(完結)見捨てられた令嬢は王子と出会う。[アルファ、scraiv専用]

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冬休み、二人の仲

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 冬休み初日。寒い中、上にもう一枚羽織り、ワルダと共にトラストさんのお仕事に行くのを見送る。いつもなら私と同じ時間出るので新鮮だ。

「いってらっしゃい」
「いってらっしゃいませトラスト様。シェテム様にヨロシクと言ってボコってください」
「ああ。行ってくる。ボコらないかな?」
「………残念です」

 仲が悪い訳じゃない。ただ何かしら不満があるのだろうっと思う。

「アメリア………ちょっと」
「はい」
「遅くなる、いい子で待つんだぞ」

 額の髪を掻き分けて額にキスをしてくれた。

「トラストさん………見てますよ?」
「見せつけてるんだ。じゃないと元婚約者が出てくる」
「………はい」

 私は手を振って彼の背中を見送った。格好いいと思い。恥ずかしい感情を持って屋敷の中へと戻る。最近健康状態も良く薬に頼らずとも眠れるようになった。

 ただし、彼の胸の中だけの話だが。

「愛されてますね。お嬢様」
「う、うん。ちょっと人前ではダメだよね」
「お嬢様、もっと強く言ってください。増長してます」
「うん………でもあれは。甘えかなって」
「そんなのだからトラストさまが変なんですよ?」
「……ですね」

 最近特に触れることが多い。まるでそこに居るのを確かめるように。

「ワルダ。彼のところへ行かないのですか?」
「今日、迎えに来てくれるんですよ」
「迎えに?」
「はい」
「ご挨拶しなくちゃいけませんね」
「いいえ、会わせられません」
「どうしてですか?」
「…………捕られたくなので。お仕事してきますね」
「は、はい…………ワルダ~」
「…………」
「ワルダさ~ん。捕られたくないですって………言いました~」


 私は珍しく、しおらしい使用人につきまとうのだった。そして………ワルダの婚約者とご挨拶をし、いい人だと言うことがわかって安心したのだった。



§


 俺は訓練所で何故か新人教育を任されている。10人1班として5班50名だ。50名を急募する理由は、まぁ駐屯中の騎士が魔物との戦いで負けたのだ。50名ほど情けない。

 その訓練で俺より1つか2つ下なだけの新米騎士1班10人を徹底的に地を伏せる仕事をしている。

「と、トラスト教官。も、もう腕が上がりません」
「喋る元気があるな。素振りは継続だ」
「う………」

 俺は何故かベテラン騎士に混じって1つの班を任されている。定時で帰れるし早めに切り上げられもする。ただ訓練させていればいいから楽である。

「はぁはぁ………」

 今のところ毎日筋トレだけをさせていた。何人かは立てないが意識はある。気絶すれば医務室へ向かわせる予定だが、悲しいかな苦しまずに楽になれると言うのに皆。意識がある。

「と、トラスト教官………もうむ、むり」
「騎士団をやめるなら好きにすればいい」
「ぐぅ………」
「お、おい………トラスト。厳しすぎやしないか?」
「ああ、シェテムさん」

 ツンツンの髪で歳上の友人シャテム・イクリーム。南方にある小さな村のイクリーム家と言う領主貴族の出身だ。ワルダの婚約者であり。色々あって一番の仲となった騎士。ベテラン騎士の一人で班を任されている。

「お前のとこ。ゲロ吐いたりかわいそうになるんだが」
「仕方ないでしょう。弱いのですから」
「黒騎士は厳しいと聞いてたが………」
「黒騎士にも2つありまして。入ってから既に強い方とそうでない方がいます。私は後者でしたから………ゲロ吐いたり。涙流したり。血を飲んだりしてました」
「お、おう」
「まぁまだ優しいですよ。ねぇ?君たち」
「…………はい!! 優しいです!!」
「ええ!! 優しいです!!」
「よろしい」
「言わされてるじゃないか!?」
「まぁ………口答えするなら元気だからな」
「恐ろしいな、お前………まぁいい。1番隊長がお呼びだ」

 父上が呼ぶ理由。明日の事だろう。

「ん、そうですか。訓練終了。今日は解散だ」
「は、はい………」
「おっ優しいな。まだ午前だぞ」
「倒れて訓練できないよりマシですから」
「おお、こわっ」
「先輩、明日一緒にどうですか?」
「はは、断る」
「ワルダさんに報告します」
「やめろ……やめろよ。今から迎えに行くんだからな俺。午後から休む」
「明日、一緒に訓練しましょう」
「くっ………わかったよ。明日………決闘じゃないのか?」
「ウォーミングアップは必要です」
「…………化け物め」

 自分はその言葉を無視して隊長室に向かった。

§


 私は暇である。今日はワルダは昼から来た人についていった。ワルダ以外に使用人兼育ての親の人がいるが仕事で忙しい。私は寝室で天井を見ながら話を思い出す。

 ワルダは今日。トラストさん曰くプロポーズらしい。婚約者では? と言うがやはり。形式なものよりも口で言った方がいいとの事。何かを渡すとも。

「トラストさん。何してるんでしょうか?」

 小説をテーブルに置き、想いを馳せながら私は新しくなったベットを見つめる。ベットが大きくなり寝室も使っていなかった大きい部屋に割り振られた。理由は………トラストさんと添い寝をしなくてはいけないからだ。

 婚約者として添い寝をお願いされ。私はそれに喜んで頷いた。彼が近いと私は過去を薬に頼らずとも眠れるので彼が気を気を効かせてくれたと思う。

「いつか………抱かれる日も来るのでしょうか?」

 不思議それは近いようなとそんな気がする。

 ん?

 私はベットの上にネタ帳が置かれているのに気が付いた。誰とは言わない。トラストさんのだ。綺麗な皮の背表紙。メモ帳は2冊ある。

「…………」

 少し逡巡したのちにそれを覗いた。一冊は予定表。もう一冊はネタ帳だ。

「………読んでもいいですね」

 ネタ帳は書きもしない小説。プロットが書かれていた。

「えっと………病気で苦しむ姫様。病気によって婚約者はおらず親にも見捨てられる」

 既視感。私は頭を抱えた。

「えっと………」

 続きはない。他には私の可愛かった仕草などがかかれている。出来事や真実は小説より不思議な事が多いとも書かれている。

 ネタ帳は前半は色んな事が書かれていた。しかし………後半からは…………

「…………膝枕の感触」

 私との触れ方で感じた事を事細かに記していた。まるで小説にその人物を書こうとネタ帳にペンを走らせている。

 わかったことは…………しっかり見てくださっている事。

「…………ああ、うん」

 少し照れくさい。ん?………最後のページに何かは狭間ってる?

「………これは」

 紙のカード。そこにはアメリア・アフトクラトル宛と書かれ………裏には。出会えた奇跡に感謝を、愛しい愛しいアメリア様。結婚してくださいっと書かれていた。

 簡単なカードのラブレターだった。長文ではなく単刀直入に想いを乗せた。愚直なまで真っ直ぐな物。顔が火を吹きそうになり。枕に顔を沈める。

「あわわ………」

 落ち着くまで枕に顔を沈め。そして………顔を上げる。

「どうしよう………これ………読んじゃった」

 アフトクラトルと書かれているのでいつ渡すのかは多分来年以降の筈。気付けば勝手に読んでしまった事による罪悪感で一杯になる。しかし………

「出会えた奇跡に感謝を、愛しい愛しいアメリア様…………ふふ」

 すごく、何度も何度も読んでは悶えてしまう。バレなければきっと大丈夫。

「隠しましょう。いただける日を目を閉じて待つのも楽しいでしょうから」

 記憶の片隅にしまい。トラストさんに会いたいとまたワガママになるのだった。



§


 俺は明日の父上との決闘とこれからの南方戦略で話をした。そのために夜遅くになってしまう。もっと早く帰りたかったが………時間をかけてしまった。明日の事を思いながら屋敷の扉を潜った瞬間。

「おかえりなさい。トラスト」
「おかえりなさい。ご主人様」

 買い与えた綺麗な私服のドレスを着込み他の使用人と一緒に自分を出迎えてくれた。もう一人はアメリアの育ての親のように彼女を支えたメアリーっと言う中年の女性だ。

 この屋敷は大きくなく二人で丁度いいぐらいの大きさなので彼女を先月ごろから再雇用している。一度は母親に切られたが………俺が雇い主として俺の世話をするっと言う体のアメリア専属使用人の一人だ。姿は金髪のお姉さんみたいな人だ。

「あ、ああ。ただいま。ずっと待っていたのかい?」
「窓の外から見ていました。慌てて出てきたんです。お風呂にしますか? ご飯にしますか?」
「お風呂に入りたい。汗をかいてるからね」
「準備を致しますね。トラスト」

 ワルダとは違う雰囲気の使用人を連れて用意しに行こうとする。慌てて俺は彼女の手を掴んだ。

「どうされました?」
「すぐに湯ははれないだろう? 話し相手でも………」
「………トラストさん。寂しいのですか?」

 自分よりも年下の女の子が優しく囁く。大人になっていき、その姿に胸がざわついた。

「寂しいさ………」
「あらあら………お坊っちゃま。お姫様を独り占めですか?」
「一日一緒だったじゃないかい?」
「ええ、暇で暇でっと言うことで一緒に家事をしておりました。助かりますねぇ~」
「メアリーさん。これも妻の務めですから………まだですけど。花嫁修行でトラストさんを支えたいです」
「………メアリーさん。いいですかお借りして?」
「ふふふ、お若い二人でどうぞ………ふふ。お部屋でお待ちになってください。お呼びします」

 メアリーが優しく俺たちから離れる。彼女は気を効かせていつも二人っきりになれるように計ってくれる。忙しそうに演技をして。

「では、少しのお時間お話ししましょう」
「ええ」

 彼女の笑みが甘えが自分の唯一安らぐ時間なのは言うまでもない。彼女の手に取り寝室へ向かう。廊下を繋ぎながら歩を進め。部屋に入った。

「今日のお洋服はこちらの篭へどうぞ」
「ああ」

 部屋には入り、彼女が自分のボタンを外し始める。何故そんなことをさせているかと言うと………男に慣れてもらうためだ。今では………そう。

「お触れしてもよろしいですか?」

 慣れて、恥ずかしがらずに見ることが出来るようになっている。軽装になり俺は頷いた。

 ピトッ

 背中から彼女が抱きつく。柔らかい女性の暖かみを背中から感じ取れるのだ。

「トラスト………さん」

 甘い吐息と一緒に自分の名前を呼ぶ。さん付けだが………自分はこれが年上への甘えからくる物だと知り問い正すことしなくなった。凝り固まっていた思想は捨て彼女の好きなように呼ばせようと思う。

「トラストさん………」
「汗で臭うでしょう? あまり………褒めれた行為じゃありませんよ?」
「いいえ、凄く大好きな男性の匂いです。優しく逞しく勇ましい騎士の男性の匂いです。背中も大きくて…………私は大好きです」

 俺は口を押さえて恥ずかしさを噛み締めて我慢する。頭のなかで振り向いて彼女を押し倒す想像が浮かび上がりそれを理性で潰す。

「………あまり。そういうことは外では言わないように」
「そういうことは外では言いません。トラストこそ………外では王子さまごっこはダメですよ?」

 きっと振り向けば可愛くダメっと言う婚約者がいるだろう。振り向けばきっと………襲ってしまう。

 俺はまだそのときではないと自制する。アメリア受け入れてくれるだろうけども俺がまだ踏ん切りがつかない。

トントン

「アメリアちゃん。お風呂沸きましたよ」
「はい、わかりました。トラスト………沸きましたよ」
「………ああ、行ってくる」

 俺は彼女を見ずにそそくさと逃げるのだった。


§



 風呂に上がり夕食後の時間。魔法のカンテラをテーブルの真ん中に置き私たちはいつものように二人で何も語らず本を読む。

 無言の空間。でもこれが私たちの空間。読むときは邪魔をしないと言う暗黙のルールだ。

 だけど………近くにいるからこそ。意識してつい声をかけてしまう。いいえ………構ってと言う。

「ふぅ………明日でいいかな続きは」
「そうですか。では…………やっとお話ができますね」
「やっと?」
「………口が滑りましたね」
「私もやっと………話しかけられます。口が滑りました」
「…………お互い様ですね」

 私は栞を挟んでテーブルに本を置く。トラストさんが腕を組んで話を始める。

「ええっと。明日の予定はなにかありますか?」
「ないです」
「よかった。明日、実の父上との決闘を行います。もちろん訓練と色々なことを賭けてね」
「お父上と?」
「ええ、色々あるんですよ」

 きっと、文句の一つでも言いたいからするんだと思う。

「だから応援してほしい」
「わかりました。ケガだけはやめてください」
「無理な相談だ。怪我したら看病してくれ………」
「………やらないと言う選択肢は?」
「ごめん。ないんだ」
「……………トラストさんは私が病気だったりして心配してくれますよね?」
「ええ、ですが深くは心配しません」
「怪我でしたら?」
「心配しますね」
「同じ気持ちです」
「………わかってます。だけど覚悟はいります。騎士なのですから」
「………はい」

 私はまだ子供なのだろう。割り切ることが出来ず顔を伏せてしまう。彼は立ち上がって私の座る前に跪き。私の太股の手を取り顔を上げて喋りだす。

「心配してくれてありがとうございます。ですが……明日は笑顔で応援してくださいね」

 真っ直ぐに笑顔を向けて手の甲にキスをする。心配事が無くなり信じる勇気が沸いてくる気がした。

「はい。わかりました」

 微笑み返しながら私は頷く。信じますと。

「綺麗ですね。アメリアお嬢様」
「………どうしたんです?」
「言葉にしたい程に、いい笑顔だったので」
「そうですか………いつもと変わらないと思うのですが?」
「愛しい愛しいアメリア様の笑顔ですから」

 私はラブレターを思い出し顔を背けた。

「照れる姿も愛らしいですね」
「…………王子さまごっこですか?」
「王子さまごっこではないです。妻になる女性を愛するただの男です」
「それが物語の主人公みたいと言ってるんですが?」
「ロマンチストと思っていてください」
「では………このあと…………キスをしてくださるんですか?」
「ええ、します」
「よかった。手の甲では物足りなかったんです」

 彼は立ち上がり。私の頭を撫でたあとに深く深く重ね合った。私は彼に身を委ねる。

「………満足しましたか?」
「はい。トラストさん………ありがとうございます」

 私たちは深く深く結び付く。私の心の病は溶け出し。新しい病に堕ちる。

「こんなに幸せな気持ちで病気になりそうです」
「自分はもう病気ですよ」

 二人でクスクスと笑い合ったのだった。
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