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執念 ※ラニーニャ視点

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外では春雷が鳴っている。

まるで、ラニーニャとカルロスの結婚を祝ってくれたかのように轟音が響き渡る。

「祝福の大砲ですね」

と、侍女のサリサ。



王室主催の舞踏会に招待されていた。

ラニーニャにとっては花舞台。もっともおしゃれが楽しめる機会だ。


ラニーニャは侍女のサリサと共に、クローゼットへと入る。


クローゼットの中には所狭しとドレスが並ぶ。


ドレスに散りばめられている宝石が眩しく光る。



主に多いのが蛍光色のドレス。




とにかくド派手な色が好きだった。


兄や妹からは「派手すぎる」とも指摘されていたが、ドレスをどんなものにしようがラニーニャの勝手だった。


この派手なカラーをカルロスは気に入ってくれている。


どのドレスを着るかはサリサのセンスを信じている。


「ねぇ、サリサ。今回はどのドレスが良いと思う?」


「そうですねぇ……」

サリサはドレスを選んでいる。


サリサのお洒落のセンスは抜群だ。

侍女を選ぶときはファッションのセンスで選んだ。

人生をファッションに捧げているラニーニャとしてはサリサの存在はありがたかった。


とはいえ、サリサに丸投げしているわけではない。

何でも丸投げすることは嫌いだ。

他力本願が大嫌いだ。

自分のありのままが見てもらえないからだ。

そうなのだ。

ラニーニャは個性を潰されるのを激しく嫌う。


サリサにお任せしつつもよく吟味してドレスや宝石を選んでいる。


そして、最後にカルロスに見てもらうつもりだ。


「ラニーニャ様。これなんてどうです?」

緑の蛍光色のドレスを取り出した。

「緑……かぁ」

「嫌ですか?」

「そんなことないわ!!」

ラニーニャは緑のドレスを鏡に映した。


「良いかもね」

ラニーニャは鏡に向かって微笑んだ。


ラニーニャはエヘンと咳き込んだ。

ヘビースモーカーだから、常に喉がいがいがする。


「ラニーニャ様、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。パイプ、吸い過ぎなのかもね」


ラニーニャは笑ってみせた。


ドレスが緑だとすると、宝石は赤が良い……と思った。


「やっぱり目立たないとね。公爵夫人だもの」

「そうですよね」

サリサも八重歯を見せて笑った。


そして、何よりも欠かせないのが毛皮だ。

春とはいえ、まだまだ世間様は寒いであろう。


「まだギリギリで毛皮、イケるかもね」

「そうですわね」


「毛皮もチョイスしてもらえる?」 

「はい。喜んで」


サリサは熊の毛皮を持ってきた。

「熊は人間を襲う害獣よ。毛皮にして当然。お肉も美味しいしね」

熊の毛皮を持っている者は王侯貴族では珍しい。

そこが良いのだ。

それがラニーニャのこだわりであり、“個性”であった。


とはいえ、罠にかかった動物はすべて毛皮にしていた。

それゆえ、タイパン領内では野生の動物が減ってきたのだ。



カルロスの飼っている犬も犬というよりは毛皮に見える。

カルロスがいくら可愛がろうと毛皮にしか見えない。









ストーム公爵夫人の座を勝ち取ったが実際にはカルロスの事など愛してはいない。


あんな無精髭の男など眼中にない。


だから、本当はキスも夜の営みもイヤイヤだった。


ただ、公爵夫人になりたかっただけだ。



かつてはランスロット王子に取り入ろうとしたが、失敗に終わった。

ランスロット王子は年上が好みでは無いとの事。


それだけでランスロット王子から振られてしまったのだ。



勿論、ランスロット王子の事も好意は無い。

一国の王妃になりたかっただけだ。


富と地位が欲しい。

それだけだ。


それを思うがままにしてくれたのがカルロスだった。

カルロスはうまく取り入ったカモだった。


カルロスが妻帯者だという事は知っていた。

しかし、そんなのはお構いなしだった。

 

7公爵家の中で一番裕福だったのがストーム公爵家だった。

そのストーム公爵家の一人息子がカルロスだった。

だからこそ、カルロスを虜にしたかったのだ。


次期公爵夫人。


そして、男子が授かれば、代々ストーム公爵家はラニーニャの血を分けた人が後継となる。


何と名誉なことか!!



不倫はいけない事だとは世間はいうが、ラニーニャはそうは思わなかった。

たまたま出会うのが遅かっただけ。


結婚もタッチの差なのだ。


カルロスには子供がいなかった。

そこがチャンスだった。




「エヘン」

やはり、喉がイガイガする。

それでも、パイプはやめられない。


カルロスはパイプをやっていない。

それでも、カルロスはヘビースモーカーのラニーニャを受け入れてくれた。


ラニーニャは自慢の八重歯を見せながら毎晩一人でほくそ笑んでいた。



「ラニーニャ様。次はアクセサリーを選びますか?」

「そうね。まずはネックレスだわ」


「ネックレス……これなんかどうですか?」

ルビーのネックレスだった。


「それにするわ!!」


そして、次にピアスをチョイス。


そして、指一本一本にそれぞれ違う色の指輪をした。



次にバッグ。

バッグはアトポスの皮でできたバッグ一択。



「サリサ。やっぱりアトポスのバッグに限るわ」

「そうですね。素敵ですわ」

「ありがとう」


とはいえ、アトポスのバッグを調達するのは大変だった。


職人が発疹を起こしたからだ。

痒みに耐えながらこのアトポスのバッグを作ったという。

しかし、職人が発疹を起こそうとも、そんな事はどうでも良かった。


むしろ、痒みを起こした事で、完成日を遅らせた事が迷惑であった。



カルロスからのプレゼント。


アトポスの退治には莫大な費用がかかったという。

とはいえ、むしろラニーニャは感謝されるべきだと思っていた。


それは、アトポス退治にはストーム家の手柄になったからだ。



「サリサ。行くわよ」

「はい、ラニーニャ様」


二人はクローゼットを出た。
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