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天使の絵
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幼い頃、美術館で天使の絵を見た事がある。聖母マリアの側に、真っ白な羽を纏った天使が描かれていた。その時は、その絵をただ綺麗だと思っただけであった。けれど、今見たのなら別の感想を抱いてしまうのだろう。だって、天使なんて存在しない。この世界に来る前にはそう思っていたのだから。
「天使には気を付けろ」
この世界でそう言われ始めたのは、数千年程前からだという。それを、私なんかは凄く昔なのだと感じるのだけど、長命種にとっては数世代前くらいの話でしか無いらしい。そして、その天使という種族も長命種であり、だからこそ今の時代までその話が残っているのだろう。
その出来事は地域や種族によって呼ばれ方が異なっている。取り分け、共通の呼び名などは無いらしい。ただ、地上に住む者にとっては戦争もしくは災害と呼ぶに相応しいものであった事は確かみたいだ。この世界を巡る中で、宗教戦争や翼災などと呼ばれているのを耳にした。
けれど、それは地上に限った話である。天使にとってはただ〝粛清〟とのみ呼ばれているという。
その出来事の仔細までは聞いていないが、その出来事をきっかけに天使は空に城を作り、地上に降りる事はなくなったのだという。
そして、地上に住まう者たちは高い建物を作るのを避ける様になったらしい。
前置きが長くなったが、この世界にはそんな事情があった。
だから、空を飛ぶ者に忌避感を抱いてしまうのだろう。そう言って彼らは卑屈に笑っていた。隠れ住む黒翼の種族、粛清された側の者達が。
それから程なく、私は彼らと別れ近くの街にいる。其処で、ふと天使の絵を見つけ手に取った。
其処には地に落とされ、泥に塗れた天使が描かれていた。汚泥に浸り、真っ白いはずの羽を黒く染めた天使の絵が。
「天使には気を付けろ」
この世界でそう言われ始めたのは、数千年程前からだという。それを、私なんかは凄く昔なのだと感じるのだけど、長命種にとっては数世代前くらいの話でしか無いらしい。そして、その天使という種族も長命種であり、だからこそ今の時代までその話が残っているのだろう。
その出来事は地域や種族によって呼ばれ方が異なっている。取り分け、共通の呼び名などは無いらしい。ただ、地上に住む者にとっては戦争もしくは災害と呼ぶに相応しいものであった事は確かみたいだ。この世界を巡る中で、宗教戦争や翼災などと呼ばれているのを耳にした。
けれど、それは地上に限った話である。天使にとってはただ〝粛清〟とのみ呼ばれているという。
その出来事の仔細までは聞いていないが、その出来事をきっかけに天使は空に城を作り、地上に降りる事はなくなったのだという。
そして、地上に住まう者たちは高い建物を作るのを避ける様になったらしい。
前置きが長くなったが、この世界にはそんな事情があった。
だから、空を飛ぶ者に忌避感を抱いてしまうのだろう。そう言って彼らは卑屈に笑っていた。隠れ住む黒翼の種族、粛清された側の者達が。
それから程なく、私は彼らと別れ近くの街にいる。其処で、ふと天使の絵を見つけ手に取った。
其処には地に落とされ、泥に塗れた天使が描かれていた。汚泥に浸り、真っ白いはずの羽を黒く染めた天使の絵が。
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