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終業式。元婚約者と婚約者の邂逅
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冬休みが明日から始まる。午前中はただ、集まって来年のいつ頃に始業式があるっとお知らせするためだけに学園に集まる。終業式と言っても式をするわけではなく通達が主だ。教室で通達事項を先生はお話しをし終業式を終えた。
「来年会いましょう」
先生が教室を出た瞬間、ワッと令嬢たちが喋りだす。何をするか、どうするかを話し合って遊ぶ事のお話をする。
「ワルダはどうするの休み」
「お嬢様の家で働いてます」
「彼とは?」
「おやすみを数日いただいて遊ぶ予定です」
「…………一緒にお茶会でもしませんか?」
「いいですか?」
「はい」
「トラスト様は二人っきりがいいのではないでしょうか?」
「…………そうですね。聞いてから考えます」
「わかりました。私も今から聞いてきますね」
ワルダは立ち上がって別々に帰ることになる。今日は彼がお迎えに来てくれているようで顔が明るい。非常に良好な関係を築きあげているのだろう。
私はトラストさんから朝に教室で待つように言われていたので教室で待つ。本を開き、物語りを読もうと思ったとき。教室が騒ぎ出す。誰か有力な貴族様が迎えに来たのだろう。
本から顔をあげると………ヌツェル家の貴族様だった。気にせず。本に視線を戻す。昔なら動悸が激しくなり気分も落ち込んだがそんなことはなかった。
誰かが彼の婚約者なのだろうか。何人もいる中で一人でもこのクラスにいるのだろう。
「アメリアさん。いいですか?」
「はい?」
しかし、元婚約者は彼の婚約者に声をかけず私に声をかけた。周りの令嬢の悪意に満ちた目線があるが………私は彼を初めてまじまじと顔を見たのだった。
§
黒髪を耳にかけ直し。騒ぎを気にせず落ち着いて本を読む女の子に声をかけた。
年は若い筈なのに大人の色気を持っている。他の令嬢とは違い。落ち着きと大人しさが際立ち。そして…………全く自分に対して興味を持っていないっと言わんばかりに本を読む。
少し声をかけるのが憚れたが。俺は声をかけた。
「アメリアさん。いいですか?」
「はい?」
顔をあげ、ゆっくり首を傾げる。透き通った瞳に俺は驚いた。あの………辿々しかった姿がない。
そう、まるで令嬢様だ。女性はここまで変わるものなのか…………短期間で。
「なんでしょうか?」
「トラストさんは遅くなるようです。お茶でもいかがでしょうか?」
屋敷に呼ぼうかと考えたが、やめた。危険な橋だ。相手は同格。いや黒騎士…………拉致監禁をでっち上げるかもしれない。妥協し、店に連れ去ろう。
「しかし………」
「ここに置き手紙を置きましょう。少しお話がしたいのです。それに…………置き手紙を持って駆け付けてくれるでしょうから彼は」
「はい。私の事大好きですから」
パッと明るく笑顔でそう言った彼女は綺麗だ。幼い子のように恋する乙女のようにみずみずしい。
「………」
「どうされました?」
「いえ、なんでもないですよ。では………一緒に」
「申し訳ありません。学園を離れるわけには行きません。ですから………カフェテリアに向かいませんか?」
「………いいですよ」
1と2を言えば従い。1と2と言う愚かな令嬢とは違い。物を考えてお話をする。
自分のいいなりにならない。そんな事に驚きながら彼女の提案を飲んだ。
「書き残しは私が描きますね。カフェテリアで待つと」
アメリアが立ち上がり見ていないところで嘘の手紙を裏側に置く。元々行こうと思っていた店の住所。時間は稼げるだろう。
「ありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ」
私は彼女の手を取ろうとしたが避けられ、睨まれた。
「トラスト様の手です。勝手に触らぬように」
「………申し訳ございませんでした」
俺は心の中で舌を打つ。偉そうにする女にイラッとしながらも。何故か、高貴な雰囲気を感じるのだった。
§
カフェテリア。ガラス張りの大きな窓から庭を見ることができる。今日でここも閉鎖される。次に開く時は春だ。知り合いの彼を捜し、見つけたのを尻目に。ヌツェル家の貴族をもてなす。
「どうぞ」
私は紅茶を注ぎ。彼のテーブル向かい側に座った。外は冬にバラは咲かず。茨だけが見え、殺風景だが…………考えを変えればこれもまた乙な物だと思う。小説で書かれていた四季を楽しむ事に当たる。
「殺風景ですね」
「ええ、ですが………この姿があるからこそ咲き乱れる花の美しさが際立つと思います。目を閉じてまたそれを待つのも一つの楽しみかたでしょう」
「そうですね…………」
「それでお話とは?」
「婚約破棄の件は申し訳ありませんでした。そして………虫のいい話でしょうが婚約破棄を撤回し。もう一度婚約者となっていただきたく思います。婚約破棄の理由は我が家の独断でした」(自分の独断でしたけども)
「そうだったのですね。お家の決定には逆らえません…………私も。あっ………彼は違いましたね」
トラストさんは家を突っぱねて自由でしたね。一人でお義父様に会いに行ったときに教えてくださった。だからこそいいんだと誉めてらした。
「彼とは………あの」
「ええ、トラストさんです。黒騎士でしたし」
「彼は………危ない。黒騎士である。これだけで危険な人物です。黒騎士が行っていることをご存知でしょう?」
「知ってますよ? それがなにかトラストさんと関係ありますか?」
「あるでしょう。そういう人物です」
「そうですね。ですが婚約者ですから受け止めます。ですから婚約破棄撤回の件はお断りします」
「どうしてですか………彼より素晴らしい条件を提示出来ます。それ以上に名誉も。ヌツェル家は同格以上です」
「アフトクラトルの当主は南方騎士1番隊長です。同格でしょうが向こうは騎士としての厳格な家でもあります。ヌツェル家はどうでしょうか?」
「ヌツェル家も白騎士に輩出しております。私は長男であり勉強を行い、いつか当主となります。しかし彼は次男です」
それはあなたの威光ではないでしょうと言う言葉を飲み込む。気付いてないのだろう………それはあなたの力ではない事を。
「………彼を裏切って婚約破棄してあなたの元へ行くのは変じゃないですか?」
「条件次第でしょう? 彼も貴族なら理解はしてくれます」
「トラスト様は理解はしてくれないでしょう。直接お会いになったと伺ってますが?」
「………」
彼が少し狼狽える。何故でしょうか………昔は彼の顔を見るだけで震えていた私はこんなにも余裕を持って対応できる。
「知らないと思いでしたか? 私たちは既に同棲しております。毎日顔を見る仲ですね」
「婚約者同士でですか?」
「婚約者ですが。既に妻として接するようにしてます。他に男は私にはいませんから」
きっぱりとお断りをしたい。だから待とうと思う。
「アメリアさんのお父上にご相談されてもよろしいですか?」
「どうぞ。お勝手に………父上は許しても私は許しません。婚約破棄します」
「…………ちっ」
貴族が苛立ち始める。少し怖いが私はまだ待とうと思う。
「はぁ。ここまで頑なに断ると言うことは………ヴィス家はヌツェル家に敵対することと受け取っていいでしょうか?」
「えっ……?」
「………そんな大きな事になっている事を何故わからない。恋だの愛だの関係ない」
いきなりの慟哭。いきなりの罵声。本当に怖くなる。確かに考えてみれば敵対行為と思われても仕方がない。
「えっと………」
理不尽だと私たちの家は言えないのだ。弱いから。
「気付きました? そういう事です。アフトクラトル家も巻き込みますよ?」
「…………えっと」
どうしようか。
「その………怒りを治めてくれませんか?」
「君が彼と別れ。俺と婚約してくれるならお家の取り壊しを諦めます」
彼は苛立ちから一変し笑みを溢して私に詰め寄る。
「どうします?」
そんな、大きな事私には決められない。だから………待っているのはやめる。
「トラストさんに頼ります」
「アフトクラトル家を巻き込むと」
「…………相談して助けを乞います」
「いいんですか? 愛しい彼を巻き混んで」
「自分から巻き込まれる人ですから………ですよね!! トラストさん!!」
私は他所を見る。カフェテリアのストーブの近い場所で私たちを伺っているトラストさんと目が合った。気配を消して睨み付けている彼。私は叫び彼を呼んだのだのだ。
「何処を見て………あっ」
彼もトラストさんに気がついた。トラストさまが気がつかれたのを感じ取ったのか立ち上がり私の目の前に立つ。
「お話は楽しかったかい? アメリア」
「はい、楽しかったです」
「まったく、置き手紙は君の字ではなかったし令嬢の一人を問いただせば簡単に吐いてくれましたよ」
「カフェテリアっと言ったのは!!」
「はい。トラストさんがすぐに来るの信じてました。では、帰ります。さようなら、よい冬を」
「ま、まて………いいのか無下にすればヴィス家は」
「トラストさん。ヴィス家を潰すと脅しを受けました」
「脅しですか。大丈夫ですよ安心してください。そんなことは彼一人で出来ませんよ」
「そうなんです?」
「ええ、では。帰りましょう………アメリア。先に行っといてくれ。校門で」
「校門ですね。わかりました」
私はトラストさんに後は任せてその場を後にした。
§
何となく。ヌツェル家が何かしてくるっと考えていた。例えばアメリアに直接お会いに来ることも。だから今日は休んだのだ。しっかりと彼女を連れ帰るために。
「たまたまでしたが。どうも、また会いましたね。元・婚約者」
「くぅ………そうだな会ったな」
「脅すなんていけませんね。脅して何人の婚約者を奪ってきたか知りませんがやりすぎでしょう」
彼は………あまりに有名な貴族だ。そしてあまりにも有名な………
「女たらし。人の婚約者を奪って楽しいか?」
側室を多く持とうとする女たらし。
「………君が悔しく歪む顔を見たかったのだが失敗したよ。君たち距離が近い。本来なら婚約するまで同じ屋根の下は認められない筈だ何をした?」
「何も、ただ彼女が元気になれるようにしただけだ」
俺は醜悪な笑顔を浮かべているだろう。アメリアに見せられないなっと心で思いつつ。テーブルに白い手袋を置く。
「なっ!?」
「何度も言う。婚約破棄をありがとう。俺は彼女を貰い受ける」
「お前!?」
「代理を出してもいい。日時は後日伝える」
「こんなことして認められると?」
「………さぁ? 無くなればそれでいい。古くさい方法だ。無くなって話し合いで済めばそれでいいさ。だけどな二度と嫁に近づくな。他の婚約者で満足してろ」
「くぅ………ははは。あんな奴の何処がいいんだ?」
「………お前もわかるだろう? 断れるんだぞアメリアは。お前であろうと。いや………秘密だ」
そう。断れる。愚かと言うが物事をしっかりと考えて話すことができる。すべてを肯定でご機嫌取りをする他の令嬢とは違う。まぁ、そうなるように仕向けたのだが。俺と言う後ろ盾で断れただけとも言える。
「ふん、言いなりにならない女なんぞ………」
「それがいいんだよ。昔の女にうつつを抜かすなら他を行きな。既に他人の物だ」
「ちぃ………覚悟しとけ」
「覚悟しとけはお前だ」
俺は踵を返す。父上との決闘は勝たないといけない理由がもう一つ出来てしまった。
こっそり心でやってしまったと思う。ヌツェル家と喧嘩を吹っ掛けてしまったのだから。
§
彼が校門からすぐに出てくる。早く話が終わったのだと理解し、よかったと思った。
「アメリア………寒いな中、待たせてすまない」
「いいえ………それよりどうされました? 浮かない顔ですが?」
「一時の激情で変な事をやってしまいました」
「何をですか?」
「古典的な方法で。白い手袋を贈ると言えばわかりますね?」
私は口を押さえる。
「えっと………お受けになられました?」
「いいや。即答はなかったよ。だけど………どうだろう。やるのかな……」
「トラストさん。死ぬときは一緒です」
「大丈夫、真剣ではしないよ………だけど骨は折れるね」
「………怪我をしてほしくありません」
「じゃぁ応援してほしいな。君を賭けての決闘みたいな物だから」
「えっ?」
私は彼の服を引っ張る。
「ど、どういう事ですか!?」
「あいつはしつこいから決闘で決着つけて引いてもらおうと考えたのですが………なんか今、冷静に考えますと君を巡っての決闘みたいですね」
「しょ、小説の王子さまみたいな事は抑えると言ったではないですか!! 何をしてるんですか!!」
今どきそんな事をするなんて。おかしい。
「ごめん………君を物みたいに景品にかけて決闘するなんて、いけないことなんだけど。つい」
「私はトラストさんならしっかりと断ると信じてたんですよ!!」
「あっ………そっちで怒ってる?」
「すいません。取り乱しました。私がトラストさんにいっぱい良くして貰ってるのに………我が儘で」
「ああぁもう………」
「ん?」
私の顎に手を置いて顔をあげさせられる。そして浅くトラストさんの唇が重なる。
「ん!? トラストさん!! ここ外です!!」
「わかってる。早く帰ろう………君は本当に………かわいいな。昔は死んでいた目をしていたのに………元気になって」
「トラストさん!?」
私は今日、トラストさんがおかしい事にやっと気が付いたのだった。帰ってからも一緒に寝るまで愛でてくれた程に。
「来年会いましょう」
先生が教室を出た瞬間、ワッと令嬢たちが喋りだす。何をするか、どうするかを話し合って遊ぶ事のお話をする。
「ワルダはどうするの休み」
「お嬢様の家で働いてます」
「彼とは?」
「おやすみを数日いただいて遊ぶ予定です」
「…………一緒にお茶会でもしませんか?」
「いいですか?」
「はい」
「トラスト様は二人っきりがいいのではないでしょうか?」
「…………そうですね。聞いてから考えます」
「わかりました。私も今から聞いてきますね」
ワルダは立ち上がって別々に帰ることになる。今日は彼がお迎えに来てくれているようで顔が明るい。非常に良好な関係を築きあげているのだろう。
私はトラストさんから朝に教室で待つように言われていたので教室で待つ。本を開き、物語りを読もうと思ったとき。教室が騒ぎ出す。誰か有力な貴族様が迎えに来たのだろう。
本から顔をあげると………ヌツェル家の貴族様だった。気にせず。本に視線を戻す。昔なら動悸が激しくなり気分も落ち込んだがそんなことはなかった。
誰かが彼の婚約者なのだろうか。何人もいる中で一人でもこのクラスにいるのだろう。
「アメリアさん。いいですか?」
「はい?」
しかし、元婚約者は彼の婚約者に声をかけず私に声をかけた。周りの令嬢の悪意に満ちた目線があるが………私は彼を初めてまじまじと顔を見たのだった。
§
黒髪を耳にかけ直し。騒ぎを気にせず落ち着いて本を読む女の子に声をかけた。
年は若い筈なのに大人の色気を持っている。他の令嬢とは違い。落ち着きと大人しさが際立ち。そして…………全く自分に対して興味を持っていないっと言わんばかりに本を読む。
少し声をかけるのが憚れたが。俺は声をかけた。
「アメリアさん。いいですか?」
「はい?」
顔をあげ、ゆっくり首を傾げる。透き通った瞳に俺は驚いた。あの………辿々しかった姿がない。
そう、まるで令嬢様だ。女性はここまで変わるものなのか…………短期間で。
「なんでしょうか?」
「トラストさんは遅くなるようです。お茶でもいかがでしょうか?」
屋敷に呼ぼうかと考えたが、やめた。危険な橋だ。相手は同格。いや黒騎士…………拉致監禁をでっち上げるかもしれない。妥協し、店に連れ去ろう。
「しかし………」
「ここに置き手紙を置きましょう。少しお話がしたいのです。それに…………置き手紙を持って駆け付けてくれるでしょうから彼は」
「はい。私の事大好きですから」
パッと明るく笑顔でそう言った彼女は綺麗だ。幼い子のように恋する乙女のようにみずみずしい。
「………」
「どうされました?」
「いえ、なんでもないですよ。では………一緒に」
「申し訳ありません。学園を離れるわけには行きません。ですから………カフェテリアに向かいませんか?」
「………いいですよ」
1と2を言えば従い。1と2と言う愚かな令嬢とは違い。物を考えてお話をする。
自分のいいなりにならない。そんな事に驚きながら彼女の提案を飲んだ。
「書き残しは私が描きますね。カフェテリアで待つと」
アメリアが立ち上がり見ていないところで嘘の手紙を裏側に置く。元々行こうと思っていた店の住所。時間は稼げるだろう。
「ありがとうございます」
「いいえ、こちらこそ」
私は彼女の手を取ろうとしたが避けられ、睨まれた。
「トラスト様の手です。勝手に触らぬように」
「………申し訳ございませんでした」
俺は心の中で舌を打つ。偉そうにする女にイラッとしながらも。何故か、高貴な雰囲気を感じるのだった。
§
カフェテリア。ガラス張りの大きな窓から庭を見ることができる。今日でここも閉鎖される。次に開く時は春だ。知り合いの彼を捜し、見つけたのを尻目に。ヌツェル家の貴族をもてなす。
「どうぞ」
私は紅茶を注ぎ。彼のテーブル向かい側に座った。外は冬にバラは咲かず。茨だけが見え、殺風景だが…………考えを変えればこれもまた乙な物だと思う。小説で書かれていた四季を楽しむ事に当たる。
「殺風景ですね」
「ええ、ですが………この姿があるからこそ咲き乱れる花の美しさが際立つと思います。目を閉じてまたそれを待つのも一つの楽しみかたでしょう」
「そうですね…………」
「それでお話とは?」
「婚約破棄の件は申し訳ありませんでした。そして………虫のいい話でしょうが婚約破棄を撤回し。もう一度婚約者となっていただきたく思います。婚約破棄の理由は我が家の独断でした」(自分の独断でしたけども)
「そうだったのですね。お家の決定には逆らえません…………私も。あっ………彼は違いましたね」
トラストさんは家を突っぱねて自由でしたね。一人でお義父様に会いに行ったときに教えてくださった。だからこそいいんだと誉めてらした。
「彼とは………あの」
「ええ、トラストさんです。黒騎士でしたし」
「彼は………危ない。黒騎士である。これだけで危険な人物です。黒騎士が行っていることをご存知でしょう?」
「知ってますよ? それがなにかトラストさんと関係ありますか?」
「あるでしょう。そういう人物です」
「そうですね。ですが婚約者ですから受け止めます。ですから婚約破棄撤回の件はお断りします」
「どうしてですか………彼より素晴らしい条件を提示出来ます。それ以上に名誉も。ヌツェル家は同格以上です」
「アフトクラトルの当主は南方騎士1番隊長です。同格でしょうが向こうは騎士としての厳格な家でもあります。ヌツェル家はどうでしょうか?」
「ヌツェル家も白騎士に輩出しております。私は長男であり勉強を行い、いつか当主となります。しかし彼は次男です」
それはあなたの威光ではないでしょうと言う言葉を飲み込む。気付いてないのだろう………それはあなたの力ではない事を。
「………彼を裏切って婚約破棄してあなたの元へ行くのは変じゃないですか?」
「条件次第でしょう? 彼も貴族なら理解はしてくれます」
「トラスト様は理解はしてくれないでしょう。直接お会いになったと伺ってますが?」
「………」
彼が少し狼狽える。何故でしょうか………昔は彼の顔を見るだけで震えていた私はこんなにも余裕を持って対応できる。
「知らないと思いでしたか? 私たちは既に同棲しております。毎日顔を見る仲ですね」
「婚約者同士でですか?」
「婚約者ですが。既に妻として接するようにしてます。他に男は私にはいませんから」
きっぱりとお断りをしたい。だから待とうと思う。
「アメリアさんのお父上にご相談されてもよろしいですか?」
「どうぞ。お勝手に………父上は許しても私は許しません。婚約破棄します」
「…………ちっ」
貴族が苛立ち始める。少し怖いが私はまだ待とうと思う。
「はぁ。ここまで頑なに断ると言うことは………ヴィス家はヌツェル家に敵対することと受け取っていいでしょうか?」
「えっ……?」
「………そんな大きな事になっている事を何故わからない。恋だの愛だの関係ない」
いきなりの慟哭。いきなりの罵声。本当に怖くなる。確かに考えてみれば敵対行為と思われても仕方がない。
「えっと………」
理不尽だと私たちの家は言えないのだ。弱いから。
「気付きました? そういう事です。アフトクラトル家も巻き込みますよ?」
「…………えっと」
どうしようか。
「その………怒りを治めてくれませんか?」
「君が彼と別れ。俺と婚約してくれるならお家の取り壊しを諦めます」
彼は苛立ちから一変し笑みを溢して私に詰め寄る。
「どうします?」
そんな、大きな事私には決められない。だから………待っているのはやめる。
「トラストさんに頼ります」
「アフトクラトル家を巻き込むと」
「…………相談して助けを乞います」
「いいんですか? 愛しい彼を巻き混んで」
「自分から巻き込まれる人ですから………ですよね!! トラストさん!!」
私は他所を見る。カフェテリアのストーブの近い場所で私たちを伺っているトラストさんと目が合った。気配を消して睨み付けている彼。私は叫び彼を呼んだのだのだ。
「何処を見て………あっ」
彼もトラストさんに気がついた。トラストさまが気がつかれたのを感じ取ったのか立ち上がり私の目の前に立つ。
「お話は楽しかったかい? アメリア」
「はい、楽しかったです」
「まったく、置き手紙は君の字ではなかったし令嬢の一人を問いただせば簡単に吐いてくれましたよ」
「カフェテリアっと言ったのは!!」
「はい。トラストさんがすぐに来るの信じてました。では、帰ります。さようなら、よい冬を」
「ま、まて………いいのか無下にすればヴィス家は」
「トラストさん。ヴィス家を潰すと脅しを受けました」
「脅しですか。大丈夫ですよ安心してください。そんなことは彼一人で出来ませんよ」
「そうなんです?」
「ええ、では。帰りましょう………アメリア。先に行っといてくれ。校門で」
「校門ですね。わかりました」
私はトラストさんに後は任せてその場を後にした。
§
何となく。ヌツェル家が何かしてくるっと考えていた。例えばアメリアに直接お会いに来ることも。だから今日は休んだのだ。しっかりと彼女を連れ帰るために。
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彼は………あまりに有名な貴族だ。そしてあまりにも有名な………
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「なっ!?」
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そう。断れる。愚かと言うが物事をしっかりと考えて話すことができる。すべてを肯定でご機嫌取りをする他の令嬢とは違う。まぁ、そうなるように仕向けたのだが。俺と言う後ろ盾で断れただけとも言える。
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「それがいいんだよ。昔の女にうつつを抜かすなら他を行きな。既に他人の物だ」
「ちぃ………覚悟しとけ」
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俺は踵を返す。父上との決闘は勝たないといけない理由がもう一つ出来てしまった。
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「何をですか?」
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「えっと………お受けになられました?」
「いいや。即答はなかったよ。だけど………どうだろう。やるのかな……」
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「大丈夫、真剣ではしないよ………だけど骨は折れるね」
「………怪我をしてほしくありません」
「じゃぁ応援してほしいな。君を賭けての決闘みたいな物だから」
「えっ?」
私は彼の服を引っ張る。
「ど、どういう事ですか!?」
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今どきそんな事をするなんて。おかしい。
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「私はトラストさんならしっかりと断ると信じてたんですよ!!」
「あっ………そっちで怒ってる?」
「すいません。取り乱しました。私がトラストさんにいっぱい良くして貰ってるのに………我が儘で」
「ああぁもう………」
「ん?」
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