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1巻
1-2
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窮屈だわ、とパンプスを脱いだら、足の下が柔らかい。風船の上を歩いているようなフカフカの絨毯だ。
弾む感触がすこぶる気持ちよくて、花乃は逞しい腕に導かれるままソファーに座り込んだ。
どれくらいそうしていたのか――……気がつくと、もたれ掛かったソファーから優しい手が抱き起こしてくれている。
「ほら、水だ」
「ん……」
「ああ、こぼすなよ」
言われたそばから、手にしたグラスがスルリとすり抜けた。――が、分厚い絨毯のおかげで、割れもせずトサッと柔らかい音を立て転がっていく。
「大丈夫か?」
「あれ、ごめ、んあさぁい……」
「気にするな、それより……ケガはないな。だがこのままでは風邪をひく。ちょっと待ってなさい」
焦点の定まらない目でひんやりとする胸元を見てみれば、ブラウスがびしょ濡れだ。
(タ、タオル……)
何か拭うものを取りに行こうとするが、足に力が入らず、身体がソファーからズリ落ちていく。
花乃はしょうがないとそのまま四つん這いになり、彼の消えた方へと絨毯の上をズルズルと這っていった。
だけど、重い身体を引きずり追いかけても、なかなか彼にたどり着けない。
この部屋って結構広いなぁと思いながら、途中でペシャンと潰れた。
「えっ? あっ、何をして……」
タオルを片手に現れた彼が、驚いた顔をしている。
「ふにゃ、あ~タオぅ、ぁんとぉ~」
「待て、ここで脱ぐな」
身体が、ふわっと持ち上がった。
「割と軽いな」
何が起こったのかが、分からなかった。
花乃は生まれてこのかた、お姫様だっこなぞされたことがなかったのだ。
ポカンとしていると、いつの間にかそこは広いバスルームの中で、ふっくらとしたタオルの上にぺたんと座り込んでいた。
(ん~、そう……よね、シャワー……)
目の前の透明なドアを見た途端、そうだシャワーを浴びないと、となぜか使命感に燃えて服を脱ぎだした。
「ん、もうちょい……」
やっと温かいお湯が出てきた。だが酔った身体は思うように動いてくれない。ふらふらと壁にもたれ掛かり、そのまま大理石をズルズルと滑り降りていくと動けなくなった。
(……まあ、洗えるし、いっか……)
座ったまま温かなお湯にうたれていると、キュッと音がしてシャワーが止まる。次の瞬間にはタオルで包まれ、長い腕に抱えられていた。
「まったく、湯冷めするぞ」
幼な子のように優しく拭かれて、バスローブを着せられ、身体がまたふわりと浮いた。気がつけばシーツの上に寝かされていた。
(ふわぁ、おやすみ、なさい……)
手のひらに感じるコットンの柔らかさと、背中に感じるベッドの感触に、寝心地最高~と重いまぶたが自然と閉じる。遠ざかる意識の外で、ララバイのような低い声が聞こえる。
「寝てしまったのか……仕方ないな」
枕元のテーブルでスマホが、コトンと音を立てた。
「……帰国した途端、スゴイ拾い物だ。さて……」
「おやすみ」と髪を優しく撫でられると、静かな衣擦れの音が遠ざかっていく。
しばらくして耳慣れたパソコンの起動音が聞こえると、一緒にいてくれるんだ……と、胸に温かな安心感が広がった。
そして突然襲ってきた眠気に誘われるまま、花乃はスーと寝息を立てたのだった。
やけに静かだ。いつもと何かが違う。
予感めいた胸騒ぎに、目をゆっくり開いた。
何だかふわふわした気分で、とても心地がいい。
(……真っ暗? ――でも、綺麗……)
横を向くと枕元から見えるロマンチックな街明かりに、ふわんとした夢心地のまま見惚れる。
そのままベッドでウトウトしていたのだが、やがて喉が渇いてきた。
「よいしょっと、水は……」
ゆっくり起き上がると、視界に入るのは見たことのない部屋。いや、見覚えがあるような、ないような……
全身で感じる浮遊感に、花乃は自分が夢を見ているのだと思った。
(確か……こっちのテーブルの上に、お水のボトルが……)
頭に残るかすかな記憶を頼りに、危なげな足運びで移動する。ベッドルームから見えた居間のような部屋まで来ると、ソファー前のローテーブルにお目当てのボトルがあった。
求めていた水を手にして、ボトルから一口、二口、コクンと喉を潤す。
(ふわぁ、おいしい)
ほんの少しだが、平衡感覚が戻ってきた。
だけど頭はちゃんと働かず、足元もまだおぼつかない。部屋をボーッと見渡した目が、見慣れないものを捉えたような気がして、一度素通りしたソファーに視線を引き戻す。
なんと、そこには長年想い続けた一樹本人が寝ている。
(うわぁ……なんてラッキーな夢。あぁもう、寝顔も、スッゴクいい……)
色褪せない記憶の姿を、そのまま大人にしたスマートな容貌に、思わず見惚れた。
花乃は屈み込んで、その額にかかる柔らかな前髪を愛おしそうにかきあげた。
(やっぱり……すごい好き。なんて幸せ……)
初恋の人は、彼が高校生だった頃も言葉にできないくらい大好きだった。ましてやこんなに成長した大人の姿を見ていると、心の奥が一層深く震えてくる。
柔らかい髪を指先で梳きながら幸せ気分に浸っていると、目の前にある長い睫毛がゆっくり持ち上げられた。
綺麗な瞳が真っ直ぐこちらを向く。
「どうした?」
(うわあ、声まで深みがある……なんかクる――)
記憶に残る声よりいくぶん低めで深みが増した掠れ声が静かな部屋に響くと、胸をズクンと射抜かれた。
「……こんなところで寝てたら、カゼをひいちゃうわ……」
「ああ、気にしないでいい」
「……ダメよ、ベッドに……」
気のおけない懐かしい感覚が嬉しくて、心からの笑顔になる。
そう、夢だからこそ、わだかまりなく二人は普通に会話している。……そう思いつつ、我慢できず指先でその頬に触れてみた。
彼の温もりが肌を通し、心にまで伝わってきて、急にキスをしたくて堪らなくなる。
夢ならば、きっと――……
花乃は、「だが……」と言いかけた愛しい唇に、ゆっくり近づいてそっとキスをした。
「ん……」
一樹と交わす初めてのキス。なのに、ためらいはない。
柔らかい唇は離れがたくて、戯れるように甘噛みをすると、なんとも言えないしっとり感に心が舞い上がる。
花乃から突然仕掛けられたキスに、彼は驚いたように目を見張った。
その呆気に取られた顔が面白くて、悪戯っぽく彼の唇をぺろりと舌先で舐め上げる。
すると、その見開いた瞳が優しく和んだ後、長い腕に引き寄せられた。
「――分かった」
鼓動が跳ね上がると同時に、唇がそっと重なってくる。
彼からキスをしてくれた!
心が嬉しさでいっぱいになる。沸騰する前のお湯のように、ふつふつと小さな気泡が身体中から湧き上がってくる。
(あぁほんと、なんていい夢なの……)
温かい唇にウットリ目を閉じた。
こんな風に一樹とキスを交わすのを、ずっと……夢見ていた。
もっと触れたい。それにもっと触れてほしい。
じっとしていられなくて、身を起こす彼の首に腕を回すと、髪を弄り深いキスへと誘い込む。すると彼は顔の角度を変えながら、花乃の要求に進んで応えてくれる。
もっと近くに……と擦り寄っているうちに、身体はいつの間にか彼に組み敷かれていた。
「う……ん……」
全身で感じる彼の重み。それが嬉しくて、堪らない。
体温が触れ合う幸せな感触に甘く酔いしれ、気持ちいい……と、何度もキスを交わした。
やがて二人は同時に唇をチュッと離し、しばらく見つめ合う。
(すごいこの夢、なんというありがたい過剰サービス……)
肌に感じる温かい体温。熱い息遣いや、ドキドキする心臓の音まで……なんて素晴らしいのだろう。
現実ではありえないと、花乃は有頂天になる。
想いを込めつつ見つめ返しても、最後の記憶のようにあからさまに目を逸らされたりはしない。それどころか、目の前の彼は愛おしそうに微笑み返してくれる。
まるであの頃、二人だけで過ごした時間が戻ったみたいだ。
忘れもしない、この嬉しそうな表情――夢のまた夢だと分かっていても、愛おしさが溢れて止まらない。
自分から会うことは決してない。そう思っていただけに、嬉しさと切なさで泣きそうになる。
すると彼は、おもむろに身体を離し立ち上がった。
(っ――! やっぱり……夢でも去っていく、のね……)
突然消えたその温もりに、胸が痛くなる。仕方ないと諦めるしかない……
だけど、立ち去ると思われた彼は屈み込んできて、その長い腕で花乃の身体を抱き上げた。
そのまま、大きなベッドに運ばれる。
どうやら彼はまだ一緒にいてくれるらしい。
力強く歩みながら悪戯っぽい瞳で笑いかけられると、うわぁと全身が歓喜した。思わず昔のように「一樹さん」と愛しい名を呼んでしまいそうになる。
この至福の夢の中では、彼がなぜか自分を女性扱いしてくれている。
そしてこのまま夢を見続ければ、キス以上のコトまでしてくれるかもしれないと、淡い期待で胸が膨らむ。
たとえ幻でも、極上に甘い夢の中で、一度でいいから愛されてみたかった。
(だけど呼びかけたら、目が覚めてしまうのかも……)
ぼんやりした思考でそう結論付けた花乃は、喉まで出かかった声を呑み込む。
代わりに、やんわりベッドに下ろされると、彼の瞳を見つめて笑いかけた。どうしても彼に触れてほしくて、おずおずとすでにはだけていたバスローブの紐を解いていく。
「……なんて、可憐な花に――」
静寂な闇に秘めやかに響く甘い囁き。そのどうしようもなくセクシーな声に、身体中がゾクリと騒めいた。
(ああ、このまま……)
覚めないで、とわなないた途端に、目を細めた彼がローブを脱いで覆い被さってきた。
その引き締まった身体に赤面しながらも、待っていたとばかりに両手を伸ばす。すると彼は手を取って優しく握り締め、手のひらに顔を寄せるとチュッとキスを落とした。
丁寧なその仕草の中にも、彼の秘めた情熱が伝わる。
ドキンドキンと高鳴る胸は大きな手に包まれ、漏れそうになる声を誤魔化すように瞬きをした。だけど膨らみを優しく捏ねるように揉まれると、思わず「んん……」と艶っぽい吐息が漏れる。
彼は顔を花乃の胸に近づけると、ツンと尖ってきた蕾をそっと摘んだ。たちどころにジンときて、身体が大きく震える。
「……敏感だな」
胸元で響く、低く抑えた声。指の腹でキュッと先端を強く擦られると、ジリジリとくすぶる心の中まで、どろりと溶けた熱が浸透してくる。
堪らず「ぁ、ん……」と身体を震わすと、たちまち唇が重なった。わずかに開いた隙間から彼の舌がスルリと侵入してくる。いきなりのことに驚いたのはほんの一瞬で、すぐ夢中で舌を絡ませた。
(――お願い、たくさん触って……)
心からそう思える人とのキスは、煽るのも煽られるのも堪らなく気持ちがいい。
……もっと深くに、もっと奥まで入ってきてほしい。
口内を探り、舌を絡ませては、貪欲に貪ってくる彼が愛おしくてしかたない。
大きな手で胸や脇腹、背中まで優しくなぞられると、触られてもいない足の間が熱っぽくジンジンと疼き出した。
抗いがたい衝動に突き動かされ、腕を回し柔らかい髪に指を絡める。
(あぁやっぱり、大好き……)
深いキスを繰り返すあいだに、彼の長い睫毛が軽やかに肌を撫でてくる。
そのかすかに触れる感覚がくすぐったい。
心はグズグズに溶け、身体はビクンと震えっぱなしで、口端から甘い唾液が溢れ出す。
すると彼は流れ出た唾液を美味しそうに舐めとり、そのまま流れを辿った。耳の後ろにまで舌を伸ばされて、熱い息が耳たぶにかかる。
「甘い……」
尖りをより強くクニクニと擦られて、甘く切ない刺激に身体がピクンと反応した。敏感な先端に熱い息がかかる。
(あ……)
恥じらった拍子によじれたシーツに指先が食い込んだ瞬間、甘い電流がピリリと背中まで駆け抜けた。
「ふぁっ……ん……ぁ……んっ……」
強く吸い付かれるたびに、まるで胸に芯が通ったみたいに中心が疼く。
無意識のうちに背中が反って、わずかに開いた唇からは、か細い喘ぎ声が漏れた。
「可愛いな、もう俺の印がついてる」
カプリと軽く噛まれて、一層色づく尖りは周りまで唾液まみれだ。
彼はそのまま胸に顔を埋めると、ピンと立った蕾を吸い続ける。ちゅく、ちゅくと淫らに響く水音に花乃の喘ぎ声が重なった。永遠にも感じる快感が、胸から波状に広がっていく。
甘く切ない息苦しさに、彼の頭を抱え、震える指先を柔らかな髪に埋めた。するとその動きに合わせるように、柔らかい舌で敏感な先端をさらに弾かれる。
「ふぅ……んっ……んんっ」
一際大きな快感が押し寄せてきた。身体が熱い――彼の頭をかき抱きながら身悶えする。
目尻も中心も濡れてくるのに、彼を求める心はますます渇く。
この、どうしようもなくウズウズする身体を彼で満たしてほしい……
追い詰められた花乃は、夢中で硬い身体に足を絡めて腰を押し付けた。
「……堪らないな」
彼も腰をぴったり押し付けてくる。
熱い塊に下腹部をグイグイと押されて、その熱さや硬さをモロに肌で感じた。彼はすでに何も身につけてはいない。けれど羞恥心以上に、その大きな手で最後の布切れを脱がされるのが待ち遠しい。
彼の悪戯な唇や熱い吐息、手で触られるどこもかしこも、すべてが気持ちいい……
ふと好奇心に促され視線をゆっくり下にずらすと、花乃の全身がカッと熱を帯びた。
「ぁん……」
足の間がずくずく大きく疼いて、思わず甘い吐息と共に艶のある声を漏らした。
「ん……いい声だ……」
彼は心から嬉しそうにフッと笑い、腰をゆっくり動かす。硬い彼自身をわざと花乃に擦り付けられると、その灼熱に触れてみたいという欲求が湧き上がる。
頬がみるみる紅潮するけれど、乙女の恥じらいもやはり好奇心には勝てなくて。花乃の中に入れてほしいとその存在を主張する屹立を、そっと手のひらで包み込む。
(すごい、熱くて硬い……)
滑りのよい先端部を、指先で撫でてみる。
濡れてくる感覚を楽しむように優しく触れていると、「そんなに煽るな」と抑えた熱い息が耳を掠めた。そして大きな手が足の間へと侵入してくる。
ひゃあ、そんなトコロを、と思ったものの、自分も彼の大事なトコロを撫で回しているのだ。
ものすごく恥ずかしいと訴える羞恥心を無視し、勇気を振り絞って彼の指を受け入れるために少しだけ足を広げた。
身体はすでにヌルヌルに濡れそぼっている。
花乃はクチュ、クチュとはっきり聞こえてくる水音に、耳まで真っ赤になった。
優しく触れてくる指が蠢くたびに、甘い愉悦で身体が震える。温かい愛液がますます溢れ出る。
「ん、んんっ……ぁ……んっ」
ウズウズする胸の頂を再び唇に含まれると感じすぎてしまって、快感を逃がすように上半身をよじった。蜜口からはさらに愛蜜が溢れ、彼の指をぬらぬら濡らす。花乃の膨らんだ花芽をぬめった指先が何度かこすると、「十分濡れているな」と満足そうに彼が熱い息を吐いた。
(なんて、熱い目をしているの……)
敏感な花芽を弄られて身体を震わせる花乃の瞳をじっと捉える彼は、目を逸らすことさえ許さない。
そんな強い光を宿す瞳に魅了されていると、膝の裏を抱え込まれた。
そのまま身体を開かれ、思い切り押し広げられる。
「抱くぞ……」
「あ……っ……」
待ちきれないといった様子で、滑らかな先端が確かめるように、グチチュと蜜口に侵入してきた。
ググッとくる強い圧迫感と、いよいよ彼に……という興奮を抑えきれず、背中に回した指先に自然と力が入る。
(大丈夫、だって大好きな一樹さんだもの……)
そう思った瞬間、力がフッと抜けた。睫毛を震わせ自然と目を閉じる。
そして一気に身体を灼熱の硬直に貫かれた。
「っ……」
身体が灼けつくように熱い――!
鋭い痛みに悲鳴を上げそうになるが、本能的にダメッとすべてを呑み込んだ。
けれど、目尻からは抑えきれなかった一筋の涙がはらりとこぼれ落ちる。
「くっ、……こら、もう少しだけ緩めてくれ」
優しい手に頭を愛しむように抱えられ、指先で髪を撫でられた。
(よかった……涙はきっと、見られていない)
不意に、ポトッと素肌に滴り落ちてきた汗の雫で、彼にも余裕があまりないのだと花乃は本能的に悟った。
彼は低い声で、まるで宥めるように優しく名前を何度も囁いてくる。すると、痛みに堪え小刻みに震えていた身体から、ふうと力が抜けてきた。
「ああ、すごくいい……」
感じ入るように告げられると、とても嬉しい。彼が感じてくれている。
彼はすぐには動かず、深く入ったまま、ぐぐっと体重をかけてくる。
だけど、なんてリアルな夢なんだろう……挿入られたままの焼けるような感触に、頭がぼうっとしてくる。
体内に居座る圧倒的な存在を意識させられ、そのせいでさらに感じてしまう。
だが花乃はすべてを受け止めた。
愛しい人に、今抱かれている――それだけで胸が一杯になり、嬉しくて泣きそうになる。
(一樹さん、一樹さん、大好き……)
心の中で繰り返し彼の名を呼んだ。
――痛かろうが、重かろうが、大好きな人に初めてを捧げて優しく抱かれる夢……
たとえ妄想だらけの夢の中でも、愛する人に情熱的に抱かれている。
こんなこと、現実では決して叶うわけがない。
だからこそ、本物のような破瓜の鋭い痛みにさえ感動を覚える。
(なんて素敵なんだろう……)
やがて彼が、ゆっくり腰を動かしてきた。
溢れそうな涙を閉じ込めていた目を、そうっと開くと、そこには情熱を湛えた瞳が揺らめいている。
彼が自分を抱いて興奮している。そればかりか、愛おしそうにこちらを見つめ返してくれる。
心から満足していることがうかがえて、花乃も満ち足りた笑みが自然と浮かんだ。
言葉の代わりに彼を見つめる目に愛おしさを込め、汗ばんだこめかみに手を伸ばす。そして温もりある頬に触れつつ、濡れた瞳でふんわり笑いかけた。
すると彼の顔が急にアップになって、突如顔中に優しいキスの雨が降ってきた。
額に頬、目元にまぶた、そして鼻の頭までチュッと濡らされ、おまけとばかりに柔らかい舌でなぞって舐め上げられる。
最後に彼の唇がやんわり重なると、砕けんばかりにギュウウと強く抱き締められた。
そして、一気に奥まで突き入れられる。
「あっ……は……っ……」
慣れない身体に、鋭い痛みが再び走った。
すぐ抑えきれないといわんばかりの律動が始まる。勢いも激しく、深く浅く穿ってくる。
ズキズキと痛む秘所をかばう暇もなく、腰が砕けそうなほど延々と揺らされ続け、目の焦点が定まらない。
だけどそれは決して、乱暴ではなかった。
まるで長い間離れていた恋人に、もう一度自分を刻み込む……そんな情熱に包まれる。
甘美な攻めに、心も身体も囚われた花乃は細かく震えた。
波のようなリズムで腰を打ち付けられるたびに、身体の奥が痺れ痙攣が走る。
「あっ……ぁ……あぁ……っ」
「くっ、良すぎる、持っていかれそうだ……」
そうされるうちに、痛みはだんだん何か違うものにすり替わり、腰の奥がムズムズと疼いてきた。
花乃の腰が勝手に彼の動きに合わせ、わずかに揺れている。
やがてはその、引いては寄せるリズムに合わせ、大胆にも足を持ち上げ、腰を浮かせて彼を迎え入れた。
ズン、ズンと重量感のある突き上げが、繰り返し奥に届く。そのたびに、わずかな痛みと共に、目眩がするほどの快感が身体を走り抜けた。
(痛いのに、嘘みたいに気持ちいい……)
身体は痺れるように震えっぱなしで、痛いと気持ちいいが甘く混濁してくる。
二人の繋がったところからは、グチュ、グチュと恥ずかしい音が絶え間なく生み出され、さらに大きくなる。力強く突き上げられるたびに花乃の全身から溢れる、〝大好き〟がこぼれ落ちるようだった。腰を掴まれ雄々しい攻めを受ける中、彼が激しい呼吸の合間に自分の名を呼ぶのが聞こえる。
「花乃、花乃……」
まるで愛している、と告白されているみたいだ。
熱く荒い息が髪にかかると、ますます心が蕩け、快感に追い立てられていく。極みはもうそこまできていた。
(あ、ダメ、もう、だめ、こんなっ……一樹さん――っ!)
心の中で彼の名を呼び、すべてを委ね手放した瞬間だった。
身体中が感電したように、背中も腰も大きく震え極まりを迎える。
「あぁぁっ……」
無我夢中で腰をよじった。
そうしながら快感に耐え、シーツをギュウウと握り締めると、背中が反り返り、中がきゅううん、とうねるように締まった。
花乃の甘美な締め付けに、彼は腰を強く押し付け、味わうように硬い屹立を奥深くまでグリグリと埋め込んでくる。
弾む感触がすこぶる気持ちよくて、花乃は逞しい腕に導かれるままソファーに座り込んだ。
どれくらいそうしていたのか――……気がつくと、もたれ掛かったソファーから優しい手が抱き起こしてくれている。
「ほら、水だ」
「ん……」
「ああ、こぼすなよ」
言われたそばから、手にしたグラスがスルリとすり抜けた。――が、分厚い絨毯のおかげで、割れもせずトサッと柔らかい音を立て転がっていく。
「大丈夫か?」
「あれ、ごめ、んあさぁい……」
「気にするな、それより……ケガはないな。だがこのままでは風邪をひく。ちょっと待ってなさい」
焦点の定まらない目でひんやりとする胸元を見てみれば、ブラウスがびしょ濡れだ。
(タ、タオル……)
何か拭うものを取りに行こうとするが、足に力が入らず、身体がソファーからズリ落ちていく。
花乃はしょうがないとそのまま四つん這いになり、彼の消えた方へと絨毯の上をズルズルと這っていった。
だけど、重い身体を引きずり追いかけても、なかなか彼にたどり着けない。
この部屋って結構広いなぁと思いながら、途中でペシャンと潰れた。
「えっ? あっ、何をして……」
タオルを片手に現れた彼が、驚いた顔をしている。
「ふにゃ、あ~タオぅ、ぁんとぉ~」
「待て、ここで脱ぐな」
身体が、ふわっと持ち上がった。
「割と軽いな」
何が起こったのかが、分からなかった。
花乃は生まれてこのかた、お姫様だっこなぞされたことがなかったのだ。
ポカンとしていると、いつの間にかそこは広いバスルームの中で、ふっくらとしたタオルの上にぺたんと座り込んでいた。
(ん~、そう……よね、シャワー……)
目の前の透明なドアを見た途端、そうだシャワーを浴びないと、となぜか使命感に燃えて服を脱ぎだした。
「ん、もうちょい……」
やっと温かいお湯が出てきた。だが酔った身体は思うように動いてくれない。ふらふらと壁にもたれ掛かり、そのまま大理石をズルズルと滑り降りていくと動けなくなった。
(……まあ、洗えるし、いっか……)
座ったまま温かなお湯にうたれていると、キュッと音がしてシャワーが止まる。次の瞬間にはタオルで包まれ、長い腕に抱えられていた。
「まったく、湯冷めするぞ」
幼な子のように優しく拭かれて、バスローブを着せられ、身体がまたふわりと浮いた。気がつけばシーツの上に寝かされていた。
(ふわぁ、おやすみ、なさい……)
手のひらに感じるコットンの柔らかさと、背中に感じるベッドの感触に、寝心地最高~と重いまぶたが自然と閉じる。遠ざかる意識の外で、ララバイのような低い声が聞こえる。
「寝てしまったのか……仕方ないな」
枕元のテーブルでスマホが、コトンと音を立てた。
「……帰国した途端、スゴイ拾い物だ。さて……」
「おやすみ」と髪を優しく撫でられると、静かな衣擦れの音が遠ざかっていく。
しばらくして耳慣れたパソコンの起動音が聞こえると、一緒にいてくれるんだ……と、胸に温かな安心感が広がった。
そして突然襲ってきた眠気に誘われるまま、花乃はスーと寝息を立てたのだった。
やけに静かだ。いつもと何かが違う。
予感めいた胸騒ぎに、目をゆっくり開いた。
何だかふわふわした気分で、とても心地がいい。
(……真っ暗? ――でも、綺麗……)
横を向くと枕元から見えるロマンチックな街明かりに、ふわんとした夢心地のまま見惚れる。
そのままベッドでウトウトしていたのだが、やがて喉が渇いてきた。
「よいしょっと、水は……」
ゆっくり起き上がると、視界に入るのは見たことのない部屋。いや、見覚えがあるような、ないような……
全身で感じる浮遊感に、花乃は自分が夢を見ているのだと思った。
(確か……こっちのテーブルの上に、お水のボトルが……)
頭に残るかすかな記憶を頼りに、危なげな足運びで移動する。ベッドルームから見えた居間のような部屋まで来ると、ソファー前のローテーブルにお目当てのボトルがあった。
求めていた水を手にして、ボトルから一口、二口、コクンと喉を潤す。
(ふわぁ、おいしい)
ほんの少しだが、平衡感覚が戻ってきた。
だけど頭はちゃんと働かず、足元もまだおぼつかない。部屋をボーッと見渡した目が、見慣れないものを捉えたような気がして、一度素通りしたソファーに視線を引き戻す。
なんと、そこには長年想い続けた一樹本人が寝ている。
(うわぁ……なんてラッキーな夢。あぁもう、寝顔も、スッゴクいい……)
色褪せない記憶の姿を、そのまま大人にしたスマートな容貌に、思わず見惚れた。
花乃は屈み込んで、その額にかかる柔らかな前髪を愛おしそうにかきあげた。
(やっぱり……すごい好き。なんて幸せ……)
初恋の人は、彼が高校生だった頃も言葉にできないくらい大好きだった。ましてやこんなに成長した大人の姿を見ていると、心の奥が一層深く震えてくる。
柔らかい髪を指先で梳きながら幸せ気分に浸っていると、目の前にある長い睫毛がゆっくり持ち上げられた。
綺麗な瞳が真っ直ぐこちらを向く。
「どうした?」
(うわあ、声まで深みがある……なんかクる――)
記憶に残る声よりいくぶん低めで深みが増した掠れ声が静かな部屋に響くと、胸をズクンと射抜かれた。
「……こんなところで寝てたら、カゼをひいちゃうわ……」
「ああ、気にしないでいい」
「……ダメよ、ベッドに……」
気のおけない懐かしい感覚が嬉しくて、心からの笑顔になる。
そう、夢だからこそ、わだかまりなく二人は普通に会話している。……そう思いつつ、我慢できず指先でその頬に触れてみた。
彼の温もりが肌を通し、心にまで伝わってきて、急にキスをしたくて堪らなくなる。
夢ならば、きっと――……
花乃は、「だが……」と言いかけた愛しい唇に、ゆっくり近づいてそっとキスをした。
「ん……」
一樹と交わす初めてのキス。なのに、ためらいはない。
柔らかい唇は離れがたくて、戯れるように甘噛みをすると、なんとも言えないしっとり感に心が舞い上がる。
花乃から突然仕掛けられたキスに、彼は驚いたように目を見張った。
その呆気に取られた顔が面白くて、悪戯っぽく彼の唇をぺろりと舌先で舐め上げる。
すると、その見開いた瞳が優しく和んだ後、長い腕に引き寄せられた。
「――分かった」
鼓動が跳ね上がると同時に、唇がそっと重なってくる。
彼からキスをしてくれた!
心が嬉しさでいっぱいになる。沸騰する前のお湯のように、ふつふつと小さな気泡が身体中から湧き上がってくる。
(あぁほんと、なんていい夢なの……)
温かい唇にウットリ目を閉じた。
こんな風に一樹とキスを交わすのを、ずっと……夢見ていた。
もっと触れたい。それにもっと触れてほしい。
じっとしていられなくて、身を起こす彼の首に腕を回すと、髪を弄り深いキスへと誘い込む。すると彼は顔の角度を変えながら、花乃の要求に進んで応えてくれる。
もっと近くに……と擦り寄っているうちに、身体はいつの間にか彼に組み敷かれていた。
「う……ん……」
全身で感じる彼の重み。それが嬉しくて、堪らない。
体温が触れ合う幸せな感触に甘く酔いしれ、気持ちいい……と、何度もキスを交わした。
やがて二人は同時に唇をチュッと離し、しばらく見つめ合う。
(すごいこの夢、なんというありがたい過剰サービス……)
肌に感じる温かい体温。熱い息遣いや、ドキドキする心臓の音まで……なんて素晴らしいのだろう。
現実ではありえないと、花乃は有頂天になる。
想いを込めつつ見つめ返しても、最後の記憶のようにあからさまに目を逸らされたりはしない。それどころか、目の前の彼は愛おしそうに微笑み返してくれる。
まるであの頃、二人だけで過ごした時間が戻ったみたいだ。
忘れもしない、この嬉しそうな表情――夢のまた夢だと分かっていても、愛おしさが溢れて止まらない。
自分から会うことは決してない。そう思っていただけに、嬉しさと切なさで泣きそうになる。
すると彼は、おもむろに身体を離し立ち上がった。
(っ――! やっぱり……夢でも去っていく、のね……)
突然消えたその温もりに、胸が痛くなる。仕方ないと諦めるしかない……
だけど、立ち去ると思われた彼は屈み込んできて、その長い腕で花乃の身体を抱き上げた。
そのまま、大きなベッドに運ばれる。
どうやら彼はまだ一緒にいてくれるらしい。
力強く歩みながら悪戯っぽい瞳で笑いかけられると、うわぁと全身が歓喜した。思わず昔のように「一樹さん」と愛しい名を呼んでしまいそうになる。
この至福の夢の中では、彼がなぜか自分を女性扱いしてくれている。
そしてこのまま夢を見続ければ、キス以上のコトまでしてくれるかもしれないと、淡い期待で胸が膨らむ。
たとえ幻でも、極上に甘い夢の中で、一度でいいから愛されてみたかった。
(だけど呼びかけたら、目が覚めてしまうのかも……)
ぼんやりした思考でそう結論付けた花乃は、喉まで出かかった声を呑み込む。
代わりに、やんわりベッドに下ろされると、彼の瞳を見つめて笑いかけた。どうしても彼に触れてほしくて、おずおずとすでにはだけていたバスローブの紐を解いていく。
「……なんて、可憐な花に――」
静寂な闇に秘めやかに響く甘い囁き。そのどうしようもなくセクシーな声に、身体中がゾクリと騒めいた。
(ああ、このまま……)
覚めないで、とわなないた途端に、目を細めた彼がローブを脱いで覆い被さってきた。
その引き締まった身体に赤面しながらも、待っていたとばかりに両手を伸ばす。すると彼は手を取って優しく握り締め、手のひらに顔を寄せるとチュッとキスを落とした。
丁寧なその仕草の中にも、彼の秘めた情熱が伝わる。
ドキンドキンと高鳴る胸は大きな手に包まれ、漏れそうになる声を誤魔化すように瞬きをした。だけど膨らみを優しく捏ねるように揉まれると、思わず「んん……」と艶っぽい吐息が漏れる。
彼は顔を花乃の胸に近づけると、ツンと尖ってきた蕾をそっと摘んだ。たちどころにジンときて、身体が大きく震える。
「……敏感だな」
胸元で響く、低く抑えた声。指の腹でキュッと先端を強く擦られると、ジリジリとくすぶる心の中まで、どろりと溶けた熱が浸透してくる。
堪らず「ぁ、ん……」と身体を震わすと、たちまち唇が重なった。わずかに開いた隙間から彼の舌がスルリと侵入してくる。いきなりのことに驚いたのはほんの一瞬で、すぐ夢中で舌を絡ませた。
(――お願い、たくさん触って……)
心からそう思える人とのキスは、煽るのも煽られるのも堪らなく気持ちがいい。
……もっと深くに、もっと奥まで入ってきてほしい。
口内を探り、舌を絡ませては、貪欲に貪ってくる彼が愛おしくてしかたない。
大きな手で胸や脇腹、背中まで優しくなぞられると、触られてもいない足の間が熱っぽくジンジンと疼き出した。
抗いがたい衝動に突き動かされ、腕を回し柔らかい髪に指を絡める。
(あぁやっぱり、大好き……)
深いキスを繰り返すあいだに、彼の長い睫毛が軽やかに肌を撫でてくる。
そのかすかに触れる感覚がくすぐったい。
心はグズグズに溶け、身体はビクンと震えっぱなしで、口端から甘い唾液が溢れ出す。
すると彼は流れ出た唾液を美味しそうに舐めとり、そのまま流れを辿った。耳の後ろにまで舌を伸ばされて、熱い息が耳たぶにかかる。
「甘い……」
尖りをより強くクニクニと擦られて、甘く切ない刺激に身体がピクンと反応した。敏感な先端に熱い息がかかる。
(あ……)
恥じらった拍子によじれたシーツに指先が食い込んだ瞬間、甘い電流がピリリと背中まで駆け抜けた。
「ふぁっ……ん……ぁ……んっ……」
強く吸い付かれるたびに、まるで胸に芯が通ったみたいに中心が疼く。
無意識のうちに背中が反って、わずかに開いた唇からは、か細い喘ぎ声が漏れた。
「可愛いな、もう俺の印がついてる」
カプリと軽く噛まれて、一層色づく尖りは周りまで唾液まみれだ。
彼はそのまま胸に顔を埋めると、ピンと立った蕾を吸い続ける。ちゅく、ちゅくと淫らに響く水音に花乃の喘ぎ声が重なった。永遠にも感じる快感が、胸から波状に広がっていく。
甘く切ない息苦しさに、彼の頭を抱え、震える指先を柔らかな髪に埋めた。するとその動きに合わせるように、柔らかい舌で敏感な先端をさらに弾かれる。
「ふぅ……んっ……んんっ」
一際大きな快感が押し寄せてきた。身体が熱い――彼の頭をかき抱きながら身悶えする。
目尻も中心も濡れてくるのに、彼を求める心はますます渇く。
この、どうしようもなくウズウズする身体を彼で満たしてほしい……
追い詰められた花乃は、夢中で硬い身体に足を絡めて腰を押し付けた。
「……堪らないな」
彼も腰をぴったり押し付けてくる。
熱い塊に下腹部をグイグイと押されて、その熱さや硬さをモロに肌で感じた。彼はすでに何も身につけてはいない。けれど羞恥心以上に、その大きな手で最後の布切れを脱がされるのが待ち遠しい。
彼の悪戯な唇や熱い吐息、手で触られるどこもかしこも、すべてが気持ちいい……
ふと好奇心に促され視線をゆっくり下にずらすと、花乃の全身がカッと熱を帯びた。
「ぁん……」
足の間がずくずく大きく疼いて、思わず甘い吐息と共に艶のある声を漏らした。
「ん……いい声だ……」
彼は心から嬉しそうにフッと笑い、腰をゆっくり動かす。硬い彼自身をわざと花乃に擦り付けられると、その灼熱に触れてみたいという欲求が湧き上がる。
頬がみるみる紅潮するけれど、乙女の恥じらいもやはり好奇心には勝てなくて。花乃の中に入れてほしいとその存在を主張する屹立を、そっと手のひらで包み込む。
(すごい、熱くて硬い……)
滑りのよい先端部を、指先で撫でてみる。
濡れてくる感覚を楽しむように優しく触れていると、「そんなに煽るな」と抑えた熱い息が耳を掠めた。そして大きな手が足の間へと侵入してくる。
ひゃあ、そんなトコロを、と思ったものの、自分も彼の大事なトコロを撫で回しているのだ。
ものすごく恥ずかしいと訴える羞恥心を無視し、勇気を振り絞って彼の指を受け入れるために少しだけ足を広げた。
身体はすでにヌルヌルに濡れそぼっている。
花乃はクチュ、クチュとはっきり聞こえてくる水音に、耳まで真っ赤になった。
優しく触れてくる指が蠢くたびに、甘い愉悦で身体が震える。温かい愛液がますます溢れ出る。
「ん、んんっ……ぁ……んっ」
ウズウズする胸の頂を再び唇に含まれると感じすぎてしまって、快感を逃がすように上半身をよじった。蜜口からはさらに愛蜜が溢れ、彼の指をぬらぬら濡らす。花乃の膨らんだ花芽をぬめった指先が何度かこすると、「十分濡れているな」と満足そうに彼が熱い息を吐いた。
(なんて、熱い目をしているの……)
敏感な花芽を弄られて身体を震わせる花乃の瞳をじっと捉える彼は、目を逸らすことさえ許さない。
そんな強い光を宿す瞳に魅了されていると、膝の裏を抱え込まれた。
そのまま身体を開かれ、思い切り押し広げられる。
「抱くぞ……」
「あ……っ……」
待ちきれないといった様子で、滑らかな先端が確かめるように、グチチュと蜜口に侵入してきた。
ググッとくる強い圧迫感と、いよいよ彼に……という興奮を抑えきれず、背中に回した指先に自然と力が入る。
(大丈夫、だって大好きな一樹さんだもの……)
そう思った瞬間、力がフッと抜けた。睫毛を震わせ自然と目を閉じる。
そして一気に身体を灼熱の硬直に貫かれた。
「っ……」
身体が灼けつくように熱い――!
鋭い痛みに悲鳴を上げそうになるが、本能的にダメッとすべてを呑み込んだ。
けれど、目尻からは抑えきれなかった一筋の涙がはらりとこぼれ落ちる。
「くっ、……こら、もう少しだけ緩めてくれ」
優しい手に頭を愛しむように抱えられ、指先で髪を撫でられた。
(よかった……涙はきっと、見られていない)
不意に、ポトッと素肌に滴り落ちてきた汗の雫で、彼にも余裕があまりないのだと花乃は本能的に悟った。
彼は低い声で、まるで宥めるように優しく名前を何度も囁いてくる。すると、痛みに堪え小刻みに震えていた身体から、ふうと力が抜けてきた。
「ああ、すごくいい……」
感じ入るように告げられると、とても嬉しい。彼が感じてくれている。
彼はすぐには動かず、深く入ったまま、ぐぐっと体重をかけてくる。
だけど、なんてリアルな夢なんだろう……挿入られたままの焼けるような感触に、頭がぼうっとしてくる。
体内に居座る圧倒的な存在を意識させられ、そのせいでさらに感じてしまう。
だが花乃はすべてを受け止めた。
愛しい人に、今抱かれている――それだけで胸が一杯になり、嬉しくて泣きそうになる。
(一樹さん、一樹さん、大好き……)
心の中で繰り返し彼の名を呼んだ。
――痛かろうが、重かろうが、大好きな人に初めてを捧げて優しく抱かれる夢……
たとえ妄想だらけの夢の中でも、愛する人に情熱的に抱かれている。
こんなこと、現実では決して叶うわけがない。
だからこそ、本物のような破瓜の鋭い痛みにさえ感動を覚える。
(なんて素敵なんだろう……)
やがて彼が、ゆっくり腰を動かしてきた。
溢れそうな涙を閉じ込めていた目を、そうっと開くと、そこには情熱を湛えた瞳が揺らめいている。
彼が自分を抱いて興奮している。そればかりか、愛おしそうにこちらを見つめ返してくれる。
心から満足していることがうかがえて、花乃も満ち足りた笑みが自然と浮かんだ。
言葉の代わりに彼を見つめる目に愛おしさを込め、汗ばんだこめかみに手を伸ばす。そして温もりある頬に触れつつ、濡れた瞳でふんわり笑いかけた。
すると彼の顔が急にアップになって、突如顔中に優しいキスの雨が降ってきた。
額に頬、目元にまぶた、そして鼻の頭までチュッと濡らされ、おまけとばかりに柔らかい舌でなぞって舐め上げられる。
最後に彼の唇がやんわり重なると、砕けんばかりにギュウウと強く抱き締められた。
そして、一気に奥まで突き入れられる。
「あっ……は……っ……」
慣れない身体に、鋭い痛みが再び走った。
すぐ抑えきれないといわんばかりの律動が始まる。勢いも激しく、深く浅く穿ってくる。
ズキズキと痛む秘所をかばう暇もなく、腰が砕けそうなほど延々と揺らされ続け、目の焦点が定まらない。
だけどそれは決して、乱暴ではなかった。
まるで長い間離れていた恋人に、もう一度自分を刻み込む……そんな情熱に包まれる。
甘美な攻めに、心も身体も囚われた花乃は細かく震えた。
波のようなリズムで腰を打ち付けられるたびに、身体の奥が痺れ痙攣が走る。
「あっ……ぁ……あぁ……っ」
「くっ、良すぎる、持っていかれそうだ……」
そうされるうちに、痛みはだんだん何か違うものにすり替わり、腰の奥がムズムズと疼いてきた。
花乃の腰が勝手に彼の動きに合わせ、わずかに揺れている。
やがてはその、引いては寄せるリズムに合わせ、大胆にも足を持ち上げ、腰を浮かせて彼を迎え入れた。
ズン、ズンと重量感のある突き上げが、繰り返し奥に届く。そのたびに、わずかな痛みと共に、目眩がするほどの快感が身体を走り抜けた。
(痛いのに、嘘みたいに気持ちいい……)
身体は痺れるように震えっぱなしで、痛いと気持ちいいが甘く混濁してくる。
二人の繋がったところからは、グチュ、グチュと恥ずかしい音が絶え間なく生み出され、さらに大きくなる。力強く突き上げられるたびに花乃の全身から溢れる、〝大好き〟がこぼれ落ちるようだった。腰を掴まれ雄々しい攻めを受ける中、彼が激しい呼吸の合間に自分の名を呼ぶのが聞こえる。
「花乃、花乃……」
まるで愛している、と告白されているみたいだ。
熱く荒い息が髪にかかると、ますます心が蕩け、快感に追い立てられていく。極みはもうそこまできていた。
(あ、ダメ、もう、だめ、こんなっ……一樹さん――っ!)
心の中で彼の名を呼び、すべてを委ね手放した瞬間だった。
身体中が感電したように、背中も腰も大きく震え極まりを迎える。
「あぁぁっ……」
無我夢中で腰をよじった。
そうしながら快感に耐え、シーツをギュウウと握り締めると、背中が反り返り、中がきゅううん、とうねるように締まった。
花乃の甘美な締め付けに、彼は腰を強く押し付け、味わうように硬い屹立を奥深くまでグリグリと埋め込んでくる。
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