33 / 54
謁見
しおりを挟む楽しい時間はすぐに去る。レイチェルは城に戻り一夜明けた早朝。王の間に人生は幸せだったと覚悟を決めて案内される。
他の使用人たちも謁見の場で見ることを許され。ラファエル以下数人の騎士。ウリエル、ガブリエル、ミカエル等の息子たちに多くの番隊長が謁見の場に詰め寄せていた。
そう……レイチェル姫を一目見ようと言う理由とミェースチのどうするかを見たいがために集まったのだ。見世物……そう。見世物だった。
レイチェルは思う。惨たらしく殺されると……だけど最後に一矢報いようと唇を噛んだ。
「こんにちは……遠路遙々ようこそ。帝国へ」
血のように紅一色のドレスと髪にレイチェル姫はこの人がミェースチだとわかる。切れ長の美しい瞳に睫毛。綺麗なスタイルはレイチェル自身の母上を思い出させた。赤い薔薇のように棘を持つ女性に妖しい美しさがレイチェルに言葉を失わせた。
「レイチェル姫……名を」
レイチェル姫の隣に居るラファエルがボソッと言う。我に返ったレイチェルは胸を張った。
「私の名前はレイチェル・グローライト。シャルティア・グローライトの娘です」
「……ミェースチ・バルバロッサ」
ミェースチがゆっくり近付いてくる。その表情は何も感情が浮かんでいなかった。
「ミェースチ……ミェースチ!!」
ラファエルは隣の姫の豹変に……大きく溜め息を吐く。王国での洗脳教育だろうなと思ったのだ。ラファエルは様子を伺う。
「いい顔ね……動いていいわよ。レイチェル姫」
レイチェル姫が立ち上がり。手慣れた行為でスカートの中からナイフを取り出し。鞘を取り投げ捨てる。
「あなたがお母様から笑顔を奪った!! この日をどれだけ待ったか!!」
ガシッ!!
「レイチェル姫……お戯れはお止めください」
「なっ!! 離して!!」
ラファエルはレイチェル姫を後ろから抱き締めて押さえる。暴れるレイチェル姫に優しく声をかけ続けるが全く聞いてくれず、レイチェル姫の蛮行に当たりがざわつく。ただ……王国側は落ち着いていたが。それをウリエルたちは見逃さない。
「ラファエル!! 離しなさい!!」
「母上!?」
「周りも動くな!! 私は動いていいと言っていない!! 口も開くな!!」
ミェースチの声が謁見の間に響き、腰を浮かせていた騎士が全員座る。ラファエルもレイチェル姫を離し、ミェースチはレイチェル姫に近付く。
「憎い? 私が?」
「憎い!! 母上は!! いつだってあなたに怯えてた!!」
「……そう。なら。そのナイフで刺せばいい。逃げないわ」
「うぐ!?」
レイチェル姫はミェースチの恐ろしい胆力に驚き、腰が引けてしまう。人を殺めた事のない少女の手は震える。レイチェル姫は動けず、気付けばナイフの先がミェースチの腹の辺りに当てられていた。
「さぁ……避けれない。ズブッとする。初めての人を殺める感覚ね」
「ひっ!?」
ラファエルはレイチェル姫を庇おうかと悩みだす。レイチェル姫の覚悟はミェースチの恐ろしい気や行動に圧されて萎縮し動けなくなっていた。周りの騎士も唾を飲み込んで動向を見守る。
「あっ!?」
レイチェル姫はナイフを下げようとする。レイチェル姫の心が嫌がった。しかし……下げようとした瞬間。ミェースチが両手でナイフを持つ手を掴み。固定する。
「あなた……人を刺したことないのね。こういうことよ」
「い、い!?」
ズブッ!!
ミェースチは笑みを浮かべて、レイチェル姫の手ごとナイフを突き入れた。自分の体に……お腹の横辺りにズブズブと押し込む。血がナイフから滴り、レイチェル姫の手を汚し、ミェースチの手を汚す。
「あっ……」
「ふふ。おめでとう」
すとっ
レイチェル姫はその場にへたりこみ。ナイフの刺さったままのミェースチはラファエルを見る。ラファエルはそのアイコンタクトに頷き、ミェースチの近くに行く。
「ラファエル、抜くの手伝って」
「わかってます」
ラファエルはハンカチを手にしてナイフの拭く。吹いたあとに掴み。ミェースチを見る。
「抜きます」
「ええ、優しくね………ん!? ぐっ!!」
ナイフを抜く。少し痛がったミェースチは抜かれた瞬間、魔法で傷口を塞ぐ。ラファエルはナイフの血を拭き取り。刃を持って柄を母に向ける。
ミェースチはそれを受け取り。放心しているレイチェル姫の前でしゃがんだ。鞘をラファエルから受け取り納めてナイフをレイチェル姫の前に置く。
「いいナイフね。あなたの物よ、お返しする。でも殺す場合はもっと長い刃渡りのを持ってくることよ……こんなんじゃ死なないわ」
「………殺さないの?」
「あなたを殺してどうするの? あなたの事は嫌いじゃないわ。子は子……関係ないのよ。だから……殺してあげられない。ごめんね」
ミェースチはそのまま、謁見の間を去る。ラファエルたちに後を任せたと言い残して。
*
レイチェルは……生かされた事がわかった。あの憎い人が見せた笑顔に己の浅はかさを知る。
血濡れた手で顔を覆い、大きく泣き出すレイチェル姫にラファエルは周りの者に静かに退室しろと睨みを効かせる。
周りも黙って謁見の間を去る中で、みんながエエもの見たと言う表情で去っていく。
劇場の一場面のようなのに大きく喜びながら仕事へ戻っていった。ウリエルたちも同じようにラファエルに任せようといい。そのまま部屋を後にする。
「レイチェル姫……お部屋でお泣きください」
「うぐ……ぐぅ……ぐす」
ラファエルはレイチェルが立てるまで。そばに居てあげ。周りを警戒し続けるのだった。
*
「…………」
レイチェルは部屋に戻ってきた。ラファエルは仕事に戻るといい離れる。一人残ったレイチェルは椅子に座り。静かにしていた。
「……」
多くを悩み抜き。最後に散ろうとした結果。何もなく……泣きも落ち着きレイチェルは一つ溜め息を吐く。
「……なんでここまで来たんだろ」
元は父上からの案だった。初めての頼み事と自身の母への復讐だった。しかし……レイチェルは殺せないと思ったのだ。死なない、ミェースチは手加減してても殺せないとわかり。無駄死に恐怖したのだ。
しかし、それも目の前の惨劇に塗りつぶされる。ナイフで刺し込んだ感触もある。感触もあり、暖かい液体が触れたのに……
「同じ生き物じゃない!!」
レイチェルは体を抱き締めてそう結論づける。考えられない行為をし、さも何もなかったようにする仕草に同じ人とは思えなかったのだ。
レイチェルは何を恨んでいたんだと問答する。しかし、答えはそういう者だった。
悪役だった者は正義に潰される。だが……正義より強い悪役だったら……それは正義なのではないかとレイチェルは思う。
力が全てだと……理解し。少女は現実を知った。
「はは……そうです。そうです。そうです。私は……私は……何も出来ないんです」
少女は絶望を知る。
トントントン、カチャカチャ。ガチャ!!
「!?」
レイチェルは鍵を閉めていた扉が開けられ王国の使用人がゾロゾロと現れる。その異様な光景にレイチェルは立ち上がる。
「姫、ご無事でしたか?」
「え、ええ。その……ええ……」
騎士の一人が剣を抜き、扉に再度鍵を閉められる。
「えっ……どういうこと?」
「お嬢様。申し訳ありません。王国の礎になってください」
「礎に?」
何がどうなのかわからないレイチェル。しかし、身の危険はわかり窓に寄る。
「ええ……死んでもらいます」
「……わかった。でも人の手は借りません。この窓から飛び降ります」
「わかっていただけたでしょうか?」
レイチェルは窓を開け冷たい空気を感じながら、舌を出す。
「………ばーか。死ぬわけないわ」
ヒョイ
レイチェルは窓から飛び降りる。そして、水のクッシュンが地上に生まれたのを見たのちに叫ぶ。
「ラファエル様!! お願いします!!」
「わかってますよ」
ドボン!! バシュン!!
水のクッシュンはレイチェルを受け止め、割れ路地裏の側溝に流れていく。濡れたレイチェル姫は悪態をつく。
「さ、さむい!! なんで……昨日みたいに……」
「応急措置です。冬ですから寒いのは当たり前ですが……少し我慢してください」
ラファエルはマントでレイチェルを包み。姫様のように抱っこして走る。まだ子供っぽい体は軽々と持ち上げられた。ラファエルは上を見ると王国騎士と目が合い。ニヤリとする。出し抜けたことに喜び……そして………
「お前らの姫は貰った。捨てるならいただこう」
「ラファエル様……」
「いきましょう。あとは………兄と弟に……そうですね。母上にお任せします」
そう言いラファエルはその場を去る。帝国中を探せるとは思えないため。逃げ切れると考える。
「魔法使いが入ればの話ですがね」
ラファエルは帝国内で消えるのだった。
*
ウリエルはボロスと一緒に騒ぎに駆け付ける。
「騒ぎがあったけど。どうされました?」
「そ、それが!! ラファエル王子にレイチェル姫が浚われました!!」
廊下の真ん中で王国騎士が数人、使用人も含めて言い訳を言い出す中でウリエルはボロスに合図する。
「ボロス。素手かい?」
「ええ、素手。ウリエル。剣なんて捨てなさい」
「嫌ですね」
「えっ!? ま、まて!!」
騎士一人の頭をボロスが掴み。握りつぶし、ミカンのように搾られる。それに反応し王国の使用人や騎士が得物を持ち出した。
「ガブリエル……ミカエルは退路を絶ってます。聞きますが……この搾られた人のようになりたくなければ。投降お願いします」
「………」
廊下の窓から騎士達が飛び降りる。そして、魔法のようなもので着地をし逃げられた。それも全員に……ウリエル達はわざと逃がす。
「ウリエル……甘い」
「……相手が本物だったようですね。帝国の暗殺隊と王国の暗殺隊との2回目の勝負です」
「ええ。じゃぁ、あと始末しましょう」
「はい。行きましょうボロス」
その日、再度。帝国民と王国からの敵との戦闘があり。そして……数人捕らえることが出来たのだった。
1
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢となって復讐をっ!
杏仁豆腐
恋愛
公爵家の娘でありながら庶民の出身だった母の子として生まれたわたくしを蔑んできた令嬢たちに復讐するお話。
不定期更新となります。色々と見苦しい文章が続きますが暖かく見守ってくれると嬉しいです。感想お待ちしております。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
悪役令嬢の逆襲
すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る!
前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。
素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!
【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。
銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。
しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。
しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
婚約破棄を宣告した王子は慌てる?~公爵令嬢マリアの思惑~
岡暁舟
恋愛
第一王子ポワソンから不意に婚約破棄を宣告されることになった公爵令嬢のマリア。でも、彼女はなにも心配していなかった。ポワソンの本当の狙いはマリアの属するランドン家を破滅させることだった。
王家に成り代わって社会を牛耳っているランドン家を潰す……でも、マリアはただでは転ばなかった。
婚約破棄?悪役令嬢の復讐は爆速で。
ハチワレ
恋愛
「リリム・フォン・アスタロト! 貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの最中、婚約者である王太子エリオットから身に覚えのない罪を突きつけられた公爵令嬢リリム。隣には「真実の愛」を語るマシュマロ系男爵令嬢シャーリーの姿。
普通の令嬢なら泣き崩れる場面――だが、リリムは違った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる