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婚約破棄

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クララはハッサンの執務室に呼ばれた。

肩まである金髪に緑色の瞳ににんにく鼻、ひょろひょろした体型の男がいる。

この人物が王太子でクララの婚約者のハッサンだ。

ハッサンは葉巻をくゆらせている。


オレンジ色の髪を二つに分け、三編みをし、吊り上がった目にうぐいす色の瞳、出っ歯。

クラスメイトのヴァネッサだ。


(王太子殿下はなぜヴァネッサなんかと一緒にいるの?)


ヴァネッサは足を組み、葉巻を吸っている。

二人で葉巻を吸っているので、部屋は煙で充満している。


「王太子殿下。これはどういう事なのですか?」

「ふっ。そうだよ、クララ。見てわかる通りだ」

「見てわかる通りとは……?」

「鈍臭いな、クララ。俺はヴァネッサと婚約したんだ」


なっ!?

どういう事なのか事態が把握できない。


なぜ?

なぜヴァネッサと婚約を?


「王太子殿下。私との婚約はどうなってしまったのです?」 

クララは婚約指輪をこれみよがしにハッサンに見せつけた。


「ふっ。そんなパフォーマンスしたって無駄な抵抗なんだな、クララよ」

「なぜですの?」

ハッサンは立ち上がり、テーブルを激しく叩いた。

「クララ・フェルトン。お前との婚約は破棄する」


「なぜですの? 受け入れがたいですわ!!」

「なぜって。答えは簡単じゃないか。お前、本当は医者になりたいんだろ? 頭脳だけしか取り柄が無い。俺は魔法料理が得意なヴァネッサの方が好きだからだ!!」

魔法料理とは魔法を使って料理をする事。

火を起こすにも、具材を切るのも炒めるのも、盛り付けをするのも全て魔法を使う。

しかし、クララは料理に魔法を使うのは好まない。


きちんと自分で具材を切って、炒めたりするのも自分でやらないと気が済まないのだ。


「そうよ。クララ。あなたにとって魔法で料理をするのは外道と思うかもしれないけれど、手作りよりはず~っと美味しく仕上がるのよ」

響くアルトの声がそう言った。


確かに魔法料理は美味しく仕上がる。

しかし、それでも手作りには及ばないと思っている。

なぜなら、手作りの方が愛情がこもっているからだ。


「魔法料理の方が旨いもんな。本当のグルメ通なら魔法料理が一番だ」

ハッサンは天井に向かって煙を吐き出した。


何が『グルメ』だ。

以前までは「クララの手作り料理は美味しい」と言っていた癖に。


「そうとわかったら、部屋から出ていけ!! 目障りだ」

ハッサンは払い退けるような仕草を見せた。


かくなる上は執務室を出るしかない。


「精々あなたたち、幸せな夫婦になると良いですね。でも、神様は見ていますからね」

そう吐き捨て、執務室を出た。


涙が込み上げてきた。

ハッサンの裏切り。

よりによってクラスメイトのヴァネッサ。


しかし、天知る、地知る、己知る。

いつか罰が当たるに違いない。


そう思った。
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