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極悪令嬢に堕ちる
悪役令嬢の秘密
しおりを挟む学園の午後、穏やかな風が流れる中でセシルとハルトはガゼボで一人の令嬢を待つ。時期はもう初夏を越えて夏となろう筈なのに暑苦しい衣装を着る令嬢たちをバカにするかのように『魔女の会』所属の令嬢たちは薄着へと変わっていた。多くの者はそれを娼婦とバカにするが。彼女たちは気にせずスカートを短くした。
「お二人さん、こんにちは」
「……バーディスさん。こんにちは」
「バーディス。こんにちは」
「暑くなりましてねぇ。最近、いきなり。衣替えを了承してくれたエルヴィスに感謝ね」
「俺にとっては願ったりだけどな!!」
「ハルト、妹分からセクハラの被害報告があがってます」
「娼婦のように足を見せるんだ。気になるだろ? 振られた慰めにいいじゃないか、バーディス、お前の尻もなかなかだった。鍛えていると柔らかいな。それに、皆嬉しがってるだろ?」
「はぁ、ハルト。殺されての知りませんよ。苦笑いですからね」
「……ハルト。怖くないのかい?」
「セシル、それは彼女たちを知らないからだ。余裕ある彼女達の困り顔はいいものだ」
そう言いながらハルトは手を仰ぐ。ハルト的に吹っ切れ、昔に戻ったようだったが。彼は変わり、余裕が生まれる。エルヴィスに振られた強みを生かして、エルヴィスの妹分にちょっかいをかけている。
「そうですね。困り顔など……中々良いものです。よくわかりますよ。ハルト」
「遅かったな。ヒナト」
そんな事を話していると一人の騎士が近づく。腰の剣を外す。
「中々、離れてくれませんからね。妹は……」
「……ヒナト君」
「セシルに皆さん。こんにちは」
そして、挨拶後に席に座る。バーディスは不思議そうな表情でヒナトを見た。
「……私に近付くの禁止では?」
「私は悪い子です。ルールを破ります。それに……バーディス嬢が一番、情報をお持ちでしょう」
「ふふふ、悪い子ですね」
バーディスが笑いながら、扇子をパタパタと扇ぐ。暑く、たまらない表情で座る。
「にしても暑い。3人とも涼しい顔をしてるけど暑くないの?」
「……僕は魔法で涼しい」
「同じく俺も」
「私もですね。バーディス嬢は冷却魔法を使われないのですか?」
「……冷却魔法の使いすぎて魔力がカツカツなのよ。そういえば全員魔法使いだったわね。まぁ階位はどうでもいいわ。暑いからささっと聞きたいこと聞きなさい」
「『魔女の会』の胸の大きさ資料……あがっ!?」
バーディスが扇子をハルトに投げつけて頭に直撃させる。驚くセシルの中でヒナトは顎に手をやり質問する。
「……魔女たちのスタイル資料。あるでしょう、バーディス嬢」
「非公開よ!! ヒナト君!! あなたも気になるの!?」
「……兄上の体重」
「私は死にたくない」
「サイズぐらいは大丈夫でしょう?」
「本人に聞きなさい。セシル君は聞きたいことある?」
「……僕はそうですね。エルヴィス嬢の力を知りたいです。禁術らしく。非常に興味があり……『老人会』の一部のみしか知ることを許されていない物なんです。ご存知ではないですか?」
「セシル君、エルヴィスもそれに関してわからないと言っていたわ。本を読みその物語の中の伝承を真似たと言ってたけどその本は紛失したそうよ。鍵を開けられて」
「……それを渡した者は?」
「アントニオ商会。会長、アントニオですわ」
「……ありがとうございました。アントニオさんに聞いてみます」
セシルが会話を終わるのを様子みていた二人が手をあげる。
「……ハルトどうぞ」
「バーディス。真面目に聞くが抗争がなくなったと聞いた。実際は?」
「その通りよ。抗争はもっと大きい組織の参入で有耶無耶にされたわ。だけど、逆に……後ろ盾が生まれたわね。国で言うなら同盟かしら。組織名は秘密よ」
「それと最近のエルヴィスの動きは関係あるのか? 最近、片目の令嬢が凄く話題になっているが」
「ああ、あの子。あの子はあの子で復讐兼自身の支援者の選定しに行ったわね。別人になってねぇ。ロアと言う子ね」
「ロア・アウルムライトは名門貴族出身だ。権力にも幅が聞く……あれが後ろ盾か?」
「それは~どうでしょうね。エルヴィスは別に自由にするべきと言ってたけど……帰って来るでしょうね」
その会話に静かに聞いていたヒナトが口を挟む。
「アウルムライトの次の家長競争が激しくなったらしい。あの家は女性でも家長になれる変わった家習がある。それも……非常に強い女性が好まれると聞く。支援をするのか?」
「私はロアちゃんが『助けてお姉さま』と言えば助けに行きますが……必要ないでしょう。メグルにその妹分たちが居ますからね。ヒナト君的に不味いの?」
「もしも、家長になるのなら。シルバーライト家と対立しているため……敵を作る」
「『聖女』の支援者ね。聖なる教えを持つ教会側の勢力ね」
「ああ、それもなんですが。一人、シルバーライトの家の者が居ませんか?」
「……あれは家出したと聞いてます」
「家出した者の情報を調べて貰いました。そこには隠された子。居なかった子として隠蔽しております。体裁を保つため脱走した子はいない事になっているようです」
「ヒナト君何が言いたいの?」
「シルバーライト家がざわついてます。復讐を怖がっている。ここまで大きくなると……危険視するでしょう」
「……わかった。エルヴィスに少し言ってみるわ」
「えっ、聞いてますよ? 私は」
「「「「!?」」」」
バーディスの後ろからぴょこっとエルヴィスが顔を出す。悪戯っ子のような笑みで現れ、4人が驚く。エルヴィスの頭には草などがついており、草木を分けて来たのだと思われた。
「エルヴィス!? いつから!?」
「あ、兄上!?」
「ヒナトが見えた辺りから。隠れてここまで来ました。バーディスの後ろは死角で、薔薇園の下に前もって庭師にお願いして穴を開けていたんです。ドレスでは引っ掛かりダメですが女性向け騎士礼装なら大丈夫です。もしも誰かを殺るための穴でした。使われる事はなかったけど」
「兄上……お久しぶりです」
「ええ、ヒナトも元気でした? かわいいかわいい妹を毎日毎日一緒で楽しそうでしたね」
「兄上、嫉妬ですか?」
「むぅ。皮肉です」
「兄上こそ、私の事を忘れて覇道を進むかと思いましたよ」
「覇道の先は王様ならいいわね」
「……冗談ですよね。兄上」
「なんで本気にするのよ。今の王様に怨みはないわ。立派な王よ」
「エルヴィス。『聖女』が見てるかも知れないわよ?」
「安心して、覗き魔は皆さん妹達が一緒にいるわ。ここは安全よ。私が『処す』言わなければ」
「兄上、本当に変わりましたね。遠慮がなくなったと言いますか。非常に……強くなられた」
「ヒナトを奪うためならこうなるわ」
エルヴィスはバーディスの隣に座り、草を払う。そして驚く二人に笑みを向ける。
「二人とも、お久しぶりね」
「あ、ああ……エルヴィス嬢。お久しぶりだな。元気そうだな」
「……エルヴィスさん」
「ええ、ハルト君。セシル君。元気です」
「はぁ、エルヴィスも来たようだし。3人とも質問あるかしら?」
「兄上……よろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「体重……増えましたね」
「……」
エルヴィスはバーディスの扇子をヒナトの頭に投げつけぶつける。その行為に他3人は背筋が冷える。
「ヒナト、私は女性に対して失礼がないようにと教育してきましたよね?」
「……兄上、増えたんですね。確証持てました。それに兄上です」
「屁理屈を」
「でっ、どれだけ増えたんです?」
「……ヒナト」
「兄上のその冷たい目。ゾクゾクします」
「……はぁ。もう」
エルヴィスはため息を吐きながらも談笑を始める。質問は色々とあったが……エルヴィスは快く答えて行った。
*
「ねぇ、エルヴィス。こっそり、わたしだけに教えて」
「何ですか?」
「体重」
「……では……」
「えっ……どこにそんな重さが? わたしより二桁も重いなんて……」
「わかんない。秘密よ」
なお、数日後には『魔女の会』では一般常識となる。
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