婚約破棄されて田舎に飛ばされたのでモフモフと一緒にショコラカフェを開きました

翡翠蓮

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第35話 お父様に真実を話します

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「……? なんだ?」

 私がお父様を真剣な表情で見つめる傍ら、後ろからユリクの視線が刺さるのを感じた。

 私は少しだけ振り返ろうとしたけど、何を言えばいいかわからなかったし、お父様と話をつけたいからやめておく。

 私は小さく深呼吸をし、お父様にあのときのことを話し始めた。

「お父様は、殿下の話がそのまま伝わったため、私のみが一方的に悪者にされてしまったのだと思います」
「……どういうことだ?」

 私は婚約破棄されたときのこと全てを私の視点で話した。

 まず、私は殿下の婚約者だということを学院のみんなが知っていて、当然ベルローズも知っているのに殿下にお近づきになったこと。

 朝も昼休みも帰宅の時間も、ベルローズは暇があれば私を押し退けて殿下と話していたこと。

 殿下も殿下で、「あんな婚約者より、君が婚約者の方がいい」とまで言っていたこと。

「殿下はそんな発言をしていたのか?」
「ええ。昼休みの時間、よくベルローズ様とそう話しているのをお聞きしました」
「……」

 お父様の表情が曇っていく。

 私は続けて話した。

 婚約破棄をされた原因——私がしてきたという嫌がらせだ——は、身に覚えがないものだということ。

 私がベルローズのドレスを踏んでしまったのは、社交ダンスの授業。
 彼女が足をもつらせ先に私のドレスを踏み、つまずいてしまった私がベルローズのドレスを踏んでしまった。
 何度も謝ったが、全て無視されたことも。

 ベルローズの悪口を言っていたのは、私の取り巻き。
 私が殿下の婚約者なのに、ああやって手を出すのは常識外れだ、という間違っていない話だったということ。

 魔術の授業で私がベルローズを殺そうとなんてしていないこと。
 対戦した際、私とベルローズの魔力は私の方が全然上で、それに嫉妬したのかベルローズが私の胸に氷の刃を向けて投げてきたこと。

 授業のため防具を身に着けていようと、怖かったため自分の魔法で跳ね除けたら、それがベルローズの足元に突き刺さってしまっただけだということ。

「それが、事実なのか?」
「はい。悪口は私の取り巻きの方に確認を取ればいいですし、魔術の授業はどなたかが見ていたはずです。こちらが本当の出来事になります」

 お父様はぷるぷると握っていた拳を震わせ、無表情だった顔が怒りの形相に変わっていた。

 その顔は、私に怒ったときよりも遥かにやばい気がする。

「ベルローズは、何の罪もないお前を、あたかも罪があるかのようにでっちあげ、婚約破棄にまで追い込んだというわけか」
「……そうですね。そうなります。殿下も運命の相手を見つけた、と騙されていたご様子でしたし……。それなのにベルローズ様が身勝手すぎるから婚約をもう一度、と言われましても、困ります。婚約はしないということでよろし——」
「当たり前だ。そのような殿下とお前を婚約させたりしない」
「……!?」

 てっきり婚約しろと言うかと思ったら、私が言い終わる前にお父様は却下した。
 お父様は私が持っていた殿下からの手紙を乱暴に破る。

 紙屑となった手紙が地面にはらはらと落ちた。

「お、お父様……?」

 お父様は私を無視して懐から便箋を取り出し、ペンでさらさらと何かを書き出した。
 ひたすら便箋に何かを書いている。
 表情が鬼のようなので、私は声もかけられずその姿を見守った。


 十数分後、お父様はその便箋を丁寧に折りたたみ、封筒にしまった。
 それを後ろに控えていた護衛に渡す。

 渡す際に、お父様が私をちらりと見て訊いてきた。

「この村は馬車は借りられるか?」
「あ、ええ。村役場に聞けば金貨十枚ほどで借りられるかと……」

 お父様は護衛の方に顔を向ける。

「伝令だ。この手紙を国王陛下に渡してくれ」
「国王陛下に、ですか?」
「ああ。頼む」
「……かしこまりました」

 護衛は頭を下げると、手紙を懐に入れて役場の方へ走って行ってしまった。

 私はお父様が何をしたのか気になって、「お父様」と呼ぶ。

「何を手紙に書かれたのですか?」
「決まっているだろう、先程シェイラが言った婚約破棄の事実と、婚約は断る旨を書いただけだ」
「え……」
「シェイラがどれだけ殿下にふさわしい人間になるために苦労したのかも、書いておいた。なのにでっちあげた罪で婚約破棄され、さらに再び婚約を求めることの浅ましさもな」

 お父様、やりすぎじゃ……。

 しかも、伝えるのも殿下ではなく国王陛下だ。
 ただでは済まされず、二人とも重い罰を受けそう……。

 でも、きっとそれは当然の罰なんだろうな。
 もし二人に必死に謝られて無罪にしてくださいと言われても、全部無視することにしよう、うん。

私が苦笑いを浮かべていると、お父様は「シェイラ」と小さな声で呼んだ。

「……?」
「……すまなかった。あのとき一方的に怒ってしまって。大事な一人娘だというのに、私はお前の話を全然聞いてやれなかった」
「お父様……」

 珍しく顔を歪めて目を伏せ、反省しているのか胸に手をあてている。
 申し訳ない、とお父様は頭を下げた。

「そんな……頭を上げてください、お父様」
「今までお前とこういったコミュニケーションが取れていなかった。本当に、すまない」

 お父様が頭を上げ、まっすぐ私を見る。
 その表情は、いつもよりどこか柔らかくて、優しいものだった。

 さっき言ってくれた「大事な一人娘」という言葉が再び私の胸に届く。
 お父様はいつも無口で私が質問しても会話を広げてくれなかったけど、本当は私を大切にしてくれているのだろうというのが伝わってくる。

 胸がぽかぽかと温かくなって、私は自然と笑みを浮かべていた。

「だから——」
「……え?」

 だけど、次に向けられた台詞は衝撃的なもので、私は目を見開いてしまった。


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