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嘘つきは泥棒(初恋)の始まり○
しおりを挟む私の生活は唐突に終わりを迎える事になる。それがわかった瞬間、私は膝から崩れ落ちそうになった。
「すまないが君がヒムちゃんだね。私たちと来て貰う。『怪人、オブリビオン』」
「え、どういう事。先輩……今、怪人って……」
下校中だった。何もない、そんな学校生活。私は目の前と彼の記憶を奪おうとした。しかし、目の前のスーツの男は全く動じない。
「能力を使ったか? 残念だが、今は君を回収するために薬を投与している。『記憶保持』のね」
「先輩、何の話をしてるんですか? ヒムも何か文句言いなよ」
「……ごめん……私……」
大嘘つきは等々、裁かれる日が来たのだ。そう、思っていた時、銃声と共に一台の車が迫る。私の目の前でスーツの男が銃弾に倒れ、彼は幅広い剣を出して凶弾を防いだ。そのまま、私の手を取り走り出す。
それに対して複数人の銃を持った男と、別の所から現れた公安の部隊が衝突する。その混乱に興じて私は彼に引っ張られて逃げる。
「え? ヒカリ……どうして?」
「怪人かどうかより、何か起きてるかわからない。わからないなら、わからないでいい。今は逃げる」
「う、うん」
「ヒム!! 走れ!!」
勢いに乗せられたまま路地を走る。彼の全速力と道端に置く小さい剣山が有効に働いて振り切り、驚くほど手慣れた行為で道端のバイクのチェーンを切り、剣鍵を出して差し込んで無理やりエンジンをかけた。そのまま二人乗りで道を進む。
「えっと……ヒーローがこんなことしていいの? 二人乗りは未成年だめだよ? サイドカーないと」
「今、それを言うのか? それよりも俺が決める」
彼のスマホと私のスマホが鳴り響く。そのまま、彼は電源を落とし、私も落とす。いきなりの逃避行になった事が不思議である。盗んだバイクで交通違反を続けながら、彼は私に問いかける。周りに車はなく、誰も道路にいない。
「ヒム、怪人だったんだな……しかも、こんなに規制がかかってるなんて。何者だよ」
「……ごめん」
「なんで黙ってた。いや、理由はわかる。なんで付き合ったんだ?」
「全部話すのに時間足りない……だけど信じて……愛してる」
「本当にズルいなぁ、姫様は……」
私は涙を出しながら彼の腰に腕を回す。彼は何も言わずそのままバイクで逃げる。当てのない逃避行に彼は何処へ行くか教えてくれない。
*
バイクの燃料が底をつき、気付けば海岸線についていた。砂浜は白く、海は赤く、日が沈むその瞬間に私たちは座る。
「恐ろしいほどうまく逃げれた……パトカーも素通りするし……ヒム、君の力だな。確信した」
「知ってたんだ私の能力」
彼は神妙な顔で頷く。
「ああ、わかってる。実は数日前から『現実改編能力』を持った者を公安が『総出で探せ』と慌ててたんだ。俺は誰か全くわからなかったけど。上層部はわかってたんだな……ヒム、そんな能力あるの?」
「私は『記憶を喰う』だけ。ただ、喰うだけなら良かったんだけどね……気付いちゃった」
私は消えた人について説明し、それに関して過去改編が行われている旨を伝える。彼は静かに聞きながら、何故か納得した表情をする。
「ヒム、俺が探し人が居ること言ったけど、実は相手は怪人なんだ。その怪人は白く長い鬣を持っていた。俺は怪人に殺られる一歩手前。君が助けてくれた。覚えてないか?」
覚えていない。そんな記憶もない。
「私はそんなことしてないけど、わかった。そういうことなんだね。用意周到で忘れて近付いた」
しかし、察する事が出来る。私が私の記憶を喰ったのだ。彼に近付くために何をしたかもわからない。
「ごめん、ちょっと電話させて」
「……」
どうすることも出来ないのか彼は苦心した表情をする。電源を入れると通知が多く、その中に多くの方々のメッセージがある。そのなかで一人に私はかけた。
「ヒメちゃん」
「ヒムちゃん!? どうしたの!? 何があったの……」
「私さ……ヒメちゃんのお兄さん食べちゃったんだ……そして、ヒメの兄さんにヒメちゃんを任されてたんだよ」
「ヒム? お兄さんなんて。何を言ってるかわからない」
「うん、わからないね。ごめん、これだけはお願い。『強く生きて、悲劇を越えて幸せになれ』。ありがとう」
私は電話を切る。通知が続き、そして察する。
「……ごめん、バレた。人がくる」
「わかった。逃げよう」
「………」
「なぁ、逃げよう」
「………えへ、本当に幸せだった。覚悟してたんだけどなぁ……やっぱ、覚悟出来てなかったね」
「おい!! ヒム!! 俺を見ろ!!」
私は彼に抱きしめられる。逃げれないように、強く強く抱きしめられ、彼に私も手を回す。
「覚悟出来た」
「ヒム!! 待て!! ヒム!!」
「ありがとう、私のヒーロー。『切り抜けろヒーロー』」
「ヒム!!」
私は目を閉じて笑みを浮かべたまま。自分自身を喰い出し、ゆっくり視界が白くなり、何も思い出せなくなる。名前を呼ぶ彼が何を言っているかもわからずそのまま眠気に誘われるままに目を閉じた。
「ああ、えっと……ありがとう」
ただ、それだけが口に出たあと。
…………
………
……
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