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2 まぬけ
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9月16日。
貸出期間の短い相互貸借の本を、返却予定日を変更しないで貸出した。
利用者から問い合わせの電話が来れば、予約本が貸出可能になっているのに「届いていない」と言う。
他館からの予約配送依頼が処理されていないことが続き、いずれも森村が当番の日時だった。
業務状況が最近特に不可解で、それにハローワークに行っているらしいと知ったこともあり、奴と話をすることにした。前はコンビニで働いていたと聞いていたが、もう少し奴のことを知る必要を感じたからだ。
「この仕事やってみてどう?」
やんわりと聞いてみた。
「こういう仕事もあるんだな、って感じですかね」
気に入っているとか、長く続けたいという言葉はなかった。やる気も、この仕事への愛着もないのだと感じた。
一年前までコンビニで働いていて、今まで市の自立支援機関から紹介された単発の仕事をやることもあったとのこと。その間に、就職に有利な資格を取るなり、パソコンスキルを上げることはしていないようだ。
話の流れで奴は、フルタイムの仕事を希望してハローワークに行っていることを自分から語った。
特別な経歴もスキルもない早生まれの48歳の男。しかもポンコツが、本人の希望する仕事に就けるとは思えない。仕事を選べる立場ではない。
たとえ就いたとしても、仕事ができなくて勤まらないだろう。その上、人をイラっとさせるキャラで、自分から人間関係を悪くして長続きしない気がする。
救いとしては、ミスを指摘しても逆ギレしないこと。この先、変わるかもしれないけれど、今のところは。
48歳の今が、少しでも条件のいい仕事に就くラストチャンスなのかもしれない。崖っぷちではないだろうけど。
仕事ができなくとも、本人にやる気があるなら、日が浅いことだし、こっちも大目に見て、根気よく育てるつもりだったが、仕事ができない、本人にやる気がないではどうしようもない。
だが、ここにいる間はやるべきことはやってもらわないと困る。私は森村が原因としか考えられないミスについて、再発しないための確認や説明をした。
うちの図書室の本に予約が入っているのに、予約確保されないことが続き不思議だった。【予約配送依頼表】がプリンターから出てくるはずだが、森村は「出なかった」と言う。だが確認をしていくうちに、エラーだと思って捨てていたことを思い出す。
エラーだと思ったにしても、エラーが続けば気になりそうなものだ。少なくとも5回はあったにもかかわらず、そういう報告は一切なかった。
「次は絶対ミスしません。がんばります」と言いながら、次も繰り返す。
「今度のミスの原因は何だったかわかりますか? 同じことが起こらないように、今後の対策を立ててください」と考えさせた。
【予約配送依頼表】のことはそれまで何度も説明し、実際に本人もそれをもとに、本を探し、バーコードを読み取って配送処理したこともあった。にもかかわらず、そうしなければならないことを「忘れていた」という。しかも忘れたのは「年のせい」だと言う。
イラっとした。そんな年でもないのに年を言い訳にするとは。そのくせ、フルタイムの仕事、ここより条件のいい仕事を希望してハローワークに行っている。任せられた簡単な仕事もできないのにだ。こんな奴を雇うところがあるとは思えない。
「頑張ります」
奴は言った。
「頑張りますって言うダメな人、何人も知ってるから、その言葉は信じられない。
間違いなく確実に業務を遂行して」
そうたった今言ったばかりなのに、10冊ほどまとめて返却されたよその本を奴は、【配送票】をろくに確かめもせずひとまとめにして、配送袋に入れて見当違いのところに送ろうとした。その直前に気づいた私は、そのことを指摘した。
注意を促した直後なのにミスをするなんて、救いようのないポンコツだ。これまでもあったが一体何なのだろう。目の前のものを見ていない感じだった。「注意散漫なのか」と聞いた。だが奴は否定した。
それから何気なくゴミ箱を見ると、【予約配送依頼表】が丸めて捨てられていた。配送処理のされていないものだった。さっきその話をしたばかりなのに、自分がその少し前にもやらかしていたことを思い出さなかったのだ。鶏は三歩あるくと忘れると揶揄されるが、鶏みたいな男だ。酉年生まれでもないのに。
腹部が大きい人ほど脳の海馬は小さいらしい。
9月19日。
その後も相変わらず業務を遂行していない。分類ラベルの色で区別しているにもかかわらず児童書の棚に一般書を配架する。森村から業務を引き継いだ葉山さんが、返却本の処理の不備に気づいてフォローしたこともある。
9月21日。
本の貸出期間は2週間になっているが、市外からの相互貸借の本は、貸出期間が短いことがある。その時は返却予定日を変更して貸出することになっていたが、森村は変更しないまま貸出していた。葉山さんが指摘すると「教えられていない」と言ったという。教えたし、マニュアルも用意していたにも関わらず。
プリンターから出てきた【予約配送依頼表】を「出ていない」と言ったり、電気がつけっぱなしなのに「消した」と言い、教えられたことを「教えられていない」と言い、噓つきなのかという気もしないでもないが、認知機能か何かに問題がある気がする。本人が注意散漫を否定しているが。
9月23日。
《大男総身に知恵が回りかね》という言葉が浮かんだ。木偶の坊、独活の大木、ぼんくらという言葉も。
まぬけの正敏、まちがってばかりの正敏、まともじゃない正敏。
研修初日にメモを取っていたが、次の日からメモを取らず、それを見返しているようではなかった。
奴が取ったメモを見れば、何が理解できていないかわかると思ったので、見せてほしいと言った。すると、汗でボロボロになったから捨てたという。何も書いていないメモ帳を見せられ、啞然とした。
それならそれで、書き直ししそうなものだが。
当然、返却予定日の変更の仕方を忘れていた。いつでも見られるようにして置いている、私が作ったわかりやすいマニュアルも、見返してない。教えたことを忘れ、メモやマニュアルを見直すことをしない。
貸出期間の短い相互貸借の本を、返却予定日を変更しないで貸出した。
利用者から問い合わせの電話が来れば、予約本が貸出可能になっているのに「届いていない」と言う。
他館からの予約配送依頼が処理されていないことが続き、いずれも森村が当番の日時だった。
業務状況が最近特に不可解で、それにハローワークに行っているらしいと知ったこともあり、奴と話をすることにした。前はコンビニで働いていたと聞いていたが、もう少し奴のことを知る必要を感じたからだ。
「この仕事やってみてどう?」
やんわりと聞いてみた。
「こういう仕事もあるんだな、って感じですかね」
気に入っているとか、長く続けたいという言葉はなかった。やる気も、この仕事への愛着もないのだと感じた。
一年前までコンビニで働いていて、今まで市の自立支援機関から紹介された単発の仕事をやることもあったとのこと。その間に、就職に有利な資格を取るなり、パソコンスキルを上げることはしていないようだ。
話の流れで奴は、フルタイムの仕事を希望してハローワークに行っていることを自分から語った。
特別な経歴もスキルもない早生まれの48歳の男。しかもポンコツが、本人の希望する仕事に就けるとは思えない。仕事を選べる立場ではない。
たとえ就いたとしても、仕事ができなくて勤まらないだろう。その上、人をイラっとさせるキャラで、自分から人間関係を悪くして長続きしない気がする。
救いとしては、ミスを指摘しても逆ギレしないこと。この先、変わるかもしれないけれど、今のところは。
48歳の今が、少しでも条件のいい仕事に就くラストチャンスなのかもしれない。崖っぷちではないだろうけど。
仕事ができなくとも、本人にやる気があるなら、日が浅いことだし、こっちも大目に見て、根気よく育てるつもりだったが、仕事ができない、本人にやる気がないではどうしようもない。
だが、ここにいる間はやるべきことはやってもらわないと困る。私は森村が原因としか考えられないミスについて、再発しないための確認や説明をした。
うちの図書室の本に予約が入っているのに、予約確保されないことが続き不思議だった。【予約配送依頼表】がプリンターから出てくるはずだが、森村は「出なかった」と言う。だが確認をしていくうちに、エラーだと思って捨てていたことを思い出す。
エラーだと思ったにしても、エラーが続けば気になりそうなものだ。少なくとも5回はあったにもかかわらず、そういう報告は一切なかった。
「次は絶対ミスしません。がんばります」と言いながら、次も繰り返す。
「今度のミスの原因は何だったかわかりますか? 同じことが起こらないように、今後の対策を立ててください」と考えさせた。
【予約配送依頼表】のことはそれまで何度も説明し、実際に本人もそれをもとに、本を探し、バーコードを読み取って配送処理したこともあった。にもかかわらず、そうしなければならないことを「忘れていた」という。しかも忘れたのは「年のせい」だと言う。
イラっとした。そんな年でもないのに年を言い訳にするとは。そのくせ、フルタイムの仕事、ここより条件のいい仕事を希望してハローワークに行っている。任せられた簡単な仕事もできないのにだ。こんな奴を雇うところがあるとは思えない。
「頑張ります」
奴は言った。
「頑張りますって言うダメな人、何人も知ってるから、その言葉は信じられない。
間違いなく確実に業務を遂行して」
そうたった今言ったばかりなのに、10冊ほどまとめて返却されたよその本を奴は、【配送票】をろくに確かめもせずひとまとめにして、配送袋に入れて見当違いのところに送ろうとした。その直前に気づいた私は、そのことを指摘した。
注意を促した直後なのにミスをするなんて、救いようのないポンコツだ。これまでもあったが一体何なのだろう。目の前のものを見ていない感じだった。「注意散漫なのか」と聞いた。だが奴は否定した。
それから何気なくゴミ箱を見ると、【予約配送依頼表】が丸めて捨てられていた。配送処理のされていないものだった。さっきその話をしたばかりなのに、自分がその少し前にもやらかしていたことを思い出さなかったのだ。鶏は三歩あるくと忘れると揶揄されるが、鶏みたいな男だ。酉年生まれでもないのに。
腹部が大きい人ほど脳の海馬は小さいらしい。
9月19日。
その後も相変わらず業務を遂行していない。分類ラベルの色で区別しているにもかかわらず児童書の棚に一般書を配架する。森村から業務を引き継いだ葉山さんが、返却本の処理の不備に気づいてフォローしたこともある。
9月21日。
本の貸出期間は2週間になっているが、市外からの相互貸借の本は、貸出期間が短いことがある。その時は返却予定日を変更して貸出することになっていたが、森村は変更しないまま貸出していた。葉山さんが指摘すると「教えられていない」と言ったという。教えたし、マニュアルも用意していたにも関わらず。
プリンターから出てきた【予約配送依頼表】を「出ていない」と言ったり、電気がつけっぱなしなのに「消した」と言い、教えられたことを「教えられていない」と言い、噓つきなのかという気もしないでもないが、認知機能か何かに問題がある気がする。本人が注意散漫を否定しているが。
9月23日。
《大男総身に知恵が回りかね》という言葉が浮かんだ。木偶の坊、独活の大木、ぼんくらという言葉も。
まぬけの正敏、まちがってばかりの正敏、まともじゃない正敏。
研修初日にメモを取っていたが、次の日からメモを取らず、それを見返しているようではなかった。
奴が取ったメモを見れば、何が理解できていないかわかると思ったので、見せてほしいと言った。すると、汗でボロボロになったから捨てたという。何も書いていないメモ帳を見せられ、啞然とした。
それならそれで、書き直ししそうなものだが。
当然、返却予定日の変更の仕方を忘れていた。いつでも見られるようにして置いている、私が作ったわかりやすいマニュアルも、見返してない。教えたことを忘れ、メモやマニュアルを見直すことをしない。
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