは感じながら、それでも口調を正さず。正直に答える。
「兄弟です」
だが、エルヴィスの正直は皆に首を傾げる結果しかもたらさなかった。真実でも、すんなりと受け止められる物でない事をエルヴィスは苦悩し、言葉を変える。
「間違いです。姉弟です。血の繋がった」
エルヴィスの言葉にすんなりと受け止められ、令嬢たちは様々な反応をし……そして。今度はゴマをすり始める。
「お姉さま!! ヴェニス家だったのですね!!」
「あの、有名な商人家ですね」
「有名な素晴らしいお家です」
(中小商家よりちょっと上ぐらい……すごい有名とか言われてもパッとしませんし。どうもゴマすりがすごいですね)
「ええ、家を誉めていただき光栄ですが……そんな立派なお家ではございません。取り扱っている商品も少ないですし……」
謙遜、男口調は鳴りを潜めてただただいい顔をする。早くどっか行ってくれと思いながらもそれを表情に出さず。すると……あるところからパンっと大きい音が鳴り、聞こえた瞬間にシーンとクラスが静まり返った。音の方を見ると……エルヴィスと同じ赤色で綺麗な髪を持つそれはそれは美しい令嬢が睨み付けるたのだ。
「ふーん、商家の娘ねぇ」
嫌らしく。嫌らしく。ニヤリと笑みを扇子で隠してエルヴィスに近付き。顎に扇子を突きつける。一触即発の事態に雲の子のように散る令嬢にエルヴィスは救世主かと目を輝かせる。
「あまり、目立つと……どうなるかわかってますわよね」
悪意で釘を差しに来た彼女にエルヴィスは気にせずに問う。
「エルヴィス・ヴェニスです。お名前は?」
「バーディス・レッドライトですわ。この髪でわかるかしら? 赤い赤い、この朱の色の髪をね」
「名家、レッドライトの名前はご存知です。公爵として王家の血縁であり……領地を持つ事を許された騎士のライト家ですね」
「ふふふ、商家とは違うわ。わかったわね」
「それはもちろん!! レッドライトの騎士はその赤い髪が特徴であり。薔薇騎士と言われるほどに戦場で目立ち。また目立ち狙われるものを狩ろうと髪を見せるその獰猛な勇敢さは……我々商人には考えられない者です。名誉職である騎士家に生まれるなんて羨ましいです」
「ふふ、そうでしょそうでしょ……いや!? 違いますわ!! ゴマすってるじゃないわよ」
「……」しゅん
エルヴィスは憧れの家の令嬢だった事に饒舌になっただけであり。ヒナトとともに憧れる騎士家であったが……その令嬢に怒られ落ち込む。
「……」
「……すいません。ヒナトも憧れた家なのでつい」
「……ヴェニス家のヒナト様の本当の姉かしらね。姉なんて今まで居なかったのにね」
「!?」
「養子でしょ。ヒナト様に色目を使わない事ね」
バーディスはそう注意を言い。そのまま席に戻るのだった。
「……」
エルヴィスはそのまま自分の髪を見る。ピンク色に近い赤に大きくため息を吐き、そして……そのままふと思い付く。
「……ヒナト、知ってるのか?」
ある考えが思いつき。エルヴィスは行動に移る。そう、バーディスにお願いを言うために席を立つ。
「ヒナトに会わせたい」
そう、バーディスにお願いするために。
*
放課後の自由時間。クラスで待つ二人は向かい合って座りエルヴィスは腕を組む。
「レッドライト家の令嬢どの。ありがとうございます」(ヒナトも俺もあの家は憧れだった)
「バーディスでいいわ。エルヴィス。あなた……口調変よ」(本当に親族なのね。ヴェニスのヒナト様は優等生。婚約でもできれば私の株があがるわ)
「俺の口調が変なのは気にしないでください。意固地で俺と言ってるだけです」
「変な人……それよりもエルヴィス。本当に会わせてくれるんでしょうね」
「もちろん。ヒナトは放課後は迎えに来ると言ったので大丈夫でしょう」
「あなた、顔面に拳を入れてたわね」(本当に親族だからこその距離感。頭を下げてくないけど、こっちから来てくれるのは運がいいわ)
「嫌がらせを受けたので鉄拳制裁です。言葉で注意をしても無駄だったのでね……はぁ……」
大きくため息を吐くエルヴィスにバーディスは眉を歪ませる。どういう関係なのか値踏みするようにじっくりと見、考えを巡らす。しかし、それも足音と令嬢たちの黄色い声にかきけされ。バーディスはその声の原因をみて声を溢す。
「ヴェニス様……」
「……姉上、お待たせしました。それとお誘いくださりありがとうございます。レッドライトのお嬢様」(兄上の気遣いでしょうね。レッドライト家は憧れだったから会わしたいと言う所でしょうね。何も兄上が言わずともお近づきになれる立場なんですが……私のことを思うての事なら尚更嬉しいですね)
ヒナトは作り笑みをバーディスに向けたあと、エルヴィスには心の底から満面の笑みで話をする。
「ヒナト、ご存知だろう。あの名騎士を何人も輩出するレッドライト家のご令嬢だ」
「ふふふ、そうですわ!! バーディス・レッドライトですわ!!」
「ええ、存知あげております」(高飛車だな。あと兄上、その強めな口調いいですね)
「ヒナト、俺ばかり見て恥ずかしいのか? ん?」
「いいえ」ぷいっ
「気のせいか」
ヒナトは顔を背け、バーディスに向き直る。バーディスは気がつく。ヒナトが口元を押さえてなにかを我慢したことを。
「お初にお目にかかります。ヒナト・ヴェニスです」
「ええ、知っております優等生の3人の一人でしょう。素晴らしい成績を修めたとお聞きになっております」
「ええ、たまたまです。たまたま」
「いいや、たまたまではない。俺は知っている。夜遅くまで勉強し、剣の稽古も魔法の稽古も怠っていない事を……今では学校があるが昔は休憩日なる日があったほど根をつめていた。それが身を結んだのだよ」
「ははは。普通の事です」(お兄さん。やめてください、恥ずかしいですよ)
「努力出来るのも才能だ。流石はヒナト。えっと……こんな素晴らしい弟です。何卒、お目をお掛けくだされば幸いです」
「ふふふ、おかわいい事で……」
「かわいいでしょう。我が弟は」
「褒めてくれるのは素直に嬉しいですが。二人っきりのときにお願いしたいですね。恥ずかしいですし、そういう物を表に出すのは……」
「ヒナトの口から言わなければいい。俺の口から言うからこそ意味がある」
バーディスは口元を扇子で隠して二人の様子を伺う。そして……ふと噂を思い出しそれを考えながらヒナトを見続けた。
「……」
「すいません。今日はお呼びくださりありがとうございました。ここではあれですので我が特別に用意してくださった部屋へお願いをします。姉上、今日は帰りましょう」
「何? お茶を誘いなよ」
「それは姉上も誘えばいいではないですか?」
「ああ、俺はいいよ。別に……」
「そうですね。今日は顔を見せるだけ……落ち着いたらお伺いします」(今日はこの縁を大事にしましょう)
「では、バーディス・レッドライトの令嬢さまありがとうございました」(兄上の友達になってほしいなぁ)
「ありがとうございました。弟に会ってくださり」(ヒナトが喜んでくれてよかった)
「はい、こちらをこそ……会えてよかったです」(これで私の叶わないと思っていた夢、目的が叶うわ)
その日はそのまま顔と紹介だけで終わり。各々の考えのもと行動に移すのだった。
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