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第228話 毒舌幼女は暇を持て余していた
しおりを挟むとある豪華なホテルの一室に二人の女性が入って来た。一人は黒服のスーツ姿の大人の女性、もう一人は年端も行かぬ幼女に見えた。
そんな二人の関係は年の離れた姉妹には……見えなかった。何故なら幼女はビスクドールのような美しい容姿であり高貴なオーラを纏っているのに対し、黒服の女性はそこら辺にいるような芋っぽい普通の日本人にしか見えなかったのだ。
「あ~、つまんないつまんない~。何で日本ってこんな陰気臭いのかしら? 街を歩いたって男なんてどこにも居ないし、しかも今日は外出禁止なんでしょ? ママは一人だけ遊びに行ってズルいわよね~」
幼女がベッドに座り、心底つまらなそうに呟いた。可愛い見た目とは裏腹に口調はキツイ幼女である。
「いえ、日本はずっとこんな感じですよ。それにお嬢様の容姿では相手にしてくれる男性なんて……ひぃ!?」
「それ以上言ってみなさい、直ぐにクビにしてあげるわ。どうしたの、言いたい事あるんでしょ? 最後に気持ち良くゲロってスッキリしてから職探しすると良いわよ」
「す、すすす、すみませんお嬢様ー!!」
黒服の女性が幼女の前で土下座している光景を見るに、どうやらこの二人は主従関係のようだ。
黒服の頭に小さな足を置いた幼女が小さく溜息を吐いている。
「ふん……まあいいわ。それよりママはどこに行ったのかしら? あんた知っているでしょ、教えなさい」
「そ、それはですね……私も奥様から口止めをされていまして~」
頭を踏む幼女の足が強くなった。グリグリと床に額を擦り付ける黒服の女性はビクビクと震えていた。
「そう、分かったわ。じゃあさっさと荷物をまとめて出て行きなさい。もう明日から来なくていいわよ」
「ぎゃー、申し訳ございません! えとえと、奥様はこのホテルのオーナーと大事な打ち合わせをしているのです。遅くなるから先に寝てて良いと聞いております!」
「ふーん、雪乃おばさんとね……」
幼女が顎に手を当て目を瞑り、思考の海に沈んで行った。いつの間にか頭から足が離れ、それを感じた黒服の女性が起き上がりポケットからハンカチを取り出し、額から滝のように流れる汗を拭いていた。
部屋の中がシーンと静まり返ったが、しばらくすると正座をしている黒服の女性の動く音が聞こえて来た。足が痺れてモジモジと動いていたのだ。でもここで正座を崩すと幼女から蹴りが飛んでくることを黒服の女性は理解していた。つまり経験済みである。
足の痺れが限界に達して倒れそうになったその時、遂に幼女の目が開いた。
「あれ、そう言えば……ママってお土産見つかったんだっけ? デボラ姉さんがワガママ言ってたやつ」
「まだ見つかってないと思います」
幼女がニヤリと笑みを浮かべた。小学生のように見える幼女が浮かべて良い笑顔じゃなかった。闇を抱えた邪悪な笑みだったのだ。
「やっぱりね。そもそも日本でイケメンを探すっていう事が間違いなのよ。ていうかデボラ姉さんも引きこもりの癖に株でひと財産築いたからって偉そうに命令しちゃってさ、何が日本からイケメンを連れて来いよ。しかもデカチンじゃなきゃ許さないとか。妥協して精液でも良いって何!? ほんとムカつくわねあのクソデブヒキニート!! ママもデボラ姉さんに甘いのよ、あームカつく~!!」
「お言葉ですがお嬢様、デボラ様はニートじゃなくて歴としたトレーダーですし、会社に多大な貢献をしております。あとデブって訳じゃなくて巨乳なだけです。まあお嬢様から見たらおデブに見えちゃうのも仕方のない事なのかもしれま……ぴぃ!?」
幼女の目から凍てつく波動が迸った途端、生き生きと喋っていた黒服の女性が悲鳴を上げて固まった。
「どうしたの? もっと喋っていいわよ? ほらほら、小鳥ちゃんみたいに喋りなさいよ、気持ち良く喋ってたじゃない。私の胸が小さいって言いたいんでしょ? でもあんたの方が私よりペッタンコじゃない!」
「ひーん! ごめんなさいお嬢様~」
それからしばらくの間、黒服の女性は正座を崩す事が出来なかった。
二人でテレビを見ているが、日本のバラエティー番組はつまらなかった。動画投稿サイトにある動画を地上波で垂れ流すようなチープな番組、知らない芸人が無人島から脱出するという企画のくせに沢山のスタッフが存在するヤラセ番組、都合の良い事しか放送しないニュース番組、どれを見てもクソだった。
そんな中、ふと幼女は何かを思い出した。
「そう言えばさっき下の階が騒がしかったわね。誰か有名人でも居たのかしら?」
二人でレストランフロアでディナーを食べていた時、周囲の客がザワザワと騒ぎだしたのだ。『ユウタ』という断片的な単語が聞こえて来たが、幼女には関係ないと食事を楽しんでいた。
「それなんですけど、何でもカッコイイ男性が居たらしいですよ。ユウタという名前だそうです。ホテルオーナーと親しく食事をしていたと聞きましたので、オーナーのペットかもしれませんね」
「ふ~ん、雪乃おばさんって旦那に捨てられてから男は飼ってないって聞いたんだけどね~。そんな良い男でも居たのかしらね」
「あの、お嬢様、それは禁句ですからオーナー様の前で絶対に言ってはなりませんよ。ユウタ……ああ! 思い出しました。オーナーのご息女である美羽様が結婚したって奥様が言っておられましたが、その時にユウタという単語を聞いた覚えがあります」
「ふ~ん、美羽ちゃんの旦那かぁ。あれ、でも今日は美羽ちゃん居なかったよね。それなのに雪乃おばさんと二人で食事ね。へぇ~……面白い事になってるじゃない」
黒服の女性から聞いた内容をシュバババっと脳内で整理した幼女は、まるで高速でルービックキューブを完成させるが如く、キュピーンと一つの答えを導いた。
「つまりこういう事よ。デボラ姉さんにワガママを言われていたママは観光を装って日本に来た。真の目的はそのユウタを拉致……するのは無理だから、搾精して精液を持ち帰ろうとしたのね。美羽ちゃんが居ない日を狙ったんだわきっと。だって何もないのに急に日本へ行くっておかしいじゃない。それにこのビアンカちゃんが直々に足を運んで来たっていうのが良い証拠よ。あんたもそう思うでしょ?」
「確かに急なスケジュールでしたが、搾精ですかぁ。まあオーナーや美羽様が了承して下されば可能かもしれませんが、そんなに上手く行きますかね? 日本人男性は世界と比べても貧弱なチンチンですからね~」
「確かに……。いくら顔が良くても雑魚チンポの低ランク精液を持って帰ってもデボラ姉さんが発狂する未来が見えるわ。どうするのかしらね……」
名探偵な幼女だが、これ以上は確認する術が無かった。そんなご主人様の悔しそうな顔を見た黒服の女性が良い事を思い付いたとばかりにニヤリと笑って言った。
「これから二人でコッソリと覗きに行きませんか?」
「あら、たまには良いこと言うじゃない」
部下の提案に邪悪な笑みを浮かべる幼女、何だかんだと言いながらも仲良しな二人であった。
「お嬢様は幼女のフリをして下さいね。その見た目で毒を吐いたら男性が萎縮してしまいます」
「言われなくても分かってるわよ! あんたこそバッチリやりなさいよ」
二人は愚痴を言い合いながらも仲良く手を繋いでVIP専用のBARフロアに潜入した。お嬢様の見た目は幼女だが本物のVIPである。なのでもちろん顔パスでフロアに入れたのだった。
「ママはどこかしら?」
「お嬢様……アレを」
「ん? ……何あれ。全裸の男? ここって全裸の男を雇っているのかしら……」
二人の視線がトイレへ走り込む全裸の男に釘付けになった。
「今のがユウタじゃないかしら、ちょっと行って来るわね。あんたもしっかりと合わせなさいよ? しくじったらクビだからね!」
「ご安心下さい、ビシィっと決めてご覧に入れます!」
そして幼女は邪悪な笑みを浮かべながら男子トイレに向かって歩いて行くのであった。
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