異世界探訪記

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猫の通り道

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 取り分け猫が好きなわけではないけれど、気分が荒んだ時に目にすると幾分か楽になる事がある。それは猫の自由気儘な様に、肩の力を抜いても良いと言われた気になるからなのだろう。
 けれど、この世界で私は長らく猫と会っていなかった。向こうとは何もかも違うこの世界に猫が居ないという訳ではない。ただ、私が会っていないだけなのだ。それというのも、この世界の猫は特権を持っており、見ようと思って見れるものでも無いのだから。

 猫渡り。そう呼ばれる現象がある。おそらくこの世界特有のもので、猫にだけ許された特権だ。それにより、この世界の猫は何処にでも行く事が出来るのだという。
 初め、この世界で猫を見た時は驚いた。猫は何も無い空間から姿を現したのだから。後に、それが猫渡りと呼ばれ猫が空間を歪めて移動しているのだと知るけれど、その時の私にはただただ君悪いだけであった。それが、幸運の道標と呼ばれているのが信じられない程に。

 だから猫は何処にでもいるけれど、稀にしか会う事が出来ないのだという。そして移動に使う空間の交わる先、この世界の何処にも無い場所に猫だけが暮らす猫街があるらしい。それは御伽噺の様ではあったけれど、無いとも言い切れない不思議な魅力のある話であった。
 だからこの世界で猫に道を訪ねるという事に、特別な意味が生まれたのだという。それは、猫に道を訪ねると猫街に招かれるらしいという俗説だ。だけど、それはこの世界でも猫が愛されている事の証左でもあった。



 ふと前を見ると、今正に猫が空間から現れようとしていた。少し太り気味の縞模様の猫だ。その姿を見、ふと好奇心が湧いた。果たして彼は私を猫街へ連れて行ってくれるのだろうか? ふてぶてしい様にも見える猫の表情が笑みを作った気がした。
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