婚約破棄されて田舎に飛ばされたのでモフモフと一緒にショコラカフェを開きました

第58話 寂しさ

「……」

　バタンとドアが閉まってケイとルットがいなくなり、ふっと静かになる。
　聞こえるのは時計の秒針を刻む無機質な音と、外を吹く風、自分の呼吸。

　私以外誰もいなくなってしまったこの家は、ただただ広くて大きいだけの家。

「……ご飯作ろうかな」

　その声すらも響いているように感じる。
　開店中は動きっぱなしだったのと、作業も終わり一人になってやることがなくなったからお腹がすいてきてしまった。

　かといってユリクもいない食卓に、豪勢な食事を作る気持ちはない。

　私はスープの粉で作った適当な野菜スープと、キッチンにあったパンを食べた。
　それだけではお腹は満たせなかったから、今日の余ったチョコレートスイーツを少しだけ腹に入れた。

「ごちそうさまです」

　私が食後の挨拶をしても、ユリクの挨拶は聞こえない。
　お風呂を沸かしている間、自分の部屋に閉じこもるのがなんとなく嫌で、リビングの椅子に座ってホットミルクを飲んでいた。

「……」

　ユリクがいなくて店を営業するのが大変で、ケイとルットがいなかったら今頃倒れていただろうというのは想像がつく。

　それほどユリクは店のなかで重要なポジションにいることは改めて気づかされた。
　もう一つ気づかされたことがある。
　夜がこんなに寂しいとは思わなかったのだ。

　カチコチ秒針の音を鳴らしている時計を見る。時刻は二十時半だった。

　……いつもなら、ユリクと他愛もない話をしている頃なのに。

　談笑する話し相手がいないことに、私は胸にぽっかり穴があくくらいの不安と寂しさを覚えた。

「……ううん」

　違う。
　話し相手がいないから寂しいんじゃない。
　ユリクがいないから寂しいんだ。

　いつの間にユリクがこんなに大切な存在になってたのか。

「ユリクが帰ってくるまで、あと二週間以上……」

　ユリクが帰ってくるとき、安心して迎えられるように頑張らないと。
　マグカップをぎゅっと握りしめて、ホットミルクを口につける。

　自分が淹れたホットミルクは、ユリクが淹れたものよりも温かくなかった。