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第57話 お礼
しおりを挟む「カナメ、メニューはどこに置けばいい?」
「それは……あそこ。棚の上にお願い」
私は階段の下に置かれている白い棚を指さす。
お客さんがいなくなった静かなリビングルームで、ケイのメニューを置く音とルットの足音が響いた。
ケイとルットは閉店後もなお私の店の作業を手伝ってくれている。
私が店を閉めて「もう帰ってもらって大丈夫だよ。ありがとう」と言っても「カナメは疲れてるだろう」と言ってテーブルや床の掃除をしてもらっていた。
お給料が出るわけでもないのにここまで手伝ってもらっちゃって、すごく申し訳ない気分だ。
お礼に何かできれば……と辺りを見回す。
今日のお店のあまりものをここで食べてもらうにも、もう六時を過ぎているからケイたちは帰ったら夕食だろう。あまり満腹にさせてはいけない。
かといってケーキ箱なんて持ってないし……。
「……あ」
きょろきょろしていると、会計前に並んだクッキーが目に入った。
お土産に持って帰れるようにと、会計のすぐ横に星柄のラッピング袋で包んだチョコレートクッキーを置いていたのだ。
一袋銅貨十枚程度——日本では百円くらいだ——で、お手頃価格で買えるからよく子供がいる奥さんなどが買ってくれる。
ちょうど二袋残っていて、私は掃除を終えた二人に持っていった。
「ケイ、ルット、これ……」
「……!」
「チョコレートクッキーじゃないか! どうしたんだ?」
「今日働いた分、じゃ見合わないけど……。良かったら持っていって」
二人の手に握らせる。
ルットは犬耳をぴんと張り、くんくんと匂いを嗅いで楽しんでいた。
「ありがとう!」
「ありがとう、ございます」
帰り支度をしながらルットもケイもチョコレートクッキーを上着の中にしまう。
二人がいなくなったらこの広い家で独りになってしまうことに不安と寂しさを覚えたが、それを悟られないよう玄関まで見送った。
ルットがベルをカランカランと鳴らしてドアを開け、振り返る。
「明日も手伝うよ」
「ええ!? 大丈夫だよ、そんな……」
「いいって。うちの店も繁忙期じゃないし、暇なんだ」
「でも」
「クッキー」
ルットが上着のポケットからクッキーを取り出し、私に見せる。
パッケージ袋がキラリと光った。
「その代わり、クッキー毎日欲しいな。俺とルットの分、取り置きしておいてよ」
「……ふふ、わかった。たくさん用意しとくね」
ケイは明るく太陽のように微笑み、そのままルットと共に家を去った。
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