星屑宅配便 ~あったかいもの、お届けします~

真田奈依

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18 あつい星の「ほっとする便」

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 ミズホ号が向かったのは、灼熱の大地と赤い空が広がる惑星〈ルチア〉。
 ここは年中気温が高く、夜になっても30度を下回らない。
 住人たちは日陰に身を寄せ合い、できるだけ体力を使わず暮らしている。
「こんな星に“あったかいもの”なんて、いらないんじゃないか?」
 もふもふのAI・モフルが、首をかしげる。長毛の彼にとっては地獄のような暑さだ。
「でも、“気持ちがあったかくなるもの”って意味かもよ」
 ピリカは言って、ミズホ号の荷物室からそっと小箱を抱えて出た。

 届け先は、〈ルチア保養園〉。病気や孤児のこどもたちが集まる共同施設だった。
 ピリカたちを出迎えたのは、にこやかな管理人と、外で元気に走り回る子どもたち。
 でも──
「夜になると、みんなさびしくて泣いちゃうんです」
 と、管理人がそっと言った。
「親と離れて暮らしてる子が多いので……」
 ピリカは、預かっていた荷物を開けた。中には、古風な“影絵ランプ”と、メッセンジャー・カナタからの手紙が添えられていた。
〔だれかの手が作った光には、“ぬくもり”がある。
 暑くてもさびしい夜を、安心させてくれますように。〕

 夜になり、影絵ランプが灯された。
 ピリカも子どもたちと一緒に、部屋の壁にゆらゆら浮かぶ、うさぎや船や踊る人の影を眺めた。子どもたちは、静かに見入りながら──やがて眠りについた。




 
 その夜、ミズホ号の食卓にて
「ねえ、今日の晩ごはんはなに?」
 船に戻ったピリカがキッチンに顔をのぞかせると、ソルが答えた。
「 “ソル特製、冷やし、スープリゾット”、です。
 においは、あったかいのに、口に入れると、すーっと、冷たい!」
「おれはもうだめだ……もふもふ毛が熱をためこんで……氷風呂を要求する……」

 ちゃぶ台に並んだのは、金色に炊きあげられた冷製リゾットと、クレマ星産トマトのサラダ。
 ピリカは食べながら、さっき見た影絵の中の“ちいさな劇場”を思い出していた。

 その夜、ピリカは夢を見た。
 影絵ランプのうさぎが、彼の夢の中にもやってきて、まるで星めぐりの旅へと誘うようだった。
 赤い空をぴょんぴょん跳ねて、光のしっぽをなびかせるうさぎ。
 そのあとをピリカが追いかけると、遠くに見えたのは──
 あの子どもたちが、家族と再会して影絵を見ながら笑っている光景。
 ピリカは、夢の中でそっと胸をおさえた。
 自分にも、いつかまた、探している両親とこうして出会える日が来るのだろうかと。


 自分にも、翌朝、子供たちは満ち足りた笑顔で「また来てね!」と手を振ってくれた。
 ミズホ号が離陸したあと、モフルがつぶやく。
「ふしぎだな。暑いのに、ほっとした気分になるなんて」
「ぬくもりって、温度じゃ、ないのかも」
 ソルが静かに言った。
「……だいじなものを、またひとつ運んだ気がするよ」
 ピリカは小さくつぶやいた。



《配達完了:あんしん(暑くても、心はほっと)》
 届けてきました。だいじな想いと、ちいさなぬくもりを。
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