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第46話 チョコレートパンケーキ
しおりを挟む「あ……」
なんて言えばいいかわからなくて、私はその場で固まってしまう。
そんな私をじっとお父様が見ている。
これは……席を案内しろってことだよね?
ちょうどお客さんが会計を済ませ、帰って行ったのでユリクがテーブルを綺麗に拭いているところだった。
拭き終わったタイミングで、お父様を席に促す。
「では、こちらにどうぞ」
ユリクがどっしりと椅子に座るお父様を見てぎょっとした。
お冷を出したあとにユリクが「どういうこと?」と耳打ちしてくる。
そうだ、ユリクには伝えていなかった。
私はメニューを読んでいるお父様を後目に、こそこそと話す。
「この村に帰ったとき、お父様を説得したって言ったでしょ。説得したときに、そこまでして村に戻りたい理由を知りたいって言って、今度うちの店に来るって言ってたの」
「もっと早く言ってよ……」
「大丈夫大丈夫、いつも通り振る舞えばいいから!」
ユリクはこないだお父様に睨まれたことを忘れられないのか、かなり困った様子だった。
差別発言もされていたし、距離を置くのも当然だろう。
私とユリクが話していると、お父様が手を上げてオーダーの合図をした。
同時に他のお客さんからも注文が来たため、ユリクが他のお客さんの対応をし、私がお父様の対応をすることになる。
「ご注文は?」
お父様が気難しそうな顔でメニューを見て、指をさす。
普段甘いものをあまり摂取しなさそうなお父様が指で示したものは……。
「チョコレートパンケーキを一つ」
めちゃめちゃ甘いものであった。
「かしこまりました」
一礼して、私はキッチンへと急ぐ。
あの無表情で常に何を考えているかわからないお父様が、パンケーキを食べるところなんて想像につかないけど……でもメニューからどれがいいか選んで、頼んでくれたのは嬉しい。
誠意をこめてめいっぱい美味しいパンケーキを作ろう、と私は調理に取りかかった。
パンケーキはさほど時間がかからないため、仕込みはしていない。
しかし、この忙しいときに仕込みをしていなかったなんて……と若干後悔した。
「悔いても仕方ないよね、速攻で作っちゃおう」
まず全卵、牛乳を混ぜ、ベーキングパウダー、小麦粉、ココアパウダーをふるう。
ふるった粉に混ぜた全卵と牛乳を少しずつ加えてダマがなくなるまで混ぜる。
混ぜ終わったら、ボウルに卵白と塩を入れ、途中で砂糖を加えながらひたすら混ぜる。
ここが一番時間を食うので、手が痛くなっても止めず、必死に混ぜていく。
「……うん、このくらいかな」
しっかり角が立つメレンゲが出来上がった。
そしたらそのメレンゲと先程の生地、細かく刻んだチョコレートをゴムベラで混ぜる。
うん、もったりした美味しそうな生地ができた。
フライパンにバターを入れてじゅわっと溶かし、生地を流し入れる。
一応パンケーキのリングを買ってあるので、それに生地を入れ、両面に焼き色がつくまで焼く。
チョコレートが焼ける香ばしい匂いがしてきて思わず一口食べてしまいたくなるが、お客さんに提供するものなので食べちゃダメ、と頭を振った。
「よし!」
分厚いパンケーキを皿に盛ると、ぷるぷると生地が左右に揺れた。
表面に粉砂糖をふりかけ、チョコレートソースを垂らし、皿の横に生クリームと色とりどりの果物を添える。
最後にメイナの葉を上に飾って、完成だ。
「お父様、喜んでくれるかなぁ」
揺れるパンケーキを崩さないよう慎重にお父様の席へ運んでいく。
パンケーキを見ながら、ちらっとお父様の席を見ると——
「おじさんもここのチョコレートクッキー食べなよ!」
「美味しいよ!」
「おじっ……むぐ!?」
獣人の子供たちに、無理やりチョコレートクッキーを食べさせられているところだった。
子供たちは獣耳や尻尾を動かしながら、躊躇なくお父様を「おじさん」と呼び、躊躇なくクッキーを食べさせ、感想をまだかまだかと待ち続けている。
お父様は咀嚼して嚥下したのち、子供たちに言った。
「……美味しい」
「でしょー!」
子供たちが尻尾を揺らして満足気に応える。
「『カナメ喫茶』のスイーツは絶品なんだよ!」
「美味しくて、しかも元気になっちゃうの!」
「……そうか」
テーブルに手をついて子供たちが高い声で喋ると、お父様は優しい目で相槌を打っていた。
「も~、レイト、ミリト。まだクッキー食べてる途中でしょ」
獣耳が生えた母親が、子供二人の手を引っ張って席に戻す。
私はその光景を見てふふ、と微笑みお父様のテーブルにパンケーキを置いた。
「お待たせいたしました、チョコレートパンケーキです」
「……ああ、ありがとう」
「飲み物とか頼まなくて、大丈夫でしたか?」
「じゃあ、食後にコーヒーを」
「かしこまりました」
一礼してお父様の席から離れようとすると、「カナメー!」とルットたちがやってきた。
二人はスイーツを食べ終わったらしく、これから帰るところだった。
「また来るからな! 今日も美味しいスイーツをありがとう!」
「……ふふ、うん」
私にぶんぶんと手を振ったあと、ユリクがいる会計の方に行ってしまった。
そのやりとりを見て、お父様がくすりと笑いを零す。
「え……?」
お父様に視線を移すと、確かに笑っていた。
それは何の怒りも持っていない、ただ優しくて穏やかな表情だった。
今までに見たことない柔和な瞳で遠くを見つめる。
「シェイラの言っていた通りかもしれない」
「え?」
「ここにいると、何故獣人を差別していたのか、疑問に思えてくるな……」
お父様はそう言って、静かにパンケーキを切り分けた。
そしてゆっくり口に含み、咀嚼する。
「……ああ、美味しい」
「……良かった」
無表情だった顔は綻び、パンケーキを口に運んでは楽しく喋っている獣人たちを見つめ、幸せそうな笑みを浮かべていた。
美味しいという言葉も、その前の言葉も嬉しくて、私は次のオーダーが来るまでお父様の傍で和やかな時間を少しだけ過ごしていた。
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