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極悪令嬢に堕ちる
魔女の夜
しおりを挟む「『魔女の夜』……それがエルヴィス姉の会に通じる真の名前か」
「ええ、夜と言うのは魔法使いの領域です。魔法使いだけが使える土地世界の事です。魔女は我々ですね。まぁ、私は魔女? とは言わないでしょうけどね。魔法使い、悪女のが聞こえがよくって? ふふふ」
「……そういう世界は本当にあるんだな。エルヴィス嬢」
「ある。そして、隠されている。話した者は死をと言う厳しいルールが課せられております。誓約書ですね。私もその魔法使いを狩る魔法使いです。仕事しましたね」
ハルトは身震いをする。人を殺めたと軽く口にし、そして……底知れない実力を垣間見る。訓練ではない実戦の経験者として生き残っていると。テーブルの上に居る火の鳥が恐ろしい物に見える。
「『聖女』はそんな世界を知るのか?」
「知りませんね。あれは天性の能力者。教会がバックに居ます。教会も魔法使いは忌み嫌うのですけど、教会の上は知っているでしょうね。あれも仲間です」
ハルトは足元がぐらつくのが感じられた。世界の裏から世界を操っていると言われていると。嘘だと断じるにはハルトには知識はなかった。
「信じられない……魔法使いが世界を……支配してるなんて」
ハルトは剣を手放し、その小さい塊が異常に弱々しいものと感じた瞬間だった。
「支配はしてないです。世界を維持するために努力しております。魔法は都市を焼き払い多くのものを殺す能力です。管理しなくちゃ……全員全滅です。私もいつかそこまでになってしまうでしょうね。ただ、優しい優しい魔法使いに生かされているだけです」
「……俺よりも立場が上か」
「魔法使いとしてはです。他の事ではハルト君のが上ですよ。婚約破棄、本当に申し訳ないです。何もなければよかったんですけどね。あの泥棒猫を許せるほど甘くないです」
「彼女は無罪だろう。母親が……」
「そうですね。無垢な女を演じるているのは面白いですね。生まれ変わりと言うのを使っているのでそんな筈ないのですけどね」
「……婚約破棄だったな。もしも、婚約破棄を断ったらどうする?」
「……次を考えます」
「わかった。わかった……今日はショックな事が多かった。それに自分の目で見たい。誇りを捨てた結果。見えた世界を……」
「……バーディス嬢に案内を依頼しますわ。ありがとうございましたハルト君」
「いや。俺こそ悪かった。俺の子供のワガママみたいで……軽い気持ちで婚約をお願いして」
「いいえ、時と場所が違えばまた変わった人生だったでしょう。夢のようなフワフワした令嬢の学園生活に騎士様との蜜月を味わったでしょう。ですが……もう、それそ支えている者達、あぶれた者達を知った今では素直になれませんね」
エルヴィスは扇子を置いて火の鳥を回収する。クッキーは全て食べつくされて燃やされてしまい。カスさえ残さなかった。
「エルヴィス嬢……『魔女の夜』はこれからどうするんですか?」
「喧嘩を売られてしまい、妹達に怪我をさせようという動きがあります。『聖女』の雇った監視もあります。少し火が出てしまうでしょうね。避けようとしても、出る杭を打たれる時期に来ました」
「加勢……いたそうか?」
「ダメです」
ピッシャリとエルヴィスが強く拒絶する。
「ハルト君にはハルト君の居場所があり、関わるべきじゃないです。魔女は『聖女』に成れず、仲間にも成れず。親さえ見放し、娼館に入れるか捨てるかの子達です。ハルト君がくるには明るいです」
「エルヴィス嬢だって明るいじゃないか。男として、少しでも……頼ってほしい」
男として頼られない事にハルトは苛立つ。それにエルヴィスは悲しい表情で語った。
「押し付けはよくないですよ。それに明るくないです。実は結構、嫌々なんです。こんなに大事になるとは思いませんでした。もっと静かで大人しく力をつけるつもりでした。不安で不安で……寝るときも悩みます。でも、起きて妹分の前に立つと皆深く頭を下げて『おはようございます。お姉さま』と言うんですよ。それに応えてあげるとキラキラと輝いた目で私についてくるんですよ」
疲れた表情のエルヴィスにハルトは押し黙る。独白のように愚痴をこぼし、彼は静かに怒りを治めた。
「そんな、妹分に……情けない姿を見せられないでしょう。数十の視線に応えるように私は彼女らを巻き込んだ責任を持たないといけない。不安になるような事はしない、不安にさせてはならない。生活も保証しないといけない。すべての行動に意味を持たせないといけない。弟を一人、支える方が凄く楽でした。愚痴一つ溢すのも大変ですよ。本当に……まぁ溢しますけどね。どんどん。一人では無理ですから」
「なら、尚更。頼っても……」
「私があなたにお願いするのを妹分に見せるのはカッコ悪いと思いませんか? 妹分を信じてあげずにあなたにお願いしてしまうのは妹分を信じてあげれてないと思いませんか? 残念ながら、余力がある今は……お願いすることはできません。困っていないのです」
エルヴィスは紙を丸め、手に持ち席を立つ。ハルトは唇を噛んだまま、何も言わず。自分がどれだけ矮小な存在かを身に感じた。
「ですが、困って困って大変なときに現れたらかっこよくて惚れちゃいますわ。それでは失礼します」
「……」
静かに去る赤いドレスの令嬢をハルトは眺め続け、息を大きく吐き出す。すると、赤い扇子の忘れ物があり、それを掴む。
「ん!?」
ズシっとした重さに驚きながら両手で掴み、これが武器であることを知り。エルヴィスがああも簡単に片手で扱った力に驚く。軽く見せていたが、そんな事はなかった。
「化け物……」
そしてハルトはその扇子を持って追いかけようとしたが……エルヴィスは既にその場に居らず。彼は追いかけるのをやめるのだった。
*
「あら、メグルちゃんいたの」
「はい、姉貴。明日のお話でお迎えしました」
「明日、朝。現地集合ね」
「はい。わかりました」
「ふふふ、では明日。あなたの傷をつけた令嬢とけじめをつけに行きましょう」
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