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第二話「王子に転生してしまったようです」
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金髪に、蒼の瞳。
少しくせ毛の髪はさらっとしていて、白皙の肌に、さくらんぼ色の唇。
瞳は少し垂れていて、柔らかそうな眼差し。
さっき部屋にやってきた二人よりは平凡で目立たなそうな顔をしている。
でも、トラックに轢かれる前の今にも死にそうな顔してた俺の顔と比べると全然マシな気がする。
この顔を見て平凡だな、という第一印象があったが、それよりも大事な事実があった。
……どう見ても、俺じゃないということだ。
しかも、顔立ちは幼く、十五、六歳あたりだろうか。
これってもしかして……姉が夢中で読んでいた小説でよくある、異世界転生というやつなんじゃないか?
「殿下、失礼致します」
ほどなくして、扉をノックして白衣を着た人間がやってきた。
眼鏡をかけていて、気難しそうな顔をしている。
恐らく医者だろう。
医者ではあるが俺のベッドの横に座るときの仕草など気品に溢れていて、良いところの出だということはすぐにわかった。
「記憶が混乱しているとお聞きしましたが、それは確かですか?」
本当に異世界転生なら多分、元の世界にはもう帰れない。
何故なら姉が俺に話してきた異世界転生の物語の中で、日本に帰れた人を聞いたことがないからだ。
それなら、この世界もきっと帰れないんじゃないだろうかと推測する。
もし帰れるとしても……古代魔法的なすごい労力の使う力を使わなくちゃいけなくて、簡単には帰れない気がする。
なら、この世界に馴染んで暮らす他ないのだ。
しかも俺は殿下に転生した。この国の王太子だ。なら、この国の情勢を学んでおかなければならない。
俺はこの国、世界を知っておくために、記憶が混乱していることに首肯した。
「そうですか……。念のため、お身体に異常はないか確認させてくださいね」
医者が俺の胸の前に手をかざす。
すると、キィン……と音がして、キラキラ光る粉が俺の胸の中に入り込んだ。
これは、魔法だろうか。異世界転生したなら、魔法が存在する世界に転生したということはあり得るはずだ。
身体の中を覗かれている奇妙な感覚がする。
医者は俺の胸にかざしたあと、腕、首、腹、足にもかざして、異常がないかチェックした。
「探知魔法で探したところ、特に異常はありませんでした。今日はゆっくりお休みください。貴方に精霊のご加護があらんことを」
最後に手を合わせて少しだけ祈り、医者は部屋からいなくなった。
探知魔法……やっぱり魔法が存在する世界なんだな。
魔法が使えることや部屋の雰囲気、医者のいなくなる前の挨拶からしてファンタジー感満載なことに、俺の心はうきうきと弾んでくる。
医者が部屋を出て数分後、燕尾服の男と騎士服の男がやってきた。
「殿下! 記憶が混乱しているとは、本当ですか?」
「……殿下、私たちの名前はわかりますか?」
燕尾服の男が自分と騎士服の男を交互に指さす。
そりゃ、転生してきたのだからわからない。
俺は首を横に振った。
「私の名前はカルヴェ・ローダリン。殿下の執事を務めております」
「俺の名前はグラン・ガヴィリックです。貴方の側仕えの騎士を務めております。近衛騎士の団長も担っております」
近衛騎士の団長……通りで、ガタイが良かったわけだ。
普通にあの腕で掴まれたら抵抗ができないだろう。
カルヴェという男が燕尾服を着ているのもわかった。執事だからだったんだな。
にしても、二人が並ぶと姉が散々布教してきた舞台俳優並みにキラキラしていて、オーラがすごい……。
二人とも顔立ちがそれぞれ違った整い方をしていて、男の俺でも一瞬ときめいてしまうくらいだ。
「貴方は王宮での勉学が嫌で、窓の外から飛び降りたのですよ。そしたら、頭を打って気絶したんです。医者の方に手当はしてもらいましたが、三日も眠られたままでした。……本当に、心配したんですよ」
執事のカルヴェが安堵したように笑って俺の髪をそっと撫でる。
それがなんだかくすぐったくて、俺は身を捩った。
そうか、俺は怪我をしてそのまま眠っていたから、目覚めたときにカルヴェやグランたちが真っ先にやってきたのか。
もしかしたら王子はその飛び降りたときに亡くなっていて、俺が転生したのかもしれないな。
「殿下は今日も学園を休んでください。明日から通いましょう。教室などわからなかったら、貴方にはエシエルという友人がおりますので、彼についていけばわかりますよ」
「殿下は、この世界の性別のことも忘れてしまいましたか?」
近衛騎士のグランが不安げに聞く。
この世界の性別のこと?
「女と男じゃないのか?」
執事と近衛騎士は目を合わせて、首を横に振った。
女と男以外にも、性別があるのだろうか。中性、みたいな?
俺が疑問に思っていると、執事が俺の部屋の本棚から分厚い本を一冊取り出して、捲って見せてきた。
そこにはα、β、Ω、とよくわからないものが図になって描かれている。
ん? これ、どこかで聞いたことがあるような……。
少しくせ毛の髪はさらっとしていて、白皙の肌に、さくらんぼ色の唇。
瞳は少し垂れていて、柔らかそうな眼差し。
さっき部屋にやってきた二人よりは平凡で目立たなそうな顔をしている。
でも、トラックに轢かれる前の今にも死にそうな顔してた俺の顔と比べると全然マシな気がする。
この顔を見て平凡だな、という第一印象があったが、それよりも大事な事実があった。
……どう見ても、俺じゃないということだ。
しかも、顔立ちは幼く、十五、六歳あたりだろうか。
これってもしかして……姉が夢中で読んでいた小説でよくある、異世界転生というやつなんじゃないか?
「殿下、失礼致します」
ほどなくして、扉をノックして白衣を着た人間がやってきた。
眼鏡をかけていて、気難しそうな顔をしている。
恐らく医者だろう。
医者ではあるが俺のベッドの横に座るときの仕草など気品に溢れていて、良いところの出だということはすぐにわかった。
「記憶が混乱しているとお聞きしましたが、それは確かですか?」
本当に異世界転生なら多分、元の世界にはもう帰れない。
何故なら姉が俺に話してきた異世界転生の物語の中で、日本に帰れた人を聞いたことがないからだ。
それなら、この世界もきっと帰れないんじゃないだろうかと推測する。
もし帰れるとしても……古代魔法的なすごい労力の使う力を使わなくちゃいけなくて、簡単には帰れない気がする。
なら、この世界に馴染んで暮らす他ないのだ。
しかも俺は殿下に転生した。この国の王太子だ。なら、この国の情勢を学んでおかなければならない。
俺はこの国、世界を知っておくために、記憶が混乱していることに首肯した。
「そうですか……。念のため、お身体に異常はないか確認させてくださいね」
医者が俺の胸の前に手をかざす。
すると、キィン……と音がして、キラキラ光る粉が俺の胸の中に入り込んだ。
これは、魔法だろうか。異世界転生したなら、魔法が存在する世界に転生したということはあり得るはずだ。
身体の中を覗かれている奇妙な感覚がする。
医者は俺の胸にかざしたあと、腕、首、腹、足にもかざして、異常がないかチェックした。
「探知魔法で探したところ、特に異常はありませんでした。今日はゆっくりお休みください。貴方に精霊のご加護があらんことを」
最後に手を合わせて少しだけ祈り、医者は部屋からいなくなった。
探知魔法……やっぱり魔法が存在する世界なんだな。
魔法が使えることや部屋の雰囲気、医者のいなくなる前の挨拶からしてファンタジー感満載なことに、俺の心はうきうきと弾んでくる。
医者が部屋を出て数分後、燕尾服の男と騎士服の男がやってきた。
「殿下! 記憶が混乱しているとは、本当ですか?」
「……殿下、私たちの名前はわかりますか?」
燕尾服の男が自分と騎士服の男を交互に指さす。
そりゃ、転生してきたのだからわからない。
俺は首を横に振った。
「私の名前はカルヴェ・ローダリン。殿下の執事を務めております」
「俺の名前はグラン・ガヴィリックです。貴方の側仕えの騎士を務めております。近衛騎士の団長も担っております」
近衛騎士の団長……通りで、ガタイが良かったわけだ。
普通にあの腕で掴まれたら抵抗ができないだろう。
カルヴェという男が燕尾服を着ているのもわかった。執事だからだったんだな。
にしても、二人が並ぶと姉が散々布教してきた舞台俳優並みにキラキラしていて、オーラがすごい……。
二人とも顔立ちがそれぞれ違った整い方をしていて、男の俺でも一瞬ときめいてしまうくらいだ。
「貴方は王宮での勉学が嫌で、窓の外から飛び降りたのですよ。そしたら、頭を打って気絶したんです。医者の方に手当はしてもらいましたが、三日も眠られたままでした。……本当に、心配したんですよ」
執事のカルヴェが安堵したように笑って俺の髪をそっと撫でる。
それがなんだかくすぐったくて、俺は身を捩った。
そうか、俺は怪我をしてそのまま眠っていたから、目覚めたときにカルヴェやグランたちが真っ先にやってきたのか。
もしかしたら王子はその飛び降りたときに亡くなっていて、俺が転生したのかもしれないな。
「殿下は今日も学園を休んでください。明日から通いましょう。教室などわからなかったら、貴方にはエシエルという友人がおりますので、彼についていけばわかりますよ」
「殿下は、この世界の性別のことも忘れてしまいましたか?」
近衛騎士のグランが不安げに聞く。
この世界の性別のこと?
「女と男じゃないのか?」
執事と近衛騎士は目を合わせて、首を横に振った。
女と男以外にも、性別があるのだろうか。中性、みたいな?
俺が疑問に思っていると、執事が俺の部屋の本棚から分厚い本を一冊取り出して、捲って見せてきた。
そこにはα、β、Ω、とよくわからないものが図になって描かれている。
ん? これ、どこかで聞いたことがあるような……。
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