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彼の友達
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その人はその日の夕暮れ時にやってきた。
二人とも日曜は出かける気にならず、花蓮はせっせとバイトの書類整理を家の片付けと洗濯の片手間に、俊幸は書斎で仕事をしている時、家の中に電話の呼び出し音が鳴り響いた。
玄関の横にあった電話を花蓮は出たほうがいいのかなと見ていると。書斎の方から俊幸が花蓮に頼んできた。
「花蓮、悪いけど出てくれるかい、今ちょっと手が離せない。」
「はーい」
少し緊張気味にドキドキしながら受話器を取ると、もしもしと答える。
「受付ですが、伊集院様がお見えです。」
「はい、少々お待ちください。」
花蓮は電話を一旦保留にすると書斎に駆け込み、彼に来客を告げる。
「俊幸さん、伊集院さんと仰る方がいらしてるのですが。」
「何、あいつ連絡もせずに。下に来てるのかい?」
「はい、どうしましょう。」
「わかった、上げていいよ。」
「了解です。」
急いで電話に戻り受付に通してもらうように告げた。
「花蓮、リビングで待ってて貰って。」
間も無く玄関のピンポンが鳴る。彼の友人に初めて会うことに緊張しながらドアを開けると、俊幸と年齢が同じぐらいの男性がラフなジーンズ姿で立っていた。
対応に出た花蓮にびっくりして、動揺を隠せず玄関を見回してここでいいのかと確かめている。
「え、あれ?橘の家、だよな」
「え?はい、そうです。どうぞ上がってください。初めまして、私、白河花蓮と申します。」
「あ、はい、お邪魔します。僕は橘の友人で伊集院隼人と言います。よろしく。」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。」と、花蓮は丁寧に頭を下げる。
伊集院は黒髪の甘い顔立ちをした、俊幸と同じぐらいの長身の男性だった。
「えーと、橘は今日は留守ですか?」
「おい、ここにいる。」
と言って彼が書斎から出て来る。伊集院は彼の顔を見てどこかちょっとホッとした顔をしながら、
「なんだ、いたのか。ってお前この部屋どうしたんだ!」
「片付けたに決まっているだろう。僕じゃなくて花蓮が、だけど。」
というと伊集院は更に驚いた顔をして、
「お前、そうか、彼女なんだな。見つけたんだ。」
「そうだ、彼女だ。俺の大切な人なんだから、それ相応の対応をしろよ。」
「わかったよ。どうりで明梨が様子を見てこいというはずだ。」
「何?今日来たのはそういう訳か。なるほど。」納得したような顔に花蓮が不思議そうな顔をすると、慌ててばつが悪そうに、
「花蓮、ごめん。紹介する。こいつは僕の幼馴染で、伊集院隼人。隼人、こちらは僕の恋人の白河花蓮さんだ。」
と正式に紹介する。
その言葉に花蓮がびっくりして固まった様子を見ると、
「どうしたんだ、花蓮?」と心配そうに訪ねてきた。花蓮は内心ドキドキだったが、慌てて「なんでもないです。」と笑って誤魔化す。
「先ほど自己紹介して頂いたので・・・・」
伊集院は信じられない、という顔をして、
「花蓮ちゃん、もしかしてこいつ、何も言ってないの?」と鋭く突っ込んできた。
花蓮がまた笑って誤魔化すと、
「あちゃー、ごめんね、気にしなくていいから後でこいつとよく話し合って。こいつそんな風に見えないけど多分すごい浮かれてるんだよ。色々大変かも知れないけどいい奴だからどうか見捨てないでやって。」と花蓮に言った。
「なんの話をしているんだ、お前は?」
「うるさい、このバカ。お前に言われた通りにフォローしてやってんだろうが。」
俊幸は納得いかない、という顔をしていたが、伊集院の剣幕と花蓮の笑った顔を見て形勢の悪さを察し、
「まあ入れ」とリビングに案内する。
花蓮がお茶を入れて戻ると伊集院は部屋の様子を見て驚きを隠せないという感じだ。
「ちょっと来ない間に、綺麗に片付いたな。花蓮ちゃん大変だったろう?一人暮らしとはいえ足の踏み場もなっかたもんな。明梨がよく嘆いてたからな、絶対お嫁さんに逃げられるって。ああ明梨は俺の恋人でこいつの妹だから心配しないで。」
花蓮が明らかにホッとしたのを見て笑いながら説明してくれた。
「婚約者だろ、いい加減腹くくれ。」
俊幸は伊集院に警告すると、花蓮に詳しく説明してくれた。
「明梨は一人暮らしの僕を心配して時々掃除に来てくれていたんだ。僕がそれをこないだもう来なくていいと言ったから心配してこいつを寄越したんだろう。ちなみに僕の兄は誠司と言ってもう結婚している。奥さんは幼馴染の夏美さんと言って鎌倉で暮らしている。明梨もこいつと結婚予定だ。」
「まだ正式にプロポーズしてないんだけど。」
「将来一緒になること想定してわざわざ商社に入って貿易と経営、学んでるくせに、何を今更ジタバタしてんだ。」
「っ心の準備ってもんがあるんだよ。あの誠司さんを支えるんだぞ。明梨には安心して研究室に戻って欲しいしな。」
「まあ、頑張れ。契約とか国際取引の時は面倒見てやるから。」
「頼りにしてるぜ。」
と言って二人で橘家の事情を少し話してくれた。
橘家では製薬会社を経営していてご両親はまだまだ健在だけどお兄さんの誠司さんが将来的に継ぐこと、妹さんの明梨さんも元は研究室にいたが今は経営も学んでいること。俊幸さんはそんな二人を別の方向から支えるために弁護士になり、伊集院さんは今商社勤務で結婚を機に明梨さんを支える為経営に参加する予定だそうだ。
兄妹揃って昔から決まった恋人がいるのに、俊幸はこの歳になっても一向にその気がないようなので家族で心配していたそうだ。
「いつでもお嫁さんに来てもらえるよう、こんな大きな家まで用意したのに一向にそんな気配はないし、変な女には付き纏われるしでこれでも心配してたんだぞ。よかったなあ、こんな可愛い人が見つかって。」
伊集院はニコニコと事情を話してくれたが、花蓮は違うところで引っ掛かりを覚えた。
「俊幸さん、変な女って?」
「ああ、花蓮には怖がらせたくなくてまだ話してなかったが、昔何人かに後をつけられたり、勝手に恋人を騙られて家に入られてとかあって。花蓮も可愛いから気をつけるんだ、いいね。」
花蓮はこの間二人でカフェでお茶をした時の事を思い出し、然もありなんと納得していた。花蓮が横にいてあの反応だったのだ、一人で出掛けたら確かにさぞかし面倒な事になったのだろう。
彼がやたらとセキュリティを気にするのも、花蓮の身を心配するのもそんな事があったのなら当然だったのだ。花蓮はふと思いついて、
「伊集院さん、もしかしてですけど、だから俊幸さんの留守を気にしたんですか?」
伊集院はバツが悪そうに「実は、そうなんだ。」と白状した。
「前例があったからね。こいつ花蓮ちゃんの事、秘密にしてたし、前に来てから一ヶ月も経ってないのに訪ねたら知らない女性が居るしで、まあ花蓮ちゃんは一目見てそんな気配がなかったからお手伝いさんかもとも思ったけどね。」
花蓮は、なるほどさっきのホッとした顔にはそういう意味があったのか、と納得した。
「だけどお前、それならなんで花蓮ちゃんの事、明梨に言わなかったんだ?おかげで心配したんだぞ。」
花蓮もその答えは是非とも聞きたいと聞き耳を立てた。
「ああ、明梨に掃除に来なくていいと言った時か?あの時はまだ出会ったばかりだったからな。」
「って、確か明梨に電話して来て2週間経ってないよな?」
「そうだな、確か先々週の火曜日だった、花蓮と初めてランチを食べたのは。」
「何! お前それで恋人って・・・・幾ら何でも手が早過ぎるだろ・・・・。 花蓮ちゃん、嫌だったらはっきりきっぱり断っていいんだよ。」
「何を言う、すべて合意だ。」
「お前に聞いてない!俺は花蓮ちゃんを心配してるんだ。お前は決めたら強引に事を進めるとこがあるからなぁ。それも計画的だからタチが悪い。花蓮ちゃん、いつでも相談に乗るからね。これから長い付き合いになるかもしれないし、はいこれ僕の名刺。」
「お前、もう帰れ。何がフォローだ。それに花蓮は嫌なら自分でいう。なかなか流されてくれない。そんなところも可愛くてしょうがないんだけど。」
「何? そうなのか?お前の口車に乗せられないなんて、凄いな。」
「そうだろう、可愛いのに見かけによらず頑固なんだ。」
「俊幸さん、本人目の前にいますからね。言動には気をつけましょう。」
「あははは、花蓮ちゃん凄いや。これなら心配なさそうだな。」
「何も心配いらない、僕は明日から出張で忙しい。帰れ。」
「俊幸さん、ダメですよ、大事なお友達にそんな態度をとっては。」
「花蓮ちゃん、優しいね。ありがとう。お前いつまで出張なの?忙しいなら僕が花蓮ちゃん送って行こうか?」
「ありがとうございます。でも大丈夫です。」
「花蓮は昨日からここに住んでるんだ。」
「はあ!? 2週間も経ってないのに同棲か?」
「誤解ですよ。俊幸さんが出張の間留守を預かるんです。書類整理のバイトをしているので。」
「バイト? 俊幸、お前一体何を花蓮ちゃんにさせているんだ?」
「うるさい、俺たち二人のことは二人で決める。それに花蓮、住居のことはまた今度機会を見てじっくり話し合おう。」
花蓮は、まさか本気なの、と思いながらもここは穏便に済まそうと取り敢えず了承した。伊集院も二人の様子に何かを悟ったように納得してお茶の礼を花蓮に伝えて帰っていった。
伊集院が帰った後、お茶の後片付けをした花蓮はそのまま夕食の支度を始めた。
明日朝早くに家を出ることになっている俊幸の為に夕食を早めに用意しようと思ったのだ。
俊幸は伊集院に忙しいと言った通りまた書斎にこもって仕事中だ。そして夕食の支度ができた花蓮が彼を呼ぶと嬉しそうに、お腹が空いたと言いながら書斎から出てきて一緒にご飯を食べる。ご飯を食べ終わっていつものようにまったりお茶を飲みながらテレビを見ていると、彼が、
「花蓮、仕事もひと段落したし、まだ早い時間だから腹ごなしにひと泳ぎしに行かないか?」
と誘ってきた。花蓮は、目を輝かせて行きたいと思ったが、そう言えば水着を買っていなかったことを思い出した。
「とても魅力的な提案だとは思いますが、実はまだ水着を買っていなくて・・・」
「この時間なら誰もいないから、何を着て泳いでも大丈夫だよ。Tシャツとか短いズボンとか、なんなら夏服のワンピースとかでもいいんじゃないか?」
確かにもう5月になるので夏服も多少は持って着ているが服は濡れると体に巻きついて泳ぎ難くなる。
(あ、でもキャミのワンピース型なら軽いし大丈夫かな。)
花蓮は少し考え頷いて彼と一緒に泳ぎに行くことにした。
そして着替えが簡単な彼に先に行ってもらい、ブラジャーは外してキャミのワンピースとショーツだけを着てタオルを持ってプールに降りた。
髪をアップにするのに多少時間がかかった為、花蓮がプールサイドに着いたとき彼は既に水の中でゆっくり泳いでいた。花蓮が降りて来たのに気付き、
「足が攣るといけないから、柔軟してからおいで」と注意し、花蓮が柔軟体操を終えて、水の暖かさを確かめてから飛び込んで、彼の近くまで泳いで行くと、ゆったり笑って「泳ぐのが好き?」と聞いてきた。
「大好きです、久しぶりだから嬉しいですよ。」
と答えて花蓮が水に潜り気ままに泳ぎだすと、彼も少しスピードをあげて力強いフォームでクロールを何往復か繰り返す。
30分ほど泳ぐと満足したらしく、花蓮に彼は上がるがそのままプールに残るかと聞く。
花蓮が十分堪能したから一緒に上がるというと、プールサイドに上がり花蓮に手を差し伸べる。
「シャワーはこっち」
花蓮が素直に手を引かれてプールサイドに上がると、ハッとしたように目を開き花蓮を見る視線に熱がこもる。
花蓮を引っ張り上げる腕は力強く、引き締まった胸板、形のいい長い脚と花蓮は思わず視線を奪われ、気がつくと彼の胸にすっぽり収まっていた。
彼は寒くないかと花蓮に尋ね、手を引いてプールサイドのシャワーまで連れて行き、すぐに温かいシャワーの下に花蓮の体を移動させる。そして隣のシャワーを使わずにそのまま花蓮の体を抱き込んで一緒にシャワーを浴び始めた。
「この髪型、すごい色っぽいな。」
と言ってうなじに彼の指が触れる。ゆっくり優しく撫でられて花蓮は息を止めて彼の体に自分も触れたい衝動を抑え込もうとしたが、誘惑に勝てず彼の硬い胸を花蓮の指がそうっとなぞった。
「花蓮。」
彼が名前を優しく耳元で囁くと花蓮の体に戦慄が走る。
彼に触れる指が震えうなじを熱い舌で舐められると、たまらなくなって両腕を彼の背中に回しその逞しい感触を手のひらで楽しんだ。彼の手も花蓮の背中をゆっくりなぞり、だんだん下に降りてきてお尻の感触をやわやわと楽しみ、大きな掌でぐっと掴むと同時に花蓮のうなじにくちづける。柔らかい舌の感触はくすぐったいが気持ちよく、彼の手が上がってキャミソールを脱がされても花蓮はされるがままだ。すぐにまた唇がうなじを擽り舌を押し当てられる。肌と肌が触れ合う感触は吸い付くようでたちまち二人の距離を埋めてしまい、ぴったり重なる快感に花蓮は裸の胸を彼の胸に擦り付けた。
耳元で彼の唸るような声が聞こえ突然噛み付くようなくちづけを与えられる。しばらくして顔が離れ耳の後ろに囁かれた。
「花蓮、上のシャワーに移動しよう。」
シャワーを止めて、体をタオルで拭き、巻きつけると濡れた下着の感触が冷たく、少し考えて脱いでしまう。手に絞ったキャミソールとショーツを持ち、彼に続いてそのままタオル姿でバスルームまで移動した。
彼はシャワーの温度を調節すると裸になり、花蓮の体に巻きつけたタオルを丁寧に外すとそのまま下に落とし、手を引いて一緒に暖かく降り注ぐシャワーを浴びる。花蓮は暖かく降り注ぐお湯を胸に浴びながら、背中に当たる彼の逞しい胸の感触を楽しんだ。
彼が花蓮の耳に口を寄せて囁く。
「好きだよ。花蓮。僕の愛しい人。」
びっくりした花蓮が体ごと振り向くと、彼の情熱を伴ったけれども真剣な瞳が花蓮を見つめていた。
「好きだよ、花蓮。どうか僕と付き合ってください。」
と繰り返して言うと、花蓮が予告なしの突然の告白に驚いて何も言えずにいるのを見て、顔が強張り、
「まさか、もう決まった人がいるのか? 誰なんだ、君の恋人は?」
と怒ったように息込んで花蓮の肩を掴んで聞いて来た。
「俊幸さんに決まってるじゃないですか、何を言ってるんです。」
俊幸の勢いに花蓮の硬直が溶けて、ようやく返事をすると彼の全身から緊張感が抜け、かわりに固く抱きしめられた。
「よかった、てっきり僕は・・・」
シャワーの温かいお湯が二人に降りかかる。花蓮は彼の顔を見上げて目を見つめはっきり言い切る。
「私は、俊幸さんが大好きです。他には誰もいません。」
宣言した後、首を傾げて聞いてみた。
「だけど、どうして突然今更なんですか?てっきり気持ちは通じていると思っていたのに。」
と問うと、彼は少し照れて決まり悪そうに告白した。
「実は隼人から’ちゃんと手順踏んで告白したのか’ってメッセージが来たんだ。女の人にはちゃんと言葉で伝えないと逃げられるぞって忠告されて、ましてや知り合って間もないならお互いのこと知らないことが多すぎるって脅されて、もしすでに恋人や婚約者がいたらどうすんだって。僕は恋人がいるなら奪うつもりだったんだけど、婚約者となると花蓮一人の問題じゃなくなる。そう言えば確かめてなかったって焦ってしまって。花蓮は可愛いし彼氏の一人や二人いたって不思議じゃない。早く確かめなくちゃとは思ったんだけど、だんだん聞くのが怖くなって、泳いで頭冷やそうと思ったのに花蓮は挑発的な格好だし、ほんと花蓮のことになると理性が効かなくなるんだよ」
よく聞けば恐ろしい事をさらっと言ってきた彼に、花蓮は言った。
「確かに信じてはいましたけど言葉ではっきり言ってもらって安心しました。ちなみに私は、恋人も婚約者も一人で十分です。俊幸さんが違う考えを持ってらっしゃるならここではっきりしておいて欲しいです。恋人とセフレは違うから同時進行OKとかふざけた考えなら、俊幸さんとのこと、再考させて頂きます。ところで挑発的な格好ってなんですか?」
花蓮の言葉に焦った彼は、花蓮の目を覗き込んで答えた。
「もちろん僕も、恋人も婚約者も花蓮一人だよ。誤解を招いたのなら謝るよ。ごめん。」
微妙にずれた回答に、花蓮はなんと言っていいのかわからず、
「ならいいのです。」と答える以外なかった。
「ちなみに花蓮のさっきの格好は本当に参ったよ。僕は真剣にいつ告白しようかと悩んでるのに、体の線がはっきり出てるは、透けてるはで、僕の理性を試されてるのかと思った。花蓮といるとだんだん自分のダメなところが見えてきて、時々情けなくなる。僕はもう少し理性的な人間だったはずなんだが。年上の威厳も何も形無しだ。」
花蓮の体をボディソープで洗いながら、彼はため息をついた。
「あの、俊幸さんは十分頼り甲斐があって頼もしいですよ。」
彼は今度は花蓮の髪をシャンプーで洗いながら打ち明けた。
「実は橘の家系は一目惚れが多いんだ。僕の兄妹はもちろんのこと、父も、祖父も従兄弟に至るまでパートナーは出逢って一目でわかったと言っていた。僕も君に最初にぶつかった時、何か懐かしい感じがしたんだ。二度目に君が事務所に訪れた時、彼らが言っていた意味がようやくはっきり分かった。なのに君はさっさと行ってしまおうとするんだから、僕がどれだけ焦ったか分かるかい?」
コンディショナーのいい香りに包まれながら花蓮も告げる。
「もちろん俊幸さんの事は初めて会った時から好印象でしたよ。誘ってくださった時も嬉しかったですし。」
「よかった、安心したよ。少々強引な自覚はあったんだが、君に会う度に君と離れるのが辛くなってくる。こんな事は初めてだ。それに多分僕は独占欲が強いよ。さっきも隼人でさえ牽制してしまった。」
そうだったのか、と体を拭きながら花蓮は中々重そうな俊幸の独占欲さえ嬉しく思えて、自然に笑みが浮かんだ。
「髪乾かしてあげるよ。」
彼がドレッサーに向かって座っている花蓮の後ろに立って、花蓮の持参したドライヤーを片手に持って髪を乾かし始める。髪を梳きとかす優しい長い指、Tシャツから伸びるたくましい腕、ドライヤーを片手に上機嫌で花蓮の髪を乾かす彼の姿を鏡ごしに見ると胸がキュンとしてとても幸せな気持ちになる。
ドライヤーに張り合い大きな声で彼は注意を促した。
「明日から僕は出張でいなくなるけど、出掛ける時は、あんまり遅くになってはいけないよ。それからこのマンションのセキュリティーに関する書類を出しておくから目を通しておいて。カメラの設置位置とかガードの部屋とか覚えておいていた方がいい。」
髪が乾くとドライヤーを切って、成し遂げた仕事に満足するように髪を弄びながら顔を横に持ってきて鏡ごしに花蓮を目を見ながら、
「ガードは3人交代24時間体制だけどそのうち2人はこのマンションのグランドフロアに住んでいるんだ。奥さんがコンシェルジュをしていて大家さんのような仕事もしてるから、何かあれば連絡して頼ればいいよ。コンシェルジュは朝6時から夜10時までいるから。」
と言って花蓮の肩にかかる髪を払うと、チュッと音を立ててうなじにキスをした。そして後ろから花蓮を抱きしめると囁く。
「ベッドに行こう。」
そして花蓮を立たせるとベッドサイドまで手を引いていく。
「花蓮も明日会社があるし、僕も朝早く出ていくから無理をさせたくない。だから今夜は君を抱けないけど、水曜の夜まで君に会えなくなるから、君に触らずにはいられない。」
そう言って花蓮の後頭部に手を添えると腰を抱いて引き寄せゆっくり耳を齧られる。
彼の低いテノールが囁く。
「その気になれないのなら今言って欲しい、多分一旦君に触れると、僕が満足するまで止めてあげられない。」
花蓮は返事の代わりに腰に回った彼の腕に自らの手を滑らせ、そのまま指で軽く触れながらTシャツの下の腕をたどって肩を撫でた。
彼の顔がゆっくり下がってきて花蓮も顔を上げて彼の唇を受け入れる。唇で啄ばむ口づけは、次第に深く長いものに取って代わり、やがて彼の舌が花蓮の唇を優しく舐めると花蓮は誘うように口を開く。待っていたように彼の熱い舌が花蓮の舌を求めて口内に入ってきて舌を強く絡ませる。
「ふっ、んっ、んっ」
甘い唾液が湧いてきて、舌でそれを味わいながら重ねて吸い上げる。溢れた唾液が口の端から零れ落ち、舌を絡ませた濃厚な口づけをもっともっと欲しいと何度も何度も繰り返す。
「んっ、んんっ」
熱く繰り返される口づけは、一定のリズムで二人の身体全体に波を引き起こし、花蓮はたまらず裾から両手を侵入させて彼の背中の熱く引き締まった肌を撫で上げる。
二人の腰が揺れ彼の熱いものが花蓮の下腹部を押し上げるとどちらともなく呻き声を漏らす。
彼が一旦重なった唇を離し、腰を押し付けたまま素早くTシャツと花蓮のキャミソールを脱がせ、力強い腕が花蓮の背中に回り強く抱きしめられた。花蓮のうなじや肩甲骨に舌を這わせて味わうように舐め始めると、花蓮も彼の背中に回した手を肩から腰までゆっくり撫で下しては上げる。やがて彼が腰を回しながら彼の熱く硬くなったものをゆっくり花蓮に強弱をつけて押し付けると、花蓮はそれを片手でボクサーの上から優しく形をなぞって撫でていった。
「花蓮、俺に触れてくれないか。」
彼が呻くように囁くと、花蓮は両手でボクサーをずらし、彼の熱く滾ったものを取り出すと優しく包むように撫でていく。先端に透明な雫がポツリと浮いて、濡れてきたので指ですくって先の方全体に円を描くように塗りつけると彼の分身はさらに大きく硬くなっていく。硬くなったものを手で握り上下に最初はゆっくり、だんだん早く扱くと熱く滾る先端が濡れて光ってくる。
花蓮はそれを見ると衝動的にベッドに腰掛けて顔を近づけた。
「花蓮。」
彼の驚きと喜びが混じった声が聞こえ、先が濡れて光っている彼の熱いものにふっと息を吹きかけると、彼が呻いたのがわかった。彼が感じてくれている、花蓮は目の前で熱く脈打つ彼に手を添え愛しそうにチュッと口付ける。
そして、彼のものを徐々に口に含みながら上目遣いに彼を見ると、熱い目をした彼と目があう。
花蓮はふっと彼に笑いかけて、ゆっくりと目を閉じた。
そして舌で濡れた先端に浮かぶ透明な雫をつつき、まわりを舐め回してから先端を口で覆うと強く吸っては舐める動作を繰り返した。
彼のものは大きすぎて花蓮の口では含みきれないので、下から舌でゆっくり舐め上げる。彼の息遣いが荒くなって両手が花蓮の後頭部を柔らかく掴んだ。彼が何を望んでいるか理解をした花蓮は、そのまま彼の手の動きに逆らわず彼の好きなようにさせる。彼が花蓮の頭を揺れないようやんわりと両手でやさしく固定し、たくましい腰を抽送し動かしていく。激しい動きに花蓮は呼吸が苦しくなったが、顔を離そうとは思わなかった。
どころか、彼が花蓮で感じてくれているのが嬉しくてもっと悦ばそうと口をすぼめて彼を締め付ける。彼の腰に痙攣がビクッと走り、彼が花蓮に
「花蓮、顔を離して。」
と忠告しても、花蓮が顔を離す素振りを見せないのを感じとって、両手を添えていた花蓮の頭をぐいっと手前に引き付けて腰を激しく震わせて、花蓮の口に熱いものをどくっどくっと長く何度も注ぎ込む。
やがて花蓮の唇の端から含みきれず溢れた温かく白い液が、つーと漏れると花蓮の頭からそっと手を離し腰を引く。花蓮はそのまま喉をこくんこくんとゆっくり動かし彼の注いだものを嚥下するとぺたんとベッドに座り込み、最後にごくんと飲み干した。
「花蓮、ありがとう。愛しているよ。」
そっと目を開けた花蓮の顔に彼の唇が降りてきて、額や目尻、耳の後ろや頬にとやさしく唇が辿っていき、唇を濡らすように舌を出して舐めるとそのまま激しく口づけられた。
延々と口づけは止まらず、やがて彼の手が花蓮の頭の後ろに回り、手を後頭部に支えられたまま花蓮の身体をゆっくり後ろに倒していく。
そして彼の手がショーツにかかり優しく足首から抜くと、花蓮の膝から下はベッドサイドに下ろしたままで、膝をやんわり押して彼が足の間に身を入れる。
上半身に彼の身体が被さってきて、もう一度深く舌を絡ませながら口付けられると、そのまま身体が下がっていき首すじ、肩甲骨と柔らかく熱い舌がなぞっては口づけし歯を軽く当られる。
花蓮の胸肌に残る赤い印まで唇が降りていき、もう一度跡を強く吸われた。薄くなっていたそこはまた赤く彼に染められて白い肌に浮かぶ花のようだ。
彼は上半身を一旦引いて、自分の残した効果を確かめると満足げにゆっくり微笑した。
その顔は、いつもの精悍さに野性味が加り広い肩、力強い腕、引き締まった胸板、腰と相まって身体全体がしなやかな野獣を連想させ彼が放つ男の色香に花蓮は自分が捕食されるような甘美さに襲われごくんと喉を鳴らす。
思わず彼の方に手を伸ばすと、彼の手が指を絡め花蓮の顔の横に抑えつつ彼の身体が降りてきて、口を開けて迎えた花蓮に熱い舌を深々と差し込み、絡み付け、甘く溢れる唾液を吸い上げ口づけを繰り返す。花蓮の足の間にあったすでに硬くなったものがさらに熱く滾るのを感じ花蓮が迎えるように腰を浮かせ擦り付けると、合わせた唇から獣のような唸り声が漏れた。
含みきれなかった唾液が口の端から溢れ、こぼれて伝っていく。
彼は濡れた唇を重ねたまま、花蓮の腕を取り自分の首に回し脚を彼の腰に巻きつけ、背中に手を添えて花蓮抱き起こすとそのままクルッと体を半回転させベッドの端に腰掛ける。すると花蓮は太ももを開き彼の腰と熱くいきり勃つ彼とを脚の間に挟んで彼の膝に乗っていた。
彼の目の前に花蓮の胸がありそのまま引き寄せると片方の乳首をかぶりつくように口に含む。熱く濡れた舌で尖を舐め上げクリクリと口の中で転がされる。
「あっん、んっ」
思わず甘い声が喉から漏れ、それを聞いた彼がいっそう深く口内に咥え込み痛いぐらいに吸い上げると花蓮は彼の頭を両手で抱き込んだ。もう片方の胸も彼の手で硬くなった乳首を指の腹で押され、挟まれ摘まみ上げられ、胸に拡がる快感に絶え間なく声が喉から漏れる。
「んっ、んっ、あぁ」
彼は花蓮の胸を可愛がると、同時に腰を揺らし濡れた花蓮の足の間に熱い滾りを擦りつけるように腰を抽送し始める。彼が腰を引き、突き上げる度に花蓮の濡れた蜜口から蜜が溢れ、熱い滾りが尖った突起に擦り付けらる。
切ないような快感がそこに渦巻き、胸に与えられる快感と共鳴し、花蓮の身体に快感が波状に拡がり彼の腰が刻むリズムに合わせて花蓮も腰をゆらゆらと揺り動かしてしまう。クチュクチュと濡れた音が部屋に響き花蓮の脈拍がドキドキと早くなり体が火照ってくる。
気持ちいい、花蓮は息をつめて押し流される感覚に耐えるが、もっと、もっと彼が欲しいと身体と心は彼を貪欲に求める。彼の動きも花蓮の心を読んだように一層激しくなり、時々腰を回して熱くて硬い彼と溢れる蜜口、疼いてじんじんする突起に強く擦り付ける。
「・・・っぁ・・・ぁ・・・っっぃあぁあぁっ」
花蓮の身体に甘美な痺れが走り、何度も、何度も、快感に襲われ掠れた声が荒い息づかいとともに漏れ続ける。彼の荒い息づかいと「・・っくっ」と堪えるような声が花蓮の耳に掠れると、腰の奥がキュンとなりビクンと背中を反らし踵に力が入り、彼の身体に縋るように抱きつきながら溢れる熱い快感に身を任す。
花蓮の動きに触発され、彼もひときわ大きく突き上げると花蓮を固く抱きしめ、ビクンと腰が震える。花蓮の腹部に熱く滾る彼を押し当てて、どくっどくっと、熱くてドロっとした白っぽい液で何度も何度も彼が果てるまで濡らした。
彼が荒い息で、
「花蓮」と呼ぶと花蓮は彼の目を見つめ二人は額を合わせ荒い呼吸を繰り返していたが、どちらともなく唇を重ね何度も何度も口づけを交わす。
やがて唇を離し、呼吸が整うと彼は花蓮を抱いたままシャワーに連れて行き、シャワーで花蓮と自分の体を洗い流すとタオルで大事そうに花蓮を抱えてベッドに横たえる。
電気を消し、柔らかい月明かりが注ぐ中、まだ朦朧としている花蓮を後ろから抱えて、おやすみのキスを花蓮の髪に落とし二人とも幸せな気分で眠りについた。
二人とも日曜は出かける気にならず、花蓮はせっせとバイトの書類整理を家の片付けと洗濯の片手間に、俊幸は書斎で仕事をしている時、家の中に電話の呼び出し音が鳴り響いた。
玄関の横にあった電話を花蓮は出たほうがいいのかなと見ていると。書斎の方から俊幸が花蓮に頼んできた。
「花蓮、悪いけど出てくれるかい、今ちょっと手が離せない。」
「はーい」
少し緊張気味にドキドキしながら受話器を取ると、もしもしと答える。
「受付ですが、伊集院様がお見えです。」
「はい、少々お待ちください。」
花蓮は電話を一旦保留にすると書斎に駆け込み、彼に来客を告げる。
「俊幸さん、伊集院さんと仰る方がいらしてるのですが。」
「何、あいつ連絡もせずに。下に来てるのかい?」
「はい、どうしましょう。」
「わかった、上げていいよ。」
「了解です。」
急いで電話に戻り受付に通してもらうように告げた。
「花蓮、リビングで待ってて貰って。」
間も無く玄関のピンポンが鳴る。彼の友人に初めて会うことに緊張しながらドアを開けると、俊幸と年齢が同じぐらいの男性がラフなジーンズ姿で立っていた。
対応に出た花蓮にびっくりして、動揺を隠せず玄関を見回してここでいいのかと確かめている。
「え、あれ?橘の家、だよな」
「え?はい、そうです。どうぞ上がってください。初めまして、私、白河花蓮と申します。」
「あ、はい、お邪魔します。僕は橘の友人で伊集院隼人と言います。よろしく。」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。」と、花蓮は丁寧に頭を下げる。
伊集院は黒髪の甘い顔立ちをした、俊幸と同じぐらいの長身の男性だった。
「えーと、橘は今日は留守ですか?」
「おい、ここにいる。」
と言って彼が書斎から出て来る。伊集院は彼の顔を見てどこかちょっとホッとした顔をしながら、
「なんだ、いたのか。ってお前この部屋どうしたんだ!」
「片付けたに決まっているだろう。僕じゃなくて花蓮が、だけど。」
というと伊集院は更に驚いた顔をして、
「お前、そうか、彼女なんだな。見つけたんだ。」
「そうだ、彼女だ。俺の大切な人なんだから、それ相応の対応をしろよ。」
「わかったよ。どうりで明梨が様子を見てこいというはずだ。」
「何?今日来たのはそういう訳か。なるほど。」納得したような顔に花蓮が不思議そうな顔をすると、慌ててばつが悪そうに、
「花蓮、ごめん。紹介する。こいつは僕の幼馴染で、伊集院隼人。隼人、こちらは僕の恋人の白河花蓮さんだ。」
と正式に紹介する。
その言葉に花蓮がびっくりして固まった様子を見ると、
「どうしたんだ、花蓮?」と心配そうに訪ねてきた。花蓮は内心ドキドキだったが、慌てて「なんでもないです。」と笑って誤魔化す。
「先ほど自己紹介して頂いたので・・・・」
伊集院は信じられない、という顔をして、
「花蓮ちゃん、もしかしてこいつ、何も言ってないの?」と鋭く突っ込んできた。
花蓮がまた笑って誤魔化すと、
「あちゃー、ごめんね、気にしなくていいから後でこいつとよく話し合って。こいつそんな風に見えないけど多分すごい浮かれてるんだよ。色々大変かも知れないけどいい奴だからどうか見捨てないでやって。」と花蓮に言った。
「なんの話をしているんだ、お前は?」
「うるさい、このバカ。お前に言われた通りにフォローしてやってんだろうが。」
俊幸は納得いかない、という顔をしていたが、伊集院の剣幕と花蓮の笑った顔を見て形勢の悪さを察し、
「まあ入れ」とリビングに案内する。
花蓮がお茶を入れて戻ると伊集院は部屋の様子を見て驚きを隠せないという感じだ。
「ちょっと来ない間に、綺麗に片付いたな。花蓮ちゃん大変だったろう?一人暮らしとはいえ足の踏み場もなっかたもんな。明梨がよく嘆いてたからな、絶対お嫁さんに逃げられるって。ああ明梨は俺の恋人でこいつの妹だから心配しないで。」
花蓮が明らかにホッとしたのを見て笑いながら説明してくれた。
「婚約者だろ、いい加減腹くくれ。」
俊幸は伊集院に警告すると、花蓮に詳しく説明してくれた。
「明梨は一人暮らしの僕を心配して時々掃除に来てくれていたんだ。僕がそれをこないだもう来なくていいと言ったから心配してこいつを寄越したんだろう。ちなみに僕の兄は誠司と言ってもう結婚している。奥さんは幼馴染の夏美さんと言って鎌倉で暮らしている。明梨もこいつと結婚予定だ。」
「まだ正式にプロポーズしてないんだけど。」
「将来一緒になること想定してわざわざ商社に入って貿易と経営、学んでるくせに、何を今更ジタバタしてんだ。」
「っ心の準備ってもんがあるんだよ。あの誠司さんを支えるんだぞ。明梨には安心して研究室に戻って欲しいしな。」
「まあ、頑張れ。契約とか国際取引の時は面倒見てやるから。」
「頼りにしてるぜ。」
と言って二人で橘家の事情を少し話してくれた。
橘家では製薬会社を経営していてご両親はまだまだ健在だけどお兄さんの誠司さんが将来的に継ぐこと、妹さんの明梨さんも元は研究室にいたが今は経営も学んでいること。俊幸さんはそんな二人を別の方向から支えるために弁護士になり、伊集院さんは今商社勤務で結婚を機に明梨さんを支える為経営に参加する予定だそうだ。
兄妹揃って昔から決まった恋人がいるのに、俊幸はこの歳になっても一向にその気がないようなので家族で心配していたそうだ。
「いつでもお嫁さんに来てもらえるよう、こんな大きな家まで用意したのに一向にそんな気配はないし、変な女には付き纏われるしでこれでも心配してたんだぞ。よかったなあ、こんな可愛い人が見つかって。」
伊集院はニコニコと事情を話してくれたが、花蓮は違うところで引っ掛かりを覚えた。
「俊幸さん、変な女って?」
「ああ、花蓮には怖がらせたくなくてまだ話してなかったが、昔何人かに後をつけられたり、勝手に恋人を騙られて家に入られてとかあって。花蓮も可愛いから気をつけるんだ、いいね。」
花蓮はこの間二人でカフェでお茶をした時の事を思い出し、然もありなんと納得していた。花蓮が横にいてあの反応だったのだ、一人で出掛けたら確かにさぞかし面倒な事になったのだろう。
彼がやたらとセキュリティを気にするのも、花蓮の身を心配するのもそんな事があったのなら当然だったのだ。花蓮はふと思いついて、
「伊集院さん、もしかしてですけど、だから俊幸さんの留守を気にしたんですか?」
伊集院はバツが悪そうに「実は、そうなんだ。」と白状した。
「前例があったからね。こいつ花蓮ちゃんの事、秘密にしてたし、前に来てから一ヶ月も経ってないのに訪ねたら知らない女性が居るしで、まあ花蓮ちゃんは一目見てそんな気配がなかったからお手伝いさんかもとも思ったけどね。」
花蓮は、なるほどさっきのホッとした顔にはそういう意味があったのか、と納得した。
「だけどお前、それならなんで花蓮ちゃんの事、明梨に言わなかったんだ?おかげで心配したんだぞ。」
花蓮もその答えは是非とも聞きたいと聞き耳を立てた。
「ああ、明梨に掃除に来なくていいと言った時か?あの時はまだ出会ったばかりだったからな。」
「って、確か明梨に電話して来て2週間経ってないよな?」
「そうだな、確か先々週の火曜日だった、花蓮と初めてランチを食べたのは。」
「何! お前それで恋人って・・・・幾ら何でも手が早過ぎるだろ・・・・。 花蓮ちゃん、嫌だったらはっきりきっぱり断っていいんだよ。」
「何を言う、すべて合意だ。」
「お前に聞いてない!俺は花蓮ちゃんを心配してるんだ。お前は決めたら強引に事を進めるとこがあるからなぁ。それも計画的だからタチが悪い。花蓮ちゃん、いつでも相談に乗るからね。これから長い付き合いになるかもしれないし、はいこれ僕の名刺。」
「お前、もう帰れ。何がフォローだ。それに花蓮は嫌なら自分でいう。なかなか流されてくれない。そんなところも可愛くてしょうがないんだけど。」
「何? そうなのか?お前の口車に乗せられないなんて、凄いな。」
「そうだろう、可愛いのに見かけによらず頑固なんだ。」
「俊幸さん、本人目の前にいますからね。言動には気をつけましょう。」
「あははは、花蓮ちゃん凄いや。これなら心配なさそうだな。」
「何も心配いらない、僕は明日から出張で忙しい。帰れ。」
「俊幸さん、ダメですよ、大事なお友達にそんな態度をとっては。」
「花蓮ちゃん、優しいね。ありがとう。お前いつまで出張なの?忙しいなら僕が花蓮ちゃん送って行こうか?」
「ありがとうございます。でも大丈夫です。」
「花蓮は昨日からここに住んでるんだ。」
「はあ!? 2週間も経ってないのに同棲か?」
「誤解ですよ。俊幸さんが出張の間留守を預かるんです。書類整理のバイトをしているので。」
「バイト? 俊幸、お前一体何を花蓮ちゃんにさせているんだ?」
「うるさい、俺たち二人のことは二人で決める。それに花蓮、住居のことはまた今度機会を見てじっくり話し合おう。」
花蓮は、まさか本気なの、と思いながらもここは穏便に済まそうと取り敢えず了承した。伊集院も二人の様子に何かを悟ったように納得してお茶の礼を花蓮に伝えて帰っていった。
伊集院が帰った後、お茶の後片付けをした花蓮はそのまま夕食の支度を始めた。
明日朝早くに家を出ることになっている俊幸の為に夕食を早めに用意しようと思ったのだ。
俊幸は伊集院に忙しいと言った通りまた書斎にこもって仕事中だ。そして夕食の支度ができた花蓮が彼を呼ぶと嬉しそうに、お腹が空いたと言いながら書斎から出てきて一緒にご飯を食べる。ご飯を食べ終わっていつものようにまったりお茶を飲みながらテレビを見ていると、彼が、
「花蓮、仕事もひと段落したし、まだ早い時間だから腹ごなしにひと泳ぎしに行かないか?」
と誘ってきた。花蓮は、目を輝かせて行きたいと思ったが、そう言えば水着を買っていなかったことを思い出した。
「とても魅力的な提案だとは思いますが、実はまだ水着を買っていなくて・・・」
「この時間なら誰もいないから、何を着て泳いでも大丈夫だよ。Tシャツとか短いズボンとか、なんなら夏服のワンピースとかでもいいんじゃないか?」
確かにもう5月になるので夏服も多少は持って着ているが服は濡れると体に巻きついて泳ぎ難くなる。
(あ、でもキャミのワンピース型なら軽いし大丈夫かな。)
花蓮は少し考え頷いて彼と一緒に泳ぎに行くことにした。
そして着替えが簡単な彼に先に行ってもらい、ブラジャーは外してキャミのワンピースとショーツだけを着てタオルを持ってプールに降りた。
髪をアップにするのに多少時間がかかった為、花蓮がプールサイドに着いたとき彼は既に水の中でゆっくり泳いでいた。花蓮が降りて来たのに気付き、
「足が攣るといけないから、柔軟してからおいで」と注意し、花蓮が柔軟体操を終えて、水の暖かさを確かめてから飛び込んで、彼の近くまで泳いで行くと、ゆったり笑って「泳ぐのが好き?」と聞いてきた。
「大好きです、久しぶりだから嬉しいですよ。」
と答えて花蓮が水に潜り気ままに泳ぎだすと、彼も少しスピードをあげて力強いフォームでクロールを何往復か繰り返す。
30分ほど泳ぐと満足したらしく、花蓮に彼は上がるがそのままプールに残るかと聞く。
花蓮が十分堪能したから一緒に上がるというと、プールサイドに上がり花蓮に手を差し伸べる。
「シャワーはこっち」
花蓮が素直に手を引かれてプールサイドに上がると、ハッとしたように目を開き花蓮を見る視線に熱がこもる。
花蓮を引っ張り上げる腕は力強く、引き締まった胸板、形のいい長い脚と花蓮は思わず視線を奪われ、気がつくと彼の胸にすっぽり収まっていた。
彼は寒くないかと花蓮に尋ね、手を引いてプールサイドのシャワーまで連れて行き、すぐに温かいシャワーの下に花蓮の体を移動させる。そして隣のシャワーを使わずにそのまま花蓮の体を抱き込んで一緒にシャワーを浴び始めた。
「この髪型、すごい色っぽいな。」
と言ってうなじに彼の指が触れる。ゆっくり優しく撫でられて花蓮は息を止めて彼の体に自分も触れたい衝動を抑え込もうとしたが、誘惑に勝てず彼の硬い胸を花蓮の指がそうっとなぞった。
「花蓮。」
彼が名前を優しく耳元で囁くと花蓮の体に戦慄が走る。
彼に触れる指が震えうなじを熱い舌で舐められると、たまらなくなって両腕を彼の背中に回しその逞しい感触を手のひらで楽しんだ。彼の手も花蓮の背中をゆっくりなぞり、だんだん下に降りてきてお尻の感触をやわやわと楽しみ、大きな掌でぐっと掴むと同時に花蓮のうなじにくちづける。柔らかい舌の感触はくすぐったいが気持ちよく、彼の手が上がってキャミソールを脱がされても花蓮はされるがままだ。すぐにまた唇がうなじを擽り舌を押し当てられる。肌と肌が触れ合う感触は吸い付くようでたちまち二人の距離を埋めてしまい、ぴったり重なる快感に花蓮は裸の胸を彼の胸に擦り付けた。
耳元で彼の唸るような声が聞こえ突然噛み付くようなくちづけを与えられる。しばらくして顔が離れ耳の後ろに囁かれた。
「花蓮、上のシャワーに移動しよう。」
シャワーを止めて、体をタオルで拭き、巻きつけると濡れた下着の感触が冷たく、少し考えて脱いでしまう。手に絞ったキャミソールとショーツを持ち、彼に続いてそのままタオル姿でバスルームまで移動した。
彼はシャワーの温度を調節すると裸になり、花蓮の体に巻きつけたタオルを丁寧に外すとそのまま下に落とし、手を引いて一緒に暖かく降り注ぐシャワーを浴びる。花蓮は暖かく降り注ぐお湯を胸に浴びながら、背中に当たる彼の逞しい胸の感触を楽しんだ。
彼が花蓮の耳に口を寄せて囁く。
「好きだよ。花蓮。僕の愛しい人。」
びっくりした花蓮が体ごと振り向くと、彼の情熱を伴ったけれども真剣な瞳が花蓮を見つめていた。
「好きだよ、花蓮。どうか僕と付き合ってください。」
と繰り返して言うと、花蓮が予告なしの突然の告白に驚いて何も言えずにいるのを見て、顔が強張り、
「まさか、もう決まった人がいるのか? 誰なんだ、君の恋人は?」
と怒ったように息込んで花蓮の肩を掴んで聞いて来た。
「俊幸さんに決まってるじゃないですか、何を言ってるんです。」
俊幸の勢いに花蓮の硬直が溶けて、ようやく返事をすると彼の全身から緊張感が抜け、かわりに固く抱きしめられた。
「よかった、てっきり僕は・・・」
シャワーの温かいお湯が二人に降りかかる。花蓮は彼の顔を見上げて目を見つめはっきり言い切る。
「私は、俊幸さんが大好きです。他には誰もいません。」
宣言した後、首を傾げて聞いてみた。
「だけど、どうして突然今更なんですか?てっきり気持ちは通じていると思っていたのに。」
と問うと、彼は少し照れて決まり悪そうに告白した。
「実は隼人から’ちゃんと手順踏んで告白したのか’ってメッセージが来たんだ。女の人にはちゃんと言葉で伝えないと逃げられるぞって忠告されて、ましてや知り合って間もないならお互いのこと知らないことが多すぎるって脅されて、もしすでに恋人や婚約者がいたらどうすんだって。僕は恋人がいるなら奪うつもりだったんだけど、婚約者となると花蓮一人の問題じゃなくなる。そう言えば確かめてなかったって焦ってしまって。花蓮は可愛いし彼氏の一人や二人いたって不思議じゃない。早く確かめなくちゃとは思ったんだけど、だんだん聞くのが怖くなって、泳いで頭冷やそうと思ったのに花蓮は挑発的な格好だし、ほんと花蓮のことになると理性が効かなくなるんだよ」
よく聞けば恐ろしい事をさらっと言ってきた彼に、花蓮は言った。
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花蓮の言葉に焦った彼は、花蓮の目を覗き込んで答えた。
「もちろん僕も、恋人も婚約者も花蓮一人だよ。誤解を招いたのなら謝るよ。ごめん。」
微妙にずれた回答に、花蓮はなんと言っていいのかわからず、
「ならいいのです。」と答える以外なかった。
「ちなみに花蓮のさっきの格好は本当に参ったよ。僕は真剣にいつ告白しようかと悩んでるのに、体の線がはっきり出てるは、透けてるはで、僕の理性を試されてるのかと思った。花蓮といるとだんだん自分のダメなところが見えてきて、時々情けなくなる。僕はもう少し理性的な人間だったはずなんだが。年上の威厳も何も形無しだ。」
花蓮の体をボディソープで洗いながら、彼はため息をついた。
「あの、俊幸さんは十分頼り甲斐があって頼もしいですよ。」
彼は今度は花蓮の髪をシャンプーで洗いながら打ち明けた。
「実は橘の家系は一目惚れが多いんだ。僕の兄妹はもちろんのこと、父も、祖父も従兄弟に至るまでパートナーは出逢って一目でわかったと言っていた。僕も君に最初にぶつかった時、何か懐かしい感じがしたんだ。二度目に君が事務所に訪れた時、彼らが言っていた意味がようやくはっきり分かった。なのに君はさっさと行ってしまおうとするんだから、僕がどれだけ焦ったか分かるかい?」
コンディショナーのいい香りに包まれながら花蓮も告げる。
「もちろん俊幸さんの事は初めて会った時から好印象でしたよ。誘ってくださった時も嬉しかったですし。」
「よかった、安心したよ。少々強引な自覚はあったんだが、君に会う度に君と離れるのが辛くなってくる。こんな事は初めてだ。それに多分僕は独占欲が強いよ。さっきも隼人でさえ牽制してしまった。」
そうだったのか、と体を拭きながら花蓮は中々重そうな俊幸の独占欲さえ嬉しく思えて、自然に笑みが浮かんだ。
「髪乾かしてあげるよ。」
彼がドレッサーに向かって座っている花蓮の後ろに立って、花蓮の持参したドライヤーを片手に持って髪を乾かし始める。髪を梳きとかす優しい長い指、Tシャツから伸びるたくましい腕、ドライヤーを片手に上機嫌で花蓮の髪を乾かす彼の姿を鏡ごしに見ると胸がキュンとしてとても幸せな気持ちになる。
ドライヤーに張り合い大きな声で彼は注意を促した。
「明日から僕は出張でいなくなるけど、出掛ける時は、あんまり遅くになってはいけないよ。それからこのマンションのセキュリティーに関する書類を出しておくから目を通しておいて。カメラの設置位置とかガードの部屋とか覚えておいていた方がいい。」
髪が乾くとドライヤーを切って、成し遂げた仕事に満足するように髪を弄びながら顔を横に持ってきて鏡ごしに花蓮を目を見ながら、
「ガードは3人交代24時間体制だけどそのうち2人はこのマンションのグランドフロアに住んでいるんだ。奥さんがコンシェルジュをしていて大家さんのような仕事もしてるから、何かあれば連絡して頼ればいいよ。コンシェルジュは朝6時から夜10時までいるから。」
と言って花蓮の肩にかかる髪を払うと、チュッと音を立ててうなじにキスをした。そして後ろから花蓮を抱きしめると囁く。
「ベッドに行こう。」
そして花蓮を立たせるとベッドサイドまで手を引いていく。
「花蓮も明日会社があるし、僕も朝早く出ていくから無理をさせたくない。だから今夜は君を抱けないけど、水曜の夜まで君に会えなくなるから、君に触らずにはいられない。」
そう言って花蓮の後頭部に手を添えると腰を抱いて引き寄せゆっくり耳を齧られる。
彼の低いテノールが囁く。
「その気になれないのなら今言って欲しい、多分一旦君に触れると、僕が満足するまで止めてあげられない。」
花蓮は返事の代わりに腰に回った彼の腕に自らの手を滑らせ、そのまま指で軽く触れながらTシャツの下の腕をたどって肩を撫でた。
彼の顔がゆっくり下がってきて花蓮も顔を上げて彼の唇を受け入れる。唇で啄ばむ口づけは、次第に深く長いものに取って代わり、やがて彼の舌が花蓮の唇を優しく舐めると花蓮は誘うように口を開く。待っていたように彼の熱い舌が花蓮の舌を求めて口内に入ってきて舌を強く絡ませる。
「ふっ、んっ、んっ」
甘い唾液が湧いてきて、舌でそれを味わいながら重ねて吸い上げる。溢れた唾液が口の端から零れ落ち、舌を絡ませた濃厚な口づけをもっともっと欲しいと何度も何度も繰り返す。
「んっ、んんっ」
熱く繰り返される口づけは、一定のリズムで二人の身体全体に波を引き起こし、花蓮はたまらず裾から両手を侵入させて彼の背中の熱く引き締まった肌を撫で上げる。
二人の腰が揺れ彼の熱いものが花蓮の下腹部を押し上げるとどちらともなく呻き声を漏らす。
彼が一旦重なった唇を離し、腰を押し付けたまま素早くTシャツと花蓮のキャミソールを脱がせ、力強い腕が花蓮の背中に回り強く抱きしめられた。花蓮のうなじや肩甲骨に舌を這わせて味わうように舐め始めると、花蓮も彼の背中に回した手を肩から腰までゆっくり撫で下しては上げる。やがて彼が腰を回しながら彼の熱く硬くなったものをゆっくり花蓮に強弱をつけて押し付けると、花蓮はそれを片手でボクサーの上から優しく形をなぞって撫でていった。
「花蓮、俺に触れてくれないか。」
彼が呻くように囁くと、花蓮は両手でボクサーをずらし、彼の熱く滾ったものを取り出すと優しく包むように撫でていく。先端に透明な雫がポツリと浮いて、濡れてきたので指ですくって先の方全体に円を描くように塗りつけると彼の分身はさらに大きく硬くなっていく。硬くなったものを手で握り上下に最初はゆっくり、だんだん早く扱くと熱く滾る先端が濡れて光ってくる。
花蓮はそれを見ると衝動的にベッドに腰掛けて顔を近づけた。
「花蓮。」
彼の驚きと喜びが混じった声が聞こえ、先が濡れて光っている彼の熱いものにふっと息を吹きかけると、彼が呻いたのがわかった。彼が感じてくれている、花蓮は目の前で熱く脈打つ彼に手を添え愛しそうにチュッと口付ける。
そして、彼のものを徐々に口に含みながら上目遣いに彼を見ると、熱い目をした彼と目があう。
花蓮はふっと彼に笑いかけて、ゆっくりと目を閉じた。
そして舌で濡れた先端に浮かぶ透明な雫をつつき、まわりを舐め回してから先端を口で覆うと強く吸っては舐める動作を繰り返した。
彼のものは大きすぎて花蓮の口では含みきれないので、下から舌でゆっくり舐め上げる。彼の息遣いが荒くなって両手が花蓮の後頭部を柔らかく掴んだ。彼が何を望んでいるか理解をした花蓮は、そのまま彼の手の動きに逆らわず彼の好きなようにさせる。彼が花蓮の頭を揺れないようやんわりと両手でやさしく固定し、たくましい腰を抽送し動かしていく。激しい動きに花蓮は呼吸が苦しくなったが、顔を離そうとは思わなかった。
どころか、彼が花蓮で感じてくれているのが嬉しくてもっと悦ばそうと口をすぼめて彼を締め付ける。彼の腰に痙攣がビクッと走り、彼が花蓮に
「花蓮、顔を離して。」
と忠告しても、花蓮が顔を離す素振りを見せないのを感じとって、両手を添えていた花蓮の頭をぐいっと手前に引き付けて腰を激しく震わせて、花蓮の口に熱いものをどくっどくっと長く何度も注ぎ込む。
やがて花蓮の唇の端から含みきれず溢れた温かく白い液が、つーと漏れると花蓮の頭からそっと手を離し腰を引く。花蓮はそのまま喉をこくんこくんとゆっくり動かし彼の注いだものを嚥下するとぺたんとベッドに座り込み、最後にごくんと飲み干した。
「花蓮、ありがとう。愛しているよ。」
そっと目を開けた花蓮の顔に彼の唇が降りてきて、額や目尻、耳の後ろや頬にとやさしく唇が辿っていき、唇を濡らすように舌を出して舐めるとそのまま激しく口づけられた。
延々と口づけは止まらず、やがて彼の手が花蓮の頭の後ろに回り、手を後頭部に支えられたまま花蓮の身体をゆっくり後ろに倒していく。
そして彼の手がショーツにかかり優しく足首から抜くと、花蓮の膝から下はベッドサイドに下ろしたままで、膝をやんわり押して彼が足の間に身を入れる。
上半身に彼の身体が被さってきて、もう一度深く舌を絡ませながら口付けられると、そのまま身体が下がっていき首すじ、肩甲骨と柔らかく熱い舌がなぞっては口づけし歯を軽く当られる。
花蓮の胸肌に残る赤い印まで唇が降りていき、もう一度跡を強く吸われた。薄くなっていたそこはまた赤く彼に染められて白い肌に浮かぶ花のようだ。
彼は上半身を一旦引いて、自分の残した効果を確かめると満足げにゆっくり微笑した。
その顔は、いつもの精悍さに野性味が加り広い肩、力強い腕、引き締まった胸板、腰と相まって身体全体がしなやかな野獣を連想させ彼が放つ男の色香に花蓮は自分が捕食されるような甘美さに襲われごくんと喉を鳴らす。
思わず彼の方に手を伸ばすと、彼の手が指を絡め花蓮の顔の横に抑えつつ彼の身体が降りてきて、口を開けて迎えた花蓮に熱い舌を深々と差し込み、絡み付け、甘く溢れる唾液を吸い上げ口づけを繰り返す。花蓮の足の間にあったすでに硬くなったものがさらに熱く滾るのを感じ花蓮が迎えるように腰を浮かせ擦り付けると、合わせた唇から獣のような唸り声が漏れた。
含みきれなかった唾液が口の端から溢れ、こぼれて伝っていく。
彼は濡れた唇を重ねたまま、花蓮の腕を取り自分の首に回し脚を彼の腰に巻きつけ、背中に手を添えて花蓮抱き起こすとそのままクルッと体を半回転させベッドの端に腰掛ける。すると花蓮は太ももを開き彼の腰と熱くいきり勃つ彼とを脚の間に挟んで彼の膝に乗っていた。
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「あっん、んっ」
思わず甘い声が喉から漏れ、それを聞いた彼がいっそう深く口内に咥え込み痛いぐらいに吸い上げると花蓮は彼の頭を両手で抱き込んだ。もう片方の胸も彼の手で硬くなった乳首を指の腹で押され、挟まれ摘まみ上げられ、胸に拡がる快感に絶え間なく声が喉から漏れる。
「んっ、んっ、あぁ」
彼は花蓮の胸を可愛がると、同時に腰を揺らし濡れた花蓮の足の間に熱い滾りを擦りつけるように腰を抽送し始める。彼が腰を引き、突き上げる度に花蓮の濡れた蜜口から蜜が溢れ、熱い滾りが尖った突起に擦り付けらる。
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気持ちいい、花蓮は息をつめて押し流される感覚に耐えるが、もっと、もっと彼が欲しいと身体と心は彼を貪欲に求める。彼の動きも花蓮の心を読んだように一層激しくなり、時々腰を回して熱くて硬い彼と溢れる蜜口、疼いてじんじんする突起に強く擦り付ける。
「・・・っぁ・・・ぁ・・・っっぃあぁあぁっ」
花蓮の身体に甘美な痺れが走り、何度も、何度も、快感に襲われ掠れた声が荒い息づかいとともに漏れ続ける。彼の荒い息づかいと「・・っくっ」と堪えるような声が花蓮の耳に掠れると、腰の奥がキュンとなりビクンと背中を反らし踵に力が入り、彼の身体に縋るように抱きつきながら溢れる熱い快感に身を任す。
花蓮の動きに触発され、彼もひときわ大きく突き上げると花蓮を固く抱きしめ、ビクンと腰が震える。花蓮の腹部に熱く滾る彼を押し当てて、どくっどくっと、熱くてドロっとした白っぽい液で何度も何度も彼が果てるまで濡らした。
彼が荒い息で、
「花蓮」と呼ぶと花蓮は彼の目を見つめ二人は額を合わせ荒い呼吸を繰り返していたが、どちらともなく唇を重ね何度も何度も口づけを交わす。
やがて唇を離し、呼吸が整うと彼は花蓮を抱いたままシャワーに連れて行き、シャワーで花蓮と自分の体を洗い流すとタオルで大事そうに花蓮を抱えてベッドに横たえる。
電気を消し、柔らかい月明かりが注ぐ中、まだ朦朧としている花蓮を後ろから抱えて、おやすみのキスを花蓮の髪に落とし二人とも幸せな気分で眠りについた。
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五十里重工(取締役部長)五十里武尊
『空が好き』という共通点を持つ二人の恋の行方は……
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