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第59話 ブレスレット
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ユリクが家を離れて数日後の休日。
店はルットとケイが毎日手伝ってくれ、お客さんと特にトラブルを起こすこともなく今日という休みの日までやり過ごせた。
今日はゆっくり食事ができるから、久々に庭で朝日を浴びながら朝食をとることにした。
お盆にサンドイッチとスープを乗せて庭のテーブルに置く。
涼しい風と外の澄んだ空気、暖かい日差しが心地よい。
「いただきまーす」
分厚いハムとマグというレタスみたいな野菜、スクランブルエッグを挟んだサンドイッチを一口頬張る。
「うん、美味しい~」
肉肉しいハムとマグの新鮮なシャキシャキ感、ふわふわの卵が合わさって、口の中で踊る。
そこに味付けに加えたバターのまろやかな味と、ブラックペッパーがアクセントになっていて、止まらない。
サンドイッチを作ったのは初めてだ。
買い出しのときにフェルタ街の市場で買ったりしているくらいで、自ら作ったことはなかった。
ユリクも作っていない。
この国ではサンドイッチのことをミューリと呼んでいて、白いふわふわのパンに挟むのが特徴だ。
「ユリクにも食べさせたいなぁ……」
きっと喜んでくれると思う。
再び口に入れて咀嚼しながら、ユリクと一緒に食事できていたらなぁ~と遠くを見つめた。
今何をしているのだろう。
お父様と剣の修行をしているのかな。
それとも、今は朝食?
修行の休憩?
広がる空を見つめながらユリクがどうしているかを想像する。
お父様にユリクのことを頼んだとき、目が本気だった。
これはすごく厳しく、鬼のように教えるに違いない、というくらいの漲った瞳だ。
「ユリク、大丈夫かなぁ……」
今頃厳しく指導されてお父様のことが嫌になっていたりしないだろうか。
空に点々と浮かぶ白い雲を見つめながら思っていると、近くでザッと地面を踏む音が聞こえた。
「そんなにユリクのことが心配なんだ」
「え……?」
急に耳に届いた声に、バッと前を向く。
「それとも、寂しい? いや、両方かな」
「貴方は……」
深紅のローブが風で翻る。
――リュザが、庭に咲く花の上から私を覗きこんでいた。
リュザの右手には、白く光るブレスレットのようなものが握られている。
ブレスレットをよく見ると、日に当てられて輝いているのではなく、自ら発光しているような……。
「はい」
「……え」
何の説明もなしに、きらきら発光しているブレスレットを差し出された。
「これでオオサキカスミに、連絡が取れる。君はそっちの世界では死んでるんだから、その説明は上手くやってくれよ?」
「え……あ、ありがとうございます!」
ぺこりと頭を下げ、ブレスレットを受けとる。
見た目とは大違いでずっしりと重く、すごく固い。
ブレスレットの内側には魔法陣を書くときみたいな読めない言葉がびっしり刻まれていた。
これで、香澄と連絡できて、リリーの安否がわかるかもしれないんだ。
ううん、わかって欲しい。
リュザの顔を覗くと目の下にうっすらクマができているのがわかった。
目も若干充血していて、あまり寝ていないのがわかる。
普段の研究に、これも作らなくちゃいけなかったから相当疲れが溜まっているのだろう。
私のわがままを聞いて、私には絶対に作れない異世界とこの世界を繋ぐものを作ってくれたのだ。
リュザは少し女好きなところがあるけど、きっとすごく思いやりのある人なんだと思う。
リリーが無事かどうか、わかりますように……! お願いします!
「これを右手首にはめて。君がはめれば、魔法が作動する。使えるのは一度だけだ。気をつけてね」
目を瞑って祈っていると、リュザの声が届いた。
言われるがままに、鉄のように重いブレスレットを右手首にはめる。
すると……。
「わ……!」
ブレスレットがさっきよりも強い光を放ち、私はその光に包まれた。
身体が熱くて、頭がぼうっとしてくる。
リュザの姿も見えなくなるほど光に包まれ、辺り一面真っ白になった。
平衡感覚もなくなってきて、自分が立っているのかも座っているのかもわからなくなる。
まるで熱に浮かされたみたいだ。
次第に、何かが聞こえてきた。
プルルルル……プルルルル……。
どこかで聞いたことのある機械音が私の脳に直接届く。
この懐かしい音は、もしかして……。
酸素が薄くなってくる。
呼吸が浅くなって、苦しい。
まるで身体全体が押しつぶされるような感覚になったそのとき、ガチャッという音がして、一気に身体が軽くなった。
『――もしもし?』
店はルットとケイが毎日手伝ってくれ、お客さんと特にトラブルを起こすこともなく今日という休みの日までやり過ごせた。
今日はゆっくり食事ができるから、久々に庭で朝日を浴びながら朝食をとることにした。
お盆にサンドイッチとスープを乗せて庭のテーブルに置く。
涼しい風と外の澄んだ空気、暖かい日差しが心地よい。
「いただきまーす」
分厚いハムとマグというレタスみたいな野菜、スクランブルエッグを挟んだサンドイッチを一口頬張る。
「うん、美味しい~」
肉肉しいハムとマグの新鮮なシャキシャキ感、ふわふわの卵が合わさって、口の中で踊る。
そこに味付けに加えたバターのまろやかな味と、ブラックペッパーがアクセントになっていて、止まらない。
サンドイッチを作ったのは初めてだ。
買い出しのときにフェルタ街の市場で買ったりしているくらいで、自ら作ったことはなかった。
ユリクも作っていない。
この国ではサンドイッチのことをミューリと呼んでいて、白いふわふわのパンに挟むのが特徴だ。
「ユリクにも食べさせたいなぁ……」
きっと喜んでくれると思う。
再び口に入れて咀嚼しながら、ユリクと一緒に食事できていたらなぁ~と遠くを見つめた。
今何をしているのだろう。
お父様と剣の修行をしているのかな。
それとも、今は朝食?
修行の休憩?
広がる空を見つめながらユリクがどうしているかを想像する。
お父様にユリクのことを頼んだとき、目が本気だった。
これはすごく厳しく、鬼のように教えるに違いない、というくらいの漲った瞳だ。
「ユリク、大丈夫かなぁ……」
今頃厳しく指導されてお父様のことが嫌になっていたりしないだろうか。
空に点々と浮かぶ白い雲を見つめながら思っていると、近くでザッと地面を踏む音が聞こえた。
「そんなにユリクのことが心配なんだ」
「え……?」
急に耳に届いた声に、バッと前を向く。
「それとも、寂しい? いや、両方かな」
「貴方は……」
深紅のローブが風で翻る。
――リュザが、庭に咲く花の上から私を覗きこんでいた。
リュザの右手には、白く光るブレスレットのようなものが握られている。
ブレスレットをよく見ると、日に当てられて輝いているのではなく、自ら発光しているような……。
「はい」
「……え」
何の説明もなしに、きらきら発光しているブレスレットを差し出された。
「これでオオサキカスミに、連絡が取れる。君はそっちの世界では死んでるんだから、その説明は上手くやってくれよ?」
「え……あ、ありがとうございます!」
ぺこりと頭を下げ、ブレスレットを受けとる。
見た目とは大違いでずっしりと重く、すごく固い。
ブレスレットの内側には魔法陣を書くときみたいな読めない言葉がびっしり刻まれていた。
これで、香澄と連絡できて、リリーの安否がわかるかもしれないんだ。
ううん、わかって欲しい。
リュザの顔を覗くと目の下にうっすらクマができているのがわかった。
目も若干充血していて、あまり寝ていないのがわかる。
普段の研究に、これも作らなくちゃいけなかったから相当疲れが溜まっているのだろう。
私のわがままを聞いて、私には絶対に作れない異世界とこの世界を繋ぐものを作ってくれたのだ。
リュザは少し女好きなところがあるけど、きっとすごく思いやりのある人なんだと思う。
リリーが無事かどうか、わかりますように……! お願いします!
「これを右手首にはめて。君がはめれば、魔法が作動する。使えるのは一度だけだ。気をつけてね」
目を瞑って祈っていると、リュザの声が届いた。
言われるがままに、鉄のように重いブレスレットを右手首にはめる。
すると……。
「わ……!」
ブレスレットがさっきよりも強い光を放ち、私はその光に包まれた。
身体が熱くて、頭がぼうっとしてくる。
リュザの姿も見えなくなるほど光に包まれ、辺り一面真っ白になった。
平衡感覚もなくなってきて、自分が立っているのかも座っているのかもわからなくなる。
まるで熱に浮かされたみたいだ。
次第に、何かが聞こえてきた。
プルルルル……プルルルル……。
どこかで聞いたことのある機械音が私の脳に直接届く。
この懐かしい音は、もしかして……。
酸素が薄くなってくる。
呼吸が浅くなって、苦しい。
まるで身体全体が押しつぶされるような感覚になったそのとき、ガチャッという音がして、一気に身体が軽くなった。
『――もしもし?』
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