婚約破棄されて田舎に飛ばされたのでモフモフと一緒にショコラカフェを開きました

翡翠蓮

文字の大きさ
46 / 64

第46話 チョコレートパンケーキ

しおりを挟む

「あ……」

 なんて言えばいいかわからなくて、私はその場で固まってしまう。
 そんな私をじっとお父様が見ている。
 これは……席を案内しろってことだよね?

 ちょうどお客さんが会計を済ませ、帰って行ったのでユリクがテーブルを綺麗に拭いているところだった。

 拭き終わったタイミングで、お父様を席に促す。

「では、こちらにどうぞ」

 ユリクがどっしりと椅子に座るお父様を見てぎょっとした。

 お冷を出したあとにユリクが「どういうこと?」と耳打ちしてくる。
 そうだ、ユリクには伝えていなかった。

 私はメニューを読んでいるお父様を後目に、こそこそと話す。

「この村に帰ったとき、お父様を説得したって言ったでしょ。説得したときに、そこまでして村に戻りたい理由を知りたいって言って、今度うちの店に来るって言ってたの」
「もっと早く言ってよ……」
「大丈夫大丈夫、いつも通り振る舞えばいいから!」

 ユリクはこないだお父様に睨まれたことを忘れられないのか、かなり困った様子だった。
 差別発言もされていたし、距離を置くのも当然だろう。

 私とユリクが話していると、お父様が手を上げてオーダーの合図をした。

 同時に他のお客さんからも注文が来たため、ユリクが他のお客さんの対応をし、私がお父様の対応をすることになる。

「ご注文は?」

 お父様が気難しそうな顔でメニューを見て、指をさす。
 普段甘いものをあまり摂取しなさそうなお父様が指で示したものは……。

「チョコレートパンケーキを一つ」

 めちゃめちゃ甘いものであった。

「かしこまりました」

 一礼して、私はキッチンへと急ぐ。

 あの無表情で常に何を考えているかわからないお父様が、パンケーキを食べるところなんて想像につかないけど……でもメニューからどれがいいか選んで、頼んでくれたのは嬉しい。

 誠意をこめてめいっぱい美味しいパンケーキを作ろう、と私は調理に取りかかった。

 パンケーキはさほど時間がかからないため、仕込みはしていない。
 しかし、この忙しいときに仕込みをしていなかったなんて……と若干後悔した。

「悔いても仕方ないよね、速攻で作っちゃおう」

 まず全卵、牛乳を混ぜ、ベーキングパウダー、小麦粉、ココアパウダーをふるう。
 ふるった粉に混ぜた全卵と牛乳を少しずつ加えてダマがなくなるまで混ぜる。

 混ぜ終わったら、ボウルに卵白と塩を入れ、途中で砂糖を加えながらひたすら混ぜる。
 ここが一番時間を食うので、手が痛くなっても止めず、必死に混ぜていく。

「……うん、このくらいかな」

 しっかり角が立つメレンゲが出来上がった。

 そしたらそのメレンゲと先程の生地、細かく刻んだチョコレートをゴムベラで混ぜる。

 うん、もったりした美味しそうな生地ができた。

 フライパンにバターを入れてじゅわっと溶かし、生地を流し入れる。
 一応パンケーキのリングを買ってあるので、それに生地を入れ、両面に焼き色がつくまで焼く。

 チョコレートが焼ける香ばしい匂いがしてきて思わず一口食べてしまいたくなるが、お客さんに提供するものなので食べちゃダメ、と頭を振った。

「よし!」

 分厚いパンケーキを皿に盛ると、ぷるぷると生地が左右に揺れた。
 表面に粉砂糖をふりかけ、チョコレートソースを垂らし、皿の横に生クリームと色とりどりの果物を添える。

 最後にメイナの葉を上に飾って、完成だ。

「お父様、喜んでくれるかなぁ」

 揺れるパンケーキを崩さないよう慎重にお父様の席へ運んでいく。

 パンケーキを見ながら、ちらっとお父様の席を見ると——

「おじさんもここのチョコレートクッキー食べなよ!」
「美味しいよ!」
「おじっ……むぐ!?」

 獣人の子供たちに、無理やりチョコレートクッキーを食べさせられているところだった。

 子供たちは獣耳や尻尾を動かしながら、躊躇なくお父様を「おじさん」と呼び、躊躇なくクッキーを食べさせ、感想をまだかまだかと待ち続けている。

 お父様は咀嚼して嚥下したのち、子供たちに言った。

「……美味しい」
「でしょー!」

 子供たちが尻尾を揺らして満足気に応える。

「『カナメ喫茶』のスイーツは絶品なんだよ!」
「美味しくて、しかも元気になっちゃうの!」
「……そうか」

 テーブルに手をついて子供たちが高い声で喋ると、お父様は優しい目で相槌を打っていた。

「も~、レイト、ミリト。まだクッキー食べてる途中でしょ」

 獣耳が生えた母親が、子供二人の手を引っ張って席に戻す。

 私はその光景を見てふふ、と微笑みお父様のテーブルにパンケーキを置いた。

「お待たせいたしました、チョコレートパンケーキです」
「……ああ、ありがとう」
「飲み物とか頼まなくて、大丈夫でしたか?」
「じゃあ、食後にコーヒーを」
「かしこまりました」

 一礼してお父様の席から離れようとすると、「カナメー!」とルットたちがやってきた。

 二人はスイーツを食べ終わったらしく、これから帰るところだった。

「また来るからな! 今日も美味しいスイーツをありがとう!」
「……ふふ、うん」

 私にぶんぶんと手を振ったあと、ユリクがいる会計の方に行ってしまった。

 そのやりとりを見て、お父様がくすりと笑いを零す。

「え……?」

 お父様に視線を移すと、確かに笑っていた。

 それは何の怒りも持っていない、ただ優しくて穏やかな表情だった。

 今までに見たことない柔和な瞳で遠くを見つめる。

「シェイラの言っていた通りかもしれない」
「え?」
「ここにいると、何故獣人を差別していたのか、疑問に思えてくるな……」

 お父様はそう言って、静かにパンケーキを切り分けた。
 そしてゆっくり口に含み、咀嚼する。

「……ああ、美味しい」
「……良かった」

 無表情だった顔は綻び、パンケーキを口に運んでは楽しく喋っている獣人たちを見つめ、幸せそうな笑みを浮かべていた。

 美味しいという言葉も、その前の言葉も嬉しくて、私は次のオーダーが来るまでお父様の傍で和やかな時間を少しだけ過ごしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠
ファンタジー
 聖女見習いのロルティ(6)は、五月雨瑠衣としての前世の記憶を思い出す。  異世界から召喚された聖女が、自身を虐げてきた前世の姉だと気づいたからだ。  彼女は神官に聖女は2人もいらないと教会から追放。  迷いの森に捨てられるが――そこで重傷のアンゴラウサギと生き別れた実父に出会う。 「絶対、誰にも渡さない」 「君を深く愛している」 「あなたは私の、最愛の娘よ」  公爵家の娘になった幼子は腹違いの兄と血の繋がった父と母、2匹のもふもふにたくさんの愛を注がれて暮らす。  そんな中、養父や前世の姉から命を奪われそうになって……?  命乞いをしたって、もう遅い。  あなたたちは絶対に、許さないんだから! ☆ ☆ ☆ ★ベリーズカフェ(別タイトル)・小説家になろう(同タイトル)掲載した作品を加筆修正したものになります。 こちらはトゥルーエンドとなり、内容が異なります。 ※9/28 誤字修正

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...