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第26話 ケイたちにスイーツを振舞います
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「ユリクー! カナメー!」
サナさんが来てから数週間。
お店は繁盛し、毎日行列ができるようになった。
サナさんのように病気を治してくれ! という人があまり来ないように、メニューの表紙に『ここは病気を治す場所ではなく、食事を楽しむ場所です』と書いておいた。
なぜなら、テトくんを治したという噂でサナさんのような人を何人も相手にしたら疲れるし、ここは病院じゃないし、私の力が王都に知れ渡って実験でもされたら最悪だからだ。
テトくんを治したことは少しだけ噂になっていて、サナさんが来てからあまり日が経ってないときはおじいちゃんやおばさんが「風邪を治してくださいよぉ」って来たりしたけど、私はいつもこう返していた。
「私は医者じゃありません。ここはカフェです。病院ではありません。病院に行ってください」
と、私が言うと大体みんな病院に行く。
「どうしても~」と言う人もいたが、「病院に行ってください~♡」とドアを閉めて断れば渋々病院に行く。
それを繰り返していたら、いつも通り純粋にチョコレート菓子を食べたいお客さんで賑わうようになった。
メニューの表紙に書いた注意書きは保険だ。
サナさんも次からは普通にスイーツを食べにくると言っていたし、普段通りのお客さんが来てホッとする。
今日開店一番にやってきたのは、うさ耳をぴょこぴょこと揺らすケイと、ケイにくっついているルットだった。
「ケイ、ルット! 来てくれたの? ありがとう」
「ああ、この頃店が忙しくて疲れててさ。久々に甘いもの食べて癒されようと思って」
「二人とも、どうぞ、こちらの席へ」
ユリクが二人を庭のテーブルに促す。
今日は天気が良いから、テラス席は外の澄んだ空気が吸えてすごく良いだろう。
実際に席に座ったケイは気持ち良さそうにうんと背伸びをしていた。
「メニューはどうされますか?」
ユリクがメモを持って聞くと、ルットはメニューをぱらぱら捲って「どうしようかなぁ」と唸る。
「じゃあ、このざっはとるて? を頼もうかな」
「かしこまりました。一つでよろしいですか?」
「一つでいいか? ルット」
ルットがメニューを両手で広げながら、俯きがちに頷く。
「うん。カナメが作ったものって、美味しいんですか? 僕はなるべく人間の作ったものは食べたくないです」
「カナメが作ったスイーツは美味しいよ。絶品だよ? ほっぺとろけちゃうよ?」
「むむ……」
ルットの言い分にユリクがからかうような笑顔で答えた。
ルットはむすっと頬を膨らませユリクを睨むが、ユリクはその程度の睨みでは笑顔を崩さない。
口ではそう言っているが、ルットの尻尾はぶんぶん左右に揺れている。
……興味はあるのかな?
「カナメが作ったスイーツは美味しいって村でも評判だろう? 一緒に食べようよ」
「む、ケイがそう言うなら……でも人間が作ったものは……」
ルットの心が揺れているのが、犬耳で示されている。
モフモフの犬耳は、垂れたりぴんと立ったりと忙しく、私はとてつもなく触りたい衝動に駆られた。
絶対、柔らかくてモフモフしてるんだろうなぁ。
……でもこないだ断られてるし。ルットの心が打ちとけない限りダメだよね。
どうやら人間が作ったものも食べないらしいし、よほどの人間嫌いなんだろうな。
けど食べて欲しい……! 頑張って作るから……!
「……やっぱり僕は、食べませ――」
「え~? 食べないの? こんなに美味しいスイーツを? もったいないなぁ。一度食べたら止まらないカナメの絶品スイーツを食べないなんて」
「……っ! わかりました、食べます!」
「ザッハトルテを二つですね、かしこまりました。カナメ、ザッハトルテ二つだって」
聞こえてますよ、すぐ隣にいるんですから。
ルットがぐぬぬ……とでも言ってそうな顔で私を睨む。
え? いや、頼まされたのは私のせいじゃないですからね?
そこに笑顔で立っている銀髪のお兄さんだと思うんですが……。
ザッハトルテは作るのに手間がかかるため、作り置きをしてある。
スポンジにアプリコットジャムを乗せ、チョコレート液をかけて、固めて切り分ければ完成だ。
私はキッチンへ急ぎ、一回だけケイたちの方を振り返ると、ルットが興味津々にメニューを見て尻尾を振っているのが見えた。
きっとザッハトルテの写真を見ているのだろう。
私はふふ、と一人で笑って、冷蔵庫からザッハトルテのスポンジ生地を取り出した。
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