異世界探訪記

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不定形なナニカ

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 この世界にも怪談はある。けれども、それの殆どは隠れ里や秘境に住む者を見間違えたものなのだという。だけど、その中に一つだけ異色な話があった。その話を此処に記しておこうと思う。

 その話は、元の世界でいうドッペルゲンガーやシェイプシフターと呼ばれる存在に近いのかもしれない。そんな存在が実在していないと断言出来ないのが、この世界の怖いところだ。
 兎にも角にも、その怪談の主はそんな存在に纏わる話だ。その存在は姿形から性格、性別、種族などありとあらゆるものを自在に変える事が出来るのだという。そして、それらは誰にも気付かれぬまま生活に溶け込み、仲良くなった相手の存在を乗っ取ってしまうのだという。乗っ取られた相手は自身に対する記憶を失い、人知れず消えていくのだという。
 けれど、その存在を恐れる必要は無いのだという。もし、誰か身近な相手が乗っ取られてしまっても、本人では無いのだと見破りさえすれば、その存在は記憶を返し去っていくのだと言われているのだから。

 生憎と、私がその存在に出会う事は無いだろう。それは、私と親しい相手などこの世界に居ないからだ。それに、もし出会ったとしても私には見破る術を持ち合わせていないのだから。



 ふと、顔を上げると見覚えのある相手が目に入った。数年前、一度話した事のある行商の男だ。あの時は手持ちのお金が少なく、少し安くしてもらったのだ。だから、また会う事があれば多少は奮発しようと思っていた。
 目を合わせ、二言三言、言葉を交わす。その時、相手を持ち上げると良い商談を引き出せる事があるものだ。だから、その言葉に他意は無かった。

〝以前より格好良くなった。まるで別人みたいだ〟

 そんな感じの言葉を、社交辞令として私は放った。去っていく彼の姿は本当に別人の様だったのを記憶している。
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