In Another World〜異世界で送る新人生〜

勝田美雪

文字の大きさ
1 / 8
森林波瀾篇

運命の悪戯

しおりを挟む
ω

 少女は、獲物を吟味するように"下の穴"を眺めていた。

(違う。こいつじゃない。こいつでもない。なんなのだ。なぜこうも私が求める人間が見つからないのだ。)

 少女はイライラしていた。

(それに、こいつらは一体なんなんだ。よくもまあこんなにウジャウジャと。どのようにしたらこんな集団的な行動を取れるのか。)

 彼らは集団行動をしているわけではなく、個々が群がって群集となっているだけなのだが、少女がそれを知る由もない。

 それは当然だ。

 なぜなら、彼らと少女とでは、言葉通り、住んでいる世界が違うのだから。

 しかし、厳密に言えばそれは理由ではない。

 少女は、そのうちにこの作業がめんどくさくなってきた。

 少女は従者共にこの作業を委託しようとまで考えた。それ程に退屈で面倒な作業であったのだ。

 少女は、有言実行の人であった。約束は守り、一度言ったことは、全て叶えてきた。現実にしてきた。

 少女は、それ程であった。

 しかし、そんな少女が今、「この作業は私がやる」と宣言したのにそれを破棄しようとしている。

 それほどまでなのだ。この、少女が世界を覗くこととは。

 少女が従者共を呼び出そうとしたその刹那だった。

(これだ!こいつだ!まさしく、私が求めていた者はこいつで違いない!!)

 そう。少女はようやく発見することができたのだ。ある1人の人物を。

(さて、さっそくこいつを呼び寄せることにしよう。では、従者共に召喚の儀の準備をさせて……おっとそうだった。今回は私が直接お迎えに行く予定だった。忘れておったわ。では、行くとするか。)

 少女は、そう思い出すやいなや、"下の穴"に飛び込んだ。





 この少女をきっかけとして、世界の歯車は破綻することになる。





 ◇◇◇◇◇

「おい優希。購買でコロッケパンとクリームパン1つずつ買ってこい。今すぐだ。あ、こいつらの分もあるから、3つずつだ。いいな?」

「は、はい!今すぐ!」

 遠藤優希は、いつものように中田健二のパシリにされていた。

(ったく、なんでいつもいつも……)

 正確には、取り巻きが2人、常にいるのだが、そいつらはいるだけで、優希の中では殴ってくるときに加勢するだけの存在になっていた。だから正直どうでもいい。

 僕は、学校が憂鬱でたまらなかった。

 日々繰り返される暴力、恐喝。その他諸々。

 僕は元々気弱な人だった。なので、誰にも、何も言い返すことができなかった。

 しかし、こう長期化すると、話が違う。

 しかも、いじめられるのは2回目なのだ。

 1度目も、僕は我慢していたが、どこからか先生にバレ、それが功を奏したのか、…なんとかなったが、それに懲りない馬鹿どもがあの3人なのだ。


 一度は本当に死んでやろうと考えたことだってあるのだ。

 だって、死んだら今感じてる苦痛を感じないで済むようになるから。

 だがやめた。

 死にたくない、という防衛本能が働いたのだ。いや、それよりも、死んだら奴らに復讐できなくなる、ということの方が先に頭の中に浮かんだ。


 それに……



 なんだかんだあって、今の状況でロックが掛かってしまったのだ。

(一回殴ってやろうか)

 僕は、こんなことを何度も、何度も、何度も何度も考えた。

 しかし、実行には至らなかった。いや、至れなかった。

 なぜなら、自分と健二との間に、明らかな武力差があるからだ。

 それに加え、取り巻きもいる。それに対して、僕には友人と言える人間が学校にほぼおらず、孤独だった。

 復讐したら倍返しどころでは済まないということは理解してしまっていた。



 終礼が終わり、みんな、部活に行ったり帰ったりしているところだった。教室には、僕と健二、健二の取り巻き2人の4人しか残っていなかった。

「おい優希、今日買いたい漫画があるからよぉ。金、くれね?」

 いつものように健二にゆすられていた。

「え?あ、はい。いくらでしょうか。」

 僕は、淡々とした調子で答える。

「んぁん?有り金全部に決まってんだろぉうが!!お前、俺を舐めてんのか!?」

「す、すみません。……では、少ないですが2000円です。」

「おう。たしかにすくねぇが、漫画は買えるわ。サンキューな。じゃ、また明日も『よろしくな?』」

 そう言うと、3人は教室から出て行った。

(少ないのか?2000円って。)

 お前どんだけ金あるんだよ。2000円あったら結構遊べるだろ。とか思いつつ内心で憤怒していた。

 てか金あるなら恐喝とかすんなよ。

 いやそれは無理だわ。



 そして、教室にはいじめられっ子が1人でいるのである。

(本当に今度こそ死んでしまおうか。)

 そう思った。もう金銭的にも、身体的にも、そして何より、精神的に限界なのだ。

 幸い、かどうかは分からないが、この教室は校舎の4階にあり、下はコンクリートで固められている。

 こんなところで落下しようものなら、まず助からないと考えていた。

(もう死のう。僕のことを慕ってくれる人たちには申し訳ないけど、これ以上は耐えられないんだ……)

 心の中でそう唱え、窓のサッシに足をかけたその時だった。



(ダメだ。それは私が許可しない。)

 こんな声が響いた。それも、優希の頭の中に直接。

 困惑した。

(なんだ?僕、精神的に参って、幻聴でも聞こえているのか?)

(幻聴なんかではないわ!!とにかく、死ぬのは待て。)

 と、色々考えているうちに、『声の主』が目の前に現れたのだ。

 僕は観察した。人型ではあるが、何やら翼のようなものが生えている。しかも、人間よりも小さい。身長は1mだろうか。そして、驚きなことに、この声の主は浮遊していたのだ。

 こいつはなんなんだ?幻聴の次は幻覚?訳がわからない。

「良かったぞ。お前が飛び降りて死んでいたら、私の計画が全部パーになってしまっていた。まったく、お前はなんてことをしようとしていたのだ……」

 声の主は、僕の目の前に現れるやいなや、驚くべきことに説教を始めたのだ。

 いや、計画ってなに。

「……ん?え?あ、はい。すみません。」

 これには流石に誰でも戸惑うだろう。幻聴だと思っていたものが、幻覚になったのだから。

 ……いや、そんなことはないか。幻聴や幻覚というものは、自分が勝手に精製するものであって、互いにリンクしている…か。それなら、納得か。と声の主について、勝手に結論づけた。

「お前、まだ私のことを疑っておるな?まあよい。さて、説教はここまでにしておいて。お前には一緒に来てもらうぞ。あ、これは私が決定したことだ。どんな……奴も拒否はできない。良いな?」

 なんで自分はこんな奴を想像したんだ?

 そして、優希はもっとこの存在について考えることにする。

 …………あ、そうか。こいつを作ったのは、こいつの言う通り、死ぬな、ということか。僕は死のう死のうとは考えていたが、やはり生存本能には勝てなかった。

 そして、そのストッパーとしてこいつを無意識に作った、のか。

 そう解釈することにした。ほかの意味不明な言葉は無視して。そうしなければ、頭の中はパンクしていただろうから。

「お前、なにか反応を見せんか。あー、お前まだ錯乱しておるのか。まあ仕方あるまい、か。」

「お前こそさっきから何を言っているんだ?一緒に来いとかって。どこに行くんだ?家か?」

「あぁそうだ。私の『おうち』だ。」

「そうか。家か。なら、今から俺も帰るところだから、いいよ。一緒に行く。」

 この時、優希はこいつは幻覚で、自分が作ったものだ。こいつの言う『おうち』は自分の『家』だろう、ととてつもなく短絡的に考えていたのだ。

 しかし、それはすぐに過ちであったと証明される。

「よし!!よく言った!!!!では、《転移魔法》空間翔転移(テレポート)を作動させようぞ。」

 声の主がそう言うと、優希の体の周りは青白い光で包まれた。

「は?え?おい、……え??いや、まって……」

 優希が躊躇うことも許さず、《転移魔法》空間翔転移(テレポート)は作動された。

 優希は、転移中、ますます訳がわからなくなった自分の頭を整理することにした。

 しかし、そんなことは有象無象が飛び交っているこの混沌とした空間の中では、不可能に近かった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

処理中です...